第三十八話 おとなしめと負けるわけない
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歩き回って疲れてしまった僕たちは出てきた食事をぺろりと平らげ帰路へとついた。
しかし、ラタスの過去がまさかこのような形で見られるなんて……。
ラタスの父さんと母さん、そしていつも一緒に居たメイドのサーシャさん。 なによりラタスの唯一の友人であるアネットさん……。 アネットさんは、ラタスが来なくなった後もまた会えることを願ってあの場所へ訪れ続けていたのだろうか。
「なあ、ラタス」
「なんでしょうか」
お腹もふくれて、欲しいものも買えてうきうき気分のラタスはスキップまでしていた。 そんな上機嫌なラタスに今からする質問……少し真面目な話。 少々申し訳ないと感じてしまうけれど……。
「サーシャさんとの一件の後、あの塀の穴へ行こうとは思わなかったの? 」
案の定、ラタスのスキップと進みは止まり、少しの沈黙の後、前を向いたまま話し始めた。
「……思わないわけないじゃないですか。 唯一の親友ですよ? もし会うことができたのなら、それは願ってもいなかったことです」
「そうだよな……」
「でも、ボクの気持ちは、もう二度とサーシャにあんな顔をさせたくないっていう方が強かったんです。 塀を見ているとアネットがまだ待っているんじゃないかって思ってしまいますからね。 極力見なかったからそういう気持ちに……なりにくくなったというのもあるかもしれません」
「……」
これ以上この会話をするのはあまりよくないなと感じた僕は別の話題を振った。
「そういえば、サーシャさんってラタスの専属メイドなんだよな。 そのほかにもたくさんいたけど、ラタスの家って金持ちだったのか? 」
今度は後ろを、僕の方を向いて話し始めた。
「あれ、言ってませんでしたかね……。 ボクのお父様とお母様、国王と嬢王だったんですよ」
「へー。 そうなんだ」
国王と嬢王。 だったらあの大きな屋敷も多くの執事やメイドにも納得が……って、
「国王と嬢王!? 」
少しのラグの後、僕の頭はやっと思考回路が追い付いて体への表現へとたどり着くことができた。 いやしかし、王だと……。
「ということは、ラタスは王の娘になるわけか……」
「そうなんですよ。 だからもっと敬ってくださいね」
偉そうに胸を張るラタス。 そうだったのか……。
「あ、今そんなにおっぱい大きくないなって思いましたよね!? 」
「いや思ってないよ!! 」
何をいいだすんだ急に! まあ、ちょっとおとなしめな感じだとは思ったけれど。
「あの、全部口に出てますけれど」
▽▽▽
私は今、すごくうきうきしていた。
柄にもなく、でも自分でそう自覚できるくらい花柄の気持ちで胸を彩っていた。
その原因の一報は大河からだった。
▽
「お! コトー! 探したぞ! 」
金曜日の放課後、下駄箱で靴を履き替えているところで大河と会った。 反応から見るに、どうやら私のことを探していたらしい。
「ん、大河。 何か用? 」
「ちょっと話があってな。 時間いいか? 」
この後、特に用事は無い。 ないけれど、今日は確か……蓮人の帰りが遅くなるって話だったっけ。 じゃあヤベの家には行けないな……。 まあ、少し話す時間くらいはあるだろう。
「うん、いいよ」
私は大河と話すことにした。
「よっしゃ! いやー、それにしても今日はすごかったな」
「何が? 」
「何がって、ラタスちゃんだよ、ラタスちゃん! 」
……まあ、そのことだろうとは思ったけれど。
「あー、そうね。 物凄く可愛かったね」
「それもそうなんだが、あれだよ! キャベをダーリン宣言のことだよ」
……まあ、そのことだろうとは思ったけれど。
大河もセンと同様、私がヤベのことをどう思っているのかを知っている。 というか、同盟を組んでいる。
「ああ……それね」
「あれ、やけに静かだな。 ちょっと思ってたんだが、なんかいつもと違うよな、琴乃。 いっつもならわめき散らかすところなんだが」
「センと同じ反応するんだ」
「おっ! センと同じか……! 」
ちょっと嬉しそうだし。 ガッツポーズまでしちゃって。
「あ、ってか話逸らしただろ。 なんで反応が違うんだよって話だよ」
うまく話を逸らすことができなかった。 ……ここは適当に。
「こっちにもいろいろ事情があるの。 取り敢えずは、まあラタスに限ってはそういう反応になるから」
「ちゃっかり呼び捨てしてるし。 んーほんとに何があったんだ……。 まさかとは思うが、キャベのこと好きじゃなくなった」
「訳ないでしょ」
正直自分でも驚いているのだ。 センや大河の言う通り、今までの私ならヤベのことをダーリン呼ばわりなんてする奴はどうにかしていた。 ……いや、比喩だけどね。 わめき散らかすのもそうだけれどね。
それが今はどうだろう。 センや大河の言う通り、すごく落ち着いている。 理由はきっとラタスときちんと話したことにあるのだろうが、それでも異常なほどに落ち着いている。
「ま、それならいいんだけれどな。 俺たちは同盟を組んでいるんだぜ。 そこんところはほんとによろしく頼む」
「わかってるって」
「そんなコトに朗報! なんとキャベと日曜日デートをする約束を取り付けた! 」
「……ほんと? 」
「ああ! ほんとだ! まあだから、楽しんできてくれ」
「……ありがとう。 感謝するよ」
「槍でも降るのか、コトが俺に感謝するなんて。 ま、置いといて。 見返り、期待してるぜ」
「うん」
「……それでなんだが、最近のセンはどんな感じだ? 」
「『いつも通り』よ」
私はいつも通り同じ質問をされたのでいつも通り同じ答えを返した。
「そ、そっか! それなら、オッケーだ」
とてもうれしそうにガッツポーズをする大河。
御覧の通り、なんと大河はセンのことが好きなのである。 つまり、センと大河、二人はいわゆる両想いというやつな訳で。 正直、そうではないこっちは見ていて、もうくっつけよっ! って思っているんだけれど。
「ねえ。 いつまでこの状態でいるの? 両想いなんだし、さっさと付き合ったらいいのに」
「何を言う! そりゃ、あれだよ! その、あれだ! 」
何か言いにくそうに頭をかいて目を逸らす大河。
「なに? 恥ずかしいの? 」
「そ、そうだ」
私が助け船を出すと小さい声でそう答えた。
「あっはっは! そんな大きな体と性格しといて恥ずかしいって思うんだねー」
「そんなこと言ったらあれだぞ、コトだっていつまで告白しないつもりなんだって話だろ」
「私はいいの。 乙女だから」
「乙女ね……」
うーん、と渋る大河。 何か言いたげだな、何だ? 吐けッ!
「何? 」
「いや! 何でもない! ま、とにかく日曜な!」
考えていることが読まれそうになった大河は慌てて会話を元居た路線に乗せた。
「はーい」
大河と私の同盟。 それはお互いの恋路を成功させるために支えあっていこうというものである。 どうしてこういう関係になったのか、あんまり詳しくは覚えていない。 どういう訳か気づいたら大河が協力してくれていた。 まあ別に大河に損はないわけだし、いいかなって思って続けている。
不意に大河がこんなことを言ってきた。
「……言っとくが、何があっても俺はコトを応援している。 勝てるのか? 」
大河は何を言っているのだろうか。 あまりわからない。
大河は何を心配しているのだろうか。 それは分かっている。 私とラタスの勝負だ。
「負けるわけないでしょ」
気合い、入れます。1




