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「ヒーラギちゃん! ウチの子はいい子のなの、ブランをもらってやって!」
――ブランがいい人なのはわかる。私もブランの事が気になっているし、少しずつ彼を好きになりたい。だって前はいきなり婚約者だとか言われて、嫌味を言われ、嫌われて……本当は悲しかった。
「……ブラン、私」
「母さん! 俺とヒーラギはゆっくり恋人になって、結婚するから急がないで……ロン師匠、スラは見ていないで、一緒に母さんを止めてくれよ。ヤン、リコでもいい」
外での騒ぎに家から出てきたヤンとリコに、ブランは真っ赤な顔で、自分では止められないから「止めてくれ」と、求めた。
「だって。私は早く、ブランの子供が見たいの!」
「こ、子供? 母さん、まだ先の話だよ」
(ブランが焦ってる……)
助けてと言ってもロンさん、スラ、ヤンさん、リコさんはどうしてなのか、お母様に躊躇して誰も止めない。
「ブランには幸せになってほしいし。2人の子供が見たいの!」
どんどん暴走するお母様。
そこに。
「ジジ! いきなり服を脱ぎ捨てて、家を飛び出したと思ったら……こんな所でブランに迷惑をかけていたのか? ジジ、周りにも迷惑をかけているぞ!」
茶色い耳と短な髪、モフモフの茶色い尻尾、シャツにスラックス姿のガタイのいい男性が現れた。周りを見れば、他にも村の住民がここに集まってきていて、ヒーラギ達を遠目に見ている。
「ジジ!」
「トール君。ヒーラギちゃん、こんなに可愛のよ。ブランはぜったいに逃しちゃダメ!」
「それはわかっている! だがな、ジジ。ワタシはその姿を、他の男性に見せたくないのだが……はやく着替えてくれないか?」
マントの下が気になってはいたけど。
やっぱりブランの時と同じで、お母様の……マントの下は裸なんだ。トールと呼ばれた男性は、持ってきた服をブランのお母様へと渡した。
「早く、着替えなさい!」
「わかった着替えてくる。ブラン、家を借りるわね」
「ああ」
お母様が家に入って行き、ブランは『ホッ』とした様子で、服を持って追っかけてきた男性に声をかけた。
「トール父さん、助かったよ」
「いいや。こちらこそ悪かったな……ジジはいつも、ブランには苦労をかけたから……「凄く、凄く、幸せになってもらいたい!」って言うんだ。今日はその気持ちが溢れたんだな」
その言葉に、ブランは頷き、
「わかってるよ。母さんの気持ちは嬉しいけど……ここで言われるのは恥ずかしい」
「ハハ。恥ずかしいか……わかるぞ、ブランのその気持ち」
ヒーラギは2人を見て、お金の話しかしないウチの両親とは違い。これこそ、仲の良い親子の会話だ。
(この方が、ブランのお父様かぁ)
ヒーラギの視線に気付き、お父様は微笑み。
「君が、ブランの大好きなヒーラギ様か……これからも、ブランをよろしく頼むよ」
「は、はい……あ、あの、私に様は付けないでください。ヒーラギでいいです」
ブランに、お父さんだと呼ばれた男性は黒狼ではなく、優しげで、茶色の耳とモフモフな尻尾を持つ、茶色のオオカミだった。
「少し、ブランとヒーラギさんに話があるんだ。ジジの着替えも終わっただろうから、中で話をしたい」
「わかった。ヒーラギ、家の中で話そうか」
「は、はい」
♱♱♱
ロンさんとスラは外に残り、集まった村人に説明をして。ヤンさんとリコさんは一度、魔王の所に行くと、ドラゴンの姿になり飛んで行った。
家に入り、ヒーラギ達が食卓のテーブルに着くと、奥からお母様がワンピース姿で現れた。その姿はブランのいう通りで、ものすごく若く見える。
(私と同じ歳と言っても、良いくらいだわ)
「みんな、お待たせ」
「母さんは、父さんの横に座って」
みんなで、食卓を囲んで座った。
「父さん、話ってなに?」
「ああ、ヒーラギさんにワタシと、ジジの話をしようと思ってね。ヒーラギさん、ワタシの名前はトール、こちらが妻のジジ。ワタシはジジが王妃だった頃、騎士団長をしておりました」
ブランのお父様はヒーラギにも分かりやすく、ゆっくり話してくれた。
「ワタシは騎士として、王城に攻めてくる魔物と戦っておりました。だが、魔物との戦いで腕に深い傷を負い……剣を握れなくなり騎士を辞め、この村に引っ越して幾日かたったある日。亡くなったと聞かされていた王妃のジジと、彼女の息子のブランに会い……過ごしていくうちに」
コボン。と、馴れ初めの話になると、言葉を詰まらせるブランのお父様。それを横で見ていたブランお母様はフフっと笑い。
「私が、優しいトール君のことを好きになったの。だから、私から迫って、最後に彼を襲っちゃった」
言葉を選んで話していたお父様と、この話をはじめて聞いたのか、顔を真っ赤にしたブラン。
「ジジ!」
「母さん⁉︎」
「だって、トール君のこと好きになったのだもの、我慢できないわ。トール君も私のことが好きだとわかったから襲ったのよ。フフ。――それと、ありがとうヒーラギちゃん、ブランのことで興奮していて忘れていたわ。大好きなトール君のケガを、腕のケガを治してくれて……彼がもう一度、剣を握れるようにしてくれて、ありがとうございます聖女ヒーラギ様」
お母様はヒーラギに向けて頭を下げた。
「ワタシからも。聖女ヒーラギ様、感謝いたします!」
治った右腕をさすり、ジジお母様は隣で優しく見つめた。もう一度、二人に見つめられて"ありがとう"と、深々頭を下げられる。
お父様のケガが治ってよかったのだけど、ヒーラギは困っていた。なぜなら、この癒しの力は、元々ブランのお母様――ジジさんの力だ。
「頭を上げてください。この癒しの力は私のものではありません。ブランのお母様の力で……私の力じゃありません!」
そう言ったヒーラギに、違うと首を振るジジさん。
「相性もあるかも知らないけど。私の力が、ヒーラギちゃんに移った当初はそうだったかもしれないけど……今はヒーラギちゃんの力になっているわよ。あなたが何年もの間、癒しの能力に慢心せず、精進してきたから――当時の私では使えなかった『広域回復魔法』を使えたの。あなたの思いが癒しの力を強くしたのね」
「わ、私の思いで、癒しの力が強くなった……?」
「そうよ。その癒しの力は、もうヒーラギちゃんの力だから、これからも大切に使ってほしいわ」
「はい、大切に使います」
――私がやってきたことは間違いじゃなかったんだ。




