第7話 墨鯉の魔女⑤
アキセはジャンヌに殴られ、奥の壁に激突されていた。
「イテテテ。手加減を知らんのか。あの女は・・・」
それにリカルドという男が気になる。考えるのは後回しにし、体に痛みを感じながら立ち上がる時だった。
黒い水の球が迫ってくる。
『光』用の銃を召喚し、目の前の黒い水の球に撃つ。弾いて消える。
「魔女とまともに相手したくないんだか」
視線の先に黒い水玉の上に乗り、大筆を持つ少女が見下ろして立っていた。
今回事件を起こした墨鯉の魔女スミカ・セッシュウだろう。
「そっか。おまえが魔女のスミカだな」
来る前にナタルから訊いた。
「やっぱり!出しなさいよ!」
急にスミカが怒鳴る。
「何が?」
「こっちは分かっているんだから!」
魔女は筆を大きく振い、黒い水玉を飛ばす。
アキセは走りながら、黒い水玉を避ける。
「とりあえず逃げるか」
アキセは指輪から召喚する。
魔道具『ウェズボード』。
二つの輪と文字を刻んでいる青色板に滑走面に魔法石を込めている。風の術で陣の上に乗れば浮かびながら移動できる。その二つの輪に足を乗せ、魔術を起動する。
長い廊下を滑走する。
「墨鯉の魔女スミカ・セッシュウから逃がると思うな!」
スミカは大筆を振り、墨の道を描き、その上に乗り、波に乗っているように滑りながら追いかける。
馬よりも早く滑走しているにもかかわらず、スミカとの距離が縮んでいく。
「しつこいな!」
このままでは追い付かれてしまう。早くジャンヌを見つけ、押し付けなければと思った矢先だった。前を向けば、何かが飛んできた。
「うわ!」
すかさず避ける。
「なんだ?」
また飛んできた。よく見れば本だった。本が弾のように発射している。
これはどう考えてもアイデアはおそらくジャンヌだか、飛ばしているのはおそらくリカルドだろう。風の魔術を使っているところだろう。
スミカも普通に避けていた。
そんな中、本の上に乗ったジャンヌがスミカに突っ込むが、スミカの大筆でロザリオを防がれる。
弾けるようにジャンヌは跳ぶ。飛んでいる本が足場となってジャンヌを受け取る。
ジャンヌで魔術を消えないと考えると風で本を操っているだろう。
ジャンヌとスミカを中心に本が回っている。
「邪魔すんじゃねえ!」
「私を敵に回したあんたが悪い!
ロザリオに白い炎をまとい、白い炎の波を放つ。
スミカも黒い水玉を放つ。
『光』と『呪い』がぶつかり合い、消えていく。
「炎?だったらこうしてやる!」
スミカから一冊の本を呼び出した。
「まさか!」
古い本。この図書館に保管してあるウィーン辞典だろうか。スミカの目的はウィーン辞典の強奪だった。
「あれって」
スミカは本が開き、ページをめぐる。
「これにしよ!」
スミカは筆で文字を書いていく。
「させない!」
ジャンヌは攻撃される前に白い炎を放ち、スミカにぶつける。白い炎が晴れた時には、文字を完成していた。
それは『渦』という文字。つまり、水を意味する。
文字が青く光り、文字から水が渦を巻いて蛇のように襲ってくる。
スミカが炎を見て、単純に水が弱点だろうと思ったのだろう。
「うそでしょ!」
別の本に飛び越えようとするが、避けた先で渦が迫ってくる。
空中では避けられない。
「たく!」
『ウェズボード』を起動する。
渦に飲み込まれる前にジャンヌの腕を掴み、渦から逃げる。
「いたの?!」
「助けてやったセリフが?それが!」
一応協力することになっているんだか。
「あのまま逃げたのかと」
「おまえが飛ばしたんだろうが!」
「ふざけたこと言うから!」
口喧嘩する余裕がなかった。
もう目の前には本を飲み込みながら大きい渦が迫ってきた。このまま逃げられない諦めた時だった。
銃声が響いた。
「何?」
その直後、渦が消えた。
渦が晴れた時には、スミカの片腕とウィーン辞典がなくなっていた。
あの銃声はおそらくスミカからウィーン辞典を離すために撃ったものだろう。しかも撃った者はリカルドだろう。
「腕貸して?」
「はあ?」
「いいから!」
両手でジャンヌの腕を掴んだとたん、ジャンヌが大きく体を揺らす。その勢いでジャンヌは上へ跳び、アキセの顔に着地する。足場としてジャンヌは勢いよく跳ぶ。
痛かった。
その先は、スミカだった。
スミカは片手で大筆を掴み、黒い水玉を飛ばす。ジャンヌはロザリオに白い炎を纏い、白い炎を飛ばす。黒い水玉と白い炎がぶつかる。
蒸発したような音を上げる。
白い煙にジャンヌは突っ込み、スミカをロザリオで斬る。




