第8話 決着⑦
ジャンヌとアガタはこくえんの魔女との戦いは続いていた。
アガタはシチリア・リングを振り、こくえんの魔女も黒い炎の剣で立ち向かう。最強の聖女でも苦戦している。
「絶対に最後の一枚を使うな」とアガタは必死な顔で言ってきた。
分かっている。残り一枚の白い羽を使えば、『呪い』に侵されて呪病で死ぬことに。ジャンヌも使いたくないのは分かっている。
――私に待っている聖女も仲間もいるから死ぬわけにはいかない
アガタ自身でこくえんの魔女と倒したいところだか、この環境では、アガタも『光』の消耗が減っていき、いくら最強の聖女でも倒せるには難しい。
このままではこくえんの魔女が黒女神になりかねない。
白い羽を使わずに勝てる見込みが見えない。
白い羽を使いきれずに倒すしかない。そのためにも確実にこくえんの魔女を殺すには近づけるしかない。
こくえんの魔女も分かっているから、黒い炎と水を操って遠距離で攻撃している。どうにか湖に落とそうとしている。
アガタとこくえんの魔女と戦って、視界が逸らしているにも関わらず、黒い水と炎を操ってくる。
長期戦に持っていくつもりだ。どうにか早く近づいて攻撃しなくては。
避けるだけでも疲れるんだけど。
石床に着地した途端に黒い水と炎に囲まれた。白い炎で周囲を放つも力量で負けてしまう。
逃げ場がない。
ここで使いたくない。
その時、ヴァルキリーに肩を貸しているアキセが現れた。
アキセは黒いグローブにはめた手を石床に当てる。石が粘土のように伸び、壁となった。迫ってくる黒い水と炎がぶつかり、土の壁が崩れていく。
攻撃は免れた。
改めてアキセを見れば、姿も変わっていた。
肩まで伸びた黒髪。赤い左目。両腕が露出した筋肉に鋭い爪だった。
魔族化したのか。
それにアキセが来たということは、アレイスターをどうにかしたのだろう。
「時間を稼いでくれ。勝算はある」とアキセはアガタに言う。
「すぐに済ませろ」
アガタは向かう。
「邪魔させない!」
アガタはこくえんの魔女と対応する。
「何をするつもり・・・」
「羽はまだあるか」
何を言い出すかと思えば、アキセが白い羽の枚数を訊いてきた。
「一枚だけ・・・」
「ジャンヌ・・・受け取って・・・」
ヴァルキリーが生きている。
「ヴァルキリー・・・」
「僕はもう持たない。このまま死ぬのも嫌だ・・・だから僕の宝石心臓を受け取ってほしい」
その発言に一瞬理解できなかった。意識が戻ったヴァルキリーからまさか自身の宝石心臓を使えと。
「そんなことをしたら・・・」
ヴァルキリーは死ぬ。
「私は裏切り者だ。どっちにしても聖女の地に戻れない」
「だからって・・・」
宝石心臓を入れれば、理性を保てず、暴走させる。
「白女神の声を聞こえたんだ。白い羽を触れた時に正気を取り戻せた。白女神の声を聞けば正気を保てる」
「けど・・・」
「分かってる。私は死ぬ。聖女を犠牲にするまではしたくないのも・・・でもあの魔女を勝てるにはこれしかないんだ。だから・・・」
したくない。失いたくない。
勝算があったとしてもヴァルキリーは失ってしまう。ここで否定しても、こくえんの魔女を倒せるのは、この手段しかない。
考えようにも時間がない。他にあるかもしれないのに、そんな猶予がない。
それでもヴァルキリーの思いを無駄にしたくない。覚悟を決める。
「分かった・・・」
「ありがとう・・・」
アキセは左手でヴァルキリーの宝石心臓に魔力で抜きとり、ジャンヌの胸の中に入れる。白い羽に触れる。
眩しいほどに周りは光っていた。それでも暖かった。後ろから抱きしめられた。耳元に吐息も感じる。
「大丈夫だから。だから信じで行きなさい」
聞いたことがある声。聖女に目覚めて以来に訊いた。とても懐かしい声だった。
力がみなぎってくる。体も軽くなっていく。白い炎に包まれて暖かい。
――私は目の前にいるもう一人の魔女をこの手で殺す。




