第12話 銀の街 後半 ⑥
ノエルは眠り、銀の水は徐々に枯れていく。
宝石心臓を奪っても、すぐに『光』が安定するとは思わない。白い炎に含まれる『光』でノエルの『光』を調和させ、暴走を抑えられた。
あの時のルチアの行動を思い出したからできたことだった。
――もしかしたら、これをしたかったかもしれない
「おい!」
ジャンヌが声をした方へ向く。
アキセは息を乱し、体中に銀の血を浴びていた。
ノエルから宝石心臓を奪った時、ノエルが放った銀の水に『なんでも遮断マント』を溶かし、アキセに浴びてしまったのだろう。
アキセは、半分魔女の血を引いているため、『光』の濃度が高い銀の水に相当のダメージを与えられている。もう立つことすら危ういほどだ。
「あんた・・・」
「おい!早く逃げ・・・」
銃声が鳴った。
鳴り終わった時にはアキセが倒れた。
その背後にジルが銃を構えていた。
「意外に頑丈だな。魔族はともかく人間も溶ける銀の水に耐えるとは」
アキセは息を乱しながら、ジルを睨みつける。
その時、ヴァルキリーがアキセの背中を踏む。
「ぐ・・・」
いつの間に。
そういえば、ノエルに飛ばされてから見ていない。ジルの指示で止められていたのだろうか。
「殺すなよ」
ジルは、ヴァルキリーに命令する。
ジルの背後に聖騎士団も集まってきた。
「別に殺しはしない。大人しくしてほしんだ」
ジルやヴァルキリー、聖騎士団もいる。
アキセは重症。ノエルをかばったままで逃げる算段が思いつかない。
どうする。この状況を抜け出すにはと考えようとした時だった。
文字の書いた紙が落ちてきた。
「紙・・・」
一枚だけではない。何枚もゆらゆらと落ちていき、吹雪のように周囲を舞う。
「やっと入れた」
唐突な女の声。
声をした方へ向けば、女が不気味に笑いながら、空中に浮いている開いた本の上に乗る。
青に近い長い黒髪は縛って肩を乗せ、体の前に下ろす。青紫色の目。白いシャツ。群青のズボンとロングコートを肩に乗せずに胸で留めている。
ノレッジを操る女。
以前、偽ったくうそうの魔女ルシア・ファンタジアとは違う。
「しょかんの魔女ラプラス・ライブラー・・・」
しょかんの魔女ラプラス・ライブラー。
第5次世界大戦。人類の知識を奪った魔女。この世で最大の犯罪者と呼ばれている。
姿を見せない魔女がなぜ現れた。
「収穫しがいがありそう」
ラプラスが嬉しそうに言う。
「さあ、食べつくしなさい。ノレッジたち」
ラプラスの背後からノレッジが飛び出す。
四角の嘴で、嘴の中が本のように紙がペラペラと音がし、ギぃーと吠える鳥型のノレッジは鳴き声が上げる。
上空に飛ぶノレッジは、四方八方に散り、街の方へ行く。
下方へ跳ぶノレッジは次々に騎士団の頭を狙う。
叫ぶこともなく、血が飛び散る。
ノレッジの一体がジルに迫ってくるが、ヴァルキリーが瞬時に移動し、ノレッジをヴァルホルで切る。
「聖女を飼いならしているのね」
ラプラスはジルを見つめながら、アキセの横に降りる。
「まさか、あなたが直接来るとは思いませんでしたよ」
「前からこの街の技術に目を付けていたもの」
イタズラな笑みを見せる。
ラプラスの視線がジャンヌに向ける。
「あなたが白の聖女ジャンヌ・ダルクね。ルシアが世話になったわね」
以前、くうそうの魔女ルシア・ファンタジアと戦ったことがある。その時に名前を知られたのか。これ以上、魔女に目をつけられなくなかったが。
「さてと。見られたことだし、さっさと終わらせますか」
ラプラスは指を鳴らす。
さらに鳥型ノレッジや紙の吹雪が襲う。視覚を奪うほどに。
この街の知識を奪われた。
ジルとヴァルキリーは、一緒に街の中を歩いていた。
「やれやれ、あの方も派手にやるもんだな」
日が明ければ、銀色の町は赤く染まった。
ラプラスによるノレッジは、この街にいた人間の脳を食べつくし、頭がない死体があちこちに転がっていた。
「もう少し研究したかったか。ここまでか」
聖女は未知数だ。せっかく新しい発見をしたのだから、研究に没頭したかった。これでは続けられない。
仕方がないあの実験に取り掛かろうか。
もう準備に取り掛かっているようだ。まずは合流しよう。
その時にジャンヌがまだ会いに来るだろう。これで運ぶ手間も口実も省ける。
次に会うのが楽しみだ。
「行くぞ」
ヴァルキリーに指示し、街を後にした。
廃墟になった教会の中庭でジャンヌは小さな少女を抱えていた。
「全く困った後輩たちだよ」
黄色の聖女アガタはいう。




