第3話 喰愛の魔女①
やっぱりついてくる。
森の中を歩いていたジャンヌは、立ち止まる。
「はあ~、いい加減。出でこないと今度からストーカーと呼ぶぞ」
ため息をつきながら、森の中をこだまする。
「ストーカーってなんだよ」
木の陰から現れたのは、ここ最近付きまとっているアキセ・リーガンだった。
「そのままの意味だ。なんで付いて来るんだ?」
「だから言ってるじゃん。からかいたいからってさ」
「またそれか・・・」
ふざけた回答に呆れる。
未だにアキセの正体を掴みきれていない。しんくの魔女を狩りして以来、付いてくる。
裏切ったり、かき乱したりとしたら、協力してくる、よくわからない男だ。
「あんたね…」
と言いかけたところだった。
キャー。
唐突に女の叫び声が森に響き渡り、木々の間から少女が飛び出す。
「助けてください!追われているんです!」
茶髪と茶色の目。小柄な少女が息を上がりながら、目の前にいたジャンヌに助けを求める。
「追われているって・・・」
ジャンヌは、少女がきた向こうの木々を見上げる。木々の間から赤い目をした黒い狼ブラッグドックが5匹飛び出す。
「ブラッグドッグか。たく」
狼から魔族化した魔獣の一種でかなりの狂暴性を持っている。
ジャンヌは、ロザリオに光の刃を作り、ブラッグドッグに向かう。1匹。2匹。3匹とブラッグドッグを一振りで切りつける。
残り2匹を倒そうとしたが、その2匹は、逃げてきた少女へ走り出す。少女は、怯えて小さく縮まっていた。そこにアキセが少女の前に立ち、銃を2発撃つ。2発の黒い光の弾は、ブラックドッグの頭を貫通させる。
これでブラッグドッグは殲滅した。
助けたわけではない。どちらかと巻き込まれた。仕方なくブラッグドッグを退治しただけだ。
ジャンヌは安堵の溜息を吐き、ロザリオを懐に仕舞った時だった。
「キャー、素敵!」
後ろから聞こえる悲鳴に近い声に、驚いたジャンヌは振り返る。少女は、アキセに抱きついていた。
「素敵!カッコイイ!お名前は何です?」
少女は、恋する乙女の瞳の輝きでアキセを見つめている。
「俺、アキセ・リーガンだよ。お嬢さん」
アキセは、慣れた手つきで話す。
「アキセ様!私、モナと申します。好きです!付き合ってください!」
モナと名乗った少女は、さらにアキセの腹に抱き着く。
「君の気持ちは充分わかったから、もう少し緩めてもいいかな。ちょっと苦しい」
彼らのやりとりを見て、呆れるジャンヌだった。
「お、ジャンヌ。お疲れ~」
アキセは、ジャンヌに視線を変えてきた。アキセにつられ、モナもジャンヌを見つめる。
――あ~めんどくさくなるな。
モナは、ジャンヌの元に近づき、身長がジャンヌより低いので、下からにらみつけられる。
「何よ・・・」
「あなた。アキセ様の何」
「はあ?」
唐突な発言に声を上げる。
「何って・・・私はこいつにストーカーされているんだよ」
「そこは訂正しないのか」
間に挟むアキセだが、ジャンヌは無視する。
「ストーカーってことは、アキセ様はあなたに好意を抱いているから、ついてくるってことでしょ!うらやましい!」
「はあ!?」
ジャンヌは顔を歪ませ、ドス黒い声を出す。
「何言ってるのあんた!こいつはね!」
モナに怒声を上げながら、アキセに向かって指を指す。
「私を敵に売ったり、裏切ったりするし。しかもこいつ女だらしだぞ!それでもいいのか!」
「いいの!」
モナは即答する。
「え・・・?」
ジャンヌは顔を引きずり、思わず引いてしまう。
「こんなイケメンで!強い男はね!ちょっとヘタレであったほうが魅力的なの!」
「あんた・・・見る目ないでしょ」
もう話がついていけないと思い、ジャンヌは呆れたため息を吐く。
「は~。もういいわ。モナだっけ。あなたは、なんでブラッグドッグに追われていたのよ」
「ふーん。あなた、なんかに教えないもーんだ」
モナはジャンヌに向かって舌を出す。
こいつーと思っていてもこれ以上喧嘩に付き合いたくなかったため、怒りを押さえ込むジャンヌだった。
「じゃあ、俺には教えてくれるかな?」
「はい!アキセ様!」
モナはアキセに対しては目をキラキラに輝かせている。
このアマ。まあいいか、アキセに押し付けようとジャンヌは、静かに歩き出す。
「おーい!」
アキセの声がしたが、無視して歩き続けた。足音が徐々に近づいてきた。ただその足音は、一人だけの音ではなかった。




