快刀乱麻を断つ
左京がうるさーい!!!登校中も!授業中も!
こっちに来てからの右京の生活について、いちいちなんでも質問してくるのだ。
やれこっちの高校はどうだとか、友達できたか、クラスに気になる子はいるか、兄貴は暗いからダメなんだとか。
もー!いちいち煩い!!!
「なんで美由紀のこと、ひめって呼んでるのさ?」
という質問には返答に苦労したけど…
それでも根気よく左京の質問を消化していって、やっと質問が途切れてきたのを見計らい、今度は右京の方から質問をした。
「なぁー、今朝も聞いたけど、なんで帰って来れたんだよ?」
「わかんないんだよねー?オレはちゃんと列に並んで、順番が来るのを待ってただけなんだよねーそれがどうしてか…?」
右京には思い当たる節があった。もしかして夢の通りなんじゃないかと?。
それで左京にも今朝見た夢の内容を話して聞かせてみる。
「そーそー、それなっ!ズバリ兄貴の言う通りだわ!」
どうして夢で見たのかは解らないままだけど、左京がこっちに帰って来たからくりはおそらく解ったような気がした。
「兄貴はなんか納得顔してるけど、オレはちんぷんかんぷんなんだわ!解ってることあったら教えろよ」
左京が、じれる。
「オッケー!その代わり頭の中でギャーギャー言うのはやめてくれ」
右京は人工呼吸のくだりは省いて、自分もあの世に行ったことや、身代わりの御守りに助けられて帰って来れたことを左京に話して聞かせた。
「不思議だねー。でもラッキーじゃん!戻って来れて。でもそれとオレのこととはどう関係するんだよ?」
まだ左京にはピンときてないらしい。
「オレ達は見た目そっくりの双子だろ?そんでオレもあの世に行ってきた。オレを生き返らせてやろうって親切な奴がいる。さぁ生き返らせました。するとどうだ?同じ顔した奴がまだあの世にいるじゃないか?オレとお前を間違えたとしたら?戻したはずなのにまだいる!じゃーもう一度…と、これならどうだ?」
左京からの応答がない。ん?ん?ん?まだ考えている。
少しの間が挟まったが…
「うん!たぶんそうだよ!兄貴は賢い!伊達に難しい本を読んでる訳じゃないな」
左京もオレの考えで納得したみたいだな。
でもオレはそんなに難しい本は読んでないぞ。
よくある人気作家の小説程度だし。
でも左京に言わせれば、『絵の無い文字ばかりの本』は全部難しい本で括られちゃうみたいだな。
そんな感じで午前中の授業は、左京の相手に時間を費やした為に、授業の内容は全く頭に入ってなかった。
午後イチは体育の授業で今日は体育館でのバスケ…
恥はかきたくないのだけれど…
こっちの学校に転校してきた当初は見学が許されていた。
不運に見舞われた右京の身の上や心情を考慮して、学校側の忖度が働いていたからだ。
実際すごく落ち込んでいて、やる気も何も起きなかったのだけれど、右京は例え気力体力充実の絶好調の時だって、普通に体育の授業はごめん被りたい心境なのだ。特に球技なんかは以ての外なのです…
可哀想な子という見方をされては不本意だけど、右京にとっては好都合な部分でもある特別扱いの賞味期限は思いの外短かった。
生活指導兼任で生徒にも恐れられている体育教師の岡田はそんなに甘くはなかった。
右京が体育の授業に参加するようになると、あっという間にそのポンコツぶりはクラスメイトの知るところとなった。
今や右京は逆な意味での注目の的になってしまっている。
今日はどんなことして笑わせてくれるんだろうという、クラスの奴らの嫌な期待感を背中に感じ、何だかお腹が痛くなってきた…
そんな右京のことなどお構い無しで、審判役の岡田先生のホイッスルを合図にゲームは始まった。
ジャンプボールでこぼれたボールは見方チームの池上が抑えた。
池上はやる気なさげにその場で二度ほどドリブルをすると、パスする相手を捜していたが、そこに右京を見つけるとまるで獲物を射る狩人のように加減を知らないパスを出した。
当然スピードの早いパスを右京は取れはしない。
勢いよく胸に当たって弾かれたボールを見方チームの越野が取って、薄ら笑いを浮かべつつまたもや右京に投げつける。
またも取れずに今度のは肩に当たった…
これではまるで右京を的にしたドッジボールだ。
隣のコートでは女子チーム同士が試合をしていた。
プレー中のひめは心配そうに右京をチラチラと見ている。
先ほど右京に当たったボールは、大きく跳ねてコートから出た。
見学していた女子の誰かが拾って、笑いながらこちらのコートにボールを投げ返してくる。
右京に当たって出たボールなので相手ボールでの再開となる。
パスを受けた相田はニヤリと笑ってなぜか敵チームの右京にボールを手渡した。
いったいなんなんだ!どいつもこいつもバカにしやがって!
そう思い右京はドリブルを試みるが、ボールは自分のつま先に当たりコロコロと転がる…
あわててボールを追いかける右京を見て皆、大爆笑だ…
その様子に堪り兼ねて、
「ぼちぼちメンバー入れ替えるで!麻織はアウトじゃ」
岡田先生がそう告げた。
悔しさに奥歯を噛み締めてうつむく右京…
腹立たしさに両の拳を固く握る…
その時!
「クッソー!!!もう我慢ならねぇ!」
左京が言った。
「兄貴、ちょっと体、借りるからな」
右京は急に自分の体の自由が効かなくなった。
目も見えるし耳も聴こえる。
だけど自分の意思では動かない?
まるで右京という乗り物に乗せられているような感覚…
オレの体を今、代わりに動かしてるのは左京!?
右京の左京は言った。
「先生!オレ今から本気出すんで交代はナシなっ。ヨロシクっ!」
周りの生徒からは身の程を知らない右京をバカにした笑いが起きている。
さあ試合再開だ。パスを受けた敵チームの深田が得意のドリブルで攻め上がる。
バスケ部の深田は右京なんて眼中にない。
しかし右京(左京)と擦れ違うとドリブルをしているはずのボールを見失った。
何故かボールは右京(左京)の手に!
スティールだ!
「さあ行くぜ!」
ダム ダム ダム
右京(左京)は余裕のドリブルで不適に笑い、相手をうかがう。
「調子に乗んなっ!」
松本が突っかかって来た。
右京(左京)は
ダンダンダン
チェンジオブペース。
素早いドライブで松本を抜き去り、そのままの勢いでゴール前に攻め込む。
ゴール前にはクラスで一番身長の高い野辺が待ち構えていた。
右京(左京)は構わずそのままジャンプして、シュートにいく。
野辺もシュートブロックに飛んだ。
やはり高い!身長があるぶん野辺の方が断然有利だ。
右京(左京)はシュートの体勢からボールを一度体に戻してブロックを避け、ポイっと下からボールを投げ込んだ。
ポスッ…
決まったー!!!
シーン…
誰もが自分の目を疑った…
静かになった体育館で右京(左京)が吠えた
「ヨッシャー!!!!!」
その声に驚いて、やっと生徒達は今、現実に起きていることを認識しようと努力し始める。
「嘘じゃろ…」
「なんかキャラ変わっとらん?」
「今のダブルクラッチじゃろ?かっこえー。初めて見たわ…」
なんだかザワザワし始めた。
相手ボールは二度のパスで自陣ゴール近くまで運ばれた。
敵チームの深田はレイアップシュートにいく。
それに合わせて右京(左京)はジャンプしてシュートを防いだ。
ブロック成功だ!
右京(左京)のブロックで弾き返されたボールを掴んだ池上は、
「ええ気になんな!」
と、またもやドッジボールの如く右京にボールを投げつけた。
右京(左京)は澄ました顔で容易くボールを受けると再び叫んだ。
「お前らこんなことして楽しいか?
オレに任せとけ!
もっと面白いもの見せてやるよ!」
そう言って相手ゴールに向かい、一人ドリブルで突っ込む!
今や隣のコートで試合をしていたはずの女子達も、プレーを止めている。右京から目が離せない。
マークについた松本を一回転してかわす。
バッグロールターン。
次に止めに入った河田を右京(左京)はレッグスルーで抜き去りゴールに詰め寄った。
ゴール前の野辺は今度は抜かりはしないぞと待ち構えている。
しかし右京(左京)は勢いを止めない。
クロスオーバーで野辺に揺さぶりをかけバランスを崩させる。
右京(左京)はシュート体勢に入るがまだ野辺がついてくる。
マークは外しきれていなかった。
ブロックに飛ぶ野辺。
それでも右京(左京)はシュートにいく。
後ろにジャンプして野辺のブロックをかわす。
フェイダウェイシュート…
綺麗な放物線を描いて…
パスッ
右京(左京)の放ったシュートは見事決まった!
着地に失敗した右京(左京)はコートに尻餅をついている。
「痛ててててぇ」
「ウォォー!」
「ワァァァ!」
体育館は沸いた。歓声がおこる!!!
コートにいる選手達が右京に駆け寄った。
右京に嫌がらせをしていた池上、越野、相田達の顔も見える。
体育館にいた生徒達も集まってきて右京を中心に輪ができた。
しばし呆然としていた野辺も困ったような顔でやって来る。
「スゲーな、お前!」
そう言うと右京に向けて右手を差し出した。
その手をがっちり掴んで、右京(左京)は照れくさそうに立ち上がった。
クラス皆の拍手と歓声のせいで、五時限目終了のチャイムの音は聞こえない…
続く