光の道
誰が名付けたかは知らないが、世に言う
『麻織右京の乱』
から早、一週間が経った。
左京(右京)の体育館デビューは学校中の話題となり、右京は今や、時の人となった。
幸か不幸か、ハードルを上げてしまった学校生活に於いて、左京に頼らなければならないケースも数多く出来てしまった訳で…
兄弟の役割分担の確立は、右京にとっての緊急課題となった。
「はーい議長!こんな場合はどうでしょう?小遣い貰ったけど、オレも兄貴も別々に欲しい物がある場合、オレにも欲しい物買う権利ってありますか?」
「左京君、もちろん君にも権利はありますよ。こちらとしても誠意をもって対応するつもりですって… 左京さぁーん。もっと緊急で大切な決め事がまだまだ山ほどあるでしょ…そっちからやりましょうよぅ…」
と、まぁこんな感じで紆余曲折はありつつも…
発車オーライ!
ようやくオレ達は順行運転を始めた。
もちろん体育や運動関係は左京の担当。
授業や宿題、その他もろもろの、左京が嫌がることは全部右京が引き受ける。と、いうか本来ならやって当たり前の事なので文句は言えない。
「おはよー右京」
「おはよー右京君」
「今日は寝坊かぁ?寝癖がアホ毛になっとるでー」
たくさんできた友達の中には、右京が苦手とする元いじめっ子達もいる。
そんな彼等との付き合いは左京にお願いすることにした。
「そんなに悪いヤツらじゃないんだけどなぁ?」
と、左京は不思議そうに首をひねる。
あっ!またアイツらだ!池上、越野、相田の三バカトリオ!
親しそうに笑顔で寄ってくる。
「オーッス右京!ちょっと聞いたんじゃけど、右京って麻織さん家に寝泊まりしょーるってほんまなん?」
「まあねー、親戚だしね。お世話になってるよ。」
後から兄貴に叱られないように、左京は言葉を選びながら答えた。
「ええのー羨ましいのー!朝は、おはよーとかって起こしてもらえたりするんじゃろ?」
三バカは何故か悦に浸って身悶えている。
「そんなに良いもんじゃないって…」
家でのひめの実態を皆は知らないから。
クラスの奴らとよく話すようになってから知ったのだけど、ひめはあれで結構人気があるらしい。
女子にもだけど、ひめを好きな男子もたくさんいて、三バカみたいに羨ましがる奴も少なからずいる。
現実を知らない、夢見る少年達…
ひめは右京のことを右京と呼び捨てにするし、いろいろ命令してきては、やれ遅いだの間違ってるだのと文句を言う。
背なんかちっちゃくて、胸も無いし、おまけに天然で、右京が知ってる限りでもびっくりするような失敗は数知れない。
そんなひめでも、黙っていれば確かにかわいいし、よく笑うし、右京のことを笑わせてもくれる。
優しいところもあるし…
右京はいつかの唇の感触を思い出し…
うろたえた…
よく晴れた日曜日。右京はようやく目を覚ました。時計を見ると既に10時を回っていた。
「ジャンケン」
「グー!」「パー!」
今日の予定は昨日のうちに決めている。
釣りに出かけたい左京と、家でのんびり読書がしたい右京とのジャンケンは、パーを出した右京の勝ち。
もしもジャンケンで勝ったのが左京なら、良い天気がもったいないとばかりにとっくに出かけていて、運が良ければ二、三匹上げている頃かも?
「右京はゆっくりしとるねぇ。他の皆は早よーから出てしもーたんよ」
そう言ったお祖母ちゃんはちっとも右京を責めてる風ではなかった。
お祖母ちゃんが出してくれたトーストとハムエッグで遅い朝食をとる。
「皆はどこに行ったの?昨日はそんなこと言ってたっけ?」
疑問に思って聞いてみた。
「じいさんはどこか行ったけど昼には帰るじゃろ
叔父さんと叔母さんはお見舞いに行ったんよ。叔母さんのお母さんがね、階段から落ちちゃって足の骨を折って入院しとってんじゃと。それで病院にお見舞いしに行っちゃったんよ」
「ふーん。ひめもいないの?」
そういえば今日は起こしに来なかった。
「美由紀もおらんよ。行き先も言わんこーどこか行ってしもうた
んよ。小遣い貸してくれー言うて頼まれてから。ほいでなんか変なことを言よーったんよ?うちがスターになったらなんでもお婆ちゃんの欲しい物買ってあげるけーって言うんよ?」
右京は悪い胸騒ぎがした。
急いでひめに連絡を取ってみる。
右京の思い過ごしなら全然良い。
余計な心配するなって後でひめにいくら叱られたって良い。
もしもスカウトの話が本当で芸能人になって有名になったって、それで右京が寂しい思いをすることになったとしてもそんなの全然構わない!
それなのに携帯は繋がらず、呼び出し音の変わりに携帯会社のアナウンスが流れる。(お客様のおかけになった電話番号は電波の届かないところにあ…)
もう一度かけてみる!
が、やっぱり繋がらない…
「なぁー兄貴、ひめがどうかしたのかよー?」
右京の心配をよそに、訳を知らない左京はのんびりと聞いてくる。
「話は後だ!」
短く答えて右京は考える。
ひめの部屋に行ってみよう。何か手がかりがあるかも知れない。
普段は立ち入り禁止のひめの部屋も、主のいない今は右京の訪問を快く受け入れた。
「おーい、兄貴ぃ。勝手に入っちゃってぇ。怒られても知らねえぞぉー」
「頼むから静かにしててくれ」
右京は目を皿のようにして部屋の中を調べる。
無い…無い…無い…
焦りばかりが先に立つ…
机の上に目をやると…あった!
もしも手がかりになるのならこれだと思って探していた。
いつかの嘘臭い名刺だ!
裏には携帯の電話番号が書いてあったはずだ。
相手の迷惑など考える余裕なんて今の右京にはない。
見ず知らずの相手に躊躇なく電話する。
電話は長い呼び出し音を挟んで繋がった。
「もしもーし♪誰ですかぁ?」
今の右京とは正反対の、気の抜けた声が答えてきた。
右京は何を話して良いかわからず黙っている。
「いたずらなら切るよーん」
そう言った声の近くで他な声が聞こえる。
「クソ!おとなしくせーや!」
「ノブ!もっとしっかり抑えとけ!」
「ひひひ、お楽しみはこれからでぇ♪」
複数の男達のゲスい会話に混じって、確かに聞こえた!
「離せー!!!」
なんということだ…
ひめの声がする…
電話は切られた。
プープープー…
携帯を耳に当てたまま、右京はその場を動けない。
足はガタガタと震えてる。
どうしよう…どうしよう…どうすれば良いんだ…?
訳を知らない左京も、今の電話を聞いてようやくひめの危機を感じ取った。
「まだ間に合う!すぐに助けに行こう!ひめは今どこだよ?兄貴は知ってるんだろ?グズグズすんな!」
左京は動こうとしない右京に喝を入れる。
「ひめを拐った奴らはよく知らねぇ…でも場所はたぶん広島市内のどっかだと思う…」
絞り出すようにそう言うと、右京は震えて動けずにいる足の太腿を、右の拳で強く打った。何度も、何度も。
太腿を打ちながら、冷静に…冷静に…考えろ!考えるんだ!
自分に言い聞かせる。
広島市内までは車でも一時間以上かかる。
今から出てもさっきの様子だと十中八九間に合わない…
警察に電話だ!
110に電話する。
「麻織美由紀という高校一年生の女の子が、何者かに拉致されているので助けて下さい!たぶん車で移動してます!えっ?車?色?わかりません…えっ?特徴?身長は150㎝ないくらいで、髪は背中くらいの長さで、えっ?服装?」
右京は今日ひめを見ていない…もちろんどんな服を着ていたなんて解るはずもなかった。
大声でお祖母ちゃんを呼んで聞き出そうとするがさっきまでいたのに今はどこで何をしているのか?つかまらない…
「とにかく近くで巡回中のパトカーに、疑わしい車輌を見かけたら職質をかけるよう指令を出しときますので、もしかしたら容疑者から電話があるかもしれませんので、落ち着いて待っていて下さい」
警察の話ぶりからは、たぶん力にはなれないだろうという、申し訳なさだけが伝わってきた…
警察は当てにならない。いや、もう少し特徴になる物がわかっていれば、警察も…
「クッソー!」
叔父さん達はお見舞いでいない。
叔母さんの実家なら今は岡山県にいるのだろう。
お祖父ちゃんは近所に出かけているんだったな?
お祖父ちゃんの携帯に電話してみる。
プルルルルー…
玄関の下駄箱の上で携帯が鳴っている。
どうやら出る時に忘れたのか、家に置きっぱなしだ。
車も確保できない。
かと言ってバスや汽車など使ってたら市内に着くのは何時になるのか…
万事休す。八方塞がり。
それでも…
無理でもなんでも諦めない!!!
そんな気持ちとは裏腹に、なんの行動もとれないでいるのだけれど…
その時!
静まり返ったひめの部屋で、小さな声を聞いたような気がした?
黒いワンボックスカーは市街地から離れ、目的地に向かいまだ走っている。
車内には四人の男達と手足をガムテープでグルグル巻きにされた女子高生。
後部座席で女の子を抑えている二人のうちの一人が、助手席で煙草をくよらせている男に問う。
「ワシ、はー我慢の限界ッス!ちょっと味見しちゃーいけんですか?」
助手席の男はあくびをした後、めんどくさそうに言う。
「ダメダメ、うちの商品じゃろうが。カメラを回した後ならなんぼでもヤラしちゃるけーもちーと我慢せーや。
それにこの嬢ちゃんー処女じゃ。たぶん間違いない。
こりゃー久々のヒット作になりそうなでぇー」
犯人達の目指す目的地まで残りわずか。
運転手はアクセルを踏み込んだ。
微かだが声が聞こえた。御守りの時のような事もあるやもしれないと、右京は藁にもすがる思いで、声の聞こえてきた方向を目で追う。
また何かが喋った。
「オレをここから出せ…」
今度は声の出所も内容もはっきり聞き取った。
悲しいかな…古い掛軸に描かれた『猫』が喋っている。
それは普段なら十分に不思議で興味深い事だけれど、今の状況下に於いてはくだらないファンタジーでしかない。
確かに助けになるなら『猫の手でも借りたい』心境だけど、今、たちまち右京達が手に入れたいのは、犯人を撃退することが出来るロケットの発射スイッチだ。
それでもなお『猫』は話しかけてくる。
「オレをここから出せ!」
焦りにいよいよ頭が混乱してきた右京は、役立たずの『猫』に向かって問うてみた。
「出すってどうすりゃ良いんだよ!」
猫は答える。
「この絵を破いてくれれば良い。早く!」
猫はそう言う。
「あーもう!クソッ!」
苛立ちに任せて右京はその猫が描かれている絵を破り捨てた。
ボン!!!
目の前でいきなり吹き出した煙に驚き目を閉じる。
そして目を開くとそこには、体長五メートルは悠にあろうと思われる、いかめつい白い虎が立っていた。
「だいたいの状況はわかった。お嬢を助けに行くぞ!」
白虎は吠えるように言い残すと、我先に家の外へと駆け出した。
右京達も白虎の言葉に一縷の希望を抱き、すぐさま後を追う。
「オレの背に乗れいっ!」
白虎の命令に躊躇なく従う。
右京が首の後ろの毛をしっかり掴むのを認めると、白虎は大地を蹴って空に飛び上がった。
「飛んでる…浮いてるぞ…」
遥か下に家が見える。
「どっちに行けば良い?」
「あっ はい!えーと? あれが高速道路だから…とりあえずあの道の上を飛んでくれますか?」
「わかった!任せろー!」
白虎はものすごいスピードで飛び始めた。
まるで平和な顔した快晴の空に腹を立てているように。
めちゃくちゃ速い…恐い…息も出来ない…でもそれで良い。
今はひめを助ける事だけを!
広島JCTを左に折れ、広島ICまであと少し。もう市内に入って来ている。
思えばここまで、空飛ぶ白虎に気づく人はいなかった。
なんと白虎は透明になり姿を消せるのだ。
どうする?
犯人の手がかりは依然としてわからない…
こっからどうやってひめを捜す…?
「ここはオレに任せてくれ」
左京に何か考えがあるらしい。
左京と代わった右京の体は蒼白く輝いている。
左京は大きく息を吸い込むと優しいが強い意志の籠ったよく透る声で、誰にともなく語り始めた。
「今、オレ達の大切な人は野蛮な男達に拐われて危険な状態にあります。オレ達は彼女を捜しています。見かけた人がいるなら教
えて下さい!」
「へへへー犯されろー殺されろー」
「ヒヒーッ!オレもヤリてーよ」
醜悪な言葉が聞こえてくる…
だが左京は真っ直ぐに前だけを見据え、一切心揺らがぬ様子でなおも語りかける。
「今も成仏できずにこの地に留まる霊達よ。どうか聞いてほしい。あなた達は不幸にして命を落とした。まだやりたいこともあっただろう。大切な人を遺してきた人もいるだろう。大好きだって伝えられないまま別れた人もいるだろう」
左京の呼び掛けに反応するように、街のあちらこちらで淡い光が瞬き出した。
「あなた達がそうしたかったことを、彼女にさせてあげて下さい!今ならまだ間に合うんです。どうか力を貸して下さい…
お願いします!!!」
街の方々から霊達の声が聞こえる…
「その子なら十時頃見たで」
「黒い車に乗せられる子を見たよ」
「あっちの方に走って行ったぞ」
続々と連れ去られたひめの目撃情報が集まってきた。
様々な理由で亡くなった様々な優しい霊達が、今や無数の光を放っている。
その光は集まって、やがて一本の光の道を創った。
ひめに続く道だ!
「兄貴、オレはあの事故の後、しばらくこの世をさ迷ったんだ。まだまだやりたいこともいっぱいあったし…そしてたくさんの
霊達の想いに触れた。出来なかったことや、しなかったこと。
死んでから後悔してももう遅いんだ…だから彼らは生きている者達に願いを託す。頑張れ、負けるなって応援してくれてるんだ」
左京は光の道を指差す!
「さあ行こう!ひめを助けに!」
白虎と右京達は光の道を進んだ。その光は音と映像も運んでくれた。
ひめが泣いている…
おんぼろビルのワンフロアに連れて来られたひめは男達に囲まれている。
「笑えやコラー!笑えって言よーるじゃろ!ぶち殺すでほんま!」
ひめは恐怖でガタガタ震えながら無理やり僅かな笑顔を作る…
「おい!今のちゃんと撮ったか?」
リーダーと思われるスーツを着た男が問う。
「バッチリです(笑)」
カメラを構えた男が答えた。
「よし、笑ったねーお嬢ちゃん。これで今からすることは全部合意の元だからね♪」
マテからヨシに飼い主の指示が変わった時の犬のように、残りの二人がひめに襲いかかる。
「イヤーーー!!!」
ひめの悲鳴が右京の心に突き刺さる…
止めどなく溢れてくる怒りに任せ、右京は左京から自身の体を奪い取る。
ついに光の道が途絶えた。
あそこだ!あそこにひめがいる!
「ぶちかませー白虎!!!」
ガシャーン!
三階の窓を突き破り、やっと辿り着いた。
ミサイルでも撃ち込まれたか!?
驚き、動きを止めた男達だったが、敵の姿を認めると一様に余裕の態度に戻ってしまった。
「たまげたじゃろうが!どこから入ってきゃーがるんじゃ!」
「クソガキが!えーところを邪魔しゃーがって!」
ひめが泣いている!
この前買ったばかりのお気に入りの服はビリビリになっている!
顔には殴られたような痕も!
「ウォォォー!!!」
右京は我を忘れて男達に殴りかかる!
右京の怒りの拳はわけなくかわされて、スキンヘッドのカウンターパンチが右京の顔面を捉える。
揉んどりうって倒れる右京。
「なんだよコイツ。弱っちいのー」
「右京ー!右京ー!」
ひめが叫ぶ。
まだだー!絶対に諦めない!右京は立ち上がろうとするが…
そこにスキンヘッドの蹴りが脇腹に入った…
「アッ…ウハッ…」
痛さと苦しさに嘔吐する右京…
「きったねーなぁー!おいノブ!コイツふんじばって転がしとけ!」
ノブと呼ばれたピアス男がガムテープを持って近づいてくる。
「頑張ったなぁーカッコ良かったぜー兄貴!後はオレに任せてゆっくり休んでてくれよなっ」
左京は右京と入れ代わった。
ピョンと立ち上がるが…
「痛ってー!派手にやられたなぁ…」
首と手首を回しながら小さくジャンプを繰り返してみる。
「よしっ!大丈夫!もうやらせないぜ!」
右京の左京はピアス男にファイティングポーズをとる。
「ったく!めんどくせーガキだな。死んでも文句言うなよ♪」
口では面倒だと言っているが、ギラついた目を見ればわかる。
コイツ根っからのサディストだ。
右京を舐めている為、隙だらけのピアス男に右京(左京)は先制攻撃を仕掛けた。
「ア゛ダァダァダァダァー!」
猛烈なラッシュを浴びせる!
瞬殺!!!
ピアス男は仰向けに倒され、ギラついていた目は白目を剥いている。
現場の空気が変わったのを感じた。
それまでへらへらしていた男達は、少しの驚きが挟まった後、怒りの視線を右京に向けてきた。
右の手で、クイクイッ。
右京(左京)はスキンヘッドを挑発する。
スキンヘッドはまんまと挑発に乗り、目を血走らせている。
「まぁ落ち着けーや。どうせ空手か何かの真似事じゃ。ノブのバカは不用意過ぎ。お前なら楽勝じゃ」
スーツの男の言葉に、冷静さと余裕を取り戻したスキンヘッドは、一度息を吐き出すと再び右京を睨んで不敵に笑った。
コイツは暴力と破壊を楽しむ壊し屋ってとこか。
右京(左京)VSスキンヘッド
スキンヘッドはボクシングの構えだ。
リーチの長さでは圧倒的にスキンヘッドに分がある。
右京(左京)は半身の構えで、小さくステップを踏んで跳んでいる。
「くたばれー!」
スキンヘッドが動いたその瞬間、右京(左京)も動く。
「ア゛ダァッ」
イナズマのように速い蹴りがスキンヘッドの顎を捉えた。
スキンヘッドは怯む。
なおも右京(左京)は蹴り続ける。
「ア゛ダァ!ア゛ダァ!ア゛ダァ!ア゛ダァ!ア゛ダァッ!」
防戦一方のスキンヘッドは、両手で顔をガードするが右京(左京)の蹴りは、そのガードをも吹き飛ばした。
「ア゛ーダァーッ」
右京(左京)の放った跳び蹴りは、スキンヘッドの鼻っ柱に見事炸裂した。
膝から崩折れるスキンヘッド。
勝負ありだ!
「ヤベーよ!コイツ…」
スキンヘッドの敗北を見て、カメラを構えていた男が逃げ出す。コイツは仲間を平気で裏切るズルイ男だ。
右京(左京)は伸びているスキンヘッドの靴を脱がすと、投球動作に入る。
「真ん中高め!」
ビシューーーーパカン…ドカン!…
カメラマンの男は後頭部にスニーカーを食らい、勢いよくドアにぶつかって、ひしゃげた。
「オッシャー当ったりー!」
ガッツポーズ
残るはスーツの男だけとなった。
右京(左京)はスーツとの距離を詰める。
諦めたのか?
スーツは眉を八の字にして情けない顔をしている。
「わ…悪かったよ…勘弁してくれ…この通りだ…」
スーツは土下座をした。
どうするー兄貴?許せないよねーやっぱし!
土下座をするスーツを見てテンションが下がった左京は右京に相談を始めた。
その隙をスーツは見逃さない!
内ポケットからバタフライナイフを取り出した。
体をひるがえしてひめに向かって走り出す。
ひめを盾にしてこの場を乗り切るつもりだ。
コイツは汚い。どうしようもない卑怯者だ!
形勢逆転…万事休す…右京(左京)は自分の詰めの甘さを猛省した…
「アハハーオレの勝ちだ!ざまーみろっ♪」
ドン???
スーツは見えない壁に阻まれるように弾き返された。
スーツは訳がわからない…
「愚か者!!!」
吼えると同時にそれは姿を現した。
『白虎』だ!
牙を剥き、毛を逆立て、爪は鋭く、二つの目はギラギラと光るそれを見て、スーツは腰を抜かした。
歯の根は合わず口をパクパクさせている様は、まるで死にかけの金魚のようだ。
「さっきは言い忘れてたけど」
シュシュシュバババッ!!!
「オレのコレは空手じゃないよ。ジークンドーだ!」
右京(左京)は在りし日の彼の構えを再現する。
「オレの師匠はブルース・リーさ。習った訳じゃないけどね」
『Don't think ! Feel』
「オレは彼の魂を感じてる」
「ア゛ダァッ!」
続く




