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ガンズ・アンド・バッドメディスン 〜異世界の傭兵さんはお薬の力で無双する〜  作者: ユッケ
Underground Labyrinth and Sniper

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誘拐、拘束、そして銃殺 

 彼女の話によると此処は九階層の中頃に当たる場所らしい。

 だいぶ長い距離を運んでもらったのだと俺は改めてココに感謝していた。

 一度自分が出てきた所を振り返ってみる。


 ダンジョンの壁に人工的に掘ったような穴を枯葉を寄せ集めてカモフラージュしたような、子供の頃に作る秘密基地のような風体だ。

 まさかこれを一人で作ったわけではあるまい。それこそクラッシャーの一人ぐらいしかいないとこんな穴空けられるはずない。


「そんで、何があるっていうんだ?」


「すぐにわかるっすよ。それにしても、今の地下迷宮はいつにもまして物騒っすねぇ。こんな時期に潜ってしまうなんてバッキーさんも随分と不運なお方っす」


「……そうだな」


 本当にそうなのか。

 低階層にいるベヒーモスも、銃で武装したゴブリンも、偶然待ち受けていたというのか。

 笑わせてくれる。ここまできて偶然で済ませられる程俺の脳味噌もお花畑ではない。

 誰かが俺達、あるいは俺を嵌めようとしている。

 理由も目的も知らないが何にしても殺すつもりできているらしい。

 勘弁して欲しい。命がいくつあっても足りはしない。


 嫌々と溜め息をつくと隣でココが俺を見てくる。


「何か嫌な事でも?」


「嫌な事だらけさ。異世界(ここ)は命の危険しかない。ココはさ、誰かに殺されかけた事ってあるか?」


「えっ? それはもう数え切れない程に」


「そうだよなそれが普通……なに?」


 俺が望んでた答えと真逆のものがきて思わずココの方を見やった。

 そんなこと当たり前だろとでも言わんばかりに済ました顔をしてココは俺をからかうように笑う。


「なはは、甘いですよバッキーさん。冒険者になるってことはっすね、常に敵を作るって事なんすよ。そんな事で落ち込んでたら冒険者なんてやってられないんすから」


「マジかよ……」


 俺の住んでる世界が異常なだけかと思っていただけに驚きだ。

 冒険者育成学校に通う人間ですら日常のように死に目を見ているのだとするなら俺が思っている以上に冒険者稼業というのも気軽になっていいものではないようだ。

 今更ながらこの世界が初心者狩りなんてものが流行ってることを思い出していた。


「それならみんな冒険者育成学校に行くわな。学校ってどんな感じなんだ? きっと楽しいんだろうな。ココって友達多そうだもんよ」


「それはもう最高っすよ。愉快な友達がいて、頭のお堅い先生がいて、楽しそうで楽しくない授業があります。まさに自分の思い描く学校生活って感じっすね」


 ああ、俺の思い描く学校だ。

 通ってるときは『こんな学校クソッくらえだ。早く卒業してしまいたい』と思っていたがこうして話を聞いていると少し恋しくなりもする。


「そういうバッキーさんは何で学校に行かなかったんですか?」


「俺?……別に理由はなかったけど行く必要はないかなって」


 思い返してみればアシュと会ってあのパーティに入ったのが始まりだった。

 あの時はどうにかして強いパーティに入りたいって必死だったからなぁ。ただ死にたくなかったって思いもある。結果的に死にかけることの方が多い気もするが。


「まぁ、楽しそうだな」


「楽しいに決まってるっすよ! バッキーさんも一回来てみたらわかるっすよ」


 こうしてココと話をしていると学校も悪くなかったかなと思えてくる。

 それにしてもさっきから歩いているが何も見えてこない。

 こちとら病み上がりなだけに歩くだけでも精一杯の身だ。


「ところでココ、俺に見せたいものってのはまだ先なのか? てか何があるんだ?」


「それならもうすぐそこっす。ちょうど突き当たりのとこなんすけどね」


 ココの目線に釣られるように俺も道行く先を覗き込むように眺めてみる。

 先の方は大きな壁が聳え立っていて、T字路のような分かれ道となっているようだ。

 その壁際に何かが落ちていた。


「なんだあの白いのは?」


「あらら、すっかり食い荒らされちゃったみたいで」


 近付くに連れてその形が視認出来てきた。

 何らかのモンスターの骨だ。しかもかなり大型のだ。壁には赤黒い血液が乾いて染みのように広がっていた。そして、何より気に掛かったのは壁から伸びている見たこともない太さをした鎖だった。

 俺の首よりも太そうな楔が壁に深々と打ち込まれており、相当大きな力を加えてもビクともしないだろう。鎖の先は金属製の首輪となっており、間違いなくそのモンスターに嵌められていたのだろう。


 目前まで来るとそのモンスターが何なのかまではっきりとわかった。


「これってさ、ベヒーモスだろ?」


「ああ、わかるんすね。流石っす」


 一度見れば忘れはしない。骨になっても異様な存在感を放っていて、今に動き出してきそうだった。

 だがその大きさは前に見た生きたベヒーモスに比べれば遥かに小さい。


「ベヒーモスの子供か」


「酷いことする人もいるもんすねぇ。わざわざ下の階層からベヒーモスの子供攫ってこんなところで繋いで放置なんて。酷いっすね。とても酷い」


 居心地の悪そうにココは眉を顰め、歯噛みしていた。

 確かに酷いことをする。ベヒーモスの骨の周りには大量の空薬莢が散乱していた。動けないベヒーモスを的にして誰かが撃ち殺したのだろう。

 だが同時に明確な疑問も湧いていた。


「これやった奴はなんで態々ベヒーモスのガキをこんなところまで運ぼうなんて思ったんだ?」


「……ああ、確かに変っすね。変っすよね。ここまで運ぶ手間を考えればその場でやっちゃえばいいですもんね。こんな太い鎖持ってくるぐらいですから、最初からこうするのが目的だったようですが」


 確かに、こんな大それた鎖を持ってくるということは何らかのモンスターを捕まえる事が目的になる筈だ。それだけなら筋は通る。だがこんな場所に繋いで放置するということに何の意味がある。


「これっていつ頃からあったんだ?」


「うーん……確かゴブリンが銃を持ち始めたのと同じ時期でしたかね。数日程前っすかね?」


「もしかしてさ、こいつ撃ち殺したのってゴブリン達だったりしないか?」


「まぁそうでしょうね! というかそれ以外考えられないでしょう。だって見てください。ベヒーモスの角がそのままにしてあるでしょう? 冒険者なら誰でも欲しがる素材を取らないなんてどう考えてもおかしいじゃないっすか」


「あぁ成る程、じゃあゴブリンがやったと考えていいな」


 きっと俺が遭遇したベヒーモスはこの子供の親だったのだろう。

 何者かに子供を攫われ、こんな低階層までやってきて、子供の無惨な姿を見れば怒り狂っていても不思議ではない。

 四階層で見たゴブリンの惨殺死体も恐らくベヒーモスによるものだ。


「いやはやまったく一体誰がこんなことしようなんて考えますかねぇ?」


「思い当たる節はないのか?」


「私? まっさかぁ! こんなことするお友達はいませんし、こんなことする野蛮なお方から恨まれるようなことは何一つ一切ないっすよ」


「じゃあ俺の方か……」


「うーん、自分とバッキーさん以外ということはないんですかね?」


「そう思いたいが、どうも俺の目的と今回のこの異変は噛み合いすぎてるんだよな。今回はな、五階層付近のゴブリンを狩りに来たんだよ。そしたらやれベヒーモスだ。やれ銃をぶっ放すゴブリンだ。どうしても俺を狙ってきてるようにしか思えねぇんだよな」


「じゃあそうなんじゃないすか? バッキーさんの周りにはこういうことやりそうな人とかいるんすか?」


「いるな。間違いなく」


 薄々気付いてはいた。今回のこの異変、俺を嵌めようとしている誰かがいる。

 目的何て知ったことではないが、俺を殺すこと以上のことがあるのか。そして、これを実行した人間についても大方の目星は付いている。


「ココ、一回戻ろう。今から俺がすべきことが分かった」


「あれ、もういいんですか? 別に私は構いませんが……ベヒーモスの角要ります?」


「俺はいらねぇから、ココの好きにしていいよ」


「ほうほう、では失礼して」


 俺は腰掛け、ココがベヒーモスの頭蓋骨から角を切り取る作業を眺めながら、これから起こるであろう事にどう対処するか、静かに考えていた。

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