新しき良き友
「いやー悪いですねぇ。自分も学費稼ぐのにいっぱいいっぱいでして。こういう高価な素材は出来るだけ取っておきたいんすよね」
ココがベヒーモスの角を切り取った後は再び彼女の秘密基地に戻って包帯を取り換えてもらっていた。
作業の一つ一つは丁寧であるが仕上がりは思っていたよりも酷く、失礼だが同じメディックでもドクターとは比べものにもならない。
「バッキーさんはこれからどうするつもりすか? てか、あれだけ怪我してたのに結構元気そうっすね」
「こんな場所で寝てる暇なくなっちまったもんでね。色々助かったよココ。おかげで俺が何をすべきかもわかった。いや気付くのが遅すぎただけか」
「んー、何言ってるかさっぱりっすけど、自分のおかげと言われたら素直に嬉しいので照れときますね」
げへへと女子らしからぬ笑みを浮かべるココを他所に俺は荷物をまとめていた。
コートに入っていたものを一度出して確認してみると、自分でもすっかり忘れていた一本の煙草が出てきた。
「あれ? 意外にもバッキーさんってお煙草吸うんですね」
「吸わねぇって。これはだな、ちょっとした友好の印だ」
『ジョイントで友情をジョイント』のフレーズがどうも頭に残っている。あの胡散臭い装備屋ジャスパーから貰ったものだがその存在自体をすっかり忘れていたものだ。
ずっと胸ポケットにしまってた所為で巻紙が皺くちゃになっているが、使う分には何の問題もないだろう。
煙草なんて吸ったことも吸おうとしたこともなかったが、せっかく貰ったものだ。
機会を見て吸ってみるのも悪くはないかもしれない。
次に出てきたのは黒い円筒状の物体だった。
確かガス式のワイヤーフックだったか、これも貰ったことをすっかり忘れていた。
せっかくアシュリーからプレゼントしてもらったのは良かったものの今のところ使う機会に恵まれていない。これも機会があれば使うが今のところ使うことはないだろう。
あとは幾つかの携行食と予備の弾がいくつかあるが肝心の銃がない。
「こんなもんしかないか……」
所持してた銃もゴブリンとの戦いで殆ど失ってしまった。
これではこの先どうにかしていくには心許ない。この状況、頼める相手と言えば、
「ココ、一つだけ頼みがあるんだ」
彼女しかいない。
俺が何を言おうとしているのか察したのか、ココはニヤリと口元を吊り上げて調子の良さそうな言葉を返してくる。
「なっはっは、バッキーさんったら水臭いっすよ。もう自分等お友達みたいなもんなんすからお頼み事なら何なりと申してみてくださいよ」
実に頼もしい言葉だ。彼女に助けられて心から良かったと思う。
「銃を一挺貸して欲しいんだ」
「あぁそんなことっすか。いいっすよ。自分は銃は持ち合わせてませんが、先程大量に拾いましたから。どうせ売り払うものですから、一挺と言わずに好きなだけ持って行ってくださいな」
そう言って、基地の奥からパンパンに膨らんだ麻袋を引っ張り出してきて、俺の前でその中身を撒き散らした。
大量の銃が床一面に広がり、俺の前に現れた。
拳銃、突撃銃、散弾銃に狙撃銃、榴弾砲まで一頻りの銃がそこにはあった。
拳銃の一挺でもあれば助かると思っていたが、これは助かる。予備の弾倉は無いがこれだけあれば問題ないだろう。
「すっげぇなこれ、予想以上だよ。これ全部拾ったってのかよ!?」
「なっはっは、二ヶ月も地下迷宮で生活してるとですね、そこらへんうろついてると沢山落ちてるもんなんすよ。ほとんどは骨と一緒っすね。人の」
「あー、成る程ね。まぁ、落ちたまんまにしとくのも勿体無いもんな」
よく見ると銃も古びたものが多く、中には苔の生えているものまである。
その中から使えそうなものを漁っていると、中から見覚えのある散弾銃が顔を出した。
「これって、おいマジか!」
見間違えるはずもない。ついさっきまでこいつで暴れていたのだから。
「フォース・オブ・アウトローじゃねぇか!」
「わーおすっごいお洒落なネームだこと。それなら今日バッキーさんを拾ったときに一緒に回収した銃の一つっすね。比較的綺麗な方っすけどそれも持ってっていいっすよ」
「ココ! お前最高だよ!」
「えっ? ちょっ、ふぎゅ!」
喜びのあまり両手を広げてココに抱き着いていた。
潰れたネズミのようなうめき声を挙げてココは俺と一緒に床に転がった。
「俺の大切な銃なんだよ。よく拾ってくれてたな。本当に助かったよ! なんてお礼すればいいかな、ほんとありがとうな」
「いえいえそんなお礼だなんて。今度お茶でも奢ってくれたらそれでいいんすよ」
「それがいいや。そんなんでいいなら喜んでさせてもらうぞ」
床に寝そべりながら俺達は心から笑いあった。思ってみれば、彼女がこの世界で初めて会う本当の意味での駆け出し冒険者だった。
だからかな、俺は自然と彼女に心を許していた。学生である彼女の話がどうしても嘗ての俺と重なって、親近感が沸くんだ。
とても良いことだと思う。この世界に来てそう無かった出来事だ。
「それにしてもこの喜びよう、余程大切な銃なんすね」
「俺の生まれて初めてもらった銃なんだ。俺の、親代わりの人から冒険者になった記念にって貰ったんだ。しかも彼女の御手製だぜ? 失くしてたまるかっての」
「良いっすねぇそういう思い出の品。自分にもそういうのあれば良いんすけどねぇ」
「出来るさ、ココって結構友達多そうだもんよ」
「なはは、そう見えますか? まぁ多いんすけどね。とても多いっす。そう言ってもらえるとなーんか上手くいきそうな気もしてきますよ」
きっと彼女なら出来るんだろうなと真に思う。
彼女のおかげで随分と心に余裕も出来た。だがそろそろ行動に移す時間だ。
「さて、銃も戻ってきて傷も粗方癒えたことだ。俺はそろそろ出て行くとするよ」
「えー、もう行くんすか? もっと休んでけばいいのに」
「もう少し休んでもいいんだけど、まだやること沢山あるんだ。それに、ココの蘇生薬もすごく効いてるぜ。もっと上手に作ればきっと上手くいくさ」
そこまで言って、俺は一つ彼女に提案してみることにした。
「うちのパーティに腕の良いメディックがいるんだ。蘇生薬の作り方を教えてくれればきっと完成に近づけて貰える筈なんだけど。ココがよければどうだ?」
「凄くありがたい話なんですけど、どうしてもそれだけは教えられないんです。理由も含めてっすね。いやほんとに申し訳ない」
手を顔の前で合わせてココは申し訳なさそうに頭を下げる。別に彼女が謝る必要は全くなかったのだが。
自分で言ったものの、やっぱり迂闊にドクターに他人の薬のことは話さない方が良いだろう。
「それなら仕方ないよな。誰にだって人に教えたくないことぐらいあるしよ」
もちろん俺にもそういうことは多々ある。だからお互いさまということだ。
血みどろのコートに袖を通し、背の収納部にフォース・オブ・アウトローを担ぐ。
「うん調子は悪くない。そんじゃ、俺は行くよココ。多分大丈夫だと思うけどそっちも気を付けろよ? モンスターと遭遇したらメディック一人じゃどうしようもないんだからよ」
「自分もそろそろ引き上げ時っすかねぇ。近頃の地下迷宮は物騒ですからねぇ。おちおち研究も出来ないっすよ。なんなら今から一緒に入口まで帰ります?」
「いや、すまんがそれは出来ないんだ。今から、ちょっと暴れてこなきゃいけないからさ、多分」
「あー……その身体で?」
自分で見ても酷い有り様だ。小突けば一発で倒れてしまうかもしれない。
でも行かなきゃいけないんだよな。多分あいつも待ってるだろうから。
「この身体以外でどの身体がするんだよ? 心配ないって、ちょろっと俺のお仲間とじゃれてくるだけさ」
そう言って俺はココの秘密基地から一歩外に踏み出す。
ココの方に振り返って両手を頭の上で振り、お別れの言葉を交わす。
「またなココ、今度はもっとゆっくり出来る場所で会おうぜ」
「バッキーさんもお気を付けて、良ければ学校にも来てみてください。自分もいるかもしれないんで」
「機会があればな」
話聞く限り悪いとこではなさそうだし、一度様子を見に行ってみるのも悪くはないと思う。
それはそれとして、俺は微笑を残してココに背を向けた。
あいつの眼なら見えてるんだろうな。俺がこうして生きてるってことも、俺がそっちに向かってるってことも。
頭の中で幾通りの問いを用意しながら、俺は十階層に向けて歩き始めた。




