ショッピング
地下の店ということで店自体そんなに広いものではない。さっきまで俺たちがいた客間と現在スキュラが冒険者になるための手続きをしているジャスパーの個室、俺がワーウルフと殴り合ってた広間、そして最後に装備を収納してる倉庫だ。
木箱に丁寧に詰められた銃の数々やずらりと並ぶ冒険者御用達の装備の数々。
その一つを手に取って試しに着けてみる。見た目は特に特徴のないゴーグルだったが実際に装着してみるとその能力に驚かせた。
ゴーグルを装着した途端に視界が拡張されたような錯覚に陥る。
気温、湿度、空気の流れが即座に読み取れて、更に見た物質の名称、距離、情報、全てが視界に映し出される情報から把握出来てしまう。
「うえっ、気持ち悪い……」
同時に頭がパンクしてしまいそうになるぐらいの情報量が流れ込んできてとても気分が悪くなった。
ふと、隣で装備を眺めるアシュの事を思い出しゴーグルを着けたまま見てみる。どんな情報が出てくるのか気になったからだ。
名前、身長、体重、体温、瞬く間に入ってくる情報に目眩がするが入ってくる情報の中で何よりも目を引くものがあった。
「ス、スリーサイズ……?」
思わず声に出ていた。
すぐに口を噤むがその声はしっかりとアシュの耳に入っていた。
「何か言いました……ってバッキーさん、何覗き見してるんですか?」
弁解する間も無くゴーグルをスられてしまい、アシュはゴーグルを観察しながらも、伏し目で俺の方を見てくる。
「やー、イービルアイの眼球を加工して作った特注のゴーグルですね。真眼にも劣らない能力を得られる一方で体力の消耗が激しすぎて誰も使おうとしない代物ですね。それでバッキーさん、これを着けて私の何を見てたのですかねぇ?」
挑発的な笑みを浮かべアシュは白々しく尋ねてくる。返答に困ってしまい俺は堪らず目を泳がせてしまった。
「べ、別に、お前のドラム缶みたいな体型知ったところで何とも思わねえっての」
「あらら、これは一本取られました。ドラム缶とはまた言い得て妙ですね」
内心ドキドキだったが取り敢えず切り抜け、アシュからゴーグルを取り上げると元の場所に戻す。
それからアシュと一緒に色々と装備を見て回る。
「やー、これなんて便利ですよ。ガスで射出するワイヤーフック。私もよく使います。それにジャスパーさんのだと人を5人ぐらい吊るしても問題ないぐらい強度が高いですし」
「便利といえば便利だけど、まだいいかな。今持ってる武器もまともに扱えてないのに次から次持ってたらきりねえよ」
「それは残念。便利なんですけどねえ」
どちらかといえば武器や補助具よりも防具の方が今は欲しい。
革製のジャケット風の防具や金属製の鎧が並ぶ中、一つの帯のようなものが目に留まった。
無造作に手に取ってそれを見てみるとそれはとても見覚えのある装備だった。
「これって、アンリの目隠しか?」
「やー、その通りですね。何を隠そうアンリさんの目隠しを作ったのはジャスパーさんですから」
「あいつがこれを?」
「イビルアイの目蓋を加工して作ったらしいですよ。よくわかりませんがイービルアイの素材の加工ってかなり難度の高い技術が必要らしいので作るのに相当苦労したんだとか」
「じゃあアンリの為にこれを?」
「やー、その通りですね。実を言うとあの人、このパーティに来るまで相当苦労してたらしいんですよ。主にあの眼の所為ですがね」
さっきゴーグルをして俺もアンリの事を思い出していた。数秒着けてただけで吐き気を催す程気分が悪くなった。それがずっと続いていたとしたらそれはもう真っ当な日常を送るのは不可能だろう。
前にアンリと話した時の別れの間際、アンリはとても辛そうにしていた。その意図がその時はわからなかったが今ならわかる気がする。
「そんなことよりバッキーさん、これなんてどうです?お洋服についてお困りだったでしょう?」
そう言ってアシュは俺に一粒の透明の六角形の結晶を差し出してくる。
それを摘み上げ凝視するが何の用途なのかさっぱりわからない。答えを貰うべくアシュと顔を合わせるとアシュは得意げな顔して教えてくれる。
「やー、エンシェントウィッチの魔石を削り出したものですよ。そのエンシェントウィッチですがね。復元魔術というものを使ってくる希少なモンスターなのですが、ちょっと失礼」
結晶を取られ、アシュは掌に乗せたそれを俺のボロ切れのような服に押し付けてくる。すると結晶は怪しく光り出し、光は俺のコートに吸い込まれるように消えていった。
「何だこれ?アシュ、何した?」
俺のボロボロだったコートは何処へやら、光を吸収した俺のボロボロぼコートはまるで新品のようになっていた。
ワーウルフに貫かれた跡も、煤けた名残もまるでない卸したてのような状態だ。
「やー、魔石に閉じ込めた復元魔術をバッキーさんのコートに行使しました。素敵でしょう?これを持っていればいつでも新品のコートに戻すことが出来ますよ」
「そんな物を勝手に使っちまって良かったのかよ?」
「やー、私も良く使わせて貰ってますから。魔力を補充すれば何回でも使えますし」
「それって人に使えたりするのか?」
「何を考えてるか知りませんが生き物には使えませんね。そうでないと死人は生き返っちゃいますし、致命傷も即完治ですよ。そんなつまんないことあったら堪ったもんじゃないです」
それもそうだなと頷きながら魔力の空になった結晶を元の場所に戻す。もちろんジャスパーには内緒だ。
「まっ、これと言って今欲しいものはないかな。それよりもスキュラだ。あいつの冒険者の装備買ってやらねえと。あのままじゃ魔術を使えるただの女の子だ」
「それって十分凄いのでは?ともかくバッキーさんって女の子の服とか選んだことあるんですか?」
「ないな」
「やー、そうでしょうね」
悔しいがアシュの言う通りだ。女の子、それも遥かに年下の子の服を選んだことなんて俺には一度もなかった。
「まぁその為に私がついてきたんですけどね。スキュラちゃんじゃ自分で選べそうにありませんから」
「確かに」
つい最近まで奴隷だった少女に服を選ばせるにしても難しい話か。
「というわけでスキュラちゃんの一式装備を探してみましょうか。もちろんバッキーさんも一緒に」
最初からそうするつもりだったのだろう。俺のときも色々教えてくれたし、なんだかんだ言って面倒見のいい奴なのだと思う。
「ちなみにこれなんてどうです?伸縮性抜群で着心地も最高ですよ」
「スキュラを変態にするつもりかよお前は」
攻めすぎなレオタードを取り上げ、元の場所に戻すと改めて二人でスキュラの装備を選びに取り掛かった。




