晩餐会
このパーティに入って浅いがはっきり言ってまともな人間がいない気がするんだ。
アシュは何か人格が破綻してそうだし、アンリはまともかもしれないが初顔合わせの時は殺されかけたし、ザグールは謎だ。まだ関わり合いが少ないが碌でもなさそうだ。ドクターは言わずもがなだ。
「バジリコックの手羽先好きか?俺は大好物だぜ?」
「食べたことがない。ってかドクター、このメンチカツの中身何だ?」
「それはスライムの内臓を乾燥させたのをミノタウロスのひき肉に混ぜて作った。イケるだろ?」
正直言って美味い。中身さえ知らなければ絶賛してるだろう。
「トレントの葉のソテーは苦みが凄いが癖になるぞ?これはどうだ?ダンジョンワームの肉団子。見た目も味も牛肉そのものだ」
聞くだけで食欲が失せる。その横でアンリとスキュラは黙々とフォークで食卓の料理を口に運んでいる。
ザグールは動かない。彼に関しては本当に何もわからない。
そもそも口数の少ない食卓だった。喋っているのは俺とドクターぐらいだし此処にアシュがいればそれなりに会話も弾むのだろう。あくまでそれは三人だけの間だが。
中身は不明の瓶をラッパ飲みしてドクターはふとスキュラに目を向けた。
「それにしても、これはまたかわいらしい奴隷さんを買ってきたもんだなあ。名前は?」
それまで沈黙を通していたスキュラもドクターが俺の上の人間だと理解してのことか、食事の手を止めこじんまりと畏まって頭を下げる。
「はい。スキュラと申します。あの……ここはどのようなところでご主人様が私を買った目的も事前の情報とは違うようですがそれはいったい何なのでしょうか?」
ドクターはエビのようなモンスターを殻ごと噛み潰すと、俺を指差した。
「教えてなかったのか?」
何かの卵の串焼きを齧りながら俺は首肯する。第三者に教えていいことなのかもわからないし、それに俺は末端の人間なだけに勝手はしない方がよかっただろう。
「構わねえ構わねえ。ここにいる時点でもううちの一員みたいなもんさ。それでスキュラだっけか?お前にはお前の買い主と一緒に本当の富豪のところに買われていってもらう。ほんの囮さ。お前には別に何かしてほしいなんてことはない。奴隷として売られていってくれ」
「それだけ……ですか?」
「それ以上もそれ以下もない。飯食おうぜ。もう少し肥えればその幸の薄い顔もどうにかなる」
やっぱみんなそういう印象持ってるんだな。なんなのだろうか。彼女の持つ雰囲気にどこか俺達とは決定的に違う異質さが混じっているような違和感がある。そんなところにも俺は惹かれたのだろうが、分からないと一転して不気味にも思えてくる。
「いいのでしょうか?」
疑問を投げかけたのは今まで声一つ出さずに食事に没頭していたアンリだった。
ドクターがめんどくさそうな顔してアンリを見る。彼としては一秒でも多く自分の作った料理を俺達に紹介したいところだろうに更に疑問がきたとなると表情も渋くなってくる。
「万が一彼女が私達のことを吐けば今回の依頼の遂行は格段に厳しいものとなります。今更ではありますが少々不味かったのでは?」
そうなると責任は連れてきた俺にもあると思うのだが、ドクターはにこやかな笑みを浮かべてその問いに答えた。
「あぁ、いいんだいいんだ。その時は俺が殺すから」
笑顔で言うもんだから冗談と聞き違えそうだが、ドクターならやりかねないなぁと思いながらもう何本目かの串を齧る。もしものことがあっても俺にはお薬がないとどうしようもない故に俺は静観決め込む。
顔を青ざめさせて言葉に詰まるスキュラにドクターは愉快そうに手を広げ屈託のない笑みを浮かべる。
「なんてな。冗談だよ。飯食おうぜ飯。おいバッキーさっきから食ってるそれゴブリンの睾丸だぞ?」
俺が吹き出してる傍でスキュラは何と言っていいのか分からず困った顔して固まっていた。
「卵かと思うだろ!? スキュラ食うか? ゴブリンの睾丸だってよ。意外とイケるぞ」
「いえ、あまり食欲が……」
「そっか。まぁゴブリンの睾丸なんて無理して食う必要ねえさ」
がつがつ食ってた自分で言うのもなんだったが正直な話美味かったし悪くはない。
すると、ちょうどアシュが風呂から上がって頭にタオルを巻いて部屋に入ってきた。
「やー、上がりましたよー。誰か入ります?」
「こっちは待ちくたびれてお前ら以外入っちまったよ。後はバッキーとスキュラだけさ」
湯だってきたアシュは俺の隣の席に座ると早速夕食を食べ始める。原材料にはあまり気にしてはいないようだ。
「じゃあスキュラ、先入るか?」
ドクターの言うとおりなら残りは俺とスキュラだが、スキュラの方はもう食欲がないようで手も動いていない。先を譲るのは妥当だったがそれを良しとしないのは生真面目なアンリだった。
「仮にも奴隷だ。一人でうろつかせるな」
「なんだよアンリ、この子と一緒に風呂入れってか?」
「そうだ」
「……マジで?」
「マジだ」
ふとスキュラと顔を見合わせる。
今すぐこの場を立ち退きたいだろうスキュラと二人で風呂になんて絶対に入りたくない俺だが、彼女の眼差しにあっさり俺は根負けした。
「行こうスキュラ」
「はいご主人様」
隣でアシュがにやにやして横目で俺達を見ていた。こいつはいつか泣かすとして、俺は最後に牛肉のようなステーキを頬張って席を立つ。それはまさに牛肉そのものだった。甘辛のソースと香辛料と肉の旨味がうまい具合に絡み合って絶妙な美味しさを引きだしている。
ドクターはそれを見て、少し悔しそうにそのステーキを摘む。
「それはザグールの焼いたステーキだな。俺のにはほんの少しだけ劣るが、確かに美味い。一応ちゃんとした牛肉だ」
本日一番の驚きだ。どう見ても肉体派マッチョな大男にここまでの手腕を発揮したという事実に脱帽させられる。
結局最後まで一言も言葉を発さなかった彼に俺は敬意すら持って一礼してドクターの部屋を出た。
気持ちを切り替え、スキュラの風呂をどうにかしなければならない。




