アスレチックで遊ぼう!
*勘違い主体です。
ミミックと言う言葉は、生物学的に擬態を意味します。
タルタウス迷宮50階層にいる四人。
二人は子供、その内一人は頭に魔物が齧り付き、一人は青年、一人は中年の男四人がいる。
子供達と青年は遊びに、中年男性は命をかけた探索をする為に迷宮に。
中年男性の名前はシャルディナ。
50階層にもなると今までの階層よりも強い魔物、危険な罠などが増え、より踏破が困難となる。タルタウス迷宮50階層に似つかわしくない三人にシャルディナは酷く困惑していた。
「あんたらは……一体なにもんだ?」
シャルディナが聞く。
目の前にいる三人が、如何にも普通の人間だと思えない。自分と違く、手ぶらで迷宮の50階層にいるなど説明が出来ないからであった。
「俺らですか? ここから少し離れた村に住んでるしがない村人と子供達ですよ。ほら、二人ともしっかりと挨拶するんだ」
「またかよ!? さっきも挨拶したぞ」
「そう言わないんだよ。僕たちはまだちゃんとした挨拶してないんだから」
青年は自分たちが何処から来たのかを伝え、二人の子供にしっかりと挨拶する様に言う。
どうやら青年の男性は、シャルディナが自分たちの名前を聞きたいのだと思っているようだ。
「わかったよ…俺はつばさって言うんだ。おっちゃん、よろしく!」
「僕はふぶきと言います。よろしくお願いします」
つばさは元気よく片手をあげて言う。ふぶきはシャルディナに名前を伝えてからお辞儀をする。
どうやら二人は、シャルディナがこれから共に迷宮探索をするのだと思っている様だ。
そんな二人の子供の自己紹介のあとに青年がシャルディナに告げる。
「最後に俺の名前は田吾作って言います。名前を漢字で書くと、田を吾が作ると書いて田吾作です。まぁ実際のところ、名前と違って洋服を作ってるんですけどね!!…って漢字は知っていますか?」
*その一 勘違いの始まり
シャルディナさんは、三人の自己紹介の後どうやってこの階層まで来たのか、何故子供を連れて来たのかなどの質問を田吾作さんにしました。
田吾作さんは、雨が降り外で遊べなくなってしまう子供達をアスレチックで遊ばせる為に来たと言います。
理解不能な回答でありますが、シャルディナさんは迷宮のエキスパート。予測不能な事態になったとしても冷静に考えて事態の収拾に努めます。
「わかった。あんた達の事は…信用しよう」
そしてシャルディナさんは、三人を冷静に分析して答えを導き出します。
(この三人は、何処か別の場所に転移するところを何かの問題が発生しこの迷宮に飛ばされて来たのだろう……)
違います。
(そして、あの子供に噛り付く魔物。今まで幾度も俺が苦戦して来た蛇の魔物だが…どうやら50階層より上になると脅威ではなくなるようだな……または危険性のない変種か…?)
違います。
(これは面倒な事になった……なんの力も持たない三人をどうにかして迷宮から出るまで守ってやらないと…三人とも何も知らんようだし…ここは俺が助けてやるか)
シャルディナさんは、まるっと全てを勘違いしていました。
仁さんによる座標1mmもずれない転移、体長3mの蛇の魔物は、シャルディナさんが苦戦していた魔物と同一個体であり、村人の力を知りません。仕方ない事ですが。
「話は概ね理解出来た。私が責任を持ってあんた達三人を外に連れ出す。安心してくれ」
「???……なんか良く分からないけど、一緒に来てくれると言う事ですか?」
「そうだ。こう見えても私は何度もこの迷宮を探索している。仕掛けられている罠なども熟知している自信がある」
「おお!おっちゃんすげぇ! ここのプロの人か!」
「罠なんて仕掛けられているんだ! ねぇつばさ、どんな罠だと思う!楽しみだね!」
「いやぁ、すいませんね。まさかここの施設にお詳しい方が来てくれるなんて。俺は、もう殆どこの施設の記憶がないので助かりますよ。ありがとうございます」
「???……あ…あぁ、任せてくれ」
お互いの言葉が綺麗にすれ違っています。
村人三人は、シャルディナさんを『アスレチック場に関して知識を豊富に持つ人』と思っています。
シャルディナさんは、村人三人を『何の力も持たないか弱い村人三人を守る』と思っています。
お互いが、勘違いをしたまま探索を始めます。
*その二 ミミック
「あっち行こうぜ! ふぶき、ちゃんとついて来いよ!」
「つばさは、はしゃぎ過ぎだよ!」
「お前達、あまりはしゃぎ過ぎて怪我するなよー
いやはや、うるさくしてすいませんね」
「いや、謝るとかの問題ではない。このままでは危険だ。俺が先頭を歩こう」
「???……まぁ確かに転んだりしたら怪我しますからね。そこはあの子達もわかっていると思いますよ」
四人が各々反応を示しています。
好奇心旺盛なつばさ君、未だ頭に魔物が噛り付いているふぶき君、引率の田吾作さん、迷宮踏破と三人を無事に外に連れ出すことをを目的とするシャルディナさん。
迷宮に似つかわしくない三人と懸命に力なき者のために頑張ろうとするシャルディナさん。
目的が天と地ほど離れた三人と一人が、一緒になってタルタウス迷宮50階層を探索しています。
現在四人は、歩きながら迷宮探索をしています。
ふぶき君に未だ噛み付いている魔物以外の魔物らしきものには遭遇していません。元気いっぱいの子供たちも迷宮の複雑な迷路に大変興味を持ったようで、走ったりしないで楽しんでいました。
シャルディナさんも三人の反応を見て少し気を緩めてしまった時に子供ふたりが何かを見つけます。
「ん? ふぶき…これ宝箱じゃないか!?」
「多分そうじゃないかな…開けてみようよ」
迷宮を歩いて数十分程。子供達が、迷宮の曲がり角近くに設置されている宝箱を見つけました。
何の躊躇いもなしに宝箱を開けようとします。
「まっ…待て!! その宝箱は!」
シャルディナさんが叫びます。
迷宮に存在している魔物の種類は豊富です。その中には壁や物に擬態する魔物もいます。
シャルディナさんは、子供達が開けようとしている宝箱が、擬態した魔物なのかを調べるため、万が一開けたら襲われてしまう事を懸念したので叫びました。
そしてシャルディナさんの予感は的中します。
(くそ!! 油断してた!! 俺としたことが!!)
二人が開けたと同時に、宝箱がつばさ君の左腕に噛り付いたのです。
「坊主! 大丈夫か!?」
認識が甘かった。つい気を許した隙に子供の左腕が噛み切られてしまう!
シャルディナさんは、言葉にせずに悪態をつきます。そして剣の布を即座に解いて魔物を切り伏せようとします。その顔は後悔の色でいっぱいです。今ふぶき君の左腕に噛み付いた宝箱に擬態した魔物通称ミミックは、開けてしまうと開けた対象物の身体の一部を欠損、または捕食しないと活動を止めない大変危険な魔物だと知っているからです。
「あはは! 見て見てつばさ!」
当のふぶき君は、笑顔で左腕に噛み付いているミミックを見て笑っています。
「えー! なんだよこれ……おじさん、この宝箱は宝箱じゃないの? 俺がっかりだよ…」
つばさ君が、落胆した様子で田吾作さんに質問します。
「おじさんじゃない! お兄さんと呼びなさい!!
その宝箱はな、昔からこの施設のあちこちにある『びっくり箱』だよ。俺も当時は良く驚かされたもんだ」
田吾作さんが、ミミックを唯の仕掛け箱と言います。
「…え?」
シャルディナさんは、剣を手に持ったまま固まっています。どうやら三人の反応に理解が及ばないようです。
「ん?どうしました?剣なんか持っちゃって…」
魔物を討伐しようと剣を構えていたシャルディナさんを不思議そうな目で見る田吾作さん。
「い…いや…なんでもない。その宝箱が魔物かと思ってな……早とちりであった様だ」
シャルディナさんは考えます。
(50階層になるとミミックも大丈夫な様だな……それよりもあれはミミックなのか?
本当にただのびっくり箱に見えてきた…うん)
目も鼻もない宝箱は唸り声をあげながらふぶき君の腕に噛み付かれていましたが、特に怪我や痛みを訴えたりしていません。結論として、びっくり箱なら仕方ないと言う事に至ります。
勿論違いますが、シャルディナさんは気づきません。
彼の考えはどこまでも明後日の方向へと向かっています。
「よし。それじゃあどんどんいこうぜ!」
「この宝箱が丁度いい力加減で腕を押してくれるから少しくすぐったいや」
「お前たち、怪我だけには気をつけろよー」
三人はその場からズカズカと歩いて行きます。シャルディナさんは、50階層からは、迷宮の仕様も変わるのかと考えながら三人の後を追います。
✽その三 吊り天井
「田吾作兄ちゃん、この迷路ってかなり複雑なんだね」
「そうだな。でもお前たちは随分楽しんでるみたいだな」
「シャルディナのおっちゃんのおかげでこうやって迷路を探索できるのはいいな! 迷わないで出口にいけるな!」
ふぶき君の疑問に田吾作さんが答え、つばさ君は迷宮探索を楽しんでいました。未だふぶき君には、頭と左腕に魔物が噛み付いています。
(三人はここが危険な迷宮と知らないのか……下手に事を伝えてパニックになると困るから黙っておくべきだな…)
シャルディナさんは三人の前を歩いています。
時に罠の気配を、時に魔物の気配を探りながら慎重に。
(ん?この部屋は……中が確認できん…危険だな)
三人の前を歩いているシャルディナさんが怪しげな部屋を見つけました。中の様子も確認できない扉の作りで如何にも罠が仕掛けてあると思える様な部屋でした。
迷宮のエキスパートのシャルディナさんは勿論素通りします。
そうすると、シャルディナさんの耳に三人の声が届きます。
「おい! ふぶき! ここ何かの部屋見たいだぞ! 入ろうぜ!!」
「本当だ! 早く入ろうよ! 罠とかあるかな!?」
「転ばないようにな。足元気をつけろよー」
シャルディナさんが、あえて入らない様に通り過ぎた部屋の扉の前で三人が喋っています。どうやら気になる様です。
三人は何の躊躇いも無しに扉に手をかけ、中には入って行きました。
「お…おい! 無闇矢鱈に入るな!」
シャルディナが叫びます。
迷宮内には罠として設置されている部屋がたくさんある事を知っているからです。罠部屋には、魔物の群れ、巨大な魔物、毒や矢などが飛び出す部屋などの罠があります。
しかし、シャルディナさんの叫びも虚しく三人は、怪しげな部屋に入ってしまいました。
シャルディナさんは、剣に巻いてある布を解き自分の口元に巻きます。少しでも毒などを吸わない様にするためです。刀身を露わにした剣を片手に持ち、三人が入った部屋へと入ります。魔物がいたら切り伏す為にです。
「あれ?何ここ?」
「なんだよ」
「なんかの倉庫か? それにしては何もないな」
「……ん?」
四人が入った部屋は、何もなくとても広い部屋でした。縦横20m 高さ8m そして部屋中の天井、床にボタンのようなものがあります。
ボタンの配置感覚は1㎡あたりに3個程で、天井と床を合わせて大凡2,400を越えるボタンがあります。
魔物も襲い迫る罠もないことにシャルディナさんは肩透かしを食らった様な顔をします。
「なぁ田吾作おじさん。ここって何の部屋だ?」
「おじさんじゃなくてお兄さんな。
多分ここは、備蓄倉庫とかだと思うぞ」
「それじゃあ勝手に入ったらいけないんじゃないの? シャルディナおじさんはどうなるか知ってる? 僕たち怒られちゃうの?」
「いや…俺もこんな部屋…は初めてだ…」
子供達は田吾作さんとシャルディナさんに質問します。
迷宮内で何もない部屋など今まで見たことなかったようです。
始めての事態に戸惑いを隠せません。
しかしシャルディナさんは、いつ罠が発動して自分たちに襲い迫るかと警戒を怠りません。
そんな四人の後ろから音がします。
…ガチャンッ!
突如扉から音が聞こえます。
………ゴゴゴゴゴッ!
扉の音が聞こえた後に、天井がゆっくりと動き始めます。
「なっ!!」
シャルディナさんが驚きの声をあげます。
今聞こえた音がなにを意味するかを把握したようです。
「おお! 天井が動き始めたぞ!」
「凄いすごい! これが罠ってやつなの!」
「へぇ…凝ってるなぁ。でもなんで倉庫に罠なんてあるんだ? ネズミ対策か?」
三人は実に余裕そうです。
そんな三人を尻目にシャルディナさんは、外に出ようと扉に手をかけていました。
しかしビクともしません。
ここでシャルディナさんは理解しました。
(くそ!!まさか部屋そのものが罠なんて!なんとかしないければ!!)
天井がゆっくりと四人を押しつぶすと理解したシャルディナさんは言葉にせず毒を吐きます。
このままでは四人ともぺしゃんこです。
(恐らく…この部屋にある無数のボタンのどれかが仕掛けの解除方法だと思うが……間に合うか!?)
迷宮内にある罠は、解除方法・手段の様な物があります。魔物の群れであるなら統率する魔物、毒や矢などは発生源や停止ボタンなどです。
悩んでいる間も天井は動き続けます。
「これって天井が俺たちを挟んじゃう前に部屋にあるボタンを押しまくればいいの?」
「多分そうじゃないかな。田吾作兄ちゃんはどう思う?」
「うーん。それでいいんじゃないか?もしかしたら景品とか出るかもしれないぞ?なんちゃってな。
ここの施設の倉庫にそんなものあるわけないか」
三人がお話をしています。
シャルディナさんと違くて危機感皆無です。
もちろんシャルディナさんの耳に三人の声は届きません。
「お前達! 今すぐ部屋中のボタンを押せ!!」
シャルディナさんが叫びます。時間はありません。
「ん? あの慌てよう…もしかしたら本当に景品がでるかもな。お前たち頑張れよ」
「おう!! なんか楽しくなってきたな!」
「そうだね、つばさもそう思うよね! 景品なんだろね!」
三人はどこまでもこの調子です。
(ここは俺がいち早く向こうなんとかしないと…)
何とか天井に押し潰される前に解除装置を押そうとシャルディナさんは無数にあるボタンを押します。
彼が選んだのは部屋の角にあるボタン。端から攻めようと考えてのことです。
しかし、ボタンを押そうにもびくともしません。シャルディナさんは全体重を乗せながら再度ボタンを押します。
…グググ
ゆっくりと沈んでいくボタン。
これでは天井におし潰される間に、無数にあるボタンの内の数個を押すことしかできません。
(くっそぉぉ!!これじゃぁ間に合わない!!しかし…俺でこれなら…三人では…)
シャルディナさんは落胆した様子で考えます。
四人の中で自分が一番体重と力があると考えているシャルディナさんは、他の三人ではびくともしないだろうと思っています。
早く次のボタンを押さなければと思っている彼は、後ろにいる三人に目もくれずに一心不乱にボタンを押します。
(このボタンを選んでしまったが…頼む!これで合っててくれ!!)
シャルディナさんは、部屋中無数にある解除装置のひとつを適当に選んでしまったことを後悔していましたが、時既に遅く他の装置に手をかける時間はわすかとなっていました。。
そして残りのボタンもあとわずかとなっていました。
「ふぶきーこれ本当に正解ボタンあるのか?」
「わかんないよ。それよりもあとは床のボタンだけだね」
天井に配置されている大凡1,200個の大の大人でさえも押すのに労力を必要とするボタンを子供達は、すべて押していました。
「おーい。足元気をつけろよ。下手に転ぶと痛いからなー」
田吾作さんは、自分の周りのボタンだけを押して床に座って子供たちが怪我しないかを注意して見ていました。
「大丈夫だよ! それよりふぶき、どっちが多くボタンを押せるか勝負しようぜ?」
「いいよ。勝った方は明日の勇者ごっこの悪者役ね!」
その言葉を合図にふぶき君とつばさ君は、ボタンを足場にジャンプしながら飛び跳ね始めます。
軽やかにジャンプして着地の際に片足でボタンを底まで押し込んでいきます。
「おいおい。シャルディナさんが休んでるんだからあまり五月蝿くするなよー」
二人の子供に注意をかけながら田吾作さんは、シャルディナさんに近づきます。
田吾作さんは、シャルディナさんは背を向けた状態なので勘違いをしていました。
彼が、急に体調を悪くして部屋の隅でしゃがみ込んでいるのだろうと思っているようです。
「いやぁ、本当にすいませんね。それよりも(体調は)大丈夫ですか?」
「ん…? あぁ…気にするな…私の責任だ…もっと早く気づけば…」
「自分たちにも責任ありますからね。あまり無茶はしないでくださいよ」
「あぁ…あと少しだっ!! これがダメなら万事休すだがっ! くそ!!」
「え? そんな(体調が)大変なんですか!? 少し近づ…って…床のボタン邪魔だな…」
田吾作さんは、そこまで体調を悪くしているのかと心配そうな顔をします。
そんな田吾作さんは、せめて少しでも体調が良くなるようにと、シャルディナさんの背中を摩ろうと近づこうとします。その際に床に設置されているボタンが邪魔に感じたようで、全てを足で踏んでいきます。
(あと少し!!頼む!これで止まってくれ!!)
シャルディナさんの押し込んでいるボタンはあと少しで、底まで押し込めます。
そして子供たちは、丁度あと一つのボタンを踏むところです。
……ゴゴ……ッガコン……
天井の壁の動きが止まります。
丁度部屋の半分よりも下の高さでした。シャルディナさんは自分の持てる力を振り絞ったことで、ここまで早く途轍もなく重いボタンを押し込むことができたのです。
「はぁ……はぁ…とまったか…?」
「え? 本当に大丈夫ですか? 発作とかなら無理をなさらずに…」
肩で呼吸しながらも現状確認を行うシャルディナさん。
彼は安堵していました。まさか無数にあるボタンをひとつで当てたことと誰も怪我していないことにです。そして彼は、今まで背を向けていた後ろと天井に目を向けます。ボタン全てが押し込まれた状態になっているのを見て彼は考えます。
(まさかこれが解除ボタンだったなんてな…それに一つ押したら全部押した状態になるなんてな……)
彼は、この罠部屋のボタンの状態を見て思いました。
そしてそれが全く違うということに気づいてません。
元々四人が入った部屋は、絶対に罠の解除が不可能な設計をされていた部屋だったのです。
俗に言う回避解除不可能の死亡部屋です。
大の大人、それも迷宮探索を生業としている者でさえも押し込むのが困難な解除装置。
そして、その解除装置全てを押さないと停止しない罠。その数およそ2,400個。
いくら大人数で迷宮探索をしていようとも、この部屋の罠を解除するのは実質的に不可能であったのです。
そしてこの罠が、迷宮探索に自信がある者が知るところになかった。生きて帰ったものがいないからである。
勿論シャルディナさんはそんな真相を知りません。
彼は、自分の押したボタン一つで罠を解除できたと思っています。
「あれ? もう立って大丈夫ですか? あまり無理はしない方が…」
「いや、私の責任だ。もっと注意をかけなければ死んでいた…」
「???……なんかよく分からないけど…無茶だけはしないでくださいね。無理そうならすぐに言ってください」
「???……あぁ、わかった。ちゃんと三人のことは俺が守る」
相変わらず会話が噛み合っていません。
「ねぇねぇおっちゃん!俺とふぶきどっちがたくさん押してた?」
「僕の方が多かったよね!!そうだよね!」
つばさ君と魔物二体に噛じられているふぶき君が田吾作さんに聞きます。
どうやら数を数えてなかったようです。
「おっちゃんじゃなくてお兄さんな。お前まじで何回言えば分かるの?
あと、俺がそんなの知るわけないだろ? だからこの勝負は無効となりまーす」
「「えぇー!! そんなぁ~」」
そんな事初耳だと田吾作さんは言います。
三人を見て、ひとり笑顔をこぼすシャルディナさん。
(ふ……あんなに安心した顔をして…三人とも死を脱したことに安心しきっているな……それにしても…なんとか三人を守ることができたな…運が良かった…)
ひとり物思いにふけています。
(三人を外に出すまでは、俺がしっかりと守ってやらなくてはな…うん)
彼の勘違いはどこまでも続きます。
……カタン…
罠が完全に停止して数分。
突如となる小さな音。
その音の正体は、部屋の入口とは反対方向に出現した扉から発せられました。
(ん?なんだ…あれは?)
扉の出現に不思議そうな顔をするシャルディナさん。
「あ!? なんか出てきたよ! あれ景品の部屋とかに繋がってるとかじゃないの?」
「そうじゃないか! なんだろう!! 玩具とかがいいな!」
「おいおい。ここはこの施設の倉庫だぞ? 多分職員用通路とかにつながっているんだろう」
未だに迷宮と知らない三人は各々反応を示しています。
どこまでも危機感皆無です。
「三人とも、あの扉は危険だからさっきみたいに無闇に入ったり…っておい!!」
シャルディナさんの言葉虚しく消えてしまい、三人は扉に手をかけていました。
子供たちはとてもわくわくした様子です。扉の先に何かがあると思っているのでしょう。
「あぁ!!もう!!話聞けよ!!」
すでに扉の向こうに行ってしまった三人を追いかけます。
*その四???
「……まじか…」
シャルディナは絶句する。
先ほど三人を追いかけ、罠部屋にあった扉を抜けると、そこには広大な部屋が広がっていたからだ。
そしてその部屋には無数の魔物が所狭しに犇めき合っていた。多数の魔物は戦い合ったりもせず、この部屋に来る探索者を待っているようだ。高さ10mはある部屋の天井にまで無数の魔物がぶら下がっており、奥にいる魔物は天井に達する程に巨大であった。シャルディナでさえ見たことがない凶悪な姿をした魔物までいる。 その数ゆうに2000は超えるだろう魔物。
彼は、素早く剣を抜き、三人の前に躍り出ようとする。
三人を守ると決意していたからだ。
「くそ!!お前たち!俺の後ろに下がれ!!」
多数の魔物がいる限られた空間では、三人は数秒も持たない内に細切れの肉片になってしまう。
三人の前に立ち、無数の魔物に剣を構えるシャルディナ。
魔物たちも四人に気づいたようで視線を向ける。
(これは…死んだな…まさかこんな部屋があるなんてな…)
シャルディナは笑っていた。その笑みが何を意味するのかは分からない。
「「ガアアアアッ!!」」「「 グルゥァアアア!!」」
無数の魔物が咆哮をあげる。
それは餌が来たことへの咆哮か、それとも新たな人間の挑戦者が来たことへの喜びの叫びか。
大凡2000を越える魔物の叫び声が部屋に反響する。
(ああ、やってやるよ!三人を守りながら戦ってやる!!)
シャルディナは、勝ち目の無い防衛戦を行おうとしていた。
覚悟と一抹の不満の思いが交錯する中、シャルディナの耳に三人の会話が聞こえた。
彼が守ろうと決めた三人の力なき者たちの声である。
「おお!!ここがさくや姉ちゃんの言ってた触れ合い広場ってやつか!!」
「すげぇ!!たくさん動物たちがいるよ!!」
「お前たち、ここの動物たちは少し乱暴だから気をつけろよ?
余りにも騒いでいる魔物がいたらな、叱ったり拳骨したりして少し躾をつけてやるといいぞ。それがここの職員さんのためになるって村長が言ってたからな」
「「はーい!!」」
「それじゃあ、久しぶりに俺もたっぷり触れ合って遊ぶかな。
あっ…シャルディナさんもどうです?」
その言葉が意味することをシャルディナは理解できなかった。何を言っている、何を血迷ったのかと。
そして、笑顔で指を鳴らしながら三人は彼の前に躍り出る。
三人の眼前には無数の魔物。三人の後ろにはシャルディナがいた。
シャルディナは思った。
三人の後ろ姿を見て思った。
三人の後ろ姿は、迷宮にはとても似つかわしくなく、どこまでも楽しもうとする姿であった。
*その四 モンスターハウス
曰く、教育的指導及び躾と言う名の動物との触れ合いが始まる。
昔遊んだ遊具を出そうと思ったのですが、あまりに長編になったので割合しました。幼い頃に遊んだ思い出の遊具は活動報告に書いてあります。
次回、シリアス皆無な無双です。




