【第九章 22歳の純資産10億円(ビリオネア)到達!工場円満退職と師匠・源蔵の最後の試練編】
冬のボーナス天引きと暖房費破産に泣く社畜、そして買収提示額「2億円」を「3.5億円」へ吊り上げるM&A交渉術
十二月十日、水曜日。
日本全国のサラリーマンが待ち侘びた「冬のボーナス支給日」。
日本海側から吹き降ろす本格的なシベリア寒気団によって、工場のスレート屋根からは鋭いつららが何本も垂れ下がり、屋外の荷積みパレットにはうっすらと粉雪が積もっていた。
外気温はわずか二度。フォークリフトが吐き出す白い排ガスと、工員たちの荒い呼気が冷気に混ざり合い、暖房設備のない第一工場のコンクリート床は、足の裏から芯まで凍りつくような冷気で満たされていた。
だが、正午のサイレンが鳴り響いた社員食堂の空気は、猛吹雪の寒風すら一瞬で蒸発させるほどの、生々しい阿鼻叫喚と怨嗟の絶叫に包まれていた。
「……ぎゃあぁぁぁっ! ボーナス支給日! 俺の半年間の夜勤と残業の結晶が……口座の残高、マジで【一万九千八百円】しか残ってねえぇぇぇっ……!!」
ガシャアァンッ! とけたたましい金属音を立ててパイプ椅子を派手に蹴倒し、床に突っ伏して頭板を両手でバンバンと激しく叩きつけていたのは、同期の山岸だった。
毛玉だらけの安物フリースの両肘には無残な穴が空き、目の下に張り付いた三重の隈を真っ赤に充血した両目で痙攣させている。
手元のテーブルには、前日にスーパーの見切り品ワゴンで買ったという、冷え切ってカチコチに固まった三十円のうどん玉が、醤油だけを垂らされて虚しく転がっていた。
「おい山岸、床で跳ね回るな。埃が舞って味噌煮込みうどんに入るだろ」
俺――倉科湊が、保温ランチジャーから熱々の豚汁と、母が持たせてくれた若鶏と根菜の黒酢あんかけ弁当を取り出しながら声をかけると、山岸は涙と鼻水を撒き散らし、狂気じみた形相で床を這いずりながら俺の作業着の裾へすがりついてきた。
「冷たいうどん玉に埃が入ったって構うかよ倉科ぁぁぁっ!
見ろよこの地獄の引き落とし履歴!
額面基本給一ヶ月分【二十万円】支給されたのに……所得税、住民税、厚生年金、雇用保険で容赦なく五万五千円引かれて手取り【十四万五千円】!
そこから、先月買ったスタッドレスタイヤ代【三万八千円】がボーナス一括で即日引き落とされ!
春と夏の滞納分の自動車税延滞金【二万三千円】が一括徴収され!
暖房器具とコートのリボ払い返済で【四万円】消え去り!
さらに先月の年末調整の追徴課税【四千円】と、忘年会費【八千円】の現金集金を取られたら……
手元に残った冬のボーナスの現金……【一万九千八百円】だぞ!?
半年間、油と段ボールにまみれて手に入れた自由な金が、二万円以下……!
これから一月と二月の猛烈な寒波が来るのに、灯油すら二缶しか買えねえ!
クリスマスも正月も、凍え死ぬのを待つだけじゃねえかぁぁぁっ!!」
周囲のベテラン工員たちも、手元の明細を苦々しい顔で見つめながら「冬のボーナスなんて住宅ローンと固定資産税の引き落としで一瞬で消えるよな」「車検とタイヤで完全に赤字だよ」「子供のクリスマスプレゼント代も出ないな」と、力なくため息をついて安売りのカップ麺をすすっている。
機械油と紙埃の匂いが立ち込めるこの食堂で、四年もの間、俺は毎日この光景を見つめ続けてきた。
時給労働という名の檻に閉じ込められ、どれだけ真面目に汗を流しても、インフレと税制のルールによって手元から富を吸い尽くされていく大衆のリアル。
俺自身、この現場を「時給労働の限界を絶対に忘れないためのペースメーカー」として利用し続けてきたからこそ、資本主義の冷徹な構造が骨の髄まで理解できる。
俺は小さく息を吐き出し、水筒の温かいほうじ茶を一口喉へと流し込んだ。
「山岸。中学生でもわかる、ボーナス依存型家計の破綻と負債先食いの算数をしよう」
「算数なんか聞きたくねえ! 俺の半年間の労働を買い取れ!」
「買い取るわけがない。
日本のサラリーマンが最も陥りやすい致命的な罠が、『ボーナスをアテにした支出の前借り(ボーナス一括払い・リボ払い)』だ。
まだ手元に入ってもいない不確定な未来の現金を担保に、タイヤや家電、税金の支払いを先送りすれば、支給日に一瞬で自動回収されてキャッシュが枯渇するのは当然の結末だ。
毎月の基本給の範囲内で生活コストをコントロールできず、年に二回のボーナスという名の『緊急輸血』に依存している人間は、一生資本の奴隷として自転車操業を続けるしかないんだよ」
「ぎゃあぁぁぁっ! 緊急輸血って生々しい例えをするなよぉぉぉっ!!」
耳を塞いで食堂の隅へと逃げ出していく山岸。
だが次の瞬間、山岸は震える指でスマホを取り出し、自暴自棄に画面をスクロールするやいなや――その血走った目をカッと見開き、狂喜の笑みを浮かべて奇声を上げた。
「……ぎゃははははっ! おい見ろよ倉科ぁぁぁっ!
東京の大学四年組の同級生エリートども、完全に息の根が止まりかけてるぜぇぇぇっ!!」
「同級生がどうした?」
「ざまぁみろだぜ! 本物の地獄絵図が炸裂してやがる!
卒論の提出が今週末なのに、遊び呆けてたせいで半分も書けてない奴が教授に締め出されて留年危機だ!
おまけに、北関東の物流倉庫や地方営業に配属が決まった連中が、地方での一人暮らし用のアパート敷金礼金や家具家電の初期費用で『今すぐ百万円必要』ってなって、学生ローンや消費者金融に手を出してパニック起こしてんだよ!
でも学生時代のクレカ延滞のせいで『信用ブラックで融資不可』の門前払い!
大学のグループLINEで『金がねえ!住む家がねえ!誰か十万貸してくれ!』って発狂してタイムラインが完全に阿鼻叫喚の焦土と化してやがるんだ!
高卒の俺たちを見下してシャンパングラス掲げてたエリート大学生どもが、入社前からホームレス寸前の多重債務者だぜ!?
ざまぁみろぉぉぉっ!
あいつらの断末魔を聞くためだけに、俺はこの凍える工場で生きてるんだよぉぉぉっ!!」
他人の転落を唯一の心の暖炉にして、狂気じみた雄叫びを上げる山岸。
だが、その山岸自身も、残金一万九千八百円のボーナスと冬の寒波に怯えて震えているのだ。
(山岸、お前には見えていないんだよ。
東京の内定者どもが新生活の初期費用に絶望し、お前が二万円のボーナスに泣いている横で……
目の前にいるライン工が、今夜どんな【ビリオネアへの扉を開く巨額ディール】を仕掛けようとしているのかがな)
前章(第85話)終了時点で、俺たちの確定純資産は【8億5,000万円】に到達。
そして今夜――九条源蔵との約束である「純資産十億円」を達成するための最終兵器、子会社の【大型M&A売却(株式譲渡)交渉】の火蓋が切って落とされる。
「定時で上がるぞ。今夜、買収額を極限まで吊り上げる」
午後十七時零二分、定時退社。
タイムカードをパチンと切った俺は、雪の舞い散る冷たい夕暮れの風を切り裂き、地方都市の駅前に構えたミナト・ホールディングスのオフィスへと自転車を疾走させた。
◇ ◇ ◇
午後十七時三十分、合同会社ミナト・ホールディングスのオフィス。
ダイキンの最新エアコンが静かに二十四度の快適な室温を保ち、ディフューザーからはペパーミントとベルガモット、そして上品な白檀と完熟蜜柑の温かなアロマがふわりと漂っていた。
「湊くん……! お帰りなさい!」
扉を開けると、そこには白石詩織が待っていた。
淡いスノーホワイトの上質なカシミヤ混ハイネックニットに、清楚なチェリーレッドのロングタータンチェックスカート。
ショコラブラックの豊かな髪を首元ですっきりとハーフアップにまとめ、黒縁メガネを外した大きな茶褐色の瞳が、夕陽を浴びてキラキラと輝いている。
株式会社スタジオ・シオリの代表取締役としても誰もが息を呑むような大人の気品と透明感を放っていた。
部屋に入った瞬間にふわりと広がる甘い石鹸と果実のアロマに、俺の心拍計がピクリと跳ね上がる。
デスクの上には、最新のM4搭載iPad Proと、湯気を立てる特製の耐熱グラスが用意されていた。
「白石、待たせたな」
「ううん、全然待ってないよ! 湊くん、雪が降る中の工場のライン作業お疲れ様……!
これ、外はすっごく凍えそうなくらい寒かったでしょ? 買収したハーブ園の無農薬シナモンと、愛媛県産の初摘み完熟紅まどんなをじっくり煮詰めた『特製ホットハニーシトラスシナモンティー』だよ! 温かいうちに飲んでね!」
「サンキュー、白石。生き返るよ」
グラスを受け取り、一口喉へと流し込む。
紅まどんなのとろけるような極上の甘酸っぱさと、シナモンのスパイシーな香り、そして蜂蜜の上品なコクが、冷え切った身体の芯までじんわりと温めていく。
めちゃくちゃうまい。
だが、俺は彼女の華奢な指先に、大手コングロマリット向けM&Aデューデリジェンス用ブランド資産資料の集中監修による微かな強張りがあるのを見逃さなかった。
(……いかんな。また俺の経営者センサーが過敏に作動している)
俺はデスクの引き出しから、あらかじめ用意しておいた重厚な桐箱をスッと取り出し、詩織の前に差し出した。
銀座の老舗名門サロンが完全予約制で仕立てた『最高級・完熟紅まどんなとフランス産発酵バターの極上冬色ショコラミルフィーユパフェテリーヌ』と、高密度ナノグラフェン温熱と超音波ナノミスト温冷機能で指先から手根管までを深層ケアする最新型コードレスメディカルハンドエステ機だ。
「ほら、白石。これを受け取れ」
「えっ……!? これ、まるでゼリーみたいにプルプルの大きな紅まどんなが何層にも重なったミルフィーユ……! それに、最新のエステ機……!?
湊くん、私がお茶を出しただけなのに、どうしていつもこんなに高価なものをくれるの……?」
「勘違いするなよ」
俺は腕を組み、冷徹な仮面を必死に張り直して早口でまくしたてた。
「中学生でもわかる組織財務と巨額M&A最終デューデリジェンス突入に伴う人的資本BCP防衛の講義だ。
純資産八億五千万円を突破した我が企業グループの最高アートディレクター(お前)が、初冬の急激な気温低下によって浅指屈筋および手根管周辺の柔軟性を低下させ、これから執行される東証プライム買い手企業向けブランド知財評価インフォグラフィックの最終ベクター検収を〇・四秒遅延させた場合、買収価格交渉における企業価値プレミアムの減額リスクに伴う機会損失は【試算で最低でも一億五千万円】に跳ね上がる!
紅まどんなの高濃度βクリプトキサンチンとビタミンCによる免疫賦活および活性酸素除去、ならびにグラフェン温熱による指先の微細神経機能維持は、グループ中核クリエイターの【中長期的アジリティを担保するための戦略的初冬BCP防衛および役員福利厚生投資経費】だ!
お前への甘やかしなどではない!
今夜生み出される何億円ものM&A売却プレミアム純利益から逆算すれば、このミルフィーユ代などROI(投資対効果)は【実に十九億%】を超える!
極めて合理的でドライな財務上の防衛支出だから、一ミリも遠慮せず胃袋に収めて手を突っ込め」
息をつかずに言い切った俺の、世界一長くて過保護な言い訳。
詩織は桐箱を胸にぎゅっと抱きしめ、目をパチクリさせて聞いていたが――やがて、その桃色の唇をふにゃりと綻ばせ、クスクスと愛おしそうに笑った。
「ふふっ……あはは! 企業価値プレミアム……? ROIがじゅうきゅうおくパーセント……?
湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一甘くて幸せだよ!」
「な、何がおかしい。純粋な企業防衛だぞ」
「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『防衛経費』で美味しく手をポカポカにして、十九億パーセントのお返しができる世界一可愛いデザインを描き続けるね!
……あ、湊くん! ミルフィーユ、紅まどんなが果汁ジュワッでパイがサクサクだよ! はい、あーん!」
フォークにサクサクのパイ生地と濃厚なカスタードショコラ、そしてプルプルの紅まどんなの果肉をたっぷり乗せ、夕陽に照らされた満面の笑顔で差し出してくる詩織。
至近距離から漂う甘美な柑橘のアロマと香ばしいバターの香り、彼女自身の透き通るような白い肌、潤んだ茶褐色の瞳。
「お、おい……自分で食える……」
「ダメー! 第9章開幕の景気づけなんだから! ほら、あーん!」
観念して口を開けると、サクッとした極上のパイの食感とともに、紅まどんなの濃厚でジューシーな果汁が口いっぱいに弾け飛んだ。
めちゃくちゃうまい。
そして――心拍数が異常なスピードで跳ね上がり、俺の脳内プロセッサが完全に一時停止しかける。
(……ダメだ。この女の『あーん』の破壊力は、資本主義のどんな強固なセキュリティをも一瞬で溶かしてしまう……)
「ふふっ、美味しい? 湊社長!」
「……ああ、最高だ。……よし白石、本題に入るぞ」
◇ ◇ ◇
「白石、今から中学生でもわかる、資本家のメガディール――【買収提示額2億円を3.5億円へ跳ね上げるM&A交渉術とシナジー試算】の算数をしよう」
俺はノートPCを開き、ホワイトボードの前に立った。
「東証プライム大手の総合ヘルスケアコングロマリットから、俺たちの傘下子会社である『株式会社シオリ・コスメティクス(D2Cハーブ&サプリ事業)』に対する買収提案が正式に届いた。
先方の当初の提示買収額は――【2億円】だ」
「に、に億円……!」
詩織が息を呑んだ。
「そうだ。世間の凡人は『2億円も貰えるなら即サインだ!』と飛びつくだろう。
だが、資本家の売却交渉はそこからが本番だ。
相手がなぜ2億円を出そうとしているのか?
それは、相手の持っている『全国三千店舗のドラッグストア販路』に、俺たちの開発したオーガニックハーブサプリを流し込むだけで、買い手側は初年度から【年間5億円以上の莫大な営業利益】を手に入れられるからだ!」
俺はホワイトボードに、M&Aのシナジー試算表を描き殴った。
【M&Aシナジー試算&オークション価格吊り上げ戦略】
①【スタンドアローン価値(単体評価)】:
・現在のシオリ・コスメティクスの年間純利益:約4,000万円。
・中小企業の標準的な企業価値評価(EBITDA × 4〜5倍)=約2億円(先方の初期提示額)。
②【シナジー価値(買い手にとっての将来利益)】:
・買い手(東証プライム)の全国ドラッグストア棚へ一斉展開。
・初年度予想売上:15億円、予想営業利益:【+5億2,000万円】。
③【オークション競合(当て馬)の投入】:
・別のメガ流通グループB社(以前から提携打診あり)に対しても秘密裏に売却意向を打診。
・「他社からも2億5千万円での意向表明が届いている。御社のドラッグストア網とのシナジーを考慮すれば、最低でも【3億5,000万円】が適正なディール価格である」と試算表を突きつけて逆提案!
「……えぇっ!? 買い手さんの将来の儲けを計算して、相手に『もっと高く買え』って言っちゃうの……!?」
詩織が大きな瞳を見開いた。
「そうだ!
M&Aにおける価格とは、過去の実績ではなく【買い手が手に入れる未来のキャッシュフローの分け前】で決まるんだ!
本日午後十五時、買い手企業のM&A投資委員会から正式な回答が届いた」
カタカタ、ターンッ!
俺はエンターキーを叩き、先方の社長印が押された【修正意向表明書(LOI)】を大画面に映し出した。
【修正基本合意書(LOI)抜粋】
・対象会社:株式会社シオリ・コスメティクス
・確定買収提示価格:【3億5,000万円(350,000,000円)】
・買収形態:全株式取得(湊持株70%、詩織持株30%)
・独占交渉権付与期間:来年一月末日まで(年明け一括クロージング予定)
「……さ、さんおくごせんまんえん……!? 一億五千万円も上がっちゃったよぉぉぉっ!!」
詩織の息が完全に止まった。
両手で口を押さえ、目を丸くして画面を凝視している。
「そうだ!
俺たちの提示したシナジー試算の論理性にぐうの音も出ず、他社に奪われるのを恐れた買い手は、満額の【3億5,000万円】でサインしてきた!
年明け一月、デューデリジェンス(財務精査)を経て、この3億5千万円が一括で俺たちの個人口座へ着金する!
俺の持株七割には【2億4,500万円】、そして白石、お前の持株三割には【1億500万円】のキャッシュが入る!」
「きゃぁぁぁっ! 私に……私に一億円が入ってくるの……!?」
「そうだ! 次話で株式譲渡(税率20.315%)の手続きを経て、お前は名実ともに【純資産1億円の富裕層】へ到達する!
そして俺の純資産は――悲願の【10億円】を完全突破するんだ!」
「すごすぎるよ湊くん……! 頭脳だけで一撃で一億五千万円も引き上げちゃうなんて……湊くんはやっぱり世界一の天才経営者だよぉぉぉっ!!」
詩織は歓喜の声を上げ、勢いよく俺の胸元へと飛び込んできた。
至近距離で弾む少女の息遣いと、柔らかなカシミヤニットの温もり。
俺の心拍計が激しく跳ね上がり、脳内プロセッサが心地よい熱を帯びる。
「今夜は冬のボーナス商戦、老舗温泉旅館『翠月亭』の冬休みインバウンド完売純利益、花咲庵のお歳暮ギフト、そしてSaaSの月割ARRが全方位から合流した確定データだ!」
俺は資産管理スプレッドシートの統合確定ボタンをクリックした。
【合同会社ミナト・ホールディングス グループ連結資産集計(12月10日時点)】
・前回までの確定総純資産:850,000,000円
・老舗旅館『翠月亭』冬の雪見温泉確定純利益:+21,200,000円
・古民家茶房『花咲庵』お歳暮特需純利益:+8,800,000円
・BtoBエンタープライズ+大学包括SaaS月割純利益:+26,200,000円
・個人向け就活SaaS+メディア連合純利益:+27,100,000円
・月額アカデミー(MRR 760名分純利益):+7,600,000円
・コア資産運用配当&米国債利息:+1,520,000円
・東証プライム主要株主配当金(月割り分):+1,800,000円
・法人税・消費税追加納税引当プール金:▲73,220,000円
★ 確定総純資産残高(純資産ベース):【871,000,000円(祝・純資産8億7,100万円突破!)】
★ グループ運用総資産規模(バランスシート総額):【17億2,000万円】
★ グループ月間経常純キャッシュフロー:【+1億5,200万円(月利1億5,200万超え!)】
※上記に『シオリ・コスメティクス株式売却確定分(+3.5億円)』は未合算(来月着金予定)
「……は、はちおく……ななせんはちじゅうまんえん……!! そして来月にはさらに三億五千万円が入ってくるんだね……!」
詩織は俺の胸に顔を埋めたまま、嬉し涙で服を濡らしながら抱きしめてきた。
俺はそっと手を回し、彼女の柔らかな髪を優しく撫でた。
「白石、お前が育ててくれたブランドの美しさと信用があったからこそ、この満額回答を引き出せた。最高のパートナーだよ、白石」
「湊くん……っ!」
夕暮れのオフィスに、二人だけの温かく甘い至福の時間が静かに流れていた。
◇ ◇ ◇
午後二十一時、地方都市の小高い丘の上に建つ、九条源蔵の屋敷。
欅の一枚板テーブルの前で、俺が提示した修正意向表明書(買収額3億5千万円)と『871,000,000円』の資産管理シートを見つめていた源蔵が、ふっと老眼鏡を外した。
そして――。
「……カッカッカッ!! ワッハッハッハッ!!」
屋敷の太い梁をビリビリと震わせるほどの、豪快な大爆笑が冬の夜空に轟いた。
源蔵の顔色には微かに病の影が差し、机の脇には処方薬の瓶が置かれていたが、そのぎょろりとした眼光には、若き猛獣のような獰猛な覇気が爛々と宿っていた。
源蔵はバシバシと欅の一枚板テーブルを叩き、テーブルを揺らした。
「相手の足元を見てシナジーを叩きつけ、二億を三億五千万へ吊り上げやがったか!
ワッハッハッハッ! 痛快だ湊!
ボーナス二万円に泣く山岸や、新生活の借金に震える大卒どもを尻目に、机の上の紙切れ一枚の交渉で一撃一億五千万を毟り取る……
ケッ、完全に本物のメガマフィアのディールじゃねえか!」
「ええ。独占交渉権も結び、来月一月のクロージングで全額一括着金します。
来月、俺の誕生日に、純資産は十億円の壁を完全に蹴破ります」
「ケッ! ビリオネア(十億円ホルダー)誕生か! 工場の初任給の千年以上分を毎月叩き出す怪物が、いよいよ十桁の神の領域へ登りつめるんだな!」
源蔵は乾いた咳を一つ落とし、それから眼鏡を机に置くと、獲物を仕留める直前の猛獣のような鋭い眼光で俺をじっと見据えた。
「いいか湊。商売で一番愚かなのは、相手の提示した金額に無邪気に飛びつく奴だ。
事業の値段なんざ、原価や過去の売上なんぞで決まりゃしねえ。
『相手がその事業を使ってどれだけ貪欲に儲けようとしているか』……その相手の欲望の大きさを冷徹に逆算し、相手の喉元に値札を突きつけられる奴だけが、資本の真の支配者になるんだよ!」
「はい、じいさん!」
俺の力強い返答が、冬の静寂を切り裂いた。
屋敷を出ると、夜空には雪雲の切れ間から冴え冴えとした星が瞬いていた。
冬のボーナス数万円に泣く現場と、卒業を前に借金に怯える同級生たち。
彼らが囚われている労働と消費の檻の外側で、俺の目の前には、かつて誰も足を踏み入れたことのない十桁の荒野が広がっていた。
【現在の倉科湊ステータス】
・肩書:食品工場ライン工・合同会社ミナト・ホールディングス 代表社員(第9章開幕・3.5億円M&A基本合意締結!)
・総資産残高:871,000,000円(前話比:+21,000,000円 ※冬休み温泉予約+お歳暮特需+SaaS ※M&A売却分未合算)
・グループ運用総資産:1,720,000,000円(バランスシート17億円突破!)
・月間不労/事業キャッシュフロー:+152,000,000円(グループ連結月間純利益・過去最高益更新!)
・【今日の源蔵のマネー格言】:「提示された買収額に無邪気に飛びつく奴は、生涯買い手の掌の上で転がされる小作人だ。相手が手に入れる将来の利益を逆算し、相手の欲望そのものに値札をつけられる奴だけが、資本の真の支配者になる」
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