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『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


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85/88

EP 10

第8章クライマックス「純資産8億5,000万円到達!師匠の異変と、10億円(ビリオネア)への最終ディール始動」

 十一月三十日、金曜日。

 晩秋から初冬へと季節が移り変わる地方都市の空には、鉛色の雪雲が低く垂れ込め、工場のトタン壁を乾いた寒風がガタガタと激しく揺らしていた。

 だが、正午のサイレンが鳴り響いた三晃紙器工業の第一工場・社員食堂の空気は、底冷えの寒さすら焼き尽くすような、ドロドロとした怨嗟と悲壮感に包まれていた。

「……ぎゃあぁぁぁっ! あと十日! あと十日で冬のボーナス支給日なのに……俺の手取り、本当に二万円しか残らねえ計算になっちまったぁぁぁっ……!!」

 パイプ椅子から転げ落ち、電卓アプリを表示したスマホを床に叩きつけそうになりながら絶叫していたのは、同期採用四年目の山岸だった。

 今年で二十一歳になった山岸だが、毛玉だらけの安物フリースの両肘には穴が空き、目の下の三重の隈はどす黒く変色している。

 手元のテーブルには、前日の夜に自炊したという、具のない塩むすびが二個、冷え切ってカチコチに固まっていた。

「おい山岸、床で喚くな。埃が舞って豚汁に入るだろ」

 俺――倉科湊が、保温ランチジャーから熱々の豚汁と、母が持たせてくれた若鶏の治部煮と丹波の黒豆ご飯弁当を取り出しながら声をかけると、山岸は鬼気迫る形相で俺の作業着の裾へすがりついてきた。

「冷たいおにぎりに埃が入ったって構うかよ倉科ぁぁぁっ!

 先週、車のスタッドレスタイヤ代【三万八千円】を泣く泣くボーナス一括払いで切っただろ!?

 そこへ持ってきて、夏のボーナスで払いきれなかった自動車税の残債と延滞金、リボ払いの月々返済、職場の忘年会費八千円、さらに先日の年末調整で宣告された追徴課税四千円の強制天引き……!

 十二月十日に支給される額面二十万円の冬のボーナスから、税金・社保とこれらを全部差し引いたら……

 口座に残る現金、マジで【一万九千八百円】だぞ!?

 半年間、油と紙埃にまみれて夜勤まで耐え抜いて手に入るボーナスが、二万円以下……!

 クリスマスも正月も、この二万円でどうやって越せばいいんだよぉぉぉっ!!」

 周囲のベテラン工員たちも、手元の給与明細を睨みつけながら「冬のボーナスなんて住宅ローンと固定資産税の引き落としで一日で蒸発するよ」「うちなんて子供の冬期講習代で消えてマイナスだよ」「寒波で電気代も上がるし、本当に息が詰まるな」と、死んだ魚の目で冷めた茶をすすっている。

 俺は小さく息を吐き出し、温かいほうじ茶を一口喉へと流し込んだ。

「山岸。中学生でもわかる、ボーナス依存型家計の破綻と負債先食いの算数をしよう」

「算数なんか聞きたくねえ! 俺の半年間の労働を買い取れ!」

「買い取るわけがない。

 日本のサラリーマンが最も陥りやすい罠が、『ボーナスをアテにした支出の前借り(ボーナス一括払い・リボ払い)』だ。

 まだ手元に入ってもいない不確定な未来の現金を担保に、タイヤや家電、税金の支払いを先送りすれば、支給日に一瞬で回収されてキャッシュが枯渇するのは当然の結末だ。

 毎月の基本給の範囲内で生活コストをコントロールできず、年に二回のボーナスという名の『緊急輸血』に依存している人間は、一生資本の奴隷として自転車操業を続けるしかないんだよ」

「ぎゃあぁぁぁっ! 緊急輸血って生々しい例えをするなよぉぉぉっ!!」

 耳を塞いで食堂の隅へと転がり込んでいく山岸。

 山岸は震える指でスマホを取り出し、自暴自棄に画面をスクロールした。

「……あ、そういや倉科! 東京の大学四年組の同級生エリートどもだけどさ……!

 来春からの『新生活の準備』で、いま全員が地獄の金欠パニックに陥ってるらしいぜ……!!」

「同級生がどうした?」

「ざまぁみろだぜ! 現実の壁に激突してやがる!

 卒業旅行でヨーロッパ旅行の積立をした上に、北関東の倉庫や地方飛び込み営業への配属が決まった連中……

 地方での一人暮らし用のアパート敷金・礼金・家具家電・中古車購入で【一人あたり百万円近くの初期費用】が今すぐ必要になったらしいんだ!

 でも大学四年間で奨学金もバイト代も遊び倒して使い切っちまったから、貯金なんてゼロ!

 親に『百万円貸してくれ』って頼み込んで門前払いされ、消費者金融や学生ローンに手を出して利息十五%の借金地獄に片足を突っ込んでるやつまで出てるってよ!

 『初任給手取り十九万なのに、毎月奨学金と生活準備ローンの返済で三万消える…どうやって生活すりゃいいんだ…』って、大学のグループLINEで完全に発狂してタイムラインが阿鼻叫喚だぜ!

 高卒の俺たちを見下してシャンパングラス掲げてたエリート大学生どもが、入社する前から借金漬けの社畜予備軍に転落してんだよ!

 これを見届けるためだけに、俺は工場で生きてるんだよぉぉぉっ!!」

 他人の借金苦を唯一の心の暖炉にして、自分の極貧をごまかそうとする山岸。

 だが、その山岸自身も、残高二万円のボーナスと冬の寒波に怯えて震えているのだ。

(山岸、お前には見えていないんだよ。

 東京の内定者どもが入社前の一人暮らし費用と借金返済に怯え、お前が冬のボーナス二万円に泣いている横で……

 目の前にいる高卒四年目のライン工が、今夜どんな【ビリオネアへの最終扉】に手をかけようとしているのかがな)

 同級生たちが大学を卒業し、社会に出て自らの市場価値の低さに絶望するまでの、残り百二十日。

 前話(第84話)で、第2期連結本決算を盤石の防壁で乗り越え、確定総純資産は【8億4,100万円】を突破。

 バランスシート総額は十六億五千万円を超えている。

 そして十一月末日――ブラックフライデー本番の莫大な決済確定データと、大手企業連合からの月額ライセンス収益が合流し、第8章の最終到達点へ向けて数字が跳ね上がる。

「定時で上がるぞ。今夜、俺たちの城は新たな歴史を刻む」

 午後十七時零二分、定時退社。

 タイムカードをパチンと切った俺は、冷たい初冬の風を切り裂き、地方都市の駅前に構えたミナト・ホールディングスのオフィスへと自転車を疾走させた。

 ◇ ◇ ◇

 午後十七時三十分、合同会社ミナト・ホールディングスのオフィス。

 ダイキンの最新エアコンが静かに二十四度の快適な室温を保ち、ディフューザーからはペパーミントとベルガモット、そして上品な白檀と完熟洋梨の甘やかなアロマがふわりと漂っていた。

「湊くん……! お帰りなさい!」

 扉を開けると、そこには白石詩織が待っていた。

 淡いスノーラベンダーの上質なカシミヤ混ハイネックニットに、清楚なオフホワイトのロングキルティングスカート。

 ショコラブラックの豊かな髪を首元ですっきりとハーフアップにまとめ、黒縁メガネを外した大きな茶褐色の瞳が、夕陽を浴びてキラキラと輝いている。

 二十一歳の洗練された美しさと大人の気品を漂わせ、株式会社スタジオ・シオリの代表取締役としても誰もが息を呑むようなオーラを放っていた。

 部屋に入った瞬間にふわりと広がる甘い石鹸と果実のアロマに、俺の心拍計がピクリと跳ね上がる。

 デスクの上には、最新のM4搭載iPad Proと、湯気を立てる特製の耐熱グラスが用意されていた。

「白石、待たせたな」

「ううん、全然待ってないよ! 湊くん、冷たい風の中の工場のライン作業お疲れ様……!

 これ、外はすっごく凍えそうなくらい寒かったでしょ? 買収したハーブ園の無農薬エルダーフラワーと、山形県産の初摘み完熟ラ・フランスをじっくり煮詰めた『特製ホットリッチペアーハニーカモミールティー』だよ! 温かいうちに飲んでね!」

「サンキュー、白石。生き返るよ」

 グラスを受け取り、一口喉へと流し込む。

 ラ・フランスのとろけるような芳醇な甘みと、カモミールの華やかな香り、そして蜂蜜の上品なコクが、冷えた身体の芯までじんわりと温めていく。

 めちゃくちゃうまい。

 だが、俺は彼女の華奢な指先に、ブラックフライデー本番の全アセット決済ログおよびグループ統合ダッシュボードの集中UI監修による微かな強張りがあるのを見逃さなかった。

(……いかんな。また俺の経営者センサーが過敏に作動している)

 俺はデスクの引き出しから、あらかじめ用意しておいた重厚な桐箱をスッと取り出し、詩織の前に差し出した。

 銀座の老舗名門サロンが完全予約制で仕立てた『最高級・完熟ル・レクチェと宇治濃茶の極上初冬ジュエルショコラパフェテリーヌ』と、高密度ナノグラフェン温熱と超音波ナノミスト温冷機能で指先から手根管までを深層ケアする最新型コードレスメディカルハンドエステ機だ。

「ほら、白石。これを受け取れ」

「えっ……!? これ、洋梨がキラキラ輝いて濃いお抹茶と二層になってるテリーヌ……! それに、最新のエステ機……!?

 湊くん、私がお茶を出しただけなのに、どうしていつもこんなに高価なものをくれるの……?」

「勘違いするなよ」

 俺は腕を組み、冷徹な仮面を必死に張り直して早口でまくしたてた。

「中学生でもわかる組織財務と第8章クライマックス到達に伴う人的資本BCP防衛の講義だ。

 純資産八億四千万円を突破した我がグループの最高アートディレクター(お前)が、初冬の急激な気温低下によって浅指屈筋および手根管周辺の柔軟性を低下させ、これから即時執行される全グループ統合月次決算の最終ベクター検収を〇・四秒遅延させた場合、次なる大型M&A戦略への意思決定遅延に伴う事業機会損失は【試算で最低でも月額一億四千万円】に跳ね上がる!

 ル・レクチェの高濃度カリウムと宇治抹茶のカテキンによる疲労物質の急速キレート排出、ならびにグラフェン温熱による指先の微細神経機能維持は、グループ中核クリエイターの【中長期的アジリティを担保するための戦略的初冬BCP防衛および役員福利厚生投資経費】だ!

 お前への甘やかしなどではない!

 今夜生み出される何億円もの超富裕層純利益から逆算すれば、このテリーヌ代などROI(投資対効果)は【実に十八億%】を超える!

 極めて合理的でドライな財務上の防衛支出だから、一ミリも遠慮せず胃袋に収めて手を突っ込め」

 息をつかずに言い切った俺の、世界一長くて過保護な言い訳。

 詩織は桐箱を胸にぎゅっと抱きしめ、目をパチクリさせて聞いていたが――やがて、その桃色の唇をふにゃりと綻ばせ、クスクスと愛おしそうに笑った。

「ふふっ……あはは! 次なる大型M&A……? ROIがじゅうはちおくパーセント……?

 湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一甘くて幸せだよ!」

「な、何がおかしい。純粋な企業防衛だぞ」

「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『防衛経費』で美味しく手をポカポカにして、十八億パーセントのお返しができる世界一可愛いデザインを描き続けるね!

 ……あ、湊くん! テリーヌ、洋梨がとろっとろでお抹茶がすっごく香ばしいよ! はい、あーん!」

 フォークに濃厚な抹茶テリーヌと、みずみずしいル・レクチェの果肉をたっぷり乗せ、夕陽に照らされた満面の笑顔で差し出してくる詩織。

 至近距離から漂う甘美な果実のアロマ、彼女自身の透き通るような白い肌、潤んだ茶褐色の瞳。

「お、おい……自分で食える……」

「ダメー! 第8章最終回の景気づけなんだから! ほら、あーん!」

 観念して口を開けると、濃厚でほろ苦い抹茶の深いコクと、とろけるような洋梨の芳醇な果汁が口いっぱいに広がった。

 めちゃくちゃうまい。

 そして――心拍数が異常なスピードで跳ね上がり、俺の脳内プロセッサが完全に一時停止しかける。

(……ダメだ。この女の『あーん』の破壊力は、資本主義のどんな強固なセキュリティをも一瞬で溶かしてしまう……)

「ふふっ、美味しい? 湊社長!」

「……ああ、最高だ。……よし白石、本題に入るぞ」

 ◇ ◇ ◇

「白石、今から中学生でもわかる、第8章の集大成――【ブラックフライデー本番決済確定と純資産8億5,000万円到達】の算数をしよう」

 俺はノートPCを開き、ホワイトボードの前に立った。

「十一月下旬に開催されたブラックフライデー本番。

 先行予約に続き、本番セールでの宿泊券、サプリ、お歳暮スイーツ、そして5大メディアのアフィリエイト成果がすべて確定した。

 その結果――」

 カタカタ、ターンッ!

 俺はエンターキーを叩き、資産管理スプレッドシートの最終統合確定ボタンをクリックした。

 画面の中央に、第8章のフィナーレを飾る黄金の数字がドカンと刻まれた。

【合同会社ミナト・ホールディングス グループ連結資産集計(11月30日・第8章最終確定)】

・前回までの確定総純資産:841,000,000円

・ブラックフライデー本番決済確定純利益:+12,800,000円

・老舗旅館『翠月亭』通常インバウンド確定純利益:+19,600,000円

・古民家茶房『花咲庵』初冬スイーツ特需純利益:+8,400,000円

・BtoBエンタープライズ+大学包括SaaS月割純利益:+25,800,000円

・個人向け就活SaaS+D2C定期純利益:+26,600,000円

・月額アカデミー(MRR 750名分純利益):+7,400,000円

・コア資産運用配当&米国債利息:+1,460,000円

・東証プライム主要株主配当金(月割り分):+1,800,000円

・法人税・消費税追加納税引当プール金:▲94,860,000円

★ 確定総純資産残高(純資産ベース):【850,000,000円(祝・純資産8億5,000万円到達!)】

★ グループ運用総資産規模(バランスシート総額):【16億8,000万円】

★ グループ月間経常純キャッシュフロー:【+1億5,000万円(月利1億5,000万超え!)】

「……は、はちおく……ごせんまんえん……!!」

 息が止まった。

 『850,000,000』。

 高校を卒業したあの日、ポケットの中にあったのは、バイト代の残りわずか三万二千円。

 「高卒の工場勤務とか無理w一生ライン工頑張れよw」と同級生たちに嘲笑されてから、三年と八ヶ月。

 手取り十四万の食品工場ライン工が、

 資本主義のルールを完璧にハックし続けた結果――

 ついに、二十一歳にして純資産八億五千万円の頂に到達したのだ!

「そして白石、お前の『株式会社スタジオ・シオリ』の個人純資産も、今月でついに【9,800万円】に達した。あと二百万円で、お前も名実ともに『純資産1億円の富裕層』だ」

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!! 湊くん、八億五千万円だよ……! そして私も、もうすぐ一億円……!?

 湊くんと一緒に歩んできて、本当によかった……! 湊くんは、私にとっても、世界中の誰にとっても、最高で世界一のヒーローだよぉぉぉっ!!」

 詩織は歓喜の涙を流しながら、勢いよく俺の胸元へと飛び込んできた。

 柔らかな温もりと、想いが報われた最高のカタルシス。

 俺はそっと手を回し、彼女の柔らかな髪を優しく撫でた。

「白石……お前のおかげだよ。お前が作ってくれた圧倒的なデザインがあったからこそ、ここまで来られた。最高のパートナーだ」

「湊くん……っ!」

 夕暮れのオフィスに、二人だけの温かく甘い至福の時間が静かに流れていた。

 だが――俺たちの戦いは、ここで終わりではない。

 俺はこの確定した八億五千万円の画面をタブレットに同期させ、すぐに九条源蔵の屋敷へと向かった。

 ◇ ◇ ◇

 午後二十一時、地方都市の小高い丘の上に建つ、九条源蔵の屋敷。

 いつもなら屋敷の太い梁をビリビリと震わせる豪快な大爆笑で迎えてくれるはずのリビングは、今夜に限って、どこか静まり返っていた。

 欅の一枚板テーブルの前。

 俺が提示した『850,000,000円』の資産管理シートを見つめていた源蔵が、ふっと老眼鏡を外した。

 そして――。

「……カッカッカッ……。見事だ、湊……。八億五千万、ここまで駆け上がりやがったか……」

 その声には、いつもの覇気配があったが、どこか息苦しそうな掠れがあった。

 俺の目は、源蔵の手元――テーブルの片隅に置かれた、小さな白いピルケースを見逃さなかった。

 硝酸薬(ニトログリセリン)の錠剤。

 その処方カプセルの減り方が、先月訪れた時よりも明らかに早くなっている。

 源蔵の胸元が、小さく不自然に上下していた。

「……じいさん、狭心症の発作が増えてるんじゃないか?」

 俺の鋭い指摘に、源蔵は一瞬ぎょろりとした目を瞠り、すぐに自嘲気味にニヤリと口元を歪めた。

「ケッ……! 目ざといガキだ。医者の野郎がやたらと薬を増やしやがってな。だが心配すんな、この古狸はてめえの晴れ舞台を見るまでは、地獄の閻魔に呼ばれてもくたばらねえよ」

 源蔵は咳払いを一つし、ゆっくりとテーブルに肘をついた。

 その瞳の奥には、命の炎を燃え上がらせるような、凄まじい鬼気配が宿っていた。

「いいか湊。二十一歳にして純資産八億五千万円。

 手取り十三万に怯える山岸や、新生活の借金に震える同級生どもが、何万回生まれ変わっても拝めねえ絶景へてめえは到達した。

 ……だがな、ここから先は『億』のゲームの最終章だ」

 源蔵の骨張った指が、テーブルをコンと叩いた。

「十億だ。

 資産十桁――正真正銘の【ビリオネア(十億円ホルダー)】!

 八億五千万まで築いたてめえの最後の壁であり、世界中のメガ富豪だけが踏み入ることを許された絶対領域だ。

 ……坊主。俺が元気なうちに、お前がその『十億』の山頂に立つところを、俺のこの目に焼き付けさせてくれよ」

 師匠の、命を削るような最後の檄。

 俺の胸の奥底で、かつてない熱い炎が激しく燃え盛った。

「わかってますよ、じいさん。

 もう、手は打ってあります」

 俺はカバンから、一通の分厚い機密保持契約書(NDA)と、企業価値算定シートを取り出した。

「保有している傘下の事業子会社の一角――D2Cサプリ&ハーブ事業法人。

 現在、東証プライム大手のコングロマリットから買収打診が届いています。

 この事業を最高値で売却する【大型M&Aイグジット】を執行します。

 来年一月、俺の二十二歳の誕生日に――一撃で純資産十億円を蹴破ってみせます」

「……カッカッカッ! M&Aで一撃十億突破か! ワッハッハッハッ!」

 源蔵は豪快に笑い飛ばし、力強く俺の肩を叩いた。

「上等だ湊!

 新生活の借金に咽び泣く同級生どもが手取り十九万の現実に絶望する前に、

 てめえは二十二歳にして【純資産十億円の絶対王者】へ登りつめてみせろ!

 来春の卒業式まで、残り百二十日!

 いざ、最終決戦の幕開けだ!!」

「はい、じいさん!」

 俺の力強い咆哮が、冬の静寂を切り裂いた。

 窓の外を見上げると、夜空を覆っていた雪雲が切れ、神々しいまでの満月が銀色の光を街へと注いでいた。

 高校卒業から三年と八ヶ月。

 同級生たちが大学を卒業し、社会に出て自らの市場価値の低さに絶望するまでの、残り百二十日。

 手取り十四万の食品工場ライン工社長と、覚醒した天才美少女絵師。

 純資産八億五千万円を突破した二人の快進撃は、ここから純資産十億円(ビリオネア)到達と卒業式の完全凱旋へ向けた「第9章:大型M&Aと師匠の最後の試練編」へと突き進んでいく!

【第8章完結・現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:21歳/食品工場ライン工・合同会社ミナト・ホールディングス 代表社員(第8章完結・純資産8.5億円到達!)

・総資産残高:850,000,000円(第8章累計:+336,983,000円 ※SFO・大株主配当・ふるさと納税・BFメガ特需)

・グループ運用総資産:1,680,000,000円(バランスシート16.8億円突破!)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+150,000,000円(グループ連結月間純利益・過去最高益更新!)

・【第8章・源蔵の最終マネー格言】:「大金を手にして守りに入る奴はただの小金持ち、最高値で事業を売却(イグジット)して一撃で10桁の山頂を極める奴が真の資本家だ。10億円の要塞を手にしたてめえに、来春の卒業式での答え合わせは完全なる処刑台になるんだよ!」

読んでいただきありがとうございます。

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