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『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


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EP 6

GW明けの自動車税パニックと、無税キャッシュ4,000万で仕掛ける「老舗高級温泉旅館M&A」

 五月七日、ゴールデンウィークの連休が明けた木曜日。

 初夏を告げる爽やかな薫風が吹き抜け、工場の敷地を取り囲む木々には瑞々しい新緑が青空に映えていた。

 だが、正午のサイレンが鳴り響いた三晃紙器工業の第一工場・社員食堂の空気は、爽やかな五月晴れとは真逆の、阿鼻叫喚と絶望の呻き声で完全に凍てついていた。

「……ぎゃあぁぁぁっ! 自動車税! ポストを開けたら、青い悪魔の納付書が鎮座してやがったぁぁぁっ!!」

 パイプ椅子を派手に蹴倒し、青い【自動車税種別納税通知書】のハガキを両手で握りしめながら、床をゴロゴロとのたうち回っていたのは同期採用二年目の山岸だった。

 作業着の胸元をはだけさせ、涙と鼻水を撒き散らして床板をバンバンと激しく叩いている。

「おい山岸、床で暴れるな。埃が舞って弁当に入るだろ」

 俺――倉科湊が、保温ランチジャーから熱々の豚汁と、母が持たせてくれた初鰹の竜田揚げと山菜の炊き込みご飯弁当を取り出しながら声をかけると、山岸は充血した目を血走らせて俺のズボンの裾へすがりついてきた。

「埃どころの騒ぎじゃねえよ倉科ぁぁぁっ!

 ゴールデンウィークの五日間で、地元の悪友どものBBQの会費八千円、パチンコの初夏大感謝祭に吸い込まれて四万円、連休の高速代とガソリン代で二万円が消え去り……

 今朝の銀行口座の残高、たったの【七百四十円】だぞ!?

 それなのに……ポストを見たら普通車の自動車税【三万九千五百円】の納付期限が『五月三十一日まで』って書いてあんだよ!

 七百円しかない口座から、どうやって四万円近い税金を払えってんだよ!

 延滞したら年利八・七%の延滞金が加算されて、最後は愛車を差し押さえられてタイヤロックされるんだぞ!?

 なんで国は、国民が連休で金を使い果たした直後の五月に、一番エグい税金をピンポイントで請求してくるんだよぉぉぉっ!!」

 周囲のベテラン工員たちも、手元の納付書を苦々しい顔で見つめながら「五月は本当に金が残らないよな」「うちも車二台分で八万円飛ぶよ」「来月は住民税の通知も来るし、息の根が止まるな」と、死んだ魚の目で安売りのカップ焼きそばをすすっている。

 俺は小さく息を吐き出し、温かいほうじ茶を一口喉へと流し込んだ。

「山岸。中学生でもわかる、大衆の行動経済学と徴税サイクルの算数をしよう」

「算数なんか聞きたくねえ! 俺の口座残高を増やせ!」

「増やせと言ってもお前が連休気分で浪費した結果だ。

 地方税法において、自動車税の賦課期日は毎年四月一日、納期限は五月末日と法で定められている。

 これは不意打ちでも何でもなく、車を所有している以上、三六五日前から百パーセント確定していた未来の固定費だ。

 毎月三千三百円ずつ専用口座に先取り貯金しておけば、五月に慌てることなど絶対にあり得ない。

 そして連休中のレジャーやパチンコで財布の紐が緩むのは、企業が仕掛けたマーケティングの【現状維持バイアス】と【サンクコスト効果】に脳を支配されているからだ。

 年間の確定支出を平準化する知恵を持たず、手元の現金をその場の感情で使い果たす労働者は、五月が来るたびに国家の徴税システムに首を絞められるように調教されているんだよ」

「ぎゃあぁぁぁっ! 正論のナパーム弾で俺を焼き尽くすなよぉぉぉっ!!」

 耳を塞いで食堂の隅へと逃げ出していく山岸。

 山岸は震える指でスマホを取り出し、自暴自棄に画面をスクロールした。

「……あ、そういや倉科! 東京の同級生たちと、脱落組の続報見たかよ……!?」

「拓海や凛がどうした?」

「もう完全な阿鼻叫喚の地獄絵図だぜ!

 五月に入って、大手企業の面接ラッシュで私立文系の同級生連中、持ち駒が全滅して【内定ゼロの就活難民】が大量発生してんだよ!

 『お祈りメールが百通超えて人格を全否定された気分』『親に泣きついて就活留年の学費頼んだけど断られた』って、ノイローゼで発狂寸前の阿鼻叫喚だ!

 タコ部屋から産業廃棄物処理場へ売り飛ばされた金子拓海のやつなんか、GWも休みな酷暑のプレハブで、粉塵まみれになって重機のアタッチメント交換させられて腰を完全にいわしたらしいぜ!

 日当の全額が親とサラ金の借金返済にピンハネされて、手元に残る小遣い一日五百円で、現場の自販機の下の小銭を探して泣いてたってよ!

 実家で警察沙汰になった佐伯凛も、親から勘当されてボロアパートに放り出され、怪しい『誰でも月収100万円!スマホをタップするだけの副業』っていう詐欺マニュアルにリボ払いで三十万円騙し取られて、消費者金融の督促に怯えて震えてるらしいし!

 あいつら……東京でエリート気取って俺たちを見下してた連中が、ヘドロと詐欺の底なし沼に沈んでいくのを見るのだけが……俺の唯一の心のGWなんだよぉぉぉっ!!」

 他人の転落を唯一の精神安定剤にして、自分の破滅から目を背ける山岸。

 だが、その山岸自身も、四万円の自動車税に怯えて手元の生活費をすり減らしているのだ。

(山岸、お前には見えていないんだよ。

 大衆が数万円の税金に震え、東京組が産廃と詐欺の底なし沼に沈んでいる横で……

 目の前にいる高卒二年目のライン工が、前話で引いた【無税キャッシュ4,000万円】を元手に、今夜どんな巨大なリアルリゾートの買収劇を仕掛けようとしているのかがな)

 前話(第70話)で、有価証券担保融資(ロンバード・ローン)を発動させ、株式を売らずに年利一%の超低金利で【現金4,000万円】の無税キャッシュを調達。

 確定総純資産は【1億7,664万円】、運用総資産は【2億1,664万円】に達している。

「定時で上がるぞ。今夜、俺たちの資本は地方創生とインバウンドの最高峰を手中におさめる」

 午後十七時零二分、定時退社。

 タイムカードをパチンと切った俺は、初夏の夕暮れの爽快な風を切り裂き、地方都市の駅前に構えたミナト・ホールディングスのオフィスへと自転車を疾走させた。

 ◇ ◇ ◇

 午後十七時三十分、合同会社ミナト・ホールディングスのオフィス。

 ダイキンの最新エアコンが静かに二十四度の快適な室温を保ち、ディフューザーからはペパーミントとベルガモット、そして上品な白檀と新緑のアロマがふわりと漂っていた。

「湊くん……! お帰りなさい!」

 扉を開けると、そこには白石詩織が待っていた。

 淡い若葉色の透け感のあるシアーシャツに、清楚なアイボリーのマーメイドロングスカート。

 ショコラブラックの豊かな髪を首元ですっきりとまとめ、黒縁メガネを外した大きな茶褐色の瞳が、夕陽を浴びてキラキラと輝いている。

 第20話で垢抜けて以来、彼女が放つ大人の気品と透明感は日ごとに洗練され、株式会社スタジオ・シオリの代表取締役としても堂々たるオーラを放っていた。

 部屋に入った瞬間にふわりと広がる甘い石鹸と柑橘のアロマに、俺の心拍計がピクリと跳ね上がる。

 デスクの上には、最新のM4搭載iPad Proと、氷を浮かべた特製の耐熱グラスが用意されていた。

「白石、待たせたな」

「ううん、全然待ってないよ! 湊くん、連休明けの工場のライン作業お疲れ様……!

 これ、外はすっごく暖かかったでしょ? 買収したハーブ園の無農薬ペパーミントと、初摘みの温州みかん果汁を合わせた『特製アイスハニーシトラスモヒートティー』だよ! 冷たいうちに飲んでね!」

「サンキュー、白石。生き返るよ」

 グラスを受け取り、一気に喉を潤す。

 爽快なミントの清涼感と、完熟みかんの濃厚な甘み、そして蜂蜜の上品なコクが、渇いた喉と身体の隅々までじんわりと染み渡っていく。

 めちゃくちゃうまい。

 だが、俺は彼女の華奢な指先に、大型温泉旅館リブランディング用建築パースおよび意匠図面の集中監修による微かな強張りがあるのを見逃さなかった。

(……いかんな。また俺の経営者センサーが過敏に作動している)

 俺はデスクの引き出しから、あらかじめ用意しておいた重厚な桐箱をスッと取り出し、詩織の前に差し出した。

 京都の老舗名門サロンが完全予約制で仕立てた『最高級・完熟クラウンメロンと宇治濃茶ジュレの極上初夏エメラルドパフェテリーヌ』と、遠赤外線グラフェン温熱と高密度エアプレッシャーで手根管から指先までを包み込む最新型コードレスメディカルハンドケア機だ。

「ほら、白石。これを受け取れ」

「えっ……!? これ、すごく大きな完熟メロンが敷き詰められたエメラルド色のパフェ……! それに、最新のハンドケア機……!?

 湊くん、私がお茶を出しただけなのに、どうしていつもこんなに高価なものをくれるの……?」

「勘違いするなよ」

 俺は腕を組み、冷徹な仮面を必死に張り直して早口でまくしたてた。

「中学生でもわかる組織財務と超大型リアルアセットM&A展開に伴う人的資本BCP防衛の講義だ。

 純資産一億円(富裕層)を突破した我が企業グループの最高アートディレクター(お前)が、連休明けの急激な寒暖差によって浅指屈筋および掌側骨間筋の柔軟性を低下させ、これから実行する老舗高級温泉旅館の客室露天風呂・暖簾・館内サイン計画の最終グラフィック検収を〇・四秒遅延させた場合、夏休みインバウンド特需に向けたグランドオープン遅延に伴う機会損失は【試算で最低でも月額三千万円】に跳ね上がる!

 クラウンメロンの高濃度カリウムによる疲労物質の急速キレート排出、ならびにグラフェン温熱による指先の微細神経機能維持は、グループ中核クリエイターの【中長期的アジリティを担保するための戦略的初夏BCP防衛および役員福利厚生投資経費】だ!

 お前への甘やかしなどではない!

 今後生み出される何億円ものリゾートシナジー純利益から逆算すれば、このパフェテリーヌ代などROI(投資対効果)は【実に四億%】を超える!

 極めて合理的でドライな財務上の防衛支出だから、一ミリも遠慮せず胃袋に収めて手を突っ込め」

 息をつかずに言い切った俺の、世界一長くて過保護な言い訳。

 詩織は桐箱を胸にぎゅっと抱きしめ、目をパチクリさせて聞いていたが――やがて、その桃色の唇をふにゃりと綻ばせ、クスクスと愛おしそうに笑った。

「ふふっ……あはは! 掌側骨間筋……? ROIがよんおくパーセント……?

 湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一甘くて幸せだよ!」

「な、何がおかしい。純粋な企業防衛だぞ」

「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『防衛経費』で美味しく手をポカポカにして、四億パーセントのお返しができる世界一可愛いデザインを描き続けるね!

 ……あ、湊くん! パフェテリーヌ、メロンがすっごくジューシーでジュレが宝石みたいだよ! はい、あーん!」

 フォークにみずみずしいクラウンメロンの果肉と濃厚な抹茶ジュレをたっぷり乗せ、夕陽に照らされた満面の笑顔で差し出してくる詩織。

 至近距離から漂う芳醇なメロンのアロマと上品な抹茶の香り、彼女自身の透き通るような白い肌、潤んだ茶褐色の瞳。

「お、おい……自分で食える……」

「ダメー! 大型買収完了の景気づけなんだから! ほら、あーん!」

 観念して口を開けると、濃厚で芳醇なメロンの果汁がジュワッと口いっぱいに溢れ出し、上品な抹茶のほろ苦さが後味を引き締めた。

 めちゃくちゃうまい。

 そして――心拍数が異常なスピードで跳ね上がり、俺の脳内プロセッサが完全に一時停止しかける。

(……ダメだ。この女の『あーん』の破壊力は、資本主義のどんなアルゴリズムをも一瞬で溶かしてしまう……)

「ふふっ、美味しい? 湊社長!」

「……ああ、最高だ。……よし白石、本題に入るぞ」

 ◇ ◇ ◇

「白石、今から中学生でもわかる、富裕層が仕掛ける実体経済の支配――【老舗高級温泉旅館の民事再生M&AとO2Oコングロマリット戦略】の算数をしよう」

 俺はノートPCを開き、ホワイトボードの前に立った。

「前話(第70話)で、俺たちは有価証券担保融資(ロンバード・ローン)を使い、株を売らずに【無税の現金4,000万円】を金利一%で調達した。

 そして、この四千万円の無税キャッシュを全額投入して水面下で買収交渉を進めていた超巨大案件――

 県内屈指の名湯・湯守温泉に佇む、創業八十年の老舗高級温泉旅館『翠月亭(すいげつてい)』の民事再生型スモールM&Aだ!」

【超大型リアルM&Aターゲット案件:名湯老舗旅館『翠月亭』】

・立地:県内屈指の温泉街(年間観光客数120万人、源泉掛け流し自家源泉2本所有)

・敷地・規模:敷地面積3,200坪、客室全18室(数寄屋造り離れ6棟+本館)

・土地建物評価額:路線価ベースで【約1億8,000万円】

・買収直前の財務:借入金3,000万円、コロナ禍の赤字が尾を引き【月利マイナス120万円】

・売却理由:オーナー(76歳)の後継者不在、設備更新資金が枯渇し破産寸前

・買収総額:【現金3,500万円(債務3,000万円の弁済引き受け+手切れ金500万円で土地建物・源泉所有権を丸ごと100%取得!)】

「……えぇっ!? 三千二百坪のお庭と、一億八千万円のお建物が……たったの三千五百万円で買えちゃったの……!?」

 詩織が大きな瞳を見開いた。

「そうだ。

 銀行からすれば、破産されて担保を競売にかければ二束三文にしかならない不良債権だ。

 そこへ俺たちが無税キャッシュ四千万円を一括提示し、『銀行の借入金三千万円を即座に全額キャッシュで一括返済する』と条件を出したことで、銀行も前オーナーも涙を流して即日調印に応じたんだ。

 だが白石、本当のチートはここからだ」

 俺はホワイトボードに、魔改造の4大オペレーションを書き殴った。

①【詩織の神アートディレクションによる『現代湯治×高級プライベートリゾート』化】

「全十八室のうち、離れ六棟を『自家源泉かけ流し露天風呂付き・デザイナーズスイート』へ即座に改装。

 詩織がデザインしたモダン和風の行灯、特製浴衣、アメニティ、そして日本庭園をライトアップした水上ラウンジを新設!

 一泊二食【八万円〜十二万円】の超高単価インバウンド&富裕層ターゲットへ完全シフトさせた!」

②【グループ既存事業との狂気的なサプライチェーンシナジー】

「第63話で事業承継したオーガニックハーブ園の無農薬アロマを客室と貸切サウナに導入。

 第69話で買収した古民家茶房『花咲庵』と提携し、『チェックイン前に庭園茶房で特製抹茶パフェを無料提供するVIP送迎プラン』を構築!

 さらに夕食後には、自社の特製ハーブティーをお土産として全宿泊客にプレゼントし、そのまま【D2C月額定期便】へ自動送客する!」

③【5大メディア連合と就活AIツールからの爆発的送客】

「自社メディア群で『一度は泊まりたい極上客室露天風呂の宿』として特集を組み、海外向けインバウンド予約サイト(Booking.com・Agoda)で多言語SEOを展開。

 さらに、就活AIツール(ES-Master AI)の法人向けHRTech提携先企業に向けて、『企業エグゼクティブ向けオフサイト合宿プラン』を一括販売した!」

「すごい……! お茶もお菓子も宿もネットも、全部が繋がって一つのお城になってる……!」

「そうだ。そして――連休明けの直近二週間の確定収支レポートが、これだ!」

 カタカタ、ターンッ!

 俺はエンターキーを叩き、旅館予約PMS(宿泊管理システム)のリアルタイムダッシュボードを大画面に映し出した。

【老舗旅館『翠月亭』リニューアル後初動実績(GW〜初夏)】

・客室稼働率:【買収前 32% → リニューアル後 91.4%(全室完売連発!)】

・平均宿泊単価(ADR):【買収前 16,000円 → リニューアル後 78,000円(約5倍!)】

・月間売上高ペース:【38,400,000円(月商3,800万突破!)】

・食材原価・人件費・水道光熱費・リネン費控除後 月間事業純利益:【+14,800,000円(月利1,480万!)】

「……えぇっ!? い、一千四百八十万円……!?」

 詩織の息が止まった。

「買収前は毎月百万円以上の赤字だった旅館が……湊くんの仕組みとお私のデザインを入れただけで、月利一千四百八十万円になっちゃったの……!?

 年間二億円近い利益を生むモンスターリゾートだよぉぉぉっ!!」

「そうだ、白石! これが【無税キャッシュを使った事業再生M&A】の破壊力だ!」

 俺は電卓アプリをタップした。

「中学生の割り算をしよう。

 買収費用三千五百万円、改装費五百万円を合わせた総投資額は四千万円だ。

 月利一千四百八十万円を生み出すということは――

 『4,000万円 ÷ 月1,480万円 = 【わずか2.7ヶ月】』!

 三ヶ月足らずで投じた四千万円の元本が全額回収され、

 四ヶ月目以降は、路線価一億八千万円の広大な不動産資産を手元に残したまま、【毎月千四百万円以上の純現金】が永久にホールディングスの金庫へ雪崩れ込んでくる!

 年利換算の実質利回りは――【驚異の444%】だ!!」

「よ、よんひゃくよんじゅうよんパーセント……!

 株の担保で借りた無税のお金が、たった三ヶ月でタダになって、一億八千万円の土地と毎月千四百万円の現金に化けちゃったの……!?」

「そうだ。株は一株も売っていないから、コア資産の配当と複利成長はそのまま。

 無税の負債レバレッジを使って、現実世界の実物資産とメガキャッシュフローをノーリスクで強奪する……。

 これこそが、世界のビリオネアだけが実践している【資本主義の完全なる上がり(ゲームクリア)の手法】なんだよ!」

 詩織は歓喜の声を上げ、勢いよく俺の胸元へと飛び込んできた。

 至近距離で弾む少女の息遣いと、柔らかなシアーシャツの温もり。

 俺の心拍計が激しく跳ね上がり、脳内プロセッサが心地よい熱を帯びる。

「従業員のおばちゃんたちもね、『お給料も上がって、若いお客さんや外国人さんが笑顔で喜んでくれて、夢みたいです』って泣いて喜んでくれたんだよ……!

 湊くん、私、夏の花火大会とお月見の限定宿泊プランの掛け紙も、命を込めて世界一可愛く描き上げるね……っ!!」

「ああ、頼りにしてるぞ、白石。お前がいなければ、この奇跡は絶対に起きなかった」

 俺は胸元で抱きついてくる詩織の背中を優しく撫でた。

 衰退する地方の老舗旅館を救い、無税レバレッジで天文学的な富を創造する。

 資本主義の最も美しく完璧なスケーラビリティが、寸分の狂いもなく炸裂した瞬間だった。

 ◇ ◇ ◇

 午後二十一時、地方都市の小高い丘の上に建つ、九条源蔵の屋敷。

 欅の一枚板テーブルの前で、俺が提示した『翠月亭』のPMSデータとグループ連結の最新バランスシートを見つめていた源蔵が、ふっと老眼鏡を外した。

 そして――。

「……カッカッカッ!! ワッハッハッハッ!!」

 屋敷の梁を揺るがすほどの、豪快な大爆笑が初夏の夜空に轟いた。

 源蔵はバシバシと自分の太ももを叩き、テーブルを揺らした。

「株を担保に引いた無税の四千万で、一億八千万の老舗旅館を買い叩いて月利千五百万に大化けさせたか!

 ワッハッハッハッ! 上等だ湊!

 無税レバレッジで実物不動産を飲み込み、三ヶ月で原資を回収してメガリゾートのオーナーへ君臨する……

 ケッ、完全にニューヨークの不動産王トランプや世界のプライベートエクイティのやり口じゃねえか!」

「ええ。路線価一億八千万円の不動産担保価値が新たにバランスシートに加わり、銀行の融資枠はさらに数億円規模へ拡大しました。

 旅館のメガ利益、古民家茶房、就活SaaSのMRR、D2C定期便、メディア連合の収益が全方位から雪崩れ込み――

 我がホールディングスの確定連結資産は、こうなりました」

 俺はノートPCを源蔵の前に差し出した。

【合同会社ミナト・ホールディングス グループ連結資産集計(5月7日時点)】

・前回までの確定総純資産:176,647,000円

・旅館買収・再生投資支出:▲40,000,000円(無税借入金より充当)

・取得不動産・事業資産評価額(翠月亭土地建物+源泉+営業権):+80,000,000円(超保守的査定資産振替)

・『翠月亭』初動半月確定純利益:+7,400,000円

・『花咲庵』古民家茶房GW特需純利益:+5,200,000円

・『ES-Master AI』月額MRR+新規課金利益:+14,100,000円

・5大メディア連合確定特単アフィリエイト利益:+4,800,000円

・D2C定期サブスク事業確定純利益:+6,800,000円

・月額アカデミー(MRR 480名分純利益):+4,620,000円

・コア資産運用配当&米国債利息:+620,000円

・法人税・消費税追加納税引当プール金:▲18,000,000円

★ 確定総純資産残高(純資産ベース):【202,187,000円(祝・純資産2億円完全突破!)】

★ グループ運用総資産規模(バランスシート総額):【2億7,218万円】

★ グループ月間純キャッシュフロー:【+43,540,000円(月利4,300万超え!)】

「……純資産二億二百十八万円。

 手厚く納税引当金を引いた上で、純資産はついに【2億円の大台】を完全突破しました」

「ワッハッハッ! 純資産二億突破、月利四千三百万か! 工場の初任給の三百年分を毎月口座に叩き込む怪物の誕生だな!」

 源蔵のぎょろりとした鋭い眼光が、獲物を仕留める直前の猛獣のようにギラリと光った。

「いいか湊。日本の全世帯の上位〇・一%に君臨する【超富裕層(純資産5億円)】!

 その神の領域まで、あと残り――

 ――【二億九千七百八十一万円】だ!!」

 ドカンッ、と源蔵の拳がテーブルを叩いた。

「自動車税四万円に泣き喚く山岸や、自販機の下の小銭を探す金子拓海、リボ詐欺で震える佐伯凛どもが、何万回生まれ変わっても拝めねえ【二億円の絶対王者の頂】へ、てめえは十九歳にして到達したんだ!

 このままリアルとネット、そして無税レバレッジの津波に乗って、一気に【超富裕層5億円】の頂上へ旗を突き立ててみせろ!」

「はい、じいさん!」

 俺の力強い咆哮が、初夏の静かなリビングに響き渡った。

 窓の外を見上げると、初夏の澄み切った夜空に、神々しいまでの満月が輝いていた。

 同級生たちが大学を卒業し、社会に出て自らの市場価値の低さに絶望するまでの、残り六百二十日。

 手取り十四万の食品工場ライン工社長と、覚醒した天才美少女絵師。

 純資産二億円を突破し、月利四千三百万円の領域へ突入した二人の快進撃は、ここから【純資産5億円(超富裕層)】の完全制覇へ向けて、さらなる未知の超絶領域へと突き進んでいく!

【現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:19歳/食品工場ライン工・合同会社ミナト・ホールディングス 代表社員(祝・純資産2億円突破!)

・総資産残高:202,187,000円(前話比:+25,540,000円 ※温泉旅館買収資産算入+GW特需+MRR+SaaS)

・グループ運用総資産:272,187,000円(バランスシート2億7,000万超え!)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+43,540,000円(グループ連結月間純利益・過去最高益更新!)

・【今日の源蔵のマネー格言】:「株を担保に引いた無税の金で、赤字の優良不動産を買い叩いて即座に黒字化する。これこそが世界のビリオネアが資産を指数関数的に増殖させる『負債の錬金術』だ。純資産2億を超えた奴から、5億円の神の領域は紙屑同然に近づくんだよ」

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