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『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


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EP 4

完全論破①「月利10%を複利で回したら、数年で国家予算を超えるんですが」

「……な、なにがブラインド勧誘だ! 法律の言葉を並べて煙に巻こうとするな!」

 ファミリーレストラン『ガスト』のボックス席。

 通路を挟んだ隣の席の家族連れが、思わずこちらを振り返るほどの声を張り上げたのは、拓海のサークルの先輩・竜也だった。

 テカテカと安っぽい光沢を放つイタリア風スーツの肩を怒らせ、偽物のゴールドウォッチをギラつかせながら、テーブルをドンと叩く。

「特商法がどうのこうのなんて、ただの形式論だろ!

 ビジネスの世界じゃな、結果を出して【稼がせた奴が正義】なんだよ!

 このAIシステムは、実際に毎日利益を叩き出してんだ!

 倉科くん、君だって手取り十四万の工場で、一生安月給のままこき使われるのは嫌だろ?

 実際に月利十%の配当が口座に振り込まれれば、法律の解釈なんてどうでもよくなるはずだ!」

「そ、そうだぞ倉科!」

 拓海がここぞとばかりに竜也の勢いに便乗し、身を乗り出してきた。

 ミルクティーベージュに染めた髪を激しく揺らし、血走った目で俺に詰め寄る。

「竜也さんの言う通りだ!

 お前、高卒だから投資の世界のハイレベルな話が理解できなくてビビってんだろ!?

 月利十%だぞ!? 年利に直したら百二十%だ!

 銀行にお金を預けても利息なんて数十円の時代に、一年で元本が倍以上になるんだ!

 このUSBの威力を前にしたら、お前のくだらない屁理屈なんて一瞬で消し飛ぶんだよ!」

 拓海の手元にある、金属製の黒いUSBメモリ。

 原価数百円の安物に、怪しげな青いLEDがチカチカと点滅している。

 自分自身が消費者金融で五十万円の借金を背負わされ、まだ一円の配当すら手にしていないというのに、この男は「自分は選ばれた投資家だ」という狂信的な妄想から抜け出せないでいた。

 その隣で、佐伯凛が青ざめた顔で唇を噛みしめ、居心地悪そうに身を縮めている。

 彼女の目には、必死に喚き散らす拓海の姿が、あまりにも滑稽で痛々しいものとして映り始めていた。

 俺はため息を一つこぼし、結露で濡れたアイスコーヒーのグラスにそっと手を添えた。

「……はぁ。やっぱり、中学生の算数すら履修していないようだな」

「ああん!? 算数だと!? 人の話を馬鹿にしやがって!」

「馬鹿にしているんじゃない。客観的な事実を述べているだけだ」

 俺はテーブルの上のノートPCを開き、画面の中央に電卓アプリとグラフ描画ツールを立ち上げた。

 そして、液晶画面を拓海と竜也の真正面へと向ける。

「拓海、お前は今『月利十%だから、年利に直したら百二十%だ』と言ったな」

「そ、そうだよ! 十パーセント掛ける十二ヶ月で、百二十パーセントだろ! 小学生でもわかる掛け算じゃねえか!」

「それこそが、無知なカモを釣るための最初の手抜きトラップだ。

 投資の世界において、利益を元本に組み入れていく【複利(ふくり)】の計算を、単なる足し算で語る人間がどこにいる?」

 俺の冷徹な声が、静かにファミレスの空気を支配していく。

「月利十%を複利で運用するということは、毎月、元本が【1.1倍】になるということだ。

 一年間――つまり十二ヶ月後の元本は、いくらになると思う?」

 カタカタカタ、ターンッ!

 俺はキーボードを叩き、画面に計算式を弾き出した。

『1.1 の 12乗 = 【約3.138倍】』

「……さ、3倍……?」

 拓海が目を瞬かせた。

「そうだ。

 単利計算の百二十%(二・二倍)どころじゃない。

 月利十%を複利で回した場合、一年後の年利は【約214%】――元本は実に【三・一倍以上】に膨れ上がるんだよ。

 ここまでは理解できたか?」

「ほ、ほら見ろ!」

 拓海が息を吹き返したように、下品な笑みを浮かべた。

「一年で三倍以上になるんじゃねえか! やっぱり俺の言った通り、ものすごい神ツールだろ! お前だって本当は喉から手が出るほど欲しいんだろ、あぁん!?」

「最後まで聞け、阿呆が」

 俺の鋭利な一喝が、拓海の薄笑いを一瞬で切り裂いた。

「では、その『月利十%(複利)』という魔法の数字を、そのまま時間を進めて回し続けたらどうなるか。

 ――中学生でもわかる、残酷な未来のシミュレーションを見せてやるよ」

 ◇ ◇ ◇

 俺は画面に、一本の指数関数のグラフを描き出した。

 縦軸が資産額、横軸が年数。

 右肩上がりに緩やかに伸びていた線が、ある地点から突如として垂直に近い角度で天を突く、爆発的なロケットカーブ。

「仮に、元手【100万円】からスタートしたとしよう」

 俺は淡々と、計算結果の数値を読み上げていった。

・【1年後】:元手100万円 → 【約314万円】

・【3年後】:約314万円 → 【約3,090万円】

・【5年後】:約3,090万円 → 【約3億448万円】

「お、おい……五年で、三億円……!?」

 拓海の喉がヒクつき、目が丸くなった。

 だが、俺の指先は止まらない。

「そして――【10年後】だ。

 元手百万円を月利十%の複利で十年回し続けた場合、資産の総額はいくらになると思う?

 画面をよく見ろ」

 液晶画面の中央に、真っ赤な極太フォントで数字が叩きつけられた。

『10年後の資産総額:【927億9,000万円】』

「きゅ……きゅうひゃくにじゅう……なな億……!?」

 拓海の息が完全に止まった。

 隣の佐伯凛も、両手で口を押さえて絶句している。

「さらに五年進めて【15年後】にしてみようか。

 元手百万円は――【約28兆円】に達する。

 日本国の年間一般会計税収の約三分の一を、個人がたった一人で稼ぎ出す計算だ。

 そして【20年後】には――【約8,500兆円】。

 地球上に存在するすべての富、全世界の株式市場の時価総額の合計を遥かに超え、このツールの持ち主が地球全体の支配者になる計算だ」

 静まり返るガストのボックス席。

 周囲の賑やかな話し声が、まるで遠い異世界の出来事のように遠のいていく。

 俺は冷え切った眼光で、額から冷や汗を吹き出させている竜也の顔を見据えた。

「竜也さん。世界一の投資家と呼ばれるウォーレン・バフェットの、過去六十年間の平均年間利回りは何%かご存知ですか?」

「うっ……そ、それは……」

「年利【約20%】ですよ。

 年利二十%ということは、月利に直せば【わずか1.5%前後】だ。

 ウォール街の百戦錬磨のエリートたちが、最新のスーパーコンピューターと何十億円もの情報網を駆使して、命がけでしのぎを削って達成できる限界値が『年利二十%』なんだよ。

 それなのに……あなた方のグループは、世界一の投資家バフェットの十倍以上――十年で九百億円を生み出す【神のアルゴリズム】を開発したとおっしゃるわけですか?」

 竜也の唇が、カタカタと小刻みに震え出した。

「中学生でもわかる論理の破綻を教えてあげましょうか」

 俺はテーブルの上の黒いUSBメモリを、人差し指でツンと小突いた。

「もし、このUSBメモリに本当に入っているのなら――

 なぜ開発者は、こんな群馬の地方都市のファミレスで、お金のない大学生や工場員を相手に、たった【五十万円】の小銭で売り歩いているんですか?」

「え……?」

 拓海が間抜けな声を漏らした。

「本当に月利十%で元本が三倍、五倍と増える魔法のツールがあるなら、開発者は赤の他人に教える必要なんて一ミリもないはずだ。

 メガバンクに行って低金利で十億円の事業融資を引っ張ってくるか、自分の全財産をぶち込んで勝手に回していればいい。

 そうすれば、誰にも邪魔されず、わずか数年で何兆円もの富を手に入れて世界の頂点に立てる。

 なぜ、それをしない?

 なぜ、わざわざリスクを冒して見ず知らずの他人に五十万円で切り売りし、一人紹介するごとに十万円もの高額な紹介料をばら撒いて組織を拡大しようとしているんですか?」

 俺は身を乗り出し、逃げ場のない真実の刃を突き刺した。

「理由は単純明快。

 ――【このシステムでは、市場から一円の利益も出ていないから】だ」

 ◇ ◇ ◇

「ひ、一円も……出てない……!?」

 拓海の顔から、完全に血の気が引いた。

「そうだ。これこそが、投資の世界で百年前から繰り返されてきた最も古典的で凶悪な詐欺――

 ――【ポンジ・スキーム(出資金詐欺)】の典型例だ」

 俺は画面に、ピラミッド状の図を描き殴った。

「十九世紀のアメリカの詐欺師、チャールズ・ポンジの名に由来する手口だ。

 『天才的なAIが運用している』『独自の裏ルートがある』と嘘をつき、出資者から金を集める。

 だが、集めた資金は実際には一円も運用されていない。

 どうやって配当を出すと思う?

 【後から入ってきた新規会員が支払った五十万円】を、あたかも運用利益が出たかのように見せかけて、上の会員に『配当』と偽って横流ししているだけなんだよ!」

 ドンッ、とペン先でピラミッドの底辺を突く。

「だからこそ、この詐欺グループは狂ったように『友達を紹介しろ』『紹介料十万円を払う』と会員を煽り立てる。

 新しいカモが金を払い続けない限り、上の人間に渡す配当金が枯渇して、システムが一瞬で破綻するからだ!

 拓海、お前のアカウントで、今月一円も配当が出ていない理由がこれではっきりしただろ?」

「あ……あ、あ……」

 拓海が喉をヒクつかせ、目を剥いた。

 先週から「AIが市場を学習中だから」と言い訳され、一円も着金していなかった配当。

 その理由が、あまりにも残酷な形で白日の下に晒されたのだ。

「お前が新しいカモ(俺)を連れてきて、俺に五十万円の借金を背負わせない限り、お前にも配当金が一円も支払われない仕組みになっているんだよ!

 お前は投資家になったんじゃない。

 詐欺グループの胴元に五十万円を巻き上げられ、今度は自分が助かるために友人を売る【末端の集金奴隷】に仕立て上げられただけなんだ!」

「う、嘘だ……嘘だぁぁぁっ!!」

 拓海が頭を抱えて絶叫した。

「竜也さん! 嘘ですよね!? こいつの言ってること、全部デタラメですよね!?

 神代さんは本物の成功者で、港区のタワマンに住んでポルシェに乗ってるって言ってたじゃないですか!!」

 すがるように先輩の腕を掴む拓海。

 しかし――竜也は拓海の手をバシッと払いのけ、般若のような形相で立ち上がった。

「だ、黙れ拓海! 俺は知らねえよ! 俺だって神代さんからそう聞かされて買っただけだ!」

「へ……? た、竜也さん……?」

「おい倉科とか言ったな! てめえ、いい気になって適当なこと言ってんじゃねえぞ!

 ポンジ・スキームだなんて証拠がどこにある! 名誉毀損で訴えてやるからな!」

 逆ギレして凄む竜也。

 だが、その威嚇を前にしても、俺の心拍計は一ミリも揺れなかった。

「証拠なら、法律の条文とあなたの目の前に揃っていますよ」

 俺は静かに、ノートPCの別ウィンドウを立ち上げた。

 そこに表示されていたのは、金融庁の公式Webサイト――【免許・許可・登録等を受けている業者一覧】のデータベース検索画面だった。

 ◇ ◇ ◇

「金融商品取引法――通称【金商法第二十九条】だ」

 俺の冷徹な声が、逃げようとする竜也の背中に突き刺さる。

「日本国内において、投資助言や代理、あるいは他人の資産を有償で自動運用するプログラム(暗号資産や為替の自動売買システム)を販売・運用する場合、内閣総理大臣の登録を受けた【金融商品取引業者】でなければならない。

 金融庁の登録業者データベースを検索しましたが……あなた方のグループの名称も、その神代という男の法人名も、一件たりとも登録されていませんでした」

「うぐっ……!?」

「無登録で投資ツールの販売や勧誘を行った場合、金商法第百九十七条の二により――

 【五年以下の懲役、もしくは五百万円以下の罰金】という重い刑事罰が科せられる。

 さらにだ」

 俺はテーブルの上の黒いUSBメモリを指差した。

「あなた方はさっき、はっきりと『月利十%保証』と断言しましたね。

 金商法第三十八条において、不確実な事項について断定的判断を提供して勧誘を行う行為――いわゆる【断定的判断の提供】は明確に禁止されている。

 特商法のブラインド勧誘違反に加え、金商法違反の無登録営業、そして断定的判断の提供……。

 竜也さん、あなた自分が今、どれだけ重い【犯罪の共犯者】として片足を突っ込んでいるか、理解できていますか?」

「ひ、ひぃぃぃ……っ!!」

 竜也の顔から、完全に血の気が引いた。

 先ほどまでの尊大な態度はどこへやら、膝がガクガクと音を立てて震えている。

 テーブルの上のポルシェの鍵をひったくるように掴み、偽物のウブロを隠すように腕を引いた。

「お、おい拓海! 俺はもう行くぞ! お前、あとは自分でなんとかしろ!」

「えっ……!? 竜也さん、待ってくださいよ! 俺の五十万は!? 俺の借金はどうなるんですかぁぁぁっ!?」

 叫ぶ拓海を一顧だにせず、竜也は脱兎の如くファミレスの出入口へと走り去っていった。

 残されたのは、テーブルの上に転がる安物のUSBメモリと、呆然と口を開けて取り残された拓海、そして震える佐伯凛だけだった。

 ファミレスのボックス席に、静寂が戻る。

 俺は手元のスマホを開いた。

 画面には、詩織から届いたばかりの可愛らしいウサギのスタンプと、メッセージが表示されていた。

『さくらんぼパフェ、すっごく美味しかったよ!完食しました!

 湊くん、無事かな……? 気をつけて帰ってきてね。詩織』

 その無邪気で温かいメッセージに、俺の口元がふっと緩む。

 冷徹な戦闘モードから、一瞬で過保護な保護者モードへとプロセッサが切り替わりそうになるのを、俺は必死に咳払いして押し留めた。

(……待っていろ、白石。あと数分で、この茶番劇を完全に終わらせて帰るからな)

 俺はスマホを伏せ、目の前でガタガタと震えている哀れな幼馴染へと、冷え切った視線を向けた。

「さて、拓海。……先輩に見捨てられた気分はどうだ?」

 悪夢から覚めない拓海に対する、次なるトドメの鉄槌――

 特定商取引法に基づく【クーリングオフの権利行使】と、完全なる現実の清算が、幕を開けようとしていた。

【現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:19歳/食品工場ライン工・個人事業主(純資産800万突破・ポンジスキーム完全解体)

・総資産残高:8,040,000円(前話比:±0円)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+1,620,000円(特化ブログ3サイト純利益ベース)

・【今日の源蔵のマネー格言】:「月利10%を複利で回したら10年で900億円、15年で国家予算を超える。美味い投資話を聞かされたら、まず電卓を叩け。小学生の算数すら成立しねえ嘘を信じる奴から、身ぐるみ剥がれて死んでいくんだよ」

読んでいただきありがとうございます。

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