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『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


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EP 7

銀行窓口に呼ばれた両親を救出せよ!

 十二月中旬の土曜日の朝。

 木枯らしが吹きすさぶ中、実家のダイニングには、普段の週末にはない異様な高揚感が充満していた。

「おい、由美子! 印鑑と通帳は持ったか? 十時半から、個室のブースで相談の予約が入ってるんだから遅れちゃダメだぞ」

「持ったわよ、お父さん。まさか、うちみたいな普通の家に、大手地方銀行の支店長代理直々にお電話をいただけるなんてねぇ……!」

 食卓の上に広げられていたのは、金色の箔押しが施された、やたらと分厚くカラフルなパンフレットだった。

 『新時代を切り拓く!世界AI・ロボティクス成長株式オープン(毎月決算型)』。

 表紙には、右肩上がりの太い矢印と、大きく躍る【予想分配金利回り 年利5.0%!】【毎月のお小遣い感覚で分配金が受け取れる!】という派手なキャッチコピー。

 その前で、父・健一(五十歳)と母・由美子(四十八歳)が、まるで宝くじの当選券でも見つめるかのように顔を上気させていた。

「父さん、母さん。……朝から何やってんだ?」

 階下へ降りてきた俺――倉科湊が、冷え切った麦茶をグラスに注ぎながら声をかけると、父は待ってましたとばかりに胸を反らせた。

「おお、湊! 起きてきたか! 見ろ、これをお前の地元の『〇〇銀行』の担当者がわざわざ家まで持ってきてくれたんだよ!

 父さんが定年退職した後の退職金と、今ある定期預金【500万円】をこれに預け替えるだけでな、毎月【約2万円】の分配金が口座に振り込まれてくるんだそうだ!

 銀行に眠らせておいても利息なんて数十円だろ? それが、天下の地銀が太鼓判を押す最先端のAIファンドに投資するだけで、毎月不労所得が手に入るんだ! お前も十九歳になったんだから、少しはこういう立派な資産運用を勉強しろよ!」

 父の得意げな笑顔。

 だが、そのパンフレットの表紙と、隅っこに極小のフォントで書かれた注意書きを一目見た瞬間――俺の背筋に、氷水を流し込まれたような寒気が走った。

(……九条のじいさんが昨夜言っていた通りだ)

『世間の無知な親どもを食い物にする「合法的な金融ハイエナ」どもが、お前のすぐ足元に忍び寄ってるぞ』

 カモだ。

 第5話で悪徳な外貨建て貯蓄型保険と残クレのミニバンで騙されていた両親が、喉元過ぎれば熱さを忘れ、今度は銀行という名の巨大なハイエナに、虎の子の老後資金五百万円を丸ごと差し出そうとしていたのだ。

「……父さん、その相談、俺もついていく」

「ああん? 湊が? まあいいが、天下の大手銀行の資産運用相談だぞ。お前みたいな高卒の工場員が入って恥をかくなよ?」

「恥をかくのは俺じゃないよ。……コートを着てくれ。今すぐその銀行へ行くぞ」

 俺は冷徹な眼差しで、胸ポケットにスマートフォンと愛用のボールペンを滑り込ませた。

 ◇ ◇ ◇

 午前十時二十五分。

 駅前の一等地に建つ、ガラス張りの立派な地方銀行本店。

 自動ドアをくぐると、フロアの奥にあるガラスで仕切られた『プライベート・コンサルティングプラザ』へと案内された。

 ふかふかの絨毯、革張りのソファ、出された温かい高級緑茶。

 迎えてくれたのは、ピシッとした高級スーツに身を包み、銀縁メガネの奥から爽やかな笑みを浮かべる三十代半ばの男性行員だった。

 胸元の名札には『資産運用コンサルティング課 主任ファイナンシャルプランナー 成田』と刻まれている。

「倉科様、本日は寒い中ご足労いただき誠にありがとうございます! そちらは……ご子息様でいらっしゃいますか? 若い頃からご家族でお金の話に向き合われるとは、大変素晴らしい教育方針ですね!」

 淀みのない完璧なビジネスマナー。

 父と母は、高級ホテルのようなもてなしに完全に気圧され、「いえいえ、うちの息子は地元の工場勤めでして……」とペコペコ頭を下げている。

 成田は手慣れた手つきで、先ほどの金色のパンフレットと、美しいカラーの運用シミュレーション表をテーブルの上に広げた。

「健一様、由美子様。現在の日本は歴史的なインフレ局面に突入しております。普通預金に500万円を置いておくだけでは、物価の上昇によって資産の実質的な価値は目減りしていく一方です。

 そこで弊社が、日頃から当行をご愛顧いただいている大切なお客様にだけ特別にご案内しておりますのが、こちらの『世界AI・ロボティクス成長株式オープン(毎月決算型)』でございます!

 世界の最先端テクノロジー企業にプロのファンドマネージャーが厳選投資し、年利5%前後の高水準なリターンを狙います。そして最大の魅力は、なんといっても【毎月安定して支払われる分配金】です!

 500万円をご投資いただければ、毎月約2万円、年間で約25万円のキャッシュが口座に直接振り込まれます。退職後のちょっとしたご旅行や、美味しいお食事の足しにピッタリだと思いませんか?」

「おお……! 年間二十五万円! やっぱりすごいなぁ、由美子!」

「ええ、お父さん! 毎月振り込まれるなら、老後も安心ねぇ!」

 目を輝かせてペンを手に取り、契約書類にサインしようとする両親。

 成田の口元に、獲物を捕らえた肉食獣のような微かな笑みが浮かんだ――その時だった。

「成田さん」

 冷え切った声が、静かな相談ブースの空気をピシリと切り裂いた。

「はい? ご子息様、何かご不明な点でも?」

 成田は「若造が口を挟むな」と言わんばかりの、余裕に満ちた営業スマイルを向けてくる。

 俺はテーブルの上のパンフレットを指先で引き寄せ、一番最後のページの最下部――虫眼鏡がなければ読めないような、0.5ミリほどの極小フォントで書かれた注記欄をトントンと叩いた。

「中学生でもわかる算数をしましょうか、成田主任」

「……は? 算数、ですか?」

「そうです。あなたが今、うちの両親に売りつけようとしているその商品の、おぞましい【手数料の構造】についてです」

 俺は胸ポケットからノートとボールペンを取り出し、テーブルの中央に一本の線を引いた。

 ◇ ◇ ◇

「まず一つ目。このファンドを買う際、最初に銀行に差し引かれる【購入時手数料(買付手数料)】は何%ですか?」

「えっ……? そ、それはパンフレットの規定通り、税込みで【3.3%】となっておりますが……」

「3.3%ですね。

 父さん、母さん、この数字の意味がわかるか?

 父さんが今日、虎の子の500万円をこの窓口で預けた瞬間――

 その瞬間に、口座から【16万5,000円】の現金が、ただの『銀行への上納金(手数料)』として一瞬で消し飛ぶんだよ!」

「えっ……!? じゅうろくまん……!?」

 父のペンの先がピタリと止まり、母が息を呑んだ。

「500万円預けたはずなのに、運用スタート時の残高は【483万5,000円】から始まる。

 スタートラインに立った時点で、すでに十六万五千円の大赤字なんだよ!

 このマイナスを取り戻すためだけに、どれだけのリスクを取らなきゃいけないか計算したことがあるのか!?」

 成田の眉がピクリと跳ねた。だが、俺の追撃は止まらない。

「そして二つ目。持っているだけで毎年毎日、口座から自動的にむしり取られる【運用管理費用(信託報酬)】だ。

 このAIファンドの信託報酬は、年率いくらですか?」

「……年率、税込み【2.145%】です」

 成田の声から、先ほどまでの滑らかさが消えていた。

「年利2.145%!

 いいかい父さん、俺が昨夜契約した、ネット証券で買える『全世界株式(オルカン)』の信託報酬はいくらだと思う?

 年利【0.05775%】だ!

 この銀行の窓口商品はな、ネット証券の優良インデックスファンドと比べて、実に【約37倍】もの法外なぼったくり手数料を毎年毟り取っているんだよ!」

「さ、三十七倍……!?」

 父の顔から、みるみる血の気が引いていく。

「500万円を預けていた場合、運用がうまくいこうが暴落しようが関係なく、銀行と運用会社は毎年【約11万円】の手数料を自動でポケットにねじ込む。

 もし二十年間持っていたらどうなる?

 手数料の累計だけで【200万円以上】の現金が、銀行に吸い取られて消えるんだよ!

 預けた金が年利5%で増えるどころか、銀行員を養うためのボランティアをしてるのと全く同じだ!」

「な……な、何を根拠のないことを! お客様、ご子息様は誤解されています!」

 成田が慌てて立ち上がり、必死に取り繕おうと声を荒らげた。

「当ファンドはアクティブファンドです! プロが市場を分析し、インデックスを上回る成果を出すからこそのコストです!

 それに、毎月2万円の分配金が出れば、手数料など簡単にペイできるではありませんか!」

「ハッ! 出たな、最後の悪魔のペテン――【毎月分配型】の罠だ」

 俺は冷笑を浮かべ、テーブルをバンッと手のひらで叩いた。

 ◇ ◇ ◇

「成田さん、あなたプロのFPを名乗るなら、今すぐうちの両親に説明してくださいよ。

 投資信託の分配金には【普通分配金】と、もう一つ……【特別分配金(元本払戻金)】という名の、恐ろしいカラクリが存在することをね!」

「と、特別分配金……!?」

 成田の喉が、ヒクッと引きつった。

「父さん、母さん。中学生でもわかる算数をしよう。

 『毎月2万円の分配金が出る』と聞くと、誰もが『毎月2万円儲かっている』と錯覚する。

 だが、投資の世界において、毎月毎月確実に利益が出続ける魔法の株なんて、地球上に一つも存在しない。

 じゃあ、運用で利益が出なかった月、このファンドはどうやって毎月2万円を支払っていると思う?」

「えっ……? そ、それは……銀行が補填してくれるんじゃないのか……?」

「補填するわけがないだろ! 銀行は慈善事業じゃない!

 利益が出なかった月はな――

 【父さんが預けた500万円の元本そのものを取り崩して、父さんの口座に振り込んでいるだけ】なんだよ!」

「な……なんだってぇぇぇっ!?」

 父が椅子から飛び上がり、目を剥いた。

「そう、これこそが金融業界で忌み嫌われる最悪の仕組み――【タコ足配当】だ!

 自分の腹が減ったタコが、自分の足をちぎって食って満腹になった気になっているのと全く同じ!

 自分の500万円の貯金箱から、毎月2万円を勝手に引き出され、そのたびに銀行に高い手数料を中抜きされて、『今月もお小遣いが振り込まれましたよ』と笑顔で渡されているだけなんだよ!

 元本が毎月削られていくから、肝心の【複利の力】は完全に破壊される。

 数年後、気がついた時には500万円あった元本が300万円に激減し、分配金も突然ストップして大損する……!

 それが、この『毎月分配型投信』という名の合法詐欺商品の正体だ!」

 静まり返る個室ブース。

 成田の額から、タラリと冷たい脂汗が流れ落ちた。

 反論は、一切出てこない。

 すべては金融庁のレポートでも公式に問題視され、警告が出されている動かぬ事実(ファクト)だからだ。

「成田さん、最後に一つだけ聞かせてください」

 俺は立ち上がり、成田の銀縁メガネの奥の目を真っ直ぐに見据えた。

「あなたご自身は、自分のポケットマネーで、買付手数料3.3%、信託報酬2.1%のこの毎月分配型ファンドを買っていますか?

 ――買っていませんよね?

 あなた自身は、ネット証券で信託報酬0.05%のオルカンやS&P500を毎月積み立てているんじゃないですか?」

「うっ……そ、それは……業務上の守秘義務が……」

 成田は顔面を蒼白にし、視線を激しく泳がせながら口ごもった。

 完全なるチェックメイトだった。

「父さん、母さん。帰るぞ」

 俺はテーブルの上のパンフレットをパタンと閉じた。

「銀行や大手証券会社の窓口にいる人間はな、投資の専門家じゃない。

 本部のノルマを達成するために、情弱な高齢者に『手数料が一番高いゴミ商品』を売りつけるのが仕事の、ただのセールスマンなんだよ。

 ネット証券の画面なら、買付手数料は【完全無料(0円)】、信託報酬も三十七分の一で済む。

 銀行の窓口に足を踏み入れること自体が、資本主義における最大のカモ行動なんだ」

「す、すまなかった……! 成田さん、この話はなかったことにしてください!」

 父は震える手で通帳と印鑑をひったくるようにカバンに詰め、母の手を引いてブースを飛び出した。

 呆然と立ち尽くす成田を背に、俺たちは銀行を後にした。

 ◇ ◇ ◇

 正午過ぎ。

 冷たい風が吹き抜ける駅前ロータリーのベンチで、両親は熱い缶茶を握りしめながら、ガタガタと肩を震わせていた。

「湊……母さんたち、また騙されるところだったんだね……。

 高卒のお前に『勉強しろ』なんて偉そうに言っておいて……情けないよ……」

「湊、本当にありがとう……。お前がいなかったら、父さんの退職金まで全部溶かすところだった……」

 小さく丸まり、涙ぐむ両親。

 だが、その表情に以前のような無知ゆえの傲慢さはもうなかった。

「もういいよ。気付いて止血できたんだから、損失はゼロだ。

 ……家に帰ったら、父さんと母さんのスマホで【SBI証券の口座開設】をしよう。

 新NISAの非課税枠を使って、信託報酬が最安の全世界株式を毎月コツコツ積み立てる正しい手順を、俺が一から全部教えてやるから」

「あ、ああ……! 頼む、湊! 教えてくれ……!」

 力強く頷く父の背中を見送り、俺は深く息を吸い込んだ。

 自分の家族のバケツの穴を、自分の手で塞ぎ切った。

 資本主義のルールを知る者だけが、大切な人を守ることができるのだ。

「……さて。事務所へ戻るか」

 俺は自転車に跨り、作業部屋へとペダルを踏み込んだ。

 ◇ ◇ ◇

 午後十四時、実家の作業部屋。

 ドアを開けると、室内には甘く芳醇な焼きリンゴの香りが満ちていた。

「湊くん、お帰りなさい……! ご両親のお話、大丈夫だった……?」

 デスクの前で出迎えてくれたのは、白石詩織だった。

 淡いアイボリーのモヘアニットに、風に揺れるプリーツスカート。

 首元には、俺とお揃いのネイビーの手編みマフラーを巻き、黒縁メガネを外した大きな瞳を心配そうに潤ませている。

 机の上には、熱々の焼きリンゴとシナモンティーが、湯気を立てて並べられていた。

「ああ、完全に撃退してきたよ。

 買付手数料3.3%、信託報酬2.1%の毎月分配型投信を売りつけられそうになっていたが、ロジックで論破して契約を白紙撤回させた」

「よかったぁぁぁ……!」

 詩織はホッと胸を撫で下ろし、天使のような満面の笑みを咲かせた。

「湊くん、本当にすごいよ……! 自分のご両親の老後資金まで守っちゃうなんて、本物のヒーローみたい……!」

「ヒ、ヒーローなんかじゃない。中学生でもわかる算数をしただけだ」

 俺は咳払いを一つして、作業チェアに腰を下ろした。

 だが、詩織の顔を見ると、頬に微かな小麦粉がついており、指先には小さな絆創膏が貼られていた。

 俺の帰りを待つ間、キッチンで一生懸命リンゴをオーブンで焼いてくれていたのだ。

(……いかんな。また俺の経営者センサーが過敏に反応している)

 俺はデスクの引き出しから、あらかじめ用意しておいた小箱をスッと取り出した。

 銀座の老舗果実店で仕入れておいた、桐箱入りの『最高級・完熟蜜入り極上焼きリンゴタルト』と、眼精疲労を急速回復させる温熱アイマスクのセットだ。

「ほら、白石。これを受け取れ」

「えっ……? これ、すごく高そうなタルト……! それに、アイマスク?

 湊くん、私がおやつ作ったのに、どうして湊くんがプレゼントしてくれるの……?」

「勘違いするなよ」

 俺は腕を組み、冷徹な仮面を必死に張り直して早口でまくしたてた。

「中学生でもわかる組織防衛とBCP(事業継続計画)の講義をするぞ」

「ふぇ? タルトの前で、また講義……?」

「そうだ。

 いいかい白石、我が事業アライアンスにおける最高アートディレクター(お前)が、他人の家庭の金銭トラブルに過度な情動的共感を抱き、精神的エネルギーを摩耗させた場合、次期特化メディアの図解着色スピードは確実に二五%低下する!

 完熟リンゴに含まれる高純度リンゴ酸とポリフェノールによる活性酸素の除去、ならびに温熱アイマスクによる毛様体筋の緊張緩和は、組織の基幹クリエイターの【感情的レジリエンス回復および作画クオリティ保全経費】だ!

 将来生み出される何十万円ものメディア収益から逆算すれば、このタルトの投資対効果(ROI)は【実に五万%】を超える!

 極めて合理的でドライな財務上のリスクヘッジだから、一ミリも遠慮せず胃袋に収めて目を温めろ」

 息をつかずに言い切った俺の、世界一長くて過保護な言い訳。

 詩織はタルトの箱を大事そうに胸に抱きしめ、目をパチクリさせて聞いていたが――やがて、その桃色の唇をふにゃりと綻ばせ、クスクスと愛おしそうに笑った。

「ふふっ……あはは! かんじょうてきレジリエンス……? ごまんパーセント……?

 湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一甘くて優しいね!」

「な、何がおかしい。純粋な企業防衛だぞ」

「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『レジリエンス経費』を美味しく食べて、世界で一番読者さんに届く神デザインを描き続けるね!」

 詩織はフォークでタルトを切り、口元へ運ぶと「ん〜っ、甘酸っぱくてすっごく美味しい……!」と幸せそうに頬を押さえた。

 そして、フォークに新しい一口を乗せると、上目遣いで俺の口元へと差し出してきた。

「はい、湊くんもあーん! ご両親を救ったヒーローの湊くんにも、ご褒美が必要だよ?」

「お、おい……自分で食える……」

「ダメー! ほら、あーん!」

 至近距離から漂う甘いシナモンの香りと、彼女の澄んだ茶褐色の瞳。

 観念して口を開けると、濃厚なバターと蜜の甘みが口いっぱいに広がった。

 めちゃくちゃうまい。

 そして――心拍数が異常なスピードで跳ね上がり、俺の脳内プロセッサが完全に一時停止した。

(……くそっ。この女の笑顔と『あーん』の破壊力は、どんな金融工学の防御壁をも紙屑のように貫通してくる……)

 ◇ ◇ ◇

 夕暮れ時、実家のリビングで両親のスマホを操作し、SBI証券の口座開設と新NISAの初期設定を完了させた。

 自室に戻った俺は、ノートPCを開き、資産管理シートを更新した。

【本日の事業収支・資産管理シート】

・前回までの総資産:4,109,000円

・特化ブログアフィリエイト継続着金:+42,000円

・戦略的レジリエンス経費(極上タルト・アイマスク代):▲3,800円

★ 確定総資産残高:【4,147,200円】

 ピロリロリーン♪

 デスクのスマートフォンが鳴った。

 九条源蔵からのショートメッセージだった。

『ハイエナの息の根は止めたようだな、坊主』

 俺は薄く笑い、返信を打った。

『買付手数料3.3%、信託報酬2.1%のタコ足投信を完全論破しました。両親の老後資金500万円を防衛し、ネット証券の新NISAへ誘導完了です』

 数秒後、源蔵から返ってきたのは、獰猛な笑みのスタンプとともに送られた一言だった。

『へっ、親孝行が板についてきやがったな。

 だがな湊、守りの次は、いよいよ個人事業主の総決算だぞ。

 ――年が明けたら「確定申告」という名の、国家との知恵比べのリングに上がってもらうからな!』

 国家との知恵比べ――確定申告。

 青色申告特別控除六十五万円と、あらゆる経費を駆使して手取りを最大化する、最初のグランドフィナーレがすぐそこまで迫っていた。

【現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:19歳/食品工場ライン工・個人事業主(親の老後資金500万防衛完了)

・総資産残高:4,147,200円(前話比:+38,200円 ※ブログ純利加算後)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+860,000円(特化ブログ+DRMリスト成約純利)

・【今日の源蔵のマネー格言】:「銀行や証券の窓口に並ぶ商品は、客を儲けさせるためじゃなく、銀行員の手数料ノルマを満たすための毒キノコだ。手数料2%の毎月分配投信を買う奴は、自分の足をちぎって食うタコだと知れ」

読んでいただきありがとうございます。

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