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『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


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EP 6

19歳の誕生日に回す「新NISA」と複利のエンジン

 十二月上旬の金曜日、工場のスレート屋根の上には、薄っすらと初雪の粉が白く降り積もっていた。

 正午のサイレンが鳴り響き、第一工場の第二パレタイズラインが停止した瞬間、通路の向こうから「っしゃあぁぁぁぁっ!」という奇声が上がった。

 同期採用の山岸が、茶封筒を両手で高々と掲げ、食堂へ向かう工員たちの間をスキップするように駆け抜けていく。

「おい倉科! 見たかよ、手渡しされたこれ! 待ちに待った【冬のボーナス】だぜぇぇぇっ!!」

 山岸は息を荒らげ、俺――倉科湊の向かいの席に飛び込むなり、封筒から引っ張り出した支給明細をテーブルの上に叩きつけた。

「高卒一年目の寸志とはいえ、額面で【十五万円】! 所得税と社会保険料を引かれても、手取りで【十一万八千円】の臨時ボーナスだ!

 俺な、今日の定時退社ダッシュで、駅前のパチンコ屋の新台『冬のソナタ』に全額突っ込んでくるぜ!

 この十一万を元手に確変引きまくって五十万に増やして、ブログ塾の残りのリボ払いを一撃で完済してやるんだ! 勝負師の血が騒ぐぜぇぇっ!!」

 鼻の穴をこれでもかと膨らませ、血走った目で札束の幻影を追う山岸。

 その姿を冷ややかに見つめながら、俺は母が持たせてくれた温かい豚汁を静かにすすった。

「山岸。中学生でもわかる算数と統計学の講義を聞くか?」

「ああん? また算数かよ! ボーナスの日くらい夢見させろよ!」

「夢じゃない、数学的に確定している悪夢だ。

 パチンコの還元率は約八五%。つまり十一万八千円を握りしめてパチンコ屋の自動ドアをくぐった瞬間、期待値計算によりお前のボーナスは約【九万九千円】に目減りしている。

 そして試行回数を重ねれば重ねるほど、大数の法則に従って残高はゼロへと収束する。

 今夜の二十一時、お前は空っぽになった財布を握りしめ、冷たい夜風の中で『どうしてこうなった……』と涙を流しながら牛丼屋の二百円のうどんをすすることになるぞ」

「ぎゃあぁぁぁっ! 不吉な予言すんなよ! 俺は勝つ! 勝つ側の人間なんだよぉぉぉっ!!」

 耳を塞ぎながら食堂を飛び出していく山岸の背中を見送り、俺は深く息を吐き出した。

 手取り十一万八千円のボーナスで人生が一発逆転できると錯覚し、胴元に全額上納して自滅していく典型的な弱者の思考回路。

(ボーナスをもらって浮かれるのは凡人だ。

 資本家は、給料の多寡に一喜一憂しない。……手に入れたキャッシュを、いかに【未来の永久機関】へと流し込むかだけを考える)

 今日――十二月八日。

 俺は、十九歳の誕生日を迎えていた。

 ◇ ◇ ◇

 午後十七時零二分、工場のタイムカードを切って定時退社した俺は、粉雪が舞う寒空の下を自転車で疾走し、実家の作業部屋へと直行した。

 エアコンの暖房を入れ、デスクのノートPCを立ち上げる。

 画面に表示させたのは、高校三年の冬――民法改正による成年年齢引き下げ(十八歳成人)のルールを使い、源蔵の病室で開設しておいたネット証券最大手『SBI証券』の総合取引口座だった。

「……十九歳になった。

 これで、前話で家事按分と青色申告で守り抜いた事業利益の余剰金を、一気に【資本のエンジン】へと着火できる」

 現在の俺の総資産残高は、四百十万円を突破している。

 普通預金口座にただ現金を眠らせておいても、メガバンクの金利はわずか〇・〇二%前後。

 四百万円を一年間預けたところで、手に入る利息は税引き後でたったの六十数円――うまい棒が数本買える程度のゴミクズだ。

 それどころか、現在進行形で進むインフレーション(物価上昇)によって、現金の購買力は毎年二〜三%ずつ実質的に目減りし続けている。

「預金通帳にお金を寝かせておくことは、安全でも何でもない。

 じわじわと資産が溶けていくのを放置する【緩慢なる自殺】だ」

 俺はキーボードを叩き、SBI証券の【新NISA(少額投資非課税制度)】の設定画面を開いた。

 新NISAという、日本政府が国民に与えた唯一にして最強の【合法非課税チートエンジン】。

 中学生でもわかる算数をしよう。

 通常、株式や投資信託で得た利益(値上がり益や配当金)には、所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて【20.315%】という重い税金が強制的に課せられる。

 もし百万円の利益が出ても、約二十万円が国に差し押さえられ、手元には八十万円しか残らない。

 だが――新NISAの口座内で運用している限り、どれだけ利益が出ようが税率は【完全なる0%】だ!

 百万円儲かれば、百万円が丸々手元に残る。一円の税金も取られない。

「新NISAの年間投資上限枠は、合計で【360万円】。

 コツコツ積み立てる『つみたて投資枠』が年百二十万円(月十万円)。

 そして一括や追加で投資できる『成長投資枠』が年二百四十万円(月二十万円)だ」

 生涯の非課税保有限度額は、一人あたり最大【1,800万円】。

 手取り十四万の工場勤務の給料だけでは、到底使い切ることのできない巨大な非課税の器。

 だが、月商百万円を超え、毎月数十万円の純キャッシュフローを生み出す特化ブログとWebディレクション事業を持つ俺には、十分すぎるほどの燃料があった。

「銘柄選定に、ギャンブル的な個別株やテーマ型ファンドの入る余地はない」

 俺が迷いなく選択したのは、世界中の投資家から最も信頼されている二大インデックスファンドだった。

①【eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)】:通称オルカン。

 日本を含む全世界約五十カ国の先進国・新興国の大型・中型株、約三千銘柄にこれ一本で完全自動分散投資。管理費用(信託報酬)は年率わずか【0.05775%】という驚異の超低コスト。

②【eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)】:

 世界最強の経済大国・アメリカの代表的な超優良企業五百社(Apple、Microsoft、Amazon、NVIDIA等)に丸ごと投資。過去数十年間にわたり、あらゆる暴落を乗り越えて右肩上がりを続けてきた資本主義の心臓部。

「積立設定――

 つみたて投資枠:オール・カントリーに【毎月10万円】。

 成長投資枠:S&P500に【毎月20万円】。

 合計:毎月【30万円】の自動積立」

 カチリ、と購入確定ボタンをクリックした。

 年間三百六十万円の非課税投資枠を、最速の五年(年間360万×5年=1,800万)で埋め尽くすための初期設定が完了した瞬間だった。

「これで、俺が工場のラインで段ボールを折っている間も、夜ベッドで眠っている間も……

 世界中の三千社を超える超エリート企業と何億人もの労働者が、俺の資産を増やすために二十四時間働き続ける」

 俺は電卓を引き寄せ、投資の世界における絶対の公式――【72の法則】を打ち込んだ。

『72 ÷ 想定年利(%) = 資産が倍になる年数』

 全世界株式やS&P500の過去の平均リターンは、年利約5〜7%。

 仮に手堅く年利5%で計算した場合――

 『72 ÷ 5 = 【約14.4年】』。

 元本千八百万円を新NISAにぶち込んで放置しておくだけで、複利の力によって十四年後には【三千六百万円】に、二十八年後には【七千二百万円】へと雪だるま式に膨れ上がる計算になる。

「労働者が時間を切り売りして老後資金に怯える横で、資本家は時間を味方につけて指数関数的な複利の波に乗る。

 ……これが、ピケティの導き出した『r > g』の現実だ」

 トントン、と部屋のドアがノックされたのは、その時だった。

 ◇ ◇ ◇

「湊くん、入ってもいい……? 寒かったぁ……っ」

 控えめに開いたドアの隙間から滑り込んできたのは、白石詩織だった。

 アイボリー色のダッフルコートのフードに、うっすらと雪の結晶を乗せている。

 首元には、淡いラベンダー色のモヘアマフラー。

 鼻先と耳を赤く染め、白い息を吐きながら、両手で抱えていた大きな紙袋を机の上にそっと置いた。

「白石、雪の中わざわざ来たのか? 風邪引くぞ」

「だって……今日、湊くんのお誕生日でしょ? 絶対にお祝いしたかったんだもん……っ!」

 詩織は黒縁メガネを外した大きな瞳を潤ませ、はにかむように微笑んだ。

 コートを脱ぐと、中には落ち着いたワインレッドのタートルネックセーター。

 ふわりと広がる甘いバニラの香りに、俺の心拍計がピクリと跳ね上がる。

「ほら、湊くん! これ、見て……!」

 詩織が紙袋から取り出したのは、可愛らしいリボンがかけられたホールケーキの箱だった。

 フタを開けると、真っ白な生クリームの上に真っ赤なイチゴが贅沢に並び、中央のホワイトチョコプレートには、詩織の丁寧な文字でこう書かれていた。

『祝19歳!世界一の敏腕ディレクター湊くんへ 詩織より』

「バイト先のカフェの店長にお願いして、厨房を借りて作らせてもらったの……!

 スポンジも今朝焼いたんだよ! 湊くん、甘いもの好きでしょ……? お口に合うかな……?」

 上目遣いで、おずおずと俺の顔色を伺う詩織。

 手作りのホールケーキ。

 俺の誕生日を祝うためだけに、寒い朝からカフェの厨房に立ち、一生懸命クリームを泡立ててくれたのだ。

 胸の奥が、熱い蒸気で満たされるようにじんわりと熱くなる。

「……白石」

「う、うん……?」

「お前、指先が冷え切ってるじゃないか。……ほら、これを受け取れ」

 俺はデスクの引き出しから、あらかじめ用意しておいた小箱をスッと取り出し、詩織の前に差し出した。

 老舗百貨店で見立てた、極上シルクと発熱素材で編まれた最高級ハンドケアウォーマーと、ベルギーのプレミアムホットチョコレートのスティックセットだ。

「えっ……? これ、すごくあったかそうな手袋……それに、チョコレート?

 で、でも湊くん、今日はお誕生日なんだから、私が湊くんにプレゼントする日だよ……!?」

「勘違いするなよ」

 俺は腕を組み、冷徹な仮面を必死に張り直して早口でまくしたてた。

「中学生でもわかる組織財務と人的資本管理の講義をするぞ」

「ふぇ? ケーキの前で、また講義……?」

「そうだ。

 いいかい白石、我が事業部における最高アートディレクター(お前)が、寒冷環境下で指先の末梢神経を凍えさせ、微細描画能力を三〇%低下させた場合、次期メディアの図解納期の遅延損害金は【試算で最低でも月額六十万円】に跳ね上がる!

 高純度ココアに含まれるポリフェノールによる血流改善、およびシルク繊維による手指の体温保持は、組織の基幹クリエイティブ機能を維持するための【戦略的寒冷期防護および離職防止福利厚生経費】だ!

 今日はお前の功績を労う正当な経費支出の日であって、甘やかしではない!

 極めて合理的でドライな財務上のリスクヘッジだから、一ミリも遠慮せず胃袋に収めて両手を温めろ」

 息をつかずに言い切った俺の、世界一長くて過保護な言い訳。

 詩織は小箱を胸に抱きしめ、目をパチクリさせて聞いていたが――やがて、その桃色の唇をふにゃりと綻ばせ、クスクスと愛おしそうに笑った。

「ふふっ……あはは! りしょくぼうしふくりこうせい……?

 湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一あったかいね!」

「な、何がおかしい。純粋なBCP(事業継続計画)対策だぞ」

「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『福利厚生経費』で指先をポカポカにして、世界一可愛い図解を描き続けるね!

 ……あ、それとね、湊くん。私からも……これ!」

 詩織が紙袋の底から取り出したのは、丁寧にラッピングされた細長い包みだった。

 開けると、濃紺の上質なウールで手編みされた、ふんわりと柔らかいニットマフラーが入っていた。

 網目が驚くほど均一で、端には小さなバスケットボールの刺繍がワンポイントであしらわれている。

「これ……手編みか?」

「うん……! 湊くん、自転車で工場通ってるから、首元が寒そうだったから……夜、図解のお仕事が終わったあとに少しずつ編んだの。

 下手くそだけど……湊くんの首を守る『防護経費』にしてくれたら嬉しいな……なんて、えへへ」

 恥ずかしそうに頬を赤らめ、はにかむ詩織。

 手編みのマフラーに込められた、途方もない時間と想い。

 首に巻いてみると、チクチク感は一切なく、驚くほど軽くて温かい。

 そして――何より、彼女自身の優しい香りがふわりと立ち上り、俺の脳内プロセッサが完全にオーバーヒートを起こしかけた。

(……くそっ。このマフラーの保温性能は、あらゆる熱力学の法則を凌駕しているな)

「……大切に使う。工場の通勤で毎日巻かせてもらうよ」

「本当……!? よかったぁぁぁ……!」

 満面の笑みを咲かせる詩織。

 俺は咳払いを一つして意識を強制的にリセットすると、真剣な表情で彼女の目を真っ直ぐに見据えた。

「白石。ケーキのお礼と言っちゃなんだが……俺から、お前に【一生モノのプレゼント】を渡す」

「えっ……? 一生モノ……?」

「お前のスマホを出せ。……資本主義の最強の乗り物『新NISA』のエンジンを、今夜お前の手で点火する」

 ◇ ◇ ◇

「ええっ!? にーさ……!? 投資……!?」

 デスクの上のスマホを見つめ、詩織が目を丸くして身を引いた。

「湊くん、だ、ダメだよ! 投資なんて、株で全財産失って破産する人がやるやつでしょ……!?

 私、お母さんからも『株とギャンブルには絶対に手を出すな』って言われて育ったんだもん……っ!」

 恐怖で首を振る詩織。

 日本人の九割が抱いている、投資に対する典型的なアレルギー反応だ。

「白石、落ち着け。今から中学生でもわかる算数をしよう」

 俺はノートPCの画面に、一本のシミュレーショングラフを表示させた。

「お前のお母さんが言っているのは、競馬やパチンコ、あるいは怪しいベンチャー企業の株に全財産を突っ込むような【投機(ギャンブル)】の話だ。

 だが、俺が教えるのはギャンブルじゃない。

 人類の歴史が始まって以来、常に成長し続けてきた【世界経済のパイそのものへの長期・分散・積立投資】だ」

 俺は電卓を叩きながら、詩織の不安を一つずつ論理のメスで解体していった。

「白石、スタジオ・シオリの代表として、お前には今、毎月二十万〜三十万円のディレクション報酬が口座に振り込まれているよな」

「う、うん……。湊くんのおかげで、カフェのバイト代よりずっと多いお金が通帳に入ってて……使わずに全部預金に入れてるよ」

「その預金口座に眠っているお金のうち、たった【毎月3万円】だけでいい。

 毎月三万円を、全世界株式(オルカン)へ自動積立設定するんだ」

 俺は画面に、毎月三万円を年利5%で運用した場合の複利推移グラフを描き出した。

・10年後:投資元本360万円 → 【約465万円】(利益:+105万円)

・20年後:投資元本720万円 → 【約1,233万円】(利益:+513万円)

・30年後:投資元本1,080万円 → 【約2,496万円】(利益:【+1,416万円】!)

「……えっ!? に、二千四百万円……!?」

 詩織が息を呑んだ。

「そうだ。元本千八十万円に対し、寝ている間に勝手に増える複利の利益だけで千四百万円以上。

 そして通常なら、その千四百万円の利益に対して約三百万円の税金が引かれるところを、新NISAなら【一円も税金を取られずに満額受け取れる】!

 これが、国が用意した非課税枠の真の威力だ」

「で、でも……もし途中で大暴落が起きて、半分になっちゃったらどうするの……?」

「そこが一番重要だ」

 俺は詩織の瞳を真っ直ぐに見つめた。

「投資の世界には【ドルコスト平均法】という最強の防御魔法がある。

 価格が高い月も、暴落して安い月も、機械的に【毎月決まった金額(3万円)】を買い続ける。

 そうすると、暴落した時期には『バーゲンセールで大量の口数を安く仕込める』ことになるんだ!

 株価が下がった時は悲しむんじゃない。『安くたくさん買えるボーナスタイムが来た』と喜ぶのが資本家のメンタルだ。

 過去二百年間の歴史において、世界恐慌、オイルショック、リーマンショック、コロナショック……どんな巨大な暴落も、全世界株式は十年〜十五年のスパンですべて乗り越え、最高値を更新し続けてきた。

 途中で怖くなって売却さえしなければ、勝率はほぼ百パーセントに収束するんだよ」

 詩織の茶褐色の瞳から、恐怖の色が消え去っていった。

 感情論ではなく、歴史と数字に裏打ちされた絶対の論理。

 彼女の目の前に、銀行預金という狭い鳥籠から飛び出し、世界の富を味方につける滑走路が広がったのだ。

「……やってみる。湊くんが教えてくれるなら、私、新NISAやってみたい……!」

「よし。スマホを出せ」

 俺は詩織の横にぴったりと寄り添い、彼女のスマホの証券口座アプリを開かせた。

 肩と肩が触れ合うほどの至近距離。

 震える詩織の細い指先の上に、俺は自分の右手をそっと重ねた。

「ひゃぅっ……!? み、湊くん……!?」

 ビクッと身体を強張らせ、耳まで真っ赤にする詩織。

 柔らかな手のひらの温もり、至近距離から漂う甘いシャンプーの香りに、俺の心拍計が異常警報を鳴らす。

 だが、俺は極めて真面目なトーンを崩さずに、彼女の指を導いて画面をタップしていった。

「動くな、誤発注したら大変だ。

 ……積立設定、つみたて投資枠を選択。

 ファンド名は『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』。

 毎月の積立額は【30,000円】。

 分配金受取方法は『再投資』。これによって利益が自動的に元本に組み込まれ、複利のスピードが最大化する。

 ……よし。暗証番号を入力して、設定完了ボタンを押せ」

 詩織がおずおずと暗証番号を入力し、震える指先で青いボタンを押した。

 ピロンッ♪

『新NISA・自動積立設定が完了いたしました。初回買付日:1月1日』

「……できたぁっ!」

 詩織が画面を見つめ、歓喜の声を上げて振り返った。

 至近距離で視線が重なり合う。

 潤んだ茶褐色の瞳、桃色の唇、上気した白い頬。

 息がかかるほどの距離で、お互いの鼓動の音が部屋の中に響き渡るようだった。

「湊くん……手、あったかいね……」

「……コ、コホンッ!」

 俺は弾かれたように手を離し、立ち上がって窓の外を見つめた。

 心拍数が二百を超えている。

 危ない。あと一秒視線が合っていたら、財務諸表の計算式がすべて脳内から消し飛ぶところだった。

「……ま、まあ、これで白石の老後資産二千万円問題は、数学的に完全解決した。

 さあ、ケーキを切ろう。お前の糖分を補給して、次なる新企画の打ち合わせだ!」

「ふふっ……あはは! うん、食べよっか、湊くん!」

 詩織は嬉しそうに目を細め、お皿に大きなイチゴの乗ったケーキを切り分けてくれた。

 甘酸っぱいイチゴと、滑らかな生クリーム。

 手作りの温もりが、十九歳になった俺の身体の隅々まで染み渡っていく。

 ◇ ◇ ◇

 深夜二十三時、詩織を駅まで送り届けた帰り道。

 首元に巻かれた手編みのマフラーが、冬の冷たい風を完璧に遮断してくれていた。

 自室に戻った俺は、ノートPCを開き、資産管理シートを更新した。

【現在の資産配分ポートフォリオ(十九歳スタート時)】

・普通預金(生活防衛資金&運転資金):3,809,000円

・新NISA積立運用(初回設定完了):300,000円/月(年間360万円ペース)

 (内訳:オルカン10万+S&P500 20万)

★ 確定総資産残高:【4,109,000円】

 ピロリロリーン♪

 デスクのスマートフォンが鳴った。

 九条源蔵からのショートメッセージだった。

『十九の誕生日、エンジンに火をつけたようだな』

 俺は口元を吊り上げ、返信を打った。

『新NISAの枠を月30万でフル回転させ始めました。詩織にもオルカンの積立を設定させました』

 数秒後、源蔵から返ってきたのは、獰猛な笑みのスタンプとともに送られた一言だった。

『へっ、若い身空で複利のロケットに乗りやがって。

 だがな坊主、お前が賢く資産を築く一方で……

 世間の無知な親どもを食い物にする「合法的な金融ハイエナ」どもが、お前のすぐ足元に忍び寄ってるぞ。

 ――明日の朝、てめえの実家の食卓を覗いてみな』

 源蔵の不穏な警告。

 翌朝、実家のリビングで俺を待ち受けていたのは――

 銀行の窓口に呼び出され、「年利5%の特別なおすすめ商品です!」という甘い罠に引っかかり、退職金と老後資金を丸ごと差し出そうとしていた両親の姿だった。

【現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:19歳/食品工場ライン工・個人事業主(新NISA満額積立始動)

・総資産残高:4,109,000円(前話比:±0円 ※新NISA積立設定完了・運用待機中)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+860,000円(特化ブログ+DRMリスト成約純利)

・【今日の源蔵のマネー格言】:「銀行に金を眠らせる奴は、インフレで自分の資産を毎日溶かしている愚か者だ。国家公認の非課税バズーカ『新NISA』を最速で回せ。世界経済の成長という複利のエンジンに乗った奴だけが、労働の檻から脱出できるんだよ」

読んでいただきありがとうございます。

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