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『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


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EP 12

古物商許可証の取得と、悪質クレーム客の撃退法

「いいか湊。世間の小僧どもがやってる『せどり』が、なぜいつまでも世間から蔑まれ、最後は警察の厄介になって消えていくかわかるか?」

 日曜日の午後、九条源蔵の屋敷の広大なリビングで、老人は欅の一枚板テーブルをコツコツと指先で叩いた。

 テーブルの上には、俺がハードオフのジャンクコーナーから救出し、清掃と点検を経て一晩で約一万六千円の純利益を叩き出したアンプやプリンターの売上画面が表示されている。

「……法律を無視して、ただの『違法転売』をやっているからですか?」

「その通りだ。

 てめえが前にやった『実家の押し入れのガラクタを売る』のは、自分の私物処分だから何の資格もいらねえ。

 だがな、『利益を得る目的で、中古品を他所から仕入れて反復継続して売る』となった瞬間、日本の法律はそれを【古物営業】と定義するんだよ」

 源蔵は鋭い眼光を俺に向け、低く濁った声で凄んだ。

「古物営業法違反――無許可営業の法定刑を知ってるか?

 【三年以下の懲役、または百万円以下の罰金】だ。

 メルカリやヤフオクの画面の向こうにはな、警察庁のサイバー犯罪対策課や生活安全課の目が光ってる。

 ネットで小銭を稼いで浮かれてる連中の九割は、『バレなきゃ大丈夫w』と高を括っている無許可の犯罪者予備軍だ。ある日突然、自宅のドアをドンドンと叩かれ、家宅捜索令状を突きつけられて前科持ちになる。

 資本家を目指す人間が、たった数万円の申請費用をケチって人生を棒に振るような真似、俺が許すと思うか?」

「思いません。……絶対に許可を取ります」

「へっ、話が早くて助かるぜ。

 明日、工場のシフトはどうなってる?」

「明日は工場の創立記念日で、月曜ですが平日休みです」

「上等だ。寝て過ごす暇なんざねえぞ。

 市役所で書類を揃え、所轄の警察署へ乗り込んで【古物商許可証】を毟り取ってこい!

 それが、てめえが合法的に中古市場の富を吸い上げるための【絶対の盾】になるんだよ」

 ◇ ◇ ◇

 明くる月曜日の午前十時。

 俺は県警の所轄警察署の重い自動ドアをくぐり、三階にある『生活安全課』のフロアへと足を踏み入れていた。

 フロア内には独特の緊張感が漂っている。

 スチール机が並び、無線機のノイズや警察官たちの鋭い怒号が時折響く中、俺は窓口の『防犯・保安係』のベルを鳴らした。

「はい、どのようなご用件でしょうか?」

 現れたのは、四十代半ばの体格のいい男性警察官だった。

 私服のパーカーにスニーカーという俺の風貌を見て、最初は「落とし物か迷子か?」と言わんばかりの訝しげな視線を向けてくる。

「古物商の許可申請に伺いました。個人での申請です」

 俺が淀みなく告げると、警察官はわずかに目を見張り、眉をピクリと動かした。

「……古物商? 君、おいくつ?」

「十八歳です。

 民法改正により成年年齢が十八歳に引き下げられたため、古物営業法第四条における欠格事由の『未成年者』には該当しません。単独での営業許可の申請が可能です」

 俺は持参したクリアファイルをスッと窓口へ差し出した。

 今朝一番で市役所と法務局を回り、完璧に揃えてきた書類一式だ。

・古物商許可申請書(別記様式第1号その1〜その3)

・住民票の写し(本籍地記載・マイナンバー省略)

・市町村長が発行する『身分証明書』(破産手続の通知を受けていない等の証明)

・法務局で取得した『登記されていないことの証明書』(成年被後見人等に該当しない証明)

・誓約書(欠格事由に該当しない旨)

・略歴書(過去5年間の学歴・職歴。三晃紙器工業株式会社の正社員として記載)

・営業所の賃貸借契約書および使用承諾書(実家の一室を営業所とするため父の承諾書を添付)

・URL届出書(メルカリやYahoo!フリマ等の出品アカウント情報)

 警察官は書類を一枚一枚、入念にめくりながら、その完成度の高さに驚きを隠せない様子だった。

 誤字脱字はゼロ。取り扱う古物の品目も、オーディオや家電を想定した『機械工具類』、ゲームや釣り具を網羅する『道具類』の二点に絞り込まれている。

「……うん、書類に不備は一切ないね。十八歳でここまで完璧に揃えてくる人は初めて見たよ。

 じゃあ、隣の会計窓口で『県証紙』を購入してきてください。申請手数料は【一万九千円】になります」

「わかりました」

 会計窓口で、財布から一万円札二枚を取り出す。

 お釣りの千円を受け取り、合計一万九千円分の証紙を申請書に貼り付けた。

 現在の俺の総資産は、前回のせどり利益を加えて三十九万八千二百円。

 そこから一万九千円が消えるのは、一見すると大きな痛手のように思えるかもしれない。

 工場の初任給(手取り十四万八千円)の実に一割以上だ。

 だが、俺の心には後悔など微塵もなかった。

(これは『消費』でも『浪費』でもない。

 一生涯にわたって合法的かつ安全に中古市場で稼ぎ続けるための、国家公認の【参入障壁】であり、最強の【防衛ライセンス】だ)

 窓口に戻ると、警察官は書類を受領し、受付票を渡してくれた。

「審査にはおおむね四十日ほどかかりますが、何も問題がなければ来月半ばには許可証が交付されます。

 許可が下りたら、古物台帳の記載義務や本人確認義務をしっかり守ってくださいね」

「はい。コンプライアンスを徹底します。ありがとうございました」

 警察署の外へ出ると、春の青空が広がっていた。

 これで、俺の背後には「警察」と「法律」という最強の後ろ盾ができた。

 だが――防壁を固めた直後、俺は次なる利益の最適化へと即座に思考をシフトさせていた。

 ◇ ◇ ◇

 警察署の駐車場で自転車に跨りながら、俺はスマートフォンの画面を開き、ルーズリーフに書き留めておいた【販路の手数料データ】を照合した。

「……せどりで利益を残すための最大の敵は、仕入れ値じゃない。

 プラットフォームに吸い取られる【販売手数料】だ」

 中学生でもわかる算数をしよう。

 日本で最も利用者数が多いフリマアプリ『メルカリ』の販売手数料は【一〇%】だ。

 一方で、後発の『Yahoo!フリマ(旧PayPayフリマ)』の販売手数料は、わずか【五%】に設定されている。

(この『5%の差』を舐めている奴から順に、資本主義のゲームから退場していく)

 仮に、月に五十万円分の商品を販売したとする。

 メルカリだけで売っていた場合、手数料として引かれる金額は【五万円】。

 だが、Yahoo!フリマを主軸にして売れば、手数料は【二万五千円】で済む。

 差額は毎月二万五千円――年間にして実に【三十万円】もの純現金が手元に残るかどうかの違いになるのだ。

 三十万円あれば、ハードオフでどれだけのジャンク品を仕入れられる?

 利益率五〇%で回せば、それだけで追加で六十万円以上の富を生み出せる種銭になる。

(回転が最速の小物はメルカリ。

 利益額が大きい高単価な家電やオーディオは、手数料5%のYahoo!フリマやヤフオクへ流す。

 販路のポートフォリオを組むだけで、利回りは劇的に跳ね上がるんだ)

 俺はニヤリと笑い、午後の仕入れのために自転車のペダルを踏み込んだ。

 この日の午後、俺は別のリサイクルショップで、ソニー(SONY)製のハイレゾ対応・高級マルチチャンネルインテグレートアンプ『STR-DN1040』を、ジャンクコーナーの底から発掘することに成功した。

 仕入れ値は、リモコン欠品・動作未確認のため、破格の【5,500円(税込)】。

 帰宅後、無水エタノールで端子を丹念に磨き、手持ちの汎用リモコンでセットアップを行うと、すべてのスピーカーチャンネルから極上のハイレゾ音源が鳴り響いた。

 外装には傷一つない極上品だ。

 俺は第9話のマーケティング術を総動員し、本体のシリアルナンバーの刻印を高解像度で撮影。

 さらに、全チャンネルの音出し確認を行っている風景を動画で撮影し、タイムスタンプ付きでローカルフォルダに保存した。

 そして、手数料5%のYahoo!フリマへ、相場通りの【34,800円】で放流した。

 出品からわずか三時間後――。

 ピロリロリーン♪

『商品が購入されました! 購入者:ユーザー名「音響マスター」』

「よし! 仕入れ五千五百円が、三万四千八百円で即決だ」

 手数料5%(千七百四十円)と送料(千二百円)を引いても、手元に残る純利益は一撃で【+26,360円】。

 午前中に警察署で払った古物商の申請手数料一万九千円など、この一撃だけで完全に回収し、さらにお釣りが来る計算だった。

 俺はプチプチで二重に厳重梱包し、角当てダンボールで衝撃対策を施して、その日の夜のうちにコンビニから発送を完了させた。

 ――だが、事件はその二日後に起きた。

 ◇ ◇ ◇

 水曜日の夕方、工場の定時退社を終えてスマホの画面を開いた瞬間、俺の眉間が険しく寄った。

 購入者『音響マスター』から、取引メッセージに尋常ではない長文のクレームが届いていたのだ。

『おい! 届いたアンプをスピーカーに繋いだが、電源を入れた瞬間に煙が出てブチッと切れたぞ! 全く音が出ない完全な壊れ物じゃねえか!

 お前、動作品って偽ってジャンクゴミを売りつけただろ! 立派な詐欺罪だぞ!

 今すぐ取引をキャンセルして全額返金しろ! 返送用の着払い伝票を送るから住所と名前を教えろ! 警察と弁護士に通報されたくなかったら、一時間以内に返事しろよな!』

「……来たか」

 俺は冷え切った目で画面を見つめた。

 心臓は動揺で跳ねたりしない。

 源蔵から事前に徹底的に叩き込まれていた、ネット物販に巣食う最悪の寄生虫――【すり替え詐欺】の手口そのものだったからだ。

 すり替え詐欺のからくりはこうだ。

 犯人は、自宅に「壊れた同型機のアンプ」をすでに持っている。

 そしてフリマアプリで状態の良い動作品を購入し、届いた瞬間に中身や外装を自分の壊れたジャンク品とすり替える。

 その上で「壊れていたから返金しろ」と騒ぎ立て、出品者を脅して取引をキャンセルさせ、壊れたゴミを返品して、タダで良品を盗み取るのだ。

 多くの初心者は、「警察」「弁護士」「通報」という威嚇文句にパニックになり、「評価を下げられたくない」「揉め事にしたくない」という一心で泣き寝入りし、返金に応じてしまう。

 だが――相手は喧嘩を売る人間を完全に間違えていた。

「……中学生でもわかる論理で、息の根を止めてやるよ」

 俺は実家のデスクに腰を下ろすと、冷徹なタイピングで返信文を作成し始めた。

『音響マスター様

 ご連絡ありがとうございます。商品に不具合があったとのこと、大変遺憾に存じます。

 当方といたしましても、誠心誠意対応させていただきますので、まずは事実確認のため以下の手順にご協力をお願いいたします』

 俺は箇条書きで、相手の退路を一ミリ残らず塞ぐ条件を叩きつけた。

『1.当商品は発送直前に、全チャンネルからの正常な音声出力、および電源基盤の動作風景を、現在時刻のタイムスタンプ付き動画にてノーカットで撮影・保存しております。

 2.また、当商品の背面パネル右下に刻印されているメーカー固有の製造番号(シリアルナンバー)【S01-2048931-B】、および内部基盤のロット番号を高解像度写真にて保管済みです。

 3.つきましては、お手元に届いた商品の「シリアルナンバー部分の写真」および「不具合の状況が確認できる動画」をご自身の出品ページに確認用として掲載いただけますでしょうか』

 そして、俺は最後の一撃として、今週手に入れたばかりの「最強の武器」を文章の末尾に刻み込んだ。

『なお、当方は古物営業法に基づき、警察署(公安委員会)へ正式に届け出を行っている事業者(古物商許可申請済み)です。

 万が一、当方が発送したシリアルナンバーと異なる商品が返送された場合、あるいは故意による破損・すり替え行為が確認された場合は、古物営業法第十六条(取引記録義務)に基づき、保管している全データ、取引ログ、および購入者様の登録配送先情報を直ちに【所轄警察署の生活安全課およびサイバー犯罪対策課へ被害届とともに提出】し、刑法第二百四十六条の「詐欺罪」として厳正に対処いたします。

 配送事故の可能性も考慮し、ヤマト運輸への事故調査依頼も並行して行いますので、箱や緩衝材は絶対に破棄せずそのまま保管してください。

 それでは、写真の掲載をお待ちしております』

 送信ボタンを押す。

 しんと静まり返る部屋。

 相手からの返信は、一時間経っても来なかった。

 二時間、三時間が経過しても、音沙汰はない。

 威勢よく「一時間以内に返事しろ」と吠えていたクレーマーは、完全に沈黙していた。

 シリアルナンバーを控えられ、発送前の証拠動画を押さえられ、さらに「古物商」の看板と「警察への直通ルート」を突きつけられたのだ。

 すり替え詐欺を働こうとしていた泥棒にとって、これ以上の恐怖はない。

 そして――深夜二十三時四十分。

 スマートフォンの画面が、ピロリと控えめな音を立てた。

『取引メッセージ:音響マスター

 ……すいません、こちらのスピーカーケーブルの接続端子が緩んでいただけでした。電源を入れ直したら問題なく音が出ました。こちらの勘違いでした。受取評価をしておきます』

 ピロリロリーン♪

『受取評価が行われました:非常に良い』

『売上金:31,860円がアカウントに反映されました』

「……フッ、他愛もない」

 俺は画面を見つめ、静かに息を吐き出した。

 完全勝利だ。

 感情的に怒鳴り返す必要などない。

 正当な証拠(データ)と、法律の盾(古物商)を淡々と提示するだけで、悪意ある寄生虫は自ら尻尾を巻いて逃げ出すのだ。

 もし俺が古物商の知識を持たず、シリアルナンバーも控えていなければ、三万四千円の商品を奪われ、壊れたゴミを押し付けられて泣き寝入りしていただろう。

 無知は身を滅ぼし、知識は資産を守る。

 資本主義の戦場において、法とルールを知る者だけが、理不尽な略奪から生き残ることができるのだ。

 ◇ ◇ ◇

 机の上のノートPCを開き、現在の資産シートを更新する。

【本日の収支計算】

・前回までの総資産:398,200円

・古物商許可申請手数料(県証紙代):▲19,000円

・市役所・法務局証明書発行手数料:▲1,200円

・ソニー製高級アンプ売却純利益(手数料5%適用):+26,360円

★ 確定総資産残高:【404,360円】

「……四十万円の大台を、突破した」

 画面上の『404,360』という数字が、誇らしげに光っていた。

 高校卒業時、ポケットに三万二千円しか入っていなかった十八歳の口座に、四十万円を超える現金が完全に定着したのだ。

 目標の「種銭百万円」まで、あと六十万円。

 プルルル……と、机の上のスマホが震えた。

 画面を見ると、源蔵からのショートメッセージだった。

『クレーマーの処理、終わったようだな。警察の看板は役に立ったか?』

 俺は思わず口元を緩め、返信を打った。

『完璧でした。証拠データと古物商の規定を突きつけたら、相手が泡を吹いて満額の受取評価をしてきました。純利益二十六万円を確保、資産四十万円を突破しました』

 送信ボタンを押すと、即座に源蔵から返ってきた。

『へっ、青二才が生意気な口を利きやがって。

 だがな湊、せどりの防壁が完成したところで、明日は工場の現場だ。

 足元でお前の稼ぎを食い潰そうとする、愚かな「身内のカモ」どもに巻き込まれるんじゃねえぞ』

 工場の身内のカモ――。

 翌日、工場の休憩室で俺を待ち受けていたのは、リボ払いで破滅の坂を転がり落ちる先輩社員の、悲痛な叫び声だった。

【現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:18歳/食品工場ライン工(手取り月14万8,000円・古物商申請中)

・総資産残高:404,360円(前話比:+6,160円 ※申請費用19,000円控除後)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+392,560円(不用品+セルフバック+せどり累計純利)

・【今日の源蔵のマネー格言】:「合法の盾を持たねえ転売はただの犯罪だ。シリアルナンバーと法律を押さえろ。数字と証拠を握る資本家には、どんな悪質クレーマーも手出しできねえんだよ」

読んでいただきありがとうございます。

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