59.【竜太子様の想い】 改
感想、誤字報告ありがとうございます。
「ユイさん、今のどういうことだと思う?」
「それ、私が聞きたいんだけど......」
二人で顔を見合わせ、ケントさんが言った言葉を思い出してみた。
「俺、絶対にキャロルさんより強くなります。だから待っててください。絶対にそう言ったよね!?」
彼の口調を真似るユイさんの言葉に、私も大きく頷いた。
「一言一句間違ってない......と、思う」
「どう考えても、これって告白だよね?」
「そ、そ、そんなわけ」
「あるでしょ!」
「「......」」
二人黙り込んで、他の意味を探してみるが、他の意味が見当たらない。
「うぬぼれてもいいのかな?」
「いいと思う!!」
それでも不安になる私に、ユイさんが強い言葉で賛同してくれる。
『まぁ、あいつがキャロルより強くなるのは、何年後かもね』
「ノア、うるさい!」
竜太子様の言葉で現実に引き戻され、私は大きくため息をついてソファーに腰を下ろした。
「竜太子様の言うこと、強ち間違ってないかも」
「それは、彼に頑張ってもらうしかない......よね。って事で、お腹が空いたのでキャロルさん一緒に食べましょう!」
そう言って、大げさな仕草で胸の前で手を合わせて、いただきますの準備をするユイさん。
「私も一緒に食べたら二人分持ってきた意味がないでしょ。ユイさんは、竜太子様を育てる魔力分、たくさん食べなきゃ!」
私の前にあるトレーをユイさんの前に押すと「それだと、キャロルさんがお腹空いちゃうでしょ!?」と言って押し返された。
「私は後でおにぎりでも作ってもらいます」
「じゃあ、そのおにぎりを私に下さい」
トレーを譲り合う私達を『ご飯が冷めちゃうよ』冷静な竜太子様の言葉が制する。
「キャロルさんは、身体が資本なんだから、しっかり食べて。明日の討伐で、力不足になったら困るよ。だから、この料理を半分こして、おにぎりも半分こしませんか?」
「うん。そうだね」
そう言って私達二人が一緒に手を合わせ「「いただきます」」と唱えると『やっと食べれる~』と竜太子様の本音が漏れた。色とりどりに盛られたサラダの器を手に取り、大きな口を開けて美味しそうに嬉しそうに食べるユイさん。
「ところで、話は戻るんだけど、ユイさんはこれから具体的になにをするか考えはあるの?」
今一番話すべき事を問うと、ユイさんの顔が真剣な表情に変わり、箸を持つ手が止まる。
「まずは、キャロルさんとお揃いで買った、口紅を差そうと思うの。なんだか照れくさくて使ってなかったんだけど、もうそういうのやめる。あとね、レオさんとは関係ないんだけど、この国の文字を勉強しようかなって」
「文字?」
「私、みんなと普通に会話出来るから気にしてなかったんだけど、願いの紐を買いに行ったとき、石の説明の文字が読めなかったの。これからもこの国で生活していくなら、読み書き出来た方がいいでしょ!? それって自分磨きにもなると思うんだけど、どうかな?」
問いかけてくるユイさんの表情は、不安の色を覗かせる。
「それ、いいと思う。で、いつか副隊長に恋文書いちゃうとか?」
「そこまで考えてなかった。そうだね、自分の文字で伝えるっていいかも。私の話してる言葉って、結局翻訳されて伝わってるんだもんね。うん。それを目標に頑張ってみる」
微かに頬を赤く染めながら、自分の意志で目標を見つけ、前に踏み出そうとする彼女。このことが、少しでも彼女の自信になることを、願わずにはいられない。
「あっ~!!」
大切なことを思い出し、私は思わず声を上げてしまった。
「ユイさん、さっき副隊長の足音が聞こえたけど、部屋に戻ってるよね。私達の話聞こえてるんじゃないの?」
念の為、小声で問いかける。
「それなら大丈夫。防音の魔道具まだ作動したままだから」
「ずっと使ってたの?」
「レオさんに泣き声聞かれたくなくて......」
彼女は副隊長との約束を破ってしまった事を気にしていたが、今回ばかりは仕方ないことだと私は答えた。
「私が帰る時には、止めようね。副隊長が心配するから」
私の言葉にユイさんは、少し不安そうな顔をしながら小さく頷いた。
そして食事の後、ユイさんは体力をつけたいと言って、部屋で出来るトレーニングはないかと聞いてきた。どうやら食堂での手伝いは想像以上にきつく、危機感を覚えたらしい。
「食堂の手伝いがきついなんて、騎士さんに言ったら笑われちゃうよね。でも早く慣れて、お昼も手伝えるようになりんだ」
食堂を手伝い始めた日の夜から、腹筋と腕立て伏せを始めたらしいユイさん。その様子を見せてもらったが、腹筋はまだしも、腕立て伏せは酷かった。それを腕立て伏せというのには、無理がある。殆ど首しか下がっていない。笑いを堪えている私に気付き、頬を膨らませる彼女の可愛さに、さらに笑いが込み上げる。
「ユイさん、ごめん。笑うつもりはなかったの」
ジト目をしながら「じゃあ、私でも出来るの教えて」ユイさんは拗ねたようにお願いをし、私は幾つかの基礎体操を教えてあげることにした。
運動能力というより、圧倒的に筋力が足りないユイさん。毎日続ければきっと効果はあるはずと言うと「絶対にキャロルさんをビックリさせるからね」と彼女は腕組みをしてみせた。その、仕草さえも可愛いく見えるのは、羨ましい限りだ。
そして私は、後でおにぎりを持ってくることを約束して、一度彼女の部屋を出ることにした。ベッドの上で寛ぐ竜太子様に目をやると、扉を出たところで待機すように命ぜられた。
「じゃあ、また後でね」
そう言うと扉を開け、階段を下りた風を装って、息を殺して扉に張り付くように背を向けた。
『竜太子様、これでよろしいでしょうか?』
『大丈夫。ユイは全然気が付いてない』
警戒心のないユイさん相手だからこそ、出来る行動だ。
『では、詳しくお聞きして宜しいですか?』
『いいよ。僕に怒ってるみたいだし、聞きたいこと聞いてよ』
竜太子様の言葉を否定することもなく、私は単刀直入に質問することにした。
『なぜ、想い合っている二人の邪魔をするのですか? なぜ、副隊長の告白を阻むのですか?』
『別に邪魔をするつもりはないよ。ただ、確認をしたいだけ。ユイへの思いの強さと、ユイを任せられるだけの器を持った男かどうかを。まぁ、それに関しては、今のところ合格かな。
あの男、僕の威圧を笑顔で返して来たからね。今、この世界に何人いるだろうね。そんなことが出来る奴が』
『威圧、ですか?』
『食堂での飲みの席で、あいつにだけ威圧を向けたら、笑顔でグラスを掲げやがった。ホントむかつく奴だよ』
竜太子様の言葉を聞いて、副隊長が不敵な笑みを浮かべながら、グラスを掲げていた場面を思い出した。まさか、あの時そんなやり取りがあったとは。
『なんなら、僕の威圧を経験してみるかい?』
その言葉と同時に、扉に張り付けた背中を黒い恐怖が塊となって襲ってきた。足がガクガクと震え、逃げるどころか、微かに身体を動かすことさえも出来ない状況。その威圧は一瞬で消え去ったが、息をすることさえも苦しく、目には涙が浮かんできた。
『副隊長はこれを笑顔で返したのですか?』
『悔しいけどね』
悔しいといいながら、竜太子様の声はどこか喜色を浮かべているように聞こえた。
『副隊長を認めているのならば、なぜ告白を認めないのですか?』
『あくまでも、今のところ合格ってだけだ。これからどうなるかわからない。それに、ユイの気持ちも確認したいんだ』
『あんなに泣くほど、副隊長のことが好きなのにですか?』
『人の気持ちは変わりやすい。二人が付き合って、その後別れることになった場合の事を考えたことがある? ユイはこの世界で生きていくことを、考え始めている。だけど、もしあいつと別れることになったら、どうだろうね。
ユイは純粋過ぎるんだ。傷つくことを知らなすぎる。だから、ユイの気持ちを試すと決めた。傷つく覚悟をもって自分の想いを伝えるくらい、強い心がないとダメなんだ。
もしユイの気持ちが負けて、この世界にいることが辛いなら、元の世界に戻してあげようと思ってる。それは、僕が竜王になってからの話にはなるけどね。だから僕が竜王になるまでに、ユイの気持ちを確かめたいんだ。
僕は、ユイにずっとこの世界にいてほしい。だから、今はユイが泣いたとしても、二人を簡単に結ばせたりしない』
『竜太子様は、ユイさんが元の世界に戻る方法をご存じなのですか?』
『知ってるよ。僕だけが出来る。それは、僕が竜王になったらユイに伝えようと思っている。だから、今はユイには言わないで』
『そこまで試さなくても、あの二人なら大丈夫な気がするのですが?』
『そうかも、しれないけど......。だって、悔しいじゃないか。僕のユイを奪おうとするなんて、腹が立つだろ。僕の方が、絶対にユイの事好きなのに。
あいつにユイを取られるなんて、許せない。今はまだ、僕だけのユイじゃなきゃ嫌なんだ。僕の前でイチャイチャされるなんて、絶対に嫌だ』
『......まさか、そっちが本音ですか?』
呆れて顔が引きつりそうになる。
『まぁ、冗談も入ってるけど、全くの嘘じゃないかな』
その時、副隊長の部屋の扉が静かに開き、私は慌てて唇に人差し指を押し当て、声を出さないように副隊長に合図した。怪訝な表情を見せながら副隊長は静かに頷き、廊下の壁に寄りかかって私の様子を黙って伺い始める。
『それで、私はどうすればいいのでしょか? 二人が上手くいくように応援していいんですよね? ユイさんの力になっていいんですよね?』
『ユイが自分で告白出来る勇気が持てるように、支えてやって欲しい。僕はこの世界で、ユイに幸せになって欲しいんだ』
『わかりました。しかしなんでユイさんは、副隊長の気持ちに気付かないのか、不思議でしょうがないです。副隊長の好意って、あからさまですよね』
『それに関しては、僕は無実だからね。ユイが勝手に勘違いしただけだから』
『勘違い?』
『あいつがユイに言ったんだよ。他の女性と付き合う気も、結婚する気もないって。それなのに、ユイは気付かなかったんだ。他の女性......って言葉に。
ユイの完全な勘違いだよ。さすがに僕もびっくりしたけどね』
ユイさん、なんてバカなのよ。
副隊長がギリギリの告白をしたのに、それに気が付かないなんて......なんて、ユイさんらしいんだろう。情けないやら、もどかしいやら、イライラするやら、今度はユイさんに腹が立ってきた。
『子供か!』
私の突っ込みに竜太子様も同感したようで、クツクツという笑い声が聞こえた。
『まぁ、そんな感じだから、ユイの事お願いね。あと、そこにいる奴にも、適当に説明しておいて』
副隊長がいることに気が付いていた竜太子様は、そう言うと思念を切り会話を終了させた。私は静かに待っていた副隊長と一緒に、無言のまま執務室へ入り話をすることにした。
「ずっとユイさんの部屋の前から気配が消えないと思って出てみれば、何をしていたんだ?」
「竜太子様と話していました。ユイさんと一緒いると、私達ずっと話してるから、竜太子様と話せないんですよ」
納得という表情の副隊長に「竜太子様が、今のところ合格だって言ってましたよ」と伝えると「そうか」と、彼は安心したように息を吐いた。
「竜太子様は、ヤキモチを焼いているのもあるけど、それだけじゃないみたいです。ユイさんが、この世界で幸せになれるよう、彼なりの考えがあるみたいです。
ユイさんって、恋愛初心者だから、押しに弱そうでしょ!? 誰かに求められてじゃなく、ユイさん自身に本当に好きになれる人を見つけさせたいみたい。
だから、副隊長頑張ってください。竜太子様のあの威圧に耐えれる人なんて、そうそう居そうにないですし、ユイさんの相手として間違いなく一番近い存在だと思いますよ」
「お前、あの威圧を体験したのか?」
「正直、ちびりそうでしたよ」
「お前、そんなこと口にするなよ」
思い切り呆れた表情を見せる副隊長は、食堂で見た時より少し元気になったように見えた。
竜太子様のあの威圧を、笑顔で返したという副隊長。彼の凄さを分かっているつもりだったが、それはまだまだ序の口だったことを今日思い知らされたのだった。
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