41.【頑固で素直な人】 改
急遽決まった『ユイ様歓迎会』という名目での飲み会の席で、俺は隣に座る、悪友の切なげな表情を見つめた。
レオに出会ったのは騎士養成学校の入学式で、既に十二年の付き合いになるが、この男のこんな表情を見るのは初めてだった。
十代の頃は俺と大差ないほど、女性関係が派手だったこの男。だが、その理由は俺とは全く違うものだった。
俺のは単なる女好き。
可愛い女の子が大好きで、その時その時が楽しければそれでいいと思ってる、自由な恋愛を楽しむ最低男だ。
だがレオは違った。
男の俺でさえもドキッとさせるような色気を纏い、誰から見ても美男子と言われるこの男は、自分の容姿を毛嫌いし、それに惹かれて近づいてくる女の子達を、恨んでいるのではないかと思うほどだった。
自分の外見だけを見て「好きだ」「愛してる」と囁いてくる女の子を適当に相手にし、勝手に理想を押し付けてくる彼女達を、平気で切り捨てた。
本当の彼は誰よりも、彼自身を愛してくれる人を求めていたのではないかと、今となっては思うが、子供だった当時の俺には、自分以上の最低な男にしか見えなかった。
自分が傷つかない為に身に付けた鎧が、女性を軽視する態度だったのだろう。
実力を付ければ付けるほど、レオに近づこうとする女性は増え、騎士団に入ってからも暫くは女性関係も派手だった。しかし、二十歳を過ぎた頃からは女性との関係を全て断ち切り、仕事に没頭するようになった。
彼を取り巻く妬み嫉みは暫くは酷かったが、それを黙らせるだけの実力を身に付けて、史上最年少二十五歳という若さで、魔物討伐主要部隊の副隊長にまでなった男。
「愛される自信も、愛する自信もない」
酒の席で一度だけレオが口にした言葉を、俺は今でも覚えている。彼自身は忘れてしまったかもしれないが。
「女性と付き合う気も、結婚する気もない」
それを公言し、貴族のお嬢様から届く縁談さえも拒絶していた彼が、自分の思いを隠そうともせず、一人の女性を愛おしそうに見つめる姿に、見ているこっちまでが切なくなった。
最初は彼女への思いを否定していたレオも、今では肯定するかのように抗うことはなくなった。まぁ、否定したところで誰も信じる訳がないが。
最初は揶揄っていた魔物討伐部隊の連中も、今ではレオの思いが届くようにと、温かい気持ちで見守っている。彼自身気付いているのか知らないが、二人の事に口を出さないのが、暗黙のルールとなっているのだ。
そしてレオが思いを寄せる竜母様であるユイさんは、捉えどころのない不思議な人、としか言いようがない。異世界から来たからこの国の常識が当てはまらないのか、この人が特別なのかわからないが、兎に角見ていて飽きない人だ。
以前彼女に、レオの外見について聞いてみたことがあったが、その時彼女は想像通りの言葉を並べ立てた。
「めちゃくちゃカッコイイ。顔はもちろん、背が高くてスタイルもいい。足の長さなんて半端ないし、髪なんてキラキラしてて、今まで出会った中で断トツで男前」と。
それなのに彼女は、レオに特別好意を持っている風でもない。疑問を投げかけると「カッコイイけど、それだけで好きになることはない。良くも悪くも外見だけで判断するのは、その人に失礼な気がする。私は、その人のことを知って少しずつ好きになりたい。でも、友達としては既に大好きですよ」と、当たり前のことだと言うように答えてくれた。
その時、レオが彼女に惹かれた理由が分かった気がした。外見ではなく自分の内面を見ようとしてくれる彼女の前だから、レオは自分を守るための鎧を脱いで、本当の自分でいられるのだろう。
竜母様という高貴な立場にありながらそれを拒否し、平民でいることを希望していると聞いた時は、正直「この人はアホなのか?」とさえ思った。しかし、彼女の天真爛漫で自由な人柄を知った今では、納得がいく。
人の意見に流されず、国王陛下にでさえ自分の意見を陳ずることが出来る頑固者。それなのに自分に非があれば、素直に認め謝ることも出来る素直な人。
『頑固で素直な人』
相反する性格を併せ持つ彼女を、俺は捉えどころのない不思議な人としか表現できない。
そして俺が一番懸念している事は、彼女自身が否定しようとも、高貴な存在であると言うことだ。歴代の竜母様は、全員もれなく王族または高位貴族に切望され、輿入れしているのだ。つまりユイさんにも、遅かれ早かれ、王族や高位貴族との縁談が持ち上がることが予想される。
彼女なら納得がいかない縁談を受け入れるとは思えないが、国王陛下に切望されて、王族への輿入れを断ることが出来るのかとも思う。断る理由があるとすれば、縁談が持ち上がった時には、既にユイさんに『想い人』が居る事だけのような気がする。
だから早く彼女との距離を縮めて欲しいと思うのだが、レオ自身に焦った様子は見られない。何よりもまずは、彼女よりも攻略が難しそうな竜太子様に認めて貰うことが先だと、考えているようだ。
竜太子様とレオの中でどんなやり取りがあったのかはわからないが、竜太子様に向けてグラスを掲げ、不敵な笑みを漏らしているレオの横顔は、王者に挑戦状を叩きつける男の顔だ。
俺はその横顔を見ながら、彼の挑戦が成功することを静かに祈って、グラスに並々と注がれた清酒をぐいっと一気に飲み干した。
彼女にレオの思いが届くことは、あるのだろうか。
少しでも面白い、続きが気になると思ってくれた方は
ブクマ、評価をお願い致します。




