40.【恋の発見】 改
何故だかわからないけど、ノアとレオさんの間に、火花が散っているような気がする。二人に何があったんだろう?
いや、何もないはずだ。だってノアはずっと私と一緒にいるのだから、何かあったら絶対にわかるはず。さっき一瞬離れた時? そう思ったが、それは違うと直ぐに気が付いた。
ノアは初めてレオさんに会った時にも「嫌い。負けない」と言ったのだ。考えれば考えるほど、意味が分からない。
酔った頭で思考しても、答えなんて出るはずがない。ただ、子供のような存在のノアと、大切な友達であるレオさんが仲良く出来ないのは悲しい。ノアを膝の上に抱き、声に出さずに問いかける。
『ノア、レオさんの事嫌い?』
『好きになる理由がない』
『レオさんは、私を守ってくれた人だよ。彼がいなかったら、私はノアと出会えてない』
『......でも、認めたくない。ユイはあいつの事、好きなの?』
『もちろん大好きだよ。とっても大切なお友達』
素直な気持ちをノアに伝えたはずなのに、私の胸の奥がチクリと小さく痛んだ。
ん? なんだこれ?
左胸を抑え、胸の痛みの理由を考えていると「ユイさん大丈夫?」とキャロルさんに心配そうに話しかけられた。
「酔った?」
「ちょっとだけ。キャロルさんも顔、赤いよ」
「うふふふ、私もちょっとだけ」
本当は二人共、ちょっとどころではなく酔っている。お互いそれが分かっているから、顔を見合わせて笑い合った。それを何度も繰り返し、最後にはお腹が痛くて涙まで出てきた。これはちょっと、酔い過ぎたみたいだ。
「お前達、大丈夫か?」
心配するレオさんに「全然らいじょうぶ。何なら歌だって歌えちゃう」と返事をすると「私ユイさんの歌聞きた~い」とハイテンションのキャロルさんに言われた。
「俺もユイ様の歌聞いてみたい」
「俺達にも聞かせてくださいよ」
いつもなら大勢の前で歌うなんて絶対にしないのに、この時の私は完全にテンションがおかしくなっていた。
「よし、わかった。ピアノもあるし歌っちゃう」と言って立ち上がり、「待っててね」とノアをテーブルの上の籠に下ろして、ピアノの前に移動した。ちょっと足元がフワフワするが、ここは気合だ。
「じゃあ、キャロルさんにお礼を込めて歌おかな」
私はそう言うと、いつも自分を支えてくれる、彼女への気持ちを込めてピアノを弾き始めた。ちょっと舌っ足らずになっているのは、御愛嬌だ。
最近、自然とキャロルさんの事を思い浮かべて、歌うようになった曲がある。
辛いときに一緒に泣いてくれたあなたがいたから、今の私がある。
だから今度は私があなたを支えたい。
そんな思いが込められた大好きな曲。彼女に感謝の気持ちが伝わるように思いを込めて......。
ピアノを弾き終わると、シーンと静まりかえった中で、啜りなくような声が聞こえ、私は驚いて振り向いた。それに気が付き、黙ってキャロルさんを見つめる騎士さん達......。
「キャロルさん、どうしたの? なんか、ダメだった?」
急いで駆け寄ると「ユイさんの、歌の、意味......わかったの」と、涙を拭うキャロルさん。
「どういうこと?」
「頭の中、流れて、きた」
ぽろぽろ泣きながら、一生懸命に話すキャロルさんの隣にいるノアが、私に向けて明らかなドヤ顔をしている。
「もしかしてノア?」
『僕だよ。偉い? 褒めてくれる?』
「ノア、そんな事まで出来るの!?」
黒く小さな身体で、胸を張るようにして威張るノアの頭をグリグリと撫で「凄いよ、ノア凄いね」と褒めちぎった。
「竜太子様、やっぱすげぇ」
「俺も意味知りたかった」
「キャロルだけズルイ」
騎士さん達の言葉で、歌の意味が理解出来たのは、キャロルさんだけなんだと分かった。
「どうしてキャロルさんだけ?」
『キャロルの事は好きだから』
そうか、まだ他の人の事は認めてないってことなのね。それを口にすることは出来るはずもなく「キャロルさんの為に歌ったかららしいです」と答え、残念そうにする騎士さん達に「次は皆さんの為の歌を、練習しておきます」とだけ伝えた。
「ユイさん、ありがと。そんな風に、思ってくれて」
おしぼりで涙を拭くキャロルさんをギュッと抱きしめると「ユイさん、私と、結婚しましょう」と突然プロポーズされ驚いた。
「「「「「え~!!」」」」」
食堂全体がどよめいた。
「キャロルさん、ありがとうございます。今なら私も、キャロルさんと結婚できる気がします」
「「「「「え~!!」」」」」
私の返事に再びどよめく食堂。
「誓いのキスでもしますか!?」
「仕方ありませんね」
変な空気の中、冗談半分でキャロルさんと向かい合ってキスする振りをすると、不意に私とキャロルさんの間からノアが顔を出し、その頬に二人でキスをしてしまった。
「なんでノア~!!」
『ユイのキスは僕のもの』
「あはははっ、そうだったね。ごめんノア」
笑いながらノアの行動の意味を皆に教えると、それはそれで驚かれた。
「竜太子様と普段キスしてるってこと?」
「だってノアがしてくるんだもん。ね~ノア」
私の目の前で苦笑いをするレオさんと、呆れた表情を見せるウイルさん。
「私もユイさんとキスする~!!」
そう言って、私の頬にキスをしようとしてきたキャロルさんを避けようとした時、レオさんの向こう側にいるケントさんと目があった。顔を赤らめ目を逸らすケントさんを見て、ちょっと悪ふざけが過ぎたかなぁと反省をすると、彼の甘い視線が私の隣に向いた事に気が付いた。
ん?
ケントさんの顔を見つめると、見られていた事に気が付いた彼が、焦ったようにまた視線を逸らせた。顔が赤いのは、酔っているからだけではなさそうだ。あらっ、そういうこと!?
どうやら今日の飲み会に、キャロルさんを誘ったのには意味があったようだ。思わぬ恋の発見をしてしまった私は、その後も何度も彼を見て、ニマニマとしてしまった。




