26.【このまま帰っちゃダメ】 改
双頭の蛇が消えてすぐに、レオさんが私に駆け寄ってきた。
「ユイさんがなぜここにいるんだ!?」
片膝をつき私の側にしゃがみこんだ彼に、いつもより強い口調で問いかけられる。
「王城の地下室から転移してきました。卵を守るために」
「どうしてそんな危険なことをするんだ!」
レオさんが語気を強めた。
「すまない。怒ってるんじゃないんだ」
頭を掻くレオさんの深い紫の瞳が揺れ、長い睫毛が影を落とす。
「わかってます。心配してくれたんですよね!?」
私は首を傾げて、彼の顔を覗き込んだ。レオさんは少し呆れ気味に息を吐くと「もう少し待っててくれるか」といって私の頭をくしゃっと撫でて、出口の方へ向かって行った。
卵を抱えたまま、ゆっくりと辺りを見回す。騎士さんの中には、怪我をしている人も少なくはなく、片足が溶けかかっている人もいた。これがレオさんの、騎士さん達の仕事なんだ。
目の当たりにした事実に、私の胸の奥がぎゅっと痛くなった。自分の胸元の服を掴み、込み上げてきそうな涙を押さえ込んだ。
もう泣かない。何度も何度も、自分に言い聞かせながら......。
だって、泣いていいのは私じゃない!
暫くして「ご無事でなによりです。卵を守っていただき、ありがとうございます」と、側に来て膝をついた隊長さん。その彼の左腕の肘から先が、失われていることに気が付いた。
「隊長さん、腕が......」
一気に血の気が引くのが分かった。
「これくらい大丈夫です。魔導師統括長にお願いすれば、すぐに元通りになりますから」
そう言葉にする隊長さんは、本当に平然としている。
「これくらいって......」
私は言葉を失って、隊長さんの顔を見つめた。
「それにポーションも飲みましたし、もうすぐ魔導師も到着しますから心配いりません」
隊長さんは笑顔で自分の左腕をぽんと叩いて見せ「立てますか?」と右手を差し出してくれた。強面の隊長さんが見せてくれた、初めての笑顔だ。
「ごめんなさい。立てそうもありません」
自分の腰から下に力が入らず、全く立てる気がしない。
「そうなるでしょうね。あんな魔物、私達でも初めて見たんですから」
「そう、なんですね」
それなら尚更、臆することなく向かっていった騎士さんは凄いと思った。仕事だと言われればそれまでだが、やっぱり凄いとしか言いようがない。
「レオ、ユイ様を抱えて差し上げろ」
う、う、うっ、やっぱりそうなりますよね。ホント申し訳ない。
それから私は、卵と一緒にレオさんに抱え上げられた。
「おっレオ、役得だな」
ウィルさんの言葉にぶっきらぼうに「うるさい」とだけ答えるレオさん。
「ホントすみません」
「気にするな」
優しい声が耳元で聞こえ、私の顔が熱くなる。
「レオが優しいって、ぜってぇおかしい」
「レオさんが女性に優しいの、初めてみました」
「副隊長、女性に優しく出来るんですね」
「お前、逆に気持ち悪いな」
みんな、酷すぎませんか?
騎士さん達のレオさんに対する言葉が酷すぎて、私の知らないレオさんをちょっと想像してみた。だけど、私は優しい彼しか知らない。そうじゃない彼が想像出来ない。顔を上げ彼の顔を見ると「ん?」って顔をされて、私は顔を横に振って答えた。
うん。それは知らなくていいかな。
それから私は、王城の地下に魔法陣の転移で帰らなければならない事を伝えた。
「レオさんも一緒に、転移出来るのかな?」
「もしもの時は、ユイさんだけ転移するしかないな」
「ですよね」
私はそう返事をしてレオさんに、竜の像まで連れていってもらった。私達の様子を興味深気にみる騎士さん達。
あれ? あたし何か忘れてる気がするな。大事なこと、思い出せそうで思い出せない。
なんだろう......まぁいいか。後で考えよう。
手を伸ばして竜の像に触れ「王城に帰れますか?」と私が問うと、腕輪が光を放ち足元に魔法陣が現れた。ここに来た時と同じように、青白い光に包まれた私とレオさん。でもその瞬間、私はとても大事な事を思い出した。
「このまま帰っちゃダメ~!!」




