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21.【彼女との時間】 改

 ユイさんが「竜母とバレたくない」と言ったとき、俺は彼女に嘘をついた。彼女が私服であれば、俺が私服である必要なんてなかった。


 討伐部隊が護衛をすることはないが、騎士服で街中を歩くことは不自然なことではない。『騎士服で女性と歩く=護衛』と言うわけではないからだ。


 しかし彼女は、そんな俺の言葉を信じてくれた。彼女に対して少し胸が痛んだが、俺はそのことに気付かないフリをして、隊長の元へと向かった。隊長は反対はしなかったが、きっと疑問に思ったのだろう。なにか言いたげな顔で俺を見て「楽しんで来い」とだけ告げた。


 俺は一体何がしたいんだ!?


 戸惑いながらも、彼女にもっと近づきたいという気持ちが抑えられない。正直自分でも、自分の気持ちがよく分からない。ただわかっているのは、ユイさんが今まで出会って来た女性とは違う、と言うことだけだ。


 西の広場のマルシェに着き、瞳を輝かせて次々と店を見て回る彼女から、目が離せない。護衛が出来ない事を理由に、彼女と手を繋ぐ。嫌がる様子を見せない代わりに、俺に怒られたのだと勘違いし、落ち込んでいるユイさん。


 俺はなんて卑怯なのだろうか。心配している風を装って、手が繋ぎたいという感情を悟られないようにしている。素直に言葉にすれば、彼女はどんな反応をするのだろうか。


 それから間もなくして、楽しい時間を壊すように現れた女性。数年前から好意を向けられ、断り続けてもなお、手紙を寄越してくるその女性は、あろうことか冷たいルフィナ茶をユイさんの胸元に浴びせた。


 少しでも早くユイさんと彼女を遠ざけたい気持ちから、ユイさんを恋人だと言ったことが気に入らなかったらしい。ただユイさんとの時間を、邪魔されたくなかっただけなのに。


 怒りのまま女性の腕を強く握り締めている俺に、ユイさんは優しく笑いかけてくる。自分が被害に合っているというのに、俺の心配をする彼女の笑顔が、胸を締め付ける。


 ユイさんを巻き込んでしまったことが申し訳なく、彼女の顔が見れない。そんな俺の頬に触れ、おどけてみせる彼女。


 俺が負い目を感じないようにと、代わりの服をおねだりする彼女に救われる。もう彼女に惹かれている自分を、認めるしかない。もうどうやっても誤魔化せない。


 ウィルにお前らしくないと言われても、もう前の自分に戻れない。今までの女性を拒絶するだけの自分より、今の自分の方が自分らしい気さえしてくる。こんな自分がいることさえ、今まで知らなかったというのにだ。自分の気持ちを認めたのだから、もう抑えることはしたくない。



 お揃いの服を着て、デートを楽しんでいる恋人同士にしか見えない状況で、彼女が「これが初めてのデート」だと言った時には、嬉しさでにやける顔を隠すのが精一杯だった。

 彼女が出会えるのを待っている運命の相手が、俺ならばいいのに。心からそう思った。


 想像していたよりも小さく、柔らかな彼女の手をもう一度握り直した時、女性と手を繋いで歩くのは自分も初めてだった事に気が付いた。



 昼食を広場のベンチで一緒に食べながら、ずっと通りかかる人達を眺めているユイさん。隣でにこにこと微笑む彼女を見て、俺も幸せな気持ちになり自然と笑みが溢れた。そしてこの街の人を見て、竜母様になる覚悟が決まったと彼女は言った。


 自分が生まれ育った世界でもなく、縁もゆかりもないこの国の人の為に、自分に出来ることをやりたいと言ってくれた彼女。それなら俺が、彼女を守り支える存在になりたい。比喩でも大げさでもなく、命をかけて彼女を守りたい。


 明日、竜の卵に会いに行くと言う彼女と過ごす、残り僅かな時間。彼女が正式な竜母様になれば、俺と彼女の関係も変わってしまうかもしれない。だからもう少し、二人で過ごす穏やかなこの時間を、楽しみたかった。だけど、そんな俺の願いが叶えられることは、なかった。


 

 王城へと続く大通りを彼女と歩いていると、遠くから馬が駆けてくる音が聞こえた。身体強化の一種である聴覚強化を行うと、俺を探している部下の声が聞こえ、嫌な予感に包まれた。


 焦った様子で、すぐに宿舎に帰って欲しいという部下から、竜王の洞窟入口で見張りをしていた隊員が、殺されているのが見つかったと報告を受けた。


 二日前、竜王の森に不審者が侵入した形跡を見つけ、森の警戒と洞窟の見張りを強化したばかりだった。洞窟入口の見張りをしていた隊員は、四十代のベテランと二十代の若手の二人組。一人は殆ど抵抗することもなく、頚動脈を掻き切られていたという。もう一人も戦闘した形跡はあったが、心臓を貫かれて即死状態だった。


 魔物討伐主要部隊員の二人である。四百名以上いる騎士団の中でも、上位の実力を持つ者がいとも簡単に殺されたのだ。対人戦より対魔物戦を得意とする隊員といえど、どこか釈然としない。

 侵入者は一人ではないだろう。そうかといって人数が多ければ、見つかる可能性も高くなる。つまり侵入者は、少数精鋭だと予想された。


 俺はユイさんと一緒にクレイに乗ると、彼女を支えられるギリギリの速度で宿舎に戻った。怖くて必死にしがみついてくる彼女を気遣いながらも、戻るスピードを落とすことは出来ない。


 王城前の坂道を一気に駆け上がると、裏門の門番の対応は後ろを付いてきている部下に任せ、止まることなく宿舎へと急いだ。宿舎の前ではキャロラインが俺達の帰りを待っており、ユイさんのことを彼女に頼むと、討伐服に着替えて、先に竜王の洞窟に向かった隊長達を追いかけた。

 


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