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16.【好きなもの】 改

 この世界での自分の存在意義。竜王の育ての親『竜母』になるために、私はここにいる。いや、連れて来られた存在。私にしか出来ない事が、ここにはある。


 元の世界では、どこにでもいる平々凡々な女の子だった。良くも悪くも目立つことなく、普通の人生を歩んできた。誰かの為に出来ることも、誰かに求められることもなく、ただ自分の存在を否定されないように、人に嫌われないようにと思いながら、私は生きてきた。


 保育士になりたいという想いはあったが、じゃあそれがどれくらい本気だったか問われると、返答に困るくらいである。消去法で見つけた将来の夢。そんな感じなのだ。


 昨日見た、騎士さん達の事を思い出す。なりたい自分になるために努力を惜しまず、自らの命を懸けこの国を守る彼ら。私のように、消去法で将来を決めた人なんていないだろう。そんな気持ちで、自分の命を懸けなければならない仕事を選ぶ人なんていない。


 レオさんやキャロルさん、多くの騎士さんを守るなんて大それたことは言えないけれど、今の私なら誰かの役に立つことが出来ると思った。竜母になることで彼らを少しでも手助けが出来るのなら、そんな人生も悪くはない。


 選択肢がないだけだと言われたらそれまでだが、少なくとも今までの人生よりは有意義に生きれそうな気がする。私の覚悟が決まるまで、そう遠くはないかもしれない。


 自分の魔力について聞いてから考え込んでしまい、口数が減ってしまった私を心配したのか、キャロルさんが不安そうな声で私の名前を口にした。


「ユイ様、大丈夫ですか?」

「えっ? ......あっ、ごめんなさい。色々考えてしまって」

「配慮が足りず、申し訳ありません」

「何のことですか?」

 キャロルさんの言葉使いが、敬語に変化していることに違和感を覚えた。


「ユイ様を追い詰めるような事を言ってしまいました」

「いえ、御陰で気づけた事がありました。お礼を言いたいくらいです」

「そんな......」

 キャロルさんの表情は、硬いまま。


「キャロルさん、私はあなたと友達になりたい。ううん、もう勝手に友達だと思ってる。だから遠慮とか、敬語といらない。それとも、そう思われるのは迷惑?」


「......滅相もありません。あの......実は私もユイさんと友達になりたいって思ったの。でも、やっぱり何処か遠慮があって。でも、もう本当にやめる。ユイさん、私の数少ない女友達になって」


「友達少ないの?」

「男友達しかいないの。ここ男しかいないから」

「なるほど」

 騎士団全体でも数名、魔物討伐部隊だとキャロルさんしか、女性騎士はいないと聞いた気がする。


「副隊長も友達?」

「さすがに、副隊長さんを友達と呼ぶのは失礼では?」

「よし、私が一歩リードね」


 私とキャロルさんは、顔を見合わせて笑い合った。この世界に出来た初めての友達。これから少しずつ、この世界に好きなモノが増えていくといいな。




 昼食は昨日と同じように、レオさんとキャロルさんと三人で、食堂で食べることにした。今朝騎士団統括長さんから、私に対してむやみに最敬礼をしないことが通達されたらしく、今日は落ち着いて食事をすることが出来た。

 挨拶は軽い会釈ですませ、昨日と同じテーブルにつく。


「副隊長、私ユイさんと友達になったんです。いいでしょ!?」

 もう外でも敬語じゃないんだ。嬉しい!

「キャロルさん、そんな胸を張って自慢しなくても」

「お前が友達なら、俺だって友達だろ?」

 あっ、レオさんも敬語じゃない。えへへっ。一人にやける私。


「副隊長は違うそうですよ」

「え? ......そう、なのか?」

 私を見るレオさんの顔は、本気で驚いた様子だ。


「副隊長さんに対して、さすがに失礼な気がして......」

「ユイさん、副隊長本気でショック受けてるみたいよ」

 キャロルさんが小声で伝えてくるが、耳のいいレオさんには意味がない。


「えっと、じゃあレオさんも、友達になってくれますか?」

「……無理させてる気がする」

 レオさんがちょっといじけてるように見えるのは、気のせいだろうか? なんだか、ちょっと可愛い。


「そんな事ないですよ」

「友達確認するって変よね。私達」

 キャロルさんの言葉に「子供みたいね」と、三人で笑いあった。この世界の好きなモノが、また一つ増えました。


「そう言えば昨日話したピアノだけど、あの隅にあるのがそうだ」

 レオさんが食堂の片隅を指さす。


「隊長に確認したら、以前第一部隊の隊長がいらなくなったピアノを寄付したらしい。昔は弾いてた隊員もいたらしいが、今は誰も弾く者がいないから、ユイさんが弾いてくれたらピアノも喜ぶだろうって」


「本当に? 嬉しい。......でも、ここで弾くのはちょっと恥ずかしいな」

「それなら夜、食堂が締まってから弾きにくればいい。俺が護衛する」

「迷惑じゃない?」

「ユイさんの歌は、心地いいって言っただろ」


「副隊長、ユイさんの歌聞いたんですか?」

「何度もあるぞ。お前は聞いたことがないのか?」

 レオさん、その顔完全に煽ってますよね? 私は何故か、二人の顔を交互に診る羽目なってしまった。


「うわぁ、すっごい悔しい!」

 二人のやり取りが、何かおかしい気がする。


「ピアノの調律は、今日の午後来てもらえるらしい」

「今日? 早くないですか?」

 対応の早さに驚きを隠せない私。


「夜には弾けるぞ。どうする?」

 深い紫の瞳が真っすぐに私を見つめ、問いかけてくる。


「レオさんが忙しくなければお願いします」

「わかった。食堂が締まる時間に迎えに行く」

 口元に薄っすら笑みを浮かべて、優しい瞳で答えてくれるレオさん。


「レオさんが忙しい時は、キャロルさんに護衛をお願いしていい?」

「なんなら私がずっと護衛しますけど?」

 キャロルさんは、ちょっと不満げに口元を尖らせている。


「ユイさんは、部屋が隣の俺の方が頼みやすいだろうからな」

「女性の私の方が、頼みやすいと思いますけど?」

 視線をぶつけ合う二人の間に、一瞬火花が見えた気がするが、この二人は一体何を争っているのでしょうか?




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