15.【属性と髪と瞳】 改
レオさんに連れていってもらった練習場は、6m程の高さのある塀に囲まれた、サッカーグランド位の広い場所だった。想像以上に広い場所に驚き理由を聞くと、騎士さん以外にも魔導師さんも魔法の練習に使うということで「なるほど」と納得をした。
この世界に来て三日目、未だに魔法を見たことはないが、元の世界にはなかった魔法の話を聞くと想像するだけでもワクワクする。一体どんな魔法があるのだろう。明日は魔法の事をキャロルさんに聞いてみよう。
今日は練習が休みだと聞いていたのに練習場では、若い騎士さん達が剣をぶつけ合って切磋琢磨しているのを目にした。私より年下だと思われる、見た目が十代の騎士さん達が怪我を恐れず、一人前になることだけを目標に頑張っている姿には胸が熱くなった。
『平和ぼけ』していると言われる日本で生まれ育ち、遠い国で行われている戦争を他人事だと思って生きてきた私。危機意識なんて持ち合わせてない私が初めて目にした、自分の命を、大切な人を守るための訓練。
実際には、日本でも事件に巻き込まれることも、事故に合うこともある。死が身近にない訳ではないが、そこまで近いと感じたことはない。でもこの世界は違う。怪我を恐れず日々魔物と戦い、死と隣り合わせで頑張ってくれている人がいるからこそ、守られてる国民の安全。
彼らがもし自分の弟や恋人だったら、私は平然と仕事に送り出せるのだろうか。どうか彼らの大切な人が悲しむことがないようにと、私は心の中で祈ることしか出来なかった。
彼らを思い、どうか彼らの努力が報われますようにと考えていると、ふとスマホにダウンロードしている曲が頭に浮かんできた。無意識のうちに鼻歌を歌っていた事に気付き、慌てて振り向くと、レオさんににこやかな顔で微笑まれた。
いつもの癖がこんなところで出てしまうなんて、と恥ずかしい思いでいると、まさかの言葉が......。
部屋でスマホの曲を聴きながら、歌っていたことが筒抜けだったなんて......なんてこった。なんなら振り付きで踊ったりもしたけど、さすがにそれはバレていないだろう。
レオさんに思い切り歌えばいいと言われたとき、一瞬躊躇いの気持ちがあった。だけどこの世界に来て趣味の弾き語りが出来なかった事で、思い切り歌いたいという気持ちがあったのも事実で。既にレオさんに聞かれてしまっているのならと、私は開き直ることにした。
さっき思い浮かべた曲を唇に乗せ、ゆっくりと紡ぎ出す。騎士さん達の努力が報われ、思い描いた目標にいつか届きますようにという願いを込めて。最初は少し恥ずかしい気持ちもあり、遠慮がちに歌っていた。しかし遮るものがない場所で歌うことが、こんなに気持ちいいなんて......。
カラオケボックスなんて比じゃないくらいの、解放感と気持ちよさ。
いつの間にか私の声は少しずつ大きくなっていったようで、サビの部分を歌うときには、自分の世界にすっかり浸ってしまっていた。きっとレオさんもびっくりしたに違いない。歌い終わり我に返って振り向くと「気持ちよく歌えましたか?」と、答えが分かりきっていると言わんばかりの質問をされた。
「すごく気持ちよかったです」
これ以外に答えようがなかった。この世界に来て縮こまっていた心と体が、一気に開放されたような、そんな気持ち良さだったのだから、もう誤魔化しようがない。
これ以上ないと思えるほど整った綺麗な顔が、私に柔らかな笑みを向けてくる。これ漫画だと「眩しい~!」とか言っちゃうレベルだよね。心臓に悪いな。そんな事を考えて、くすくすと笑いが込み上げてきた。
そして予想外の出来事が、この後起こった。まさか練習していたはずの騎士さん達が、近くに集まってくるなんて......。離れた場所で練習している彼らに、聞こえることはないと、私は安心しきっていたのだ。
騎士さんは魔法で身体強化をしているために、基本的に耳がいいというのは、話の流れの中で聞いた気がする。だけどそんなの忘れていた。
逃げるようにしてクレイが待つ場所まで走り出したが、裾の長いスカートが邪魔で少し転びそうになった私。またレオさんに、どんくさいって思われちゃったかもしれない。私は顔を赤くして、急いで石造りの階段を駆け下りた。彼には恥ずかしいところばかり、見られている気がする。
次の日の朝、部屋に来たキャロルさんに、魔法の事が知りたいと一番に伝えた。魔法を使うには魔力がいること、魔法には属性がありどの魔法が使えるかは、その人が持っている資質によって違うと教えてもらった。
「資質?」
「その人が持っている資質を見分けるのは、比較的簡単。髪と瞳の色を見ればいいの。
私は青系だから、水や氷の魔法。
赤系は火の魔法。
緑や黄色系、金は自然魔法(風や雷、光など)
茶系は土魔法。
黒は無属性魔法。
白や灰色は治癒魔法。
おおざっぱに言うとこんな感じ。これに当てはまらない人も、稀にいるけどね」
「レオさんは紫だよね?」
「紫と銀は特別で、複数の属性を持ってるの。組み合わせは人それぞれだけど。ちなみに銀髪の人は全て使える」
「魔導師統括長さん?」
「そう、あの人はこの世界でも上位の魔導師様。副隊長の魔法については、本人に聞いてみて。秘密にしている訳じゃないんだけど、複数の属性を持つ人の魔法については、他人が口外しないことになっているの」
「もしかして知らない人から見たら、私は無属性魔法を使える人に見えるのかな?」
癖のあるこの髪も、ちょっとかっこよく見えたりする? そんな呑気なことを思っていたら、キャロルさんに驚きの事実を伝えられた。
「ユイさんは、魔導師統括長の60倍の魔力を持ってるそうです」
「ろ、ろくじゅう...ばい?」
「ただその魔力の殆どは、竜王様の成長にしか使えなくて、ユイさんが使える魔力は、生活魔道具が使える程度みたい」
「私って本当に、竜母になるためにだけに存在してるのね」
何気なく言った私の言葉に、キャロルさんの顔が一瞬で青ざめていった。
面白かったよ。
がんばれ~!
早く先が読みたい
と思ってくれた方が、いたらいいなぁ




