順調な村への来訪者
「ふっふふっふふーふーふーーふーーん♪」
今日も鼻歌まじりに仕事に精を出す。
妖怪や野盗から村人を護衛する簡単なものだがな。
屍の両手を貰った刀で切り落とす。
頭を握り潰しながら今後の行動を考える。
村からの信頼もかなり高まっているようだ。
もちろんスキルの効果に依るものもある。
しかし村人たちは度重なる被害に心底疲れきっていたらしく、彼らの安全を保証することに大いに感謝してくれた。
「鉄山様、そろそろ昼メシにしますかい?」
農作業に一段落した太助が提案する。
俺が来る前は逃げては作業しての繰り返しで効率が悪かったらしい。
奴等は人間のみを標的としているらしく、農作物などを荒らさないのは不幸中の幸いであろうか。
今では農作業のみに集中することができるから収穫も倍増しているそうだ。
「ダンナぁ、俺新しい畑を開墾するのに熱中しすぎてもう疲れちまったよぉ」
林の中から弥吉がげっそりしながら出てきた。
なんでも、農業の効率化のおかげで既存の農地だけでは狭くなってきたらしい。
弥吉だけではない。
他の村人たちも我先にと田畑を開拓している。
「そうだな・・・では飯にする。皆作業を止め飯処に集まれ」
農地の大体中心に作られた広場で女たちが飯を用意してくれる。
基本的に鉄山はここの物見櫓に座り、ビーチのライフセーバー如く睨みをきかせる。
「すげえことを思いつくなぁ鉄山様は」
飯をかきこむ太助が呟く。
「ダンナが来てから死亡者ゼロだぜ、ありがてえや」
これは農作業の護衛方法のことを言っている。
まずいくら俺でもすべての農地に瞬時に駆けつけることは不可能である。
そこで村人たちの装備を変えることにした。
まぁ変更点は農作業を行うときには背中に木の盾を背負うことだけであるがな。
まず屍が出現したら発見者が大声で周囲に知らせ、集まった村人数人でなんちゃってファランクスを形成し、屍の攻撃を頑張って少しの間防ぐ。
その間に俺が現場に到着し、敵を制圧するというものだ。
村人達からは盾が重くてちょっと肩が凝る、という位の愚痴を聴かされるが、命よりも肩を取る馬鹿者はいないので喜んで従ってくれている。
「いやぁ順調順調、大分この世界にも慣れてきたな」
飯を食って村人達と食休みをしていた矢先、一人の村人があわただしく入ってきた。
「鉄山様ーー大変だ!お侍さまが、大名様のご子息がそこまで来てて、あんたを、呼んでこいって!」
大名・・・というと薩摩では島津か、お偉いさんだ。
なんでこんな所においでなすったのだろうか。
村人たちは顔面蒼白になり、弥助は白目を剥いている。
どっちみち行く以外の選択肢は無さそうだ。
「では行って来る」
「ダンナ・・・どうかご無事で・・・」
そんなにヤバい出来事なのだろう。
無礼が無いように努めるつもりだが、相手の出方次第だな。
そんな事を考えながら見回りの後に続いた。