鬼島津
少し歩くといかにも農民とは異なる服装で馬にまたがる四人がいた。
先頭に居るのが恐らく島津の若様であろう。
ものすごい闘気というか怒りのようなものを感じる、なぜあんなにブチ切れているのだろうか。
一定の距離迄近づくとここまで案内した見回りが土下座の格好をとった。
数秒ポカンとしていると、馬から家来らしき人物が降り、刀を抜きながら切りかかってきた。
「無礼者!!この方を誰と心得る!!」
ああ、これはしまったな。
お偉いさんには先ずは土下座がこっちの礼儀だった。
平成の頃の考えで握手でもしようものなら切り捨てられるだろう。
仕方がないから、一太刀を紙一重で避ける。
尚も連続で切りかかってくる家来の太刀をすべて同じ様にかわしていると、
「止めよ」
と一声、島津の若様が言った。
「は、はは!」
家来は刀を納め、下がった。
「俺の親衛隊はかなり鍛えこんだ強者のはずなのだがな。お前は何者だ」
「名は九重鉄山。この村の用心棒をやっている」
「止めよ、と言ったはずだ」
おおよそ農民から士族へ使われることのない言葉使いへと激昂する家来一同。
馬から飛び降り、切りかかろうとする家来達を一喝し、その男は続ける。
「俺は島津義弘だ。我が父貴久は薩摩の大名。お前は俺が恐ろしくはないのか?」
「恐れる?どうしてだ。領主とは第一に民のことを考え、為すことすべてを国に還元するべきものだろう。尊敬しこそすれども恐れ戦く対象ではない。」
「・・・この俺を前にして己が立場を律し、国そして民を第一に考えることを諭すか・・・・」
馬を降りながら義弘は続ける。
「今はまだ苦労を強いることになっているが、俺は民を何よりも愛している」
ゆっくりとした足取りで近づいてくる。先程の者達とは全く異なり、寸分の隙もない。
「他国に我が国を蹂躙されることを想像するだけで胸が張り裂けそうになるのだ」
すぐ目の前まで来た。
「お前は何かを持っているな」
「それが俺と国にとって利、あるいは邪となるものか確かめてやろう」
言い終わると同時に頭上に刃が振り下ろされる。
先ほどと同様に避けた・・・と思ったのだが僅かに肩の肉を削がれてしまった。
まいったな、こいつは"本物"の戦国武将だ。
「俺に刃を向けることを許可する。遠慮なくかかってくるがいい」
「此方もむざむざ死ぬつもりはない。後悔するでないぞ」
刀の打ち合う音が赤く染まった田園風景にこだまする。
気がつけば周りには観客が取り囲んで勝負の行く末を見守っていた。
何も観客は村人だけではない。
三人の義弘親衛隊、交易の行商人、何処から来たのか町人や武士まで大人数だ。
ずいぶんと長い時間戦っていたらしい。
双方決して譲らなかったが最後はあっさりと決着がついた。
鉄山の刀が絶え間ない荷重に耐えられずに中程からポキリと折れてしまったのである。
一瞬の後、鉄山の頭上には切っ先がピタリと止まっていた。
静寂は歓声へと変化した。
「勝負あり、じゃな」
観客の中から年老いてはいるが高貴な人物が拍手をしながら現れた。
なにやらニコニコして大変満足そうな顔である。
「爺様!何ゆえこのような場所に」
義弘が刀を収め、駆け寄る。
日新斎様だ・・・日新斎様が来てくださったぞ・・・
ざわめき始める観衆を気にせず、日新斎と呼ばれる老人が義弘の問いに答える。
「お前と同じ理由じゃよ、義弘」
「と、言いますとこの男、鉄山の件ですか」
なんと、何故か大名の親に迄俺のことが知れ渡っているのか。
何か不味いことをした記憶はないのだが。
そもそもこの世界に来てまだ半年程だぞ。
「そうじゃ。我らが内城より少し離れた場所に位置する村に恐ろしく強い用心棒が常駐し、妖怪野党問わず手出しができないとかなんとか」
「ええ。妖共のせいで領地内は混乱しているというのにこの村の被害はほとんどないようですな」
なるほど。他の村の多くにとって妖怪や野党は深刻な問題らしいな。
勢力の範囲内すべての領民の治安を守るには手がまわらないってとこだろう。
「時に鉄山、と名乗る者よ。単刀直入に要件を言おう」
日新斎は不思議な雰囲気を纏っている。
恐らく相等な切れ者だろう。
「お前のその武、我が勢力で発揮してはみないかの?」
これは登用のお誘いのようだ。
願ってもみない要件だが、俺が出ていけばこの村は再び外敵に怯える生活に逆戻りとなるだろう。
慎重に答える必要がある。
「お前も異論はないな?義弘や」
「勿論でございます。こいつは邪悪の類いではないことがわかりました。放っておくには惜しい人材かと」
裸で殴り会えばわかり会える、とは誇大な表現であるがあながち間違いではないのであろう。
勿論剣術での敗北は悔しい。しかし初めて対等な存在を見つけたことの喜びが勝った。
「今すぐに答えを聞こうとはおもってはおらんよ。三日ゆっくりと考えるがいい」
「鉄山。また来るぞ」
そう言うや否や島津御一行は馬にのって風のように去ってしまった。
折れた刀を握りしめながら村人と共に自宅へむかった。
帰路につく馬の上で
「危ないところじゃったなぁ義弘や」
「まったくでございます。あのなまくらで我が剣技を何百と受け流せるものがこの日ノ本にいたとは」
「同じ条件であったならお前は負けていたかもしれんな」
「耳が痛とうございます。馬の手綱を引く手がまだ震えております」
「お前はまだ若いとはいえあの上杉謙信、武田信玄に次ぐ武勇を発揮する才を持っておる。それをここまで追い詰める奴は何者なのじゃろうな」
「わかりません・・・が、味方となればこの上なく心強いでしょう」
「そうじゃな・・早く帰ってやすみたいのぅ」
九重鉄山
【スキル】
剣術の達人
柔術の達人
商売の達人
謀略の達人
王のカリスマ[固有]
強貪欲[固有]
九十九神
毒耐性
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