垣間見える才の片鱗
ーーー遡ること数日ーーー
「凄まじいと言わざるをえないのぉ、しかし……」
佐土原にて行われている決戦前の最後の軍義にて。
隠居である島津日新斎は報告内容を吟味している。
前回の大友軍の侵攻では流石に島津を警戒していたのか、立花道雪隊は大友宗麟隊の護衛目的のために後方に位置し、全面にて打ち当たる普段の戦とは異なった展開の形をとった。
それが原因で先鋒の龍造寺隆信隊への対応が遅れ、結果として一万以上の兵力が戦闘不能となる結果となった。
しかし今回の陣容は立花道雪隊を最先鋒へと配置するものと報告を受けている。
数多くの領地を、家を飲み込み、北九州覇者の一角とまで称された龍造寺家に録な抵抗すらも許さなかった戦術。
強大な壁と雷炎の矛に対して有効な戦術を編み出すのは困難であった。
「一度正面を抜き、なんとか後方への突破を果たすことができても両翼に押し込まれ孤立するだけであるな」
腕を組み思索を巡らせるは大名島津貴久。
様々な意見こそ出ども緒戦で敗北していった大名立ちと似たような戦略が殆どであった。
議論も終盤に差し掛かり、不本意ながら正面よりうち当たる戦略に議論が纏まりかける。
「父上。俺と又七郎、そして鉄山に件の敵陣容の突破、任せては貰えぬでしょうか」
活発な議論中にも終始目を閉じ意見を聴いていた次男島津義弘は静かに言い放った。
それに呼応するように九重鉄山もゆるりと頷く。
「殿、此度の戦はあの立花道雪とあたらねばならぬため、既存の戦略が通用しないことが目に見えており、散っていった勢力がそれを証明しております」
「理解しておる。先ほどから皆が多様な案を出してくれているが、未だに妙手が定まらんこともな。して、お前達はどのような手で奴らを攻略するつもりだ?」
「は、この前に戦の新しいあり方についてこの男義弘と話し合っておりました。その折に非常に強力で、衝撃力をもつ戦いかたを考え付いてございます。正直を申しますと実戦配備はまだ先の急拵えな戦法です。まだまだ改良の余地は多いでしょう。しかしなんとか隙を作ることに成功すれば、限定的ですが巨人の首を切り落とすことも可能であると存じます」
「僕も途中から参加したよ!結局一部隊では成功しない戦法になったから都合はよかったんだけどね」
「ほう、してそれはどのようなものだ?」
「作戦は三段階で構成致します。使用する兵科は殆ど鉄砲ですがその狙いは部隊毎に異なり、鉄盾、鉄刀、鉄槍とでも区分いたしましょうか。盾はこの私が、刀は又七郎、槍は義弘が担当致します。仔細は以外このようにございます」
簡潔にまとめられた戦略図を鉄山は広げた。
軍義の間を照らす小さな行灯の火が秋の心地よい風と共に雅やかに踊る。
内容を吟味する大名島津貴久は戦における様々な要因を洗いだし、その戦法を発動した際の効力を構想する。
非常に危険ではある。盾が落ちれば刀と槍はすぐさま危険に陥るであろう。
しかし、一度成功すれば、文字通りこの戦が終わる程の威力を持つのは間違いない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・盾はお主か、鉄山」
「ははっ」
「儂はお主を高く買っておる、数々の実績も含めてな。しかし万が一、お主がしくじることがあれば、刀と槍の役割、つまりはわが次男と四男はどうなる」
「・・・・・・・・・・・・・・おそらく、討ち死には免れぬかと・・・・」
一瞬にして部屋の空気が張り詰める。普段は滅多な事では怒気を表さない島津家の当主であるが、この時ばかりは表情を歪めた。
大戦とはいえ、息子二人の命を対価として差し出すことはできぬ。
却下を言い渡そうと戦略図より視線をあげる。すると義弘はもとより、決意に満ちた又七郎の醸し出す雰囲気に彼は驚嘆した。
「父さん。聞いてほしいんだ」
元気に満ち溢れ、溌剌とした普段の四男の様子とはうって変わり、落ち着きを含んだ口調で続ける。
「確かに少しでも間違えたら危ないこともわかってるよ、でもね」
「ここで負けちゃったら僕たちにはもう後がないんだよね。島津も大友もいっぱい兵も動かしてる。多分、僕の勘だけど、ここでの一戦を勝ち取った方が九州を手に入れると思うんだ。」
「その通りだ、又七郎。」
義弘が続ける。
「この戦は局所戦ではない。故に次で取り返すといったことは難しいだろう。だからこそ、こちらも勝利を引き寄せる為には手段を選ぶ余裕はない。しかし・・・・・・・・」
「だからこそここで決めることに大きな意義があるのです、父上。必ず我らで成功を修めて見せますぞ。勝利を信じどっしりと構えていてくだされ」
ああ、そうか・・・・・・・・・・・
いつまでも手のかかる子供達だとばかり思うておったが・・・・
まるで放たれた光の矢の様に、この瞬間も。
逞しく、勇ましく成長しているのだな。
「あいわかった。作戦を・・・許可する。義弘、鉄山、又七郎、ここぞという時に決めて見せろ。発動は鉄山、お主の裁量に任せる」
「ははっ!おまかせ下され!」
両家の命運を左右するこの戦法はどのような結果をもたらすのか、この時誰にも知る由は無かった・・・・・・・・・




