孤独な帝
敵軍の出鼻を挫いた。
前回の戦において島津方へ寝返り、此方の多くの将兵を戦死させるきっかけを作った男、龍造寺隆信を討ち取った。
機密情報を忍び通じて島津へと流し、攻略目標を巧みに誘導したあの熊よ。
あの軍議では奇しくも儂と同じ意見となったな。敵軍の奇妙な陣容を警戒し、もうしばらく思慮を重ね、忍びからの情報を待つべきだと。
それまで儂はお前を警戒していたのだ。
しかしこれから先、大きく拡大していく我が勢力を見据えると大友家由来の将だけではたち行かなくなることは明白であった。
楽観の過ぎる殿とそれを担ぎ上げ、肯定しかしない他のご機嫌取り共とは違うのかもしれぬ。
あの時ふと、心を許してしまった自分がいたのだ。
否、毎度のようにただ一人慎重策を進言することに疲れていたのだ。
もしかしたら儂を理解してくれる、ゆくゆくは友として背を預けられる存在となってくれるのではないかと。
そんな未来も考えておった。
お前の裏切りが発覚した時は儂は激昂し、怒った。いや、軍の規律を保つため怒ったように見せる必要があった。
されども内なる感情は悲しさが大半を占めていた。
ああ、また儂は一人だ。
儂と同じ景色を同じ目線で見てくれる者は居らん。儂と同じ力を扱い、肩を並べて隣で戦ってくれる者は居らんのだ。例え大勢に囲まれておってもその実はひとりぼっちであることに変わりはないのだ。
龍造寺隆信を屠り、これからは島津を叩き潰す。
殿の覇道を支え、刀の一振りとして敵を打ち砕き続ける。
もうそれだけを思えば良い。
やがて儂は考えることを辞めよう。
理解されぬこの力を、せめて全力を出せる相手にぶつけられることを願うばかりである。
戦場においてのみ儂の孤独は昇華されるのだ。
速度こそ弱まれど島津兵の立てこもる陣へと確実に迫るは大友軍の強大な壁。
先鋒部隊の立て直しを計りつつ、次の手を打たねば妖の力を持たぬ島津は敗北を喫することになるだろう。
単純、なれど揺るぎない力の結晶に対して有効打を模索するは九重鉄山。
戦はまだ始まったばかりであった。




