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挨拶の日   洋祐view

引越し前に住んでいたアパートの周囲や転勤後の現在暮らしている街は、どちらかと言うと閑静などという言葉とは無縁で、流行の大型ショッピングモールや娯楽施設などなど・・開けた環境でひとけが多く、いつも賑やかだった。

だけど逸美のご両親に挨拶を、と訪れたこの町は静かで落ち着いた土地だ。

前回訪れた時は、駅のすぐ傍の喫茶店でプロポーズをし、そのあと電車で隣駅の駅近くにあるジュエリーショップへ行ったので、彼女の育った場所をこの目でちゃんと見たのは今回が初めてだ。


「田舎すぎてビックリないでね?」


歩き始めた途端に、逸美はおそるおそると言った体で俺を仰ぎ見た。が、平常を装ってはいてもご両親との対面を目前に控えて内心緊張していた俺は、緑が多く穏やかな、もしかすると流れる時間の速度すら違うのでは?と疑いたくなるほどのんびりとした雰囲気に、ほんの少し和まされた。


「静かでいい所だね」


逸美が育った町。

スーパーやドラッグストア、その他諸々の店が並んだちょっと広めの駅前通りからセンターラインさえも無い細い脇道にそれると、そこは大きな建物の影が無く、所々に田畑が見られる見通しのいいカントリーチックな風景だった。


「・・土と水の匂いがする」


「うん。この辺りって、ちょうど田植えの時期なの」


どこか懐かしく感じる匂いの空気を胸いっぱいに吸い込み、目の前に広がる広々とした景色をゆっくりと見渡した。

マンションやオフィスビルのような背の高い建物はなく、一般住宅と田ンぼが占める景色。遠目に3階建てくらいのやや大きめの建物が見え、アレは?と逸美に訊いてみると、彼女の母校の小学校だった。


肩を並べ、逸美の声に耳を傾けながら荒いアスファルトの道を歩く。電話を通してではなく、直接聞いたほうがやっぱり数倍可愛らしい。

あまりにも可愛くて、ついつい逸美が過剰に反応しそうなセリフを選んでしまうけれど、それも愛情ゆえと、大目に見てもらおう。


・・・それにしてもさっき「あたしを愛しすぎないで」と瞳をウルませて言われた時には、ウッカリここがどこかを忘れて唇を奪いそうになった。

ギリギリ耳元で一言つぶやくに留めたが、できれば男の理性を試すようなセリフは、二人っきりのときに限定してほしい。


時折入り込む木陰は、計算の上に配置されている街路樹とは違い、道路脇の家々のブロック塀の上から大きく枝葉を伸ばした木々の下を(くぐ)るのは、なんとなく楽しい。

小学生時代に、学校の敷地内の植え込みの下にもぐり込んで遊んだことを思い出す。


「も~~~、洋祐さんたら! ニコニコしちゃって~。どうしてそんなに落ち着いてられるの?」


無意識のうちに笑顔になっていたらしい。あたしはこんなにも緊張してるのにぃ・・と、唇と尖らせて上目遣いで言われたが、そんな顔も可愛くて仕方がない。


「落ち着いてなんていないさ。ドキドキしてるよ。だけど今はここが愛する人の育った町なんだなぁって思って、感動していたんだ」


そう言うと、逸美はボンッと音がしそうなほど一気に顔を赤く染めた。


「~~~~~~~~~~~~~~ッ。・・・も、どうして洋祐さんて平気でそういうこと・・・」


「? どうしたんだ?」


目を丸くして口をパクパクとさせていたが、その後がっくりと項垂れた逸美は、ボソボソと何かをつぶやいていた。


「逸美?」


「なんでもないの! それより、ウチに着いたよ。そこ。右手側のベージュの壁の一戸建て」


逸美はタタタッと小走りで俺の隣を離れると、閉まっていた門扉を開けて手招きした。


「ようこそ! ここが持田さんちです!」


大きすぎず、かといって狭いわけでもない、一般的平均ぐらいの二階建て住宅。ブロック塀と生垣で外からは見えにくいが、庭には鮮やかな花々が咲き、洗濯物がはためいている。

玄関前にある2段ほどの階段をはねるように上ると、彼女はドアノブに手をかけた。


「ただい・・」


「まあ! まあまあまあ! いらっしゃい!」


逸美がどうぞと言って持田宅の玄関のドアを開けるなり、ずっとそこで待っていてくれたのか、手放しで大歓迎をしてくれたのは逸美の母親。背丈や体系は結構似ているけれど、顔立ちはそっくりとは言いがたい。薄紫色のTシャツに白い七分丈のスリムなパンツ姿の、背中の中ほどもありそうな長い髪を後ろでひとつに結んだ、おしゃれでキレイなご婦人だ。


「こんにちは。初めまして、佐藤です」


「はいはい、こんにちは~。待ってたのよぅ! ささ、どうぞあがってあがって~」


お義母さんのハイテンションぶりにポカンとしている逸美をほったらかしにし、彼女は俺の手をとると、靴を脱ぐわずかな時間さえも急かし、緊張する間もなくグイグイと家の奥・・リビングへと引っ張っていかれた。


「おっ、お母さんっ!」


我に返った逸美が慌てて追いかけてくる。が、大きな声で呼ばれてもマイペースのままに、お義母さんはいそいそと俺にソファーを勧めてきた。


「すみませ・・あっ、これ。お義父さんのご希望の品。それと個人的にお勧めのモノももう一本ご用意させていただきました。あと、ひねりがなくて申し訳ないのですが、お義母さんと直樹クンにはお菓子を・・」


「あらまー! お父さんが無理を言ってごめんなさいねぇ。それにお菓子まで。ご馳走様。じゃあ今主人を呼んでくるわねー・・って、アラやだ! 逸美ったら~。大事な彼氏をほっといて何してるの?」


追いついた娘をメッと叱るとついでにお茶の用意を頼み、自身はパタパタとスリッパの音も軽やかに、リビングを出て奥へと姿を消した。


「・・・洋祐さんゴメンね。すごくマイペースな母で」


「うん? いや、元気で楽しいお義母さんだね」


ソファーに腰を下ろしつつ素直な感想を伝えると、どんな解釈をしたのか、逸美はげんなりと項垂れた。ちょっと待っててと言い置いて一旦リビングを出て行った彼女は、すぐに茶器の乗ったトレイを手に戻り、手際よくお茶の用意をし始めた。


「はい。どうぞ」


「ありがとう」


受け取って口をつける。気付かなかったが、どうやら結構ノドが乾いていたようだ。鼻腔をくすぐる芳しい緑茶の香りに、ホッと人心地ついた。


「ああ、お待たせしました。・・佐藤さん。遠い所をわざわざ来て頂いて、すみませんでしたね」


タイミングよく、ちょうど湯呑みを茶托に置いたと同時に男性の声がした。見ればお義母さんと一緒に柔らかな面立ちの、逸美から聞いていた年齢よりもやや上に見える、かなり白髪が目立った初老ぐらいの男が、微笑を浮かべてこちらへと近づいてきた。

お義父さんだ。


「初めまして。佐藤 洋祐です。本日はせっかくのお休みのところを、身勝手な私のためにお時間を割いていただけまして、感謝しております。ありがとうございます」


すかさず腰を上げて深々と頭を下げると、お義父さんは「まあまあ」などと言いながら、向かい側のソファーではなく、斜め隣の椅子に座った。


「これはこれは、ご丁寧に。こちらこそ、初めまして。逸美の父の久博(ひさひろ)です。こちらは妻の春果(はるか)。あと逸美の弟の直樹・・・は、今日は部活で出掛けてしまったんだ。すまないね。・・まあ、ともかく自己紹介はコレくらいで。あまり畏まらずに、楽にしてください。近い将来親子になるんですから。ねぇ?」


「ええ! そうよ~。お父さんもあたしも、もう結構そのつもりなの。だから緊張しないでね」


おっとりと同意を求められたお義母さんは、お義父さんと目を見交わし、満面の笑みで頷いた。

どうぞと座るように勧められ、再びソファーに腰を下ろした。


「ああ、そうだ。さと・・いや、洋祐クン。土産をどうもありがとう。僕のわがままなリクエストを聞いてもらえて嬉しいよ」


「いえいえ。わ・・俺も何がいいか悩んでいたので、はっきりコレ!と言ってもらえてよかったです」


勝手ながらもう一本のほうは、俺の好みで選んだというと、お義父さんは今夜が楽しみだと笑った。


「ちょっと~、本日の主要人物を忘れてませんかー? お父さんたちってば、あたしをそっちのけで、いつの間にそんなに仲良くなっちゃったのよ?」


あ。

ついついご両親のほうへばかり意識を傾けてしまい、黙々と全員分のお茶を淹れていた逸美をうっかり置き去りにしてしまった。

ぷうっと頬を膨らませて俺の隣に些か乱暴にドスンと座った逸美は、先ほどお義母さんがテーブルの上に置いた茶菓子のひとつを手に取ると、ガサガサと封を開けて頬張った。


「! コレ美味しいッ」


直後、目をくるんと見開いて、食べかけの菓子をまじまじと見つめた逸美は、向かいに座りニヤニヤと笑う母親に気がついたらしく、コレ何?と訊いていた。


「美味しいでしょう? それ、洋祐さんに頂いたのよ~。〇感さんの『え〇もんちぃ』。美味しいって聞いたことがあったから、一度食べてみたかったのよ~」


あまりにも嬉しかったから、おもたせで悪いけど早速頂いちゃったわ。と言われ、俺も嬉しくなる。リクエストのあったお義父さんの地酒はすぐに用意できたが、お義母さんと直樹クンへは何がいいか、かなり悩んだのだ。・・・内緒だけど。


「同じ五〇さんの『〇檬燦』とずいぶん迷ったんですけど。喜んでもらえてよかったです」


何がいいか相談した寮のオバちゃんがとにかく〇感のファンで、絶対にこのどちらかにすれば間違いない!と強く押され、昨日(・・)急いで用意した。

オバちゃん、ありがとう! 土産を買って帰るからね。


幸せそうに菓子を食べる二人を見ていたが、本来の目的を忘れてはいけない。

俺は改めて居住まいを正すと、たった今まですっかり緊張が解けて緩んだ表情を引き締めなおし、ご両親に向かい、先に一礼した。


「本日は、お義父さんとお義母さんにお願いがございます」


ソファーを降りて床に正座しなおす。斜め上に上がった視線を決してそらせることなく、まっすぐにお義父さんの目を見据えた。

突然の俺の行動に驚いて目を丸くしている逸美とは違い、もうわかりきっていることを今更のように言い出しても、お二人は動じることなく俺を見ている。


「逸美さんがご両親にとって大切な娘さんであることは重々承知いたしております。その上でお・・私との結婚をどうか、どうかお許し頂きたく参りました」


「ど・・どうしたの? 洋祐さん。急に・・・」


おろおろと俺たち三人を交互に見ていたが、真剣な俺の様子になにか感じ取ったらしく、逸美もソファーの上で姿勢を正した。


「改めまして。娘さんを・・逸美さんを私にください」


「お父さん、お母さん、あたしもお願いします。洋祐さんと結婚することを許してください」


深く深く頭を下げると、ふと、死角になって見えないながらも、お義父さんたちの動く気配がわかった。


「二人とも顔を上げてください。・・洋祐クン、きちんとした挨拶をありがとう。キミの『けじめ』を確かに見せて頂きました。――――――では僕たちからも・・改めてお願いします。娘を、逸美を幸せにしてやってください」


「はい。お約束します」


ソファーに座る逸美を振り返ると、申し合わせたように彼女も俺を見ていた。交差した視線できちんと許しが出たことを互いに喜び合っていると、玄関のほうから少々乱暴なドアの開閉音が響いてきた。続けて少年らしい声で「ただいま」と言っているのが聞こえるが、どうもトーンから察するに機嫌が悪いようだ。


「あー・・直樹が帰ってきちゃったー・・・」


「もうちょっと遅くなると思ったのよね~・・・」


複雑な表情で顔を見合う母子。

彼の帰宅がそんなに都合の悪いことなのだろうか?

ソファーに座りなおし首を傾げてお義父さんを見れば、女性陣と同様に微苦笑を浮かべている。


「最近、直樹はどうもシスコン気味でね」


その言葉で十分状況がわかった。

きっと、今日俺が訪ねてくることを直樹クンは快く思っていないんだろう。もともと逸美から弟だけは賛成してくれていないと聞かされていたから、一応彼に対する手筈は整えてきた。


ドスドスと不機嫌を隠そうともしない足音をさせて、彼がリビングへと近付いてくる。そして姿を現したと思ったら、


「ちス。そんで、サイナラ」


俺が口を開く前に、とっとと帰れと、まるで猫を相手にしているようにシッシッと手の甲で追い払う身振りをしたみせた。

おおおっ! ここまであからさまだと、返っていっそ清々しい気持ちになる。


「直樹! 洋祐さんになんてコト言うのよ!」


「うるせえ! こんな顔だけ良いヤツなんて、絶対に性格が悪いに決まってんだ! ねーちゃんも父さんたちも、いい加減目を覚ませ!」


うわあ、偏見もいいところだ。

ぎゃいぎゃいと始まった兄弟ゲンカをものともせず、ご両親は落ち着いた様子で一緒に昼食でもと誘ってくれた。


「父さん! 何でこんなヤツまで誘うんだよ! さっさと追い出せ!」


う~ん。コレはなかなかに攻略のしがいがありそうだ。

俺はスーツの内ポケットに準備してきたものを襟の上からそっと押さえると、あえて作りものだとわかる笑顔を貼り付け彼を呼んだ。


「直樹クン。ちょっと二人だけで話をしないか?」


「ああん? なんでオレがアンタなんかと話をしなきゃならないんだよ? 冗談じゃ・・」


「いやいや、そんなに怖がらなくても何もしないから。ただちょっと相談したいことがあってね」


ソファーから立ち上がって彼のいるリビングの出入り口に移動すると、訝しげに眉根を寄せた彼の耳元に顔を寄せ、挑発とも取れるセリフを告げた。


「なっ! 誰がこわがっ・・」


「ああ。わかってるさ。・・すみません。少々直樹クンと話したいことがあるので、席をはずしますね」


言ったモン勝ち。怒りのあまり口をパクパクとさせるだけで、何も発せられずにいる彼の二の腕を掴むと、僅かに不安そうな表情で見ている逸美に、大丈夫だと知らせるように笑顔で頷く。

半ば引きずるように彼をつれて玄関まで来ると、視線だけで人一人殺せそうな険悪な目つきで俺をにらむ未来の義弟と向き合った。


「直樹クン。キミ、部活動は確か野球だったよな?」


「ああっ? それがなんだってんだよ? テメェにゃカンケーねーだろッ!」


「うん。そうだね。だけど、キミが野球好きならちょっと聞いてほしいことがあるんだよ」


「なんでオレがア・・」


「いやいや。キミが俺を気に入らないことはわかってるから、なんで話を聞かなきゃならないんだよって言う気持ちも理解してるんだけどね。・・でも、話を聞こうが聞くまいが、俺たちの仲を認めようが認めまいが、子供が一人ダダ(・・)を捏ねたところで状況が変わるわけじゃないから」


「なっ・・! 誰が子ど・・」


「子どもだろう? 大好きなお姉ちゃんをとられると思って、意味もなく反抗してるんだから」


ヤレヤレと少々大げさに肩を竦めて見せると、もともと吊り上げていた眦をさらにギリッと鋭角にした。どう言っても今の直樹クンは絶対に俺たちの結婚を認めないだろうから、言葉による説得は初めッから放棄して作戦を練ってきた。

一見、ただ彼の怒りの炎に油を注ぎ指しているようだが、実は最上の消火剤を用意している。本音を言えば直樹クンに好かれなくても一向に構わないのだが、逸美には一片の愁いもなく俺の元へ来てほしいから、そのための努力と手段は厭わない。


怒りMAXの彼が握った拳をブルブルと震えさせ、鋭い目つきで見上げていたが、何を言っても言い返されると踏んだのか、「クソッ!」と小さな悪態をつき俺の横を通り抜けてリビングへ向かおうとした。


「交流戦・・東京ドームのネット裏・・指定席S」


「!」


すれ違う瞬間、囁くように呟いた俺の声を確実に彼は拾い上げ、ものすごい勢いで振りかえった。


「・・・今、Sって」


愕然とした面持ちで俺を見つめる彼に、俺は懐から取り出した一通の封筒を軽く振ってみせる。


「俺の友人に一人、プロの道に進んだヤツがいてね。俺がどんなに興味がないからいいと断っても頻繁(・・)に観戦チケットを送ってくるんだ。それも大体A席かS席のをね」


「A席・・S席・・」


彼のノドがゴクリと鳴った。


「これまでは捨てたり無駄にするのは勿体無いからと、職場の同僚や学生時代の友人に譲ってしまっていたんだが・・・」


チラッと彼と視線を交わす。こちらを凝視する少年の瞳に見える色は、先ほどまでの怒りや憎悪に似たものではなく、あからさまな程の羨望。

思わず、ふ・・と口元が緩む。


「直樹クン。いや、直樹」


「な、・・なんだよ・・・?」


呼び捨てにされたことでハッと我に返った様子の彼は、一度は俺の顔を見たけれどすぐに封筒へと視線を戻し、釘付けになったまま弱々しく返事をした。


「単刀直入に訊くよ? ステキなお義兄さんはほしくないか?」









「お待たせしました」


ニコニコと笑顔でリビングへ戻ると、心配顔の逸美があわてて駆け寄ってきた。本当はぎゅっと抱きしめたいところだが、さすがにそこまで図々しくはなれない。

内心しぶしぶ譲歩して、細くて小さな肩に両手を置いた。


「どうした?」


「え! だって・・直樹にひどいこと言われなかった?」


眉をハの字にゆがませて、うるうると見上げてくる。

あああっ! 反則だっ! 両親がいるこんな場所で、こんなにも可愛い顔で迫ってくるなんて・・・っ!

理性を総動員させて必死で平静を保つ。普段当たり前にできていることが、逸美を前にしただけで、こんなにも難しくなるなんて思いもしなかった。


「大丈夫だよ。きちんと話をしたら、すぐにちゃんとわかってくれたから」


ね? と振り向くと、不自然な微笑を浮かべた彼が無言のままに何度も首を縦に振った。


逸美は弟の様子にほんのわずか不思議そうに小首を傾げたが、再び俺を見上げると、「ホント?」念を押してきた。


「ホント。だからそんな顔をしないで。心配顔も可愛いけど、逸美には笑顔の方がよく似合うよ」


「げ・・」


俺のセリフにポッと逸美は頬を染め、直樹はカエルのような声を出した。


お義母さんは昼食の用意をしに行ったらしくリビングに姿はない。けれどお義父さんは椅子からソファーに移動し、のんびりとお茶を啜りながら俺たちの遣り取りを見て笑っている。

思えば直樹を連れて玄関へ行くときも、今と同じく静かに笑っていたように記憶している。未来の娘婿が実の息子に対し、笑顔を取り繕ってはいても、「おう! ちょっとツラ貸せやっ!」とばかりに連れ去れば、もう少し慌ててもよさそうなものだろう。

もしかしたら、柔和な見た目で判断してはいけないタイプなのかもしれない・・?

背中に冷や汗をかきながら、ぐるぐると義父について考えをめぐらせていると、その張本人が口を開いた。


「直樹。優しそうな義兄さんができて、よかったな」


ニコニコニコニコニコニコニコ・・・


「・・・」


「・・・」


柔らかな笑顔。なのに俺は言い知れない緊張に見舞われた。

どう表現したらいいだろうか。目には見えないが、こう・・押し寄せてくる圧力というか、オーラというか・・・・・・とにかく圧倒的なモノ。

反射的に振り返った先でちょうど目が合った直樹は、わざわざ言葉にして問うまでもなく、コッ・・クリと深く頷いた。


そうか、わかったよ。直樹。




俺は図らずも、挨拶に訪れたこの日。真の持田家の姿をほんの少し知ることになったのだった。




ありがとうございます。

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