十五話
「度三郎、ちなみにあれは商売になるぞ、口入屋に金子を払いに行くときにそう伝えてやれ。さすれば次回は負けてくれるかもしれぬ」
その言葉に度三郎も笑顔を取り戻した
「お褒めに預かり恐悦至極にございます。口入屋にはそのように話しておきます」
「そうだな、金子は今すぐ届けよ。伊予大洲の廉之助は払いが良いと思わせたい、金子を払いに行ってこい。珠一郎、金子をだしてやってくれ」
「御意にございます」
『ございます』が付くあたりが少しまだ怒っているのだなとわかる。珠一郎は奥から十五両を布にくるんで持ってきた
度三郎は金子を受け取ると暇そうにしていた規之と準人と共に出かけて行った。さすがに十二歳の少年が十五両の運搬は危険と思った度三郎なりの保険でもあった
「若君、少々甘すぎませぬか?」
奥に戻った途端、珠一郎の小言が始まった
「国許では皆が藩の召し上げも歯を食いしばって耐えております。そのような時に十五両もの大金をあのような者達に使うなど・・・国許の皆が聞いたら何と思うことか。大殿がお聞きになられてもお怒りになられるはずです・・・」
珠一郎は止まらない、しかし忠矩が口を開いた
「珠一郎、その辺でやめておけ、先ほど若君と浅草寺からの帰り道に儂は伺ったのだ、今回の蝋燭の一件は国許を救う一手であると。儂もお主も国許には知るものが大勢おる、どのような暮らしかは十分わかっておる、それは若君も同じじゃ。先ほど若君は儂に約束してくれた、数年先に伊予大洲は息を吹き返すと。儂は若君がそう仰るのならそうなると思う、珠一郎、我らはそんな約束を下された若君をお支えするのが役目ではないか?お諫めしているその熱き心は若君をお支えするために使うべきではないか?お主の言うておることは間違っておらぬ、しかし若君のお決めになった事を信じて付いていくのが我ら家臣の務めではあるまいか?」
まっすぐな忠矩の言葉は珠一郎に突き刺さった。どちらかと言えば珠一郎と忠矩は日頃あまり言葉を交わさない。子供の頃からの知り合いらしいが勘定方の家に生まれた珠一郎と物頭の家に生まれた忠矩は育った境遇がまるで違う。しかし能力は群を抜いていた。それを藩主の子に生まれただけの俺、中身は転生者ですでに三十年以上の人生キャリアがある俺が父に頼み込んで直属の家臣にしてもらった。当初は御守り役だと思っていたらしいが、数年前から突然俺の教育が始まった。今はまだ使うことを伏せさせているが連れてきた五人にはそれぞれの専門分野を設けて、複式簿記やアラビア数字、工学、法律、幾何学、数学などを叩き込んだ。教え始めた頃は気味悪がっていたが学びを進めるにつれ俺を信じて付いてきてくれるようになった。珠一郎のいら立ちも能力が出せないことが原因かもしれない。
「珠一郎、忠矩、私はそなたたちに色々学びを教えた。それを使う日はまもなくやってくる、旧来の武士としての皮を脱ぎ捨てて働いてもらうつもりだ。今、珠一郎が私を諫めたのも充分に伝わった、忠矩の言葉も充分に伝わった、感謝してもしきれぬ。しかしこれからは違う、まずは国許を救う、それと同時に喜連川も大きく変える、いずれはこの国全体を変えねばならぬかもしれぬ。いずれ話すが・・・私には将来倒さねばならない敵ができる。その為にはそなたたちが欠かせぬ。この先本当に私が間違っていたら何度でも諫めてほしい。そなたたち五人ではなく私を含めた六人で戦って行くと思ってほしい。今回のことは私に免じて飲み込んでくれ。珠一郎にも約束する。数年で伊予大洲の息を吹き返らせる。その為の十五両だ、許してくれ」
珠一郎と忠矩は居住まいを正して俺に平伏した
「高岡珠一郎、一生をかけて若君をお支え致します」
「榊山忠矩、同じくお支え致します」
その言葉に俺も居住まいを正して
「こちらこそ、よろしく頼む」
その言葉にまた忠矩は泣き始めた




