第7R それぞれの道
オークス→「重力ピエロ」
ダービー→なろう作品の王道を行くロブチェン
安田記念→「月と六ペンス」
サイン馬券ってあるんですね。
「俺は見送りかよ」
「でも次決まったんでしょ」
「まあな。でも今調子悪くないし一週でも早い方が良かったんだけどな」
三月になり、シャットダウンとボンバーエンドの次のレースが決まった。
ボンバーエンドがこの前聞いた通りチューリップ賞、シャットダウンが弥生賞。
どっちも桜花賞及び皐月賞と同じ条件のGⅡ戦で、同じGⅡでも200m短いフィリーズレビュー及びスプリングステークスとは違う。どっちがいいとか悪いとかじゃないけど、やっぱり心象としては違うんだろうか。
「あー本当、内輪だけでも敵が増えてくんだよな、嬉しくもあるけど」
「内輪?」
「桜花賞や皐月賞へ行く道はまだまだある。トライアルレースにフラワーカップやら毎日杯やら、そこで活躍すればまだ何とでもなる。もちろん次のオークスやダービーのための道もある」
「もちろん他の所からも…」
「ああ。だから本番に向けて皆力を見せておかねえといけねえんだよ、金があるから大丈夫だろじゃねえんだよ」
「強い馬しか残らないから、か…」
トライアルレースで一定の着順以内に入ればお金なんか関係ない。なんなら未勝利馬でもフルゲートにならないトライアルレースに出て出走権を得てGⅠを勝つなんて事も出来る。2着でも3着でも、他の全ての馬よりは強いって事だからその資格はあるんだろうから気にはならないけど。
「で、そっちは…」
「どうやらスプリングステークスらしいな、まだ決まってねえけど。いっそ毎日杯まで待たされるかぶっつけ本番かと思ったけどやっぱ間隔が空き過ぎてるって」
「また遠征だね」
「慣れっこだよ、まだ二回目だけど。お前こそ前走は二回目の遠征だったじゃねえか。お前が出来たのに俺が出来ねえとかムカつくからな」
「あの時は必死だっただけだし」
「あ、やっぱり?」
でもやっぱりと言う言葉にはどうにも違和感がある。僕だって一応紙や画面の上では東京のコースや対戦相手の事を知ってたけど実際に走るまでは不安もあった。内枠に入ったから少し不安もなくなったけど先頭でゴールするまでは…って言うのは実はそれほど正しくない。何が何だか分からない内にってのが一番正しい。でもその事を口にするとお前は本当図太いんだからと言われる気がする。何をもって図太いと言うんだろうか。レースに出たら勝つしかないじゃないか。
「でももし芝のレースに出ろと言われたらどうするよ」
「それは…まあ自分なりに考えるよ」
「自分なりにかよ。やっぱりな、お前ってダートで砂かかりまくってるのに平気なはずだよ。俺だったら耐え切れないね」
「僕だってあんなグジャグジャの馬場を」
「未勝利戦か?ったく十二月だってのに大雨降りやがって、阪神ジュベナイルフィリーズなんか歴代最遅クラスのタイムだったとかって話になったじゃねえか、本当なら一月中に走りたかったのにこのせいでパーだよ」
馬にも得意不得意はある。僕には芝をどれだけ全力で走れるのかわからないし、アッパーグレードはダートで砂を被るのが耐えられないらしい。
それとアッパーグレードが走った未勝利戦を見せてもらったけど十二月だってのにものすごい土砂降りで寒いし重馬場を通り越した不良馬場で、それでも勝てたのはアッパーグレードの能力のおかげであってああいう馬場が好きな訳じゃないと言う。ダートが得意だからああ言う馬場も得意だろとか言われた事もあるけど、走ってみなきゃわからない。
「まああんな事はめったに起きねえから都合がいいのかもしれねえって言ってたけどな」
「誰?」
「シャットダウンだよ。あいつはどこまでもストイックな野郎だよ、だからモテるんだろうけどな」
「すごいな」
「お前がそれを言うか」
でもシャットダウンならばそれぐらいの事は言うと思う。皐月賞でも、ダービーでも、何なら引退間際になっても。
しかし僕が素直に感心したつもりなのにやっぱりアッパーグレードの反応は冷淡だった。そりゃそうだろう、僕なんかまだ一戦一戦で目一杯なのに。その次のまた次の事なんて考えが付くはずもない。格の違いってのはあるんだなと思う事の何がいけないんだろうか。
で、実際素晴らしい結果がそこにあった。
—————東西重賞制覇—————。
「遠慮なく力を示してくれたって訳かい…」
「勝ちっぷりは違ったけどね」
ボンバーエンドは直線早めに抜け出し、クビ差凌ぎきっての勝利。
一方シャットダウンは中団外から抜け出し、残り200で先頭に立って一気に抜け出し四馬身差を付けた。
「お前今、ボンバーエンドのが強そうだと思わなかったか」
「うん」
そして僕は素直にそう思った。
確かにシャットダウンは強そうだけど、よく見ると最初の1000mがかなり早い。これじゃ前に行った方が止まるのは当たり前であり、後ろにいたシャットダウンが有利なのは火を見るよりも明らかだった。
一方でボンバーエンドのチューリップ賞も同じく最初の1000mがかなり早かったが、ボンバーエンドは四番手にいた。そこから直線早めに抜け出して後続の追い上げを振り切るのは難しい事ぐらいは僕も知っている。
と言うかチューリップ賞の舞台である阪神は東京ほどじゃないけど直線は長くて坂があり、正直前で走るのは厳しい。そんなコースで前に行って勝ったんだから凄いじゃないか。
「まあそれはそれでいいけどよ、ああいうのって疲れるぜ。本番ならまだしもトライアルレースでそれやっちまうのはなあ」
「確かにそれはあるけどね」
「まあお前さんの考えを邪魔する理由はどこにもねえよ」
「それぞれ頑張ろうね」
それぞれ、だ。どっちみち僕はアッパーグレードを含む三人とは道が違う。
とりあえずはお稽古だった。
で、何故か知らないけどいつにもまして体が軽い。
いつもの坂路が今日はなぜか短く思える。景色が過ぎ去るのが早い。
それで二本目は五歳の先輩と一緒に走った。こっちが二馬身ほど後ろからだったしまあこのままかなと思ってたけど、なぜかいつの間にか並んで、そして追い越していた。
「元気だよなあ」
「……はい……」
結果、僕が追い抜いてしまった。特に何か力を入れていた訳でもないのに。
確かにその先輩はまだ一勝だったけど、それでもこんなにうまくいくのかと自分でもびっくりした。
あるいは今週レースに出ろと言われるかもしれないしと思い馬房でレースを探していると、先生が通り過ぎながら何かをつぶやいていた。
「ココロノソニックの次のレースは再来週か……」




