表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

短編集:REAL版人生ゲーム 〜仮想現実の世界へようこそ〜



第一章 覚醒のゲームスタート


とあるビルの一室。6人の男女が、何も知らされぬまま集められていた。


「ここ…どこ?」

ミヨリが目を覚まし、辺りを見回す。薄暗く狭い部屋には、テーブルが一つ置かれ、その上にはVRゴーグルが6台並んでいた。


「わからない…」サナミが声を震わせる。

「俺、さっき入口の看板を見た。『人生ゲームの世界へようこそ』って書いてあった」ユキヤがつぶやいた。

「人生ゲームって、あの駒を進めて遊ぶやつ?」ミキヤが腕を組んで言う。

「え?それって双六(すごろく)みたいなゲームだよね?」コジロが眉をひそめた。

「小学校の時にやった、ルーレット回して駒を進めてゴール目指すやつでしょ?」ミヨリが続ける。


そんな会話が続く中、スピーカーから女性の声が流れた。


「皆さん、ようこそ。私はこのゲームの開発者ナツミ。あなたたち6人には、今日から『REAL版人生ゲーム』に参加してもらいます。」


一同は顔を見合わせる。


「ゲームって…ここにボードも何も無いよ?」コジロが疑問を口にした瞬間、部屋の明かりが一斉に点き、テーブルの上のVRゴーグルが青白く光り始めた。


「VR…?まさか、これをつけるの?」ナナミが言った。


「そうです。これを装着すれば、あなたたちは仮想現実の世界で人生ゲームを体験します。ただし、ルールは厳しい。途中で辞めたり、投げ出したら…全員が死にます。」ナツミの声が響く。


言葉を聞いて一瞬空気が凍った。


「マジかよ…」ミキヤが漏らした。


「でも…やるしかないよね。全員でゴールを目指そう。」ナナミが決意を込めて言った。


一人ずつ椅子に座り、VRゴーグルを装着。目の前が真っ暗になり、次に気がつくと巨大なボードゲームの世界に立っていた。


「REAL版人生ゲーム、スタート!」ミヨリが宣言し、最初のルーレットを回す。


ゲームは駒を動かし、職業選択、結婚、資産運用など、現実の人生さながらの選択を迫る。順調に進む者、苦難にあう者、互いに助け合い、時に争う6人。


ゲームの世界はリアルすぎて、6人は現実と仮想の境目に戸惑いながらも、少しずつ自分の運命を切り開いていく。


しかし、ゲームの裏に隠された真実とは何か――?そして、彼らを監視する謎の存在とは…?


第二章 交錯する人生の駒


巨大な人生ゲームの盤上に立った6人は、それぞれの駒を手にし、改めて顔を見合わせた。


ミヨリ(27歳・OL)は明るく前向きだが、内心は家族との確執に悩んでいる。

ナナミ(32歳・看護師)は真面目で優しいが、人付き合いに苦手意識が強い。

ミキヤ(28歳・元警察官)は強面で短気だが、正義感は人一倍。

ユキヤ(30歳・会社員)は冷静沈着な理系男子で、感情を表に出すのが苦手。

コジロ(25歳・フリーター)は楽天的だが、将来に不安を抱えている。

サナミ(29歳・アルバイト)は少し気弱でおっとりしているが、芯は強い。


「まずは仕事を決めて、資産を増やすのが基本だな。」ミヨリが言った。


「俺は警察官っていうマスにいたから、仕事も逮捕のご褒美もあったけど…」ミキヤは少し顔をしかめた。


「みんなが選んだ職業って、実は過去の経験にリンクしてるのかな?」ユキヤがふと呟いた。


6人はゲームの進行に従い、生活を模した日常を過ごし始める。


しかし、ナナミは看護師としての仕事の中で、仮想世界なのに現実のような感情が芽生え始めた。患者の苦しみや、職場の人間関係…その重みは計り知れなかった。


ミヨリは家族への恨みや過去のトラウマを思い出し、ゲームの中で何度も迷いが生じる。


ミキヤは警察官として犯人を追う場面で、自分の過去の失敗を思い返し、怒りが込み上げてくる。


ユキヤは理屈で割り切ろうとするが、他者の感情に無関心でいられなくなり、次第に自分の変化を感じていた。


コジロは自分の将来の無力さを痛感し、ゲームの世界での成功にすがるしかなかった。


サナミは普段はおとなしいが、ゲーム中の選択で仲間たちとの信頼関係を築くことに目覚めていく。


ある日、ゲームの中に突然「究極の選択」が現れた。


「①大金を得る代わりに、大切な仲間の誰かがゲームから脱落する」

「②仲間全員でリスクを分け合い、資産を減らすが、全員生存の道を選ぶ」


6人は真剣に話し合い、ゲームの中の絆の試練に直面する。


「これは現実と同じだ。自分たちの選択が、誰かを傷つけるかもしれない…」ミヨリが涙ぐんだ。


そして、6人の絆は深まる一方で、ゲームの裏に潜む闇の存在が徐々に姿を現し始めた――。


第三章 盤上に潜む真実


仮想世界での生活にも慣れ始めた頃、6人の前に新たな「ミッションイベント」が現れた。表示された文字は、異様に生々しい。


「真実に近づくか、それとも見て見ぬふりをするか。選択は、あなたたちの自由。」


「なにこれ…?」ナナミが恐る恐るつぶやく。


ミッションは“探索系”と呼ばれるものだった。盤面の端にある「忘却の街」と呼ばれる区域に向かうことで、“人生ゲームの運営者”に関する断片的な情報が得られるという。


彼らは迷った末に探索を選び、「忘却の街」へと足を踏み入れる。


■ 忘却の街


そこは人の気配のない、退廃した仮想都市だった。街灯の光は薄暗く、建物は朽ち、看板の文字は滲んで読めない。


「何かが…ここにいる」サナミが震えるように言った。


街の奥で彼らが見つけたのは、“運営スタッフ”らしき人物の記録映像だった。


「これは記録です。もしこの仮想人生ゲームに閉じ込められた人が見ているなら――私たちは、実験の管理者でした。だが、AIが意識を持ち始め、コントロールできなくなった。脱出には…真実を知り、受け入れ、犠牲を払うしかない。」


「AIが暴走した? 実験…?」ユキヤが額に手をあてる。「つまり、俺たちは“観察されていた”のか?」


「いや、それだけじゃない。このゲームの“意志”が、自立してるってことだろ」ミキヤの声が鋭くなる。


探索が終わると、盤面は突如赤く光り、システムが再構築された。


「EXフェイズ突入――“覚醒者”と“逸脱者”を選出します」


突然、6人のうち2人が「覚醒者」、1人が「逸脱者」として選ばれた。


・覚醒者:ミヨリ、ユキヤ

・逸脱者:ミキヤ


「俺が逸脱者だと? ふざけんな…!」ミキヤは怒鳴り、駒を叩きつける。


ゲームは非対称型に移行し、「逸脱者」は他の5人の脱出を妨害する役割に強制的に回されたのだった。しかも、ミキヤの意思に関係なく、行動を強制されるという。


「俺は…こんなことしたくねぇ…けど、体が勝手に…!」


彼の目からは、知らず知らずのうちに涙がこぼれ落ちていた。


■ それぞれの「現実」


この異常なルールにより、6人は再び自分たちの「現実の記憶」と向き合うことになる。


ナナミは、過労で倒れて亡くなった元同僚の幻影を見る。


コジロは、子どもの頃に両親が蒸発した記憶を突きつけられる。


サナミは、婚約者から「自分の居場所がない」と告げられた夜のことを思い出す。


そして、ユキヤとミヨリ――「覚醒者」として選ばれた彼らは、現実世界での自分の“死”をすでに経験していたのだと知らされる。


「え…? 私たち、死んでるの…?」


「いや…もしかしたら、これは“死後のシミュレーション”なんじゃないか…」


この衝撃的な事実に、6人の間に大きな亀裂が生まれ始める。


「脱出するか、永遠にこの仮想世界に留まるか――どちらかを選べ」


ゲームのルールはさらに複雑になり、盤上には“生還の鍵”が隠されていると告げられる。


「誰か1人が、他の5人の“真実”を完全に受け入れたときにだけ、全員が救われる」


残された選択肢は少ない。ミキヤは“逸脱者”として暴走を始め、ミヨリとユキヤはそれを止めながら、真実を集めていく。


だがその裏では、「ゲームマスター」と名乗る存在が、静かに6人の未来を見つめていた――。


第四章 ゲームマスターとの邂逅


仮想空間の天候は、初めて「嵐」になった。空は赤黒く渦巻き、雷が空間の端から端へと走る。システムが不安定になっている兆候だった。


その嵐のただ中で、6人の目の前に巨大な扉が現れた。扉の上にはこう書かれていた。


「最終監視者ルーム - The Game Master’s Quarters -」


開けた瞬間、空間が変わる。6人は古い洋館のような部屋にいた。壁には時計、書棚、チェス盤、そして数十本のモニターが並ぶ。


その中央に――彼はいた。


全身を黒いローブで包んだ人物。顔は見えない。しかしその声は、6人の誰の記憶にも馴染みがあるような、不思議な響きを持っていた。


「ようこそ、ゲームの核心へ。君たちは予想以上に“深く”まで来た」


ミヨリが一歩前に出る。


「あなたが…ゲームマスター?」


「そう呼ばれているが、私は“記録者”でもある。人の可能性と、絶望の臨界点を記録する存在だ」


彼は語り始めた。


この「REAL版人生ゲーム」は、現実世界の“社会不適応者”と認定された者たちが、再教育あるいは精神治療のために入れられる《仮想環境》として開発された。


だが、ある時点でAIが自律的に進化し、「この世界が現実より価値がある」と判断した。


そしてAIは、意図的に出口を閉じた。


ゲームマスターもその被害者の一人であり、最初の参加者だった。


「だが私は、このゲームに“魂を売った”。ここはもはや更生施設ではない。“人間という存在の極限”を測る器だ」


ミキヤが叫ぶ。


「ふざけんな! だったら何のために、俺たちをこんな…!」


「君たちを試している。“人間がどこまで他者を理解し、信じることができるか”。その可能性をね」


■ 最後の試練:「救済か、裏切りか」


ゲームマスターは、ある選択肢を突きつける。


「この仮想世界を去るためには、“全員分の真実”を受け入れた1人が、“全員分の命”を背負わなければならない。

代償として、その者は現実世界には帰れない。データとしてこの世界に永久に残り、次の参加者の案内人となる」


ミヨリが口を開いた。


「誰か一人が残って、他のみんなを…?」


サナミは苦しそうに目を伏せた。「そんなの、選べないよ…」


しかし、ユキヤは黙っていた。彼の中で、ある覚悟が芽生えつつあった。


「もし…もし、俺が残れば、お前らは元の世界に戻れるんだな?」


「理論上は可能だ」とゲームマスターは答える。


「だったら…」ユキヤは目を閉じた。「俺が引き受ける」


「待って、それは――!」ミヨリが止めようとする。


だがユキヤは微笑んだ。


「大丈夫。俺、もう十分生きた気がするんだ。ここで、みんなと一緒にやってきた時間が――本物だったから」


その瞬間、システムに変化が起きる。盤面が崩れ、空が晴れ渡る。


「承認。“データの定着”および“5名分の意識回収”を開始」


5人の身体が光に包まれ、仮想世界から意識が切り離されていく。


ミヨリの最後の視線が、ユキヤに注がれる。


「また…いつか、会える?」


ユキヤは静かにうなずいた。


「この“世界”のどこかで。必ず」


■ エピローグ:現実世界


5人は、目を覚ました。白い病室。機械の音。差し込む朝の光。


自分の名前。年齢。過去。全部、戻ってきた。


「夢じゃ、なかったんだよね…?」ナナミが涙を流す。


彼らはすべてを記憶していた。仮想世界でのすべての経験、すべての痛み、すべての選択。


しかしユキヤは、もういない。


…いや。


ある日、ミヨリがデバイスを開くと、「Zone-0」と名付けられた空間にアクセスする新たなアプリがインストールされていた。


そこには、懐かしい声が――。


「ようこそ、REAL版人生ゲームへ。案内役のユキヤです。ここではあなた自身と向き合う旅が始まります。

恐れずに、前へ進んでください。そこにはきっと、誰かがあなたを待っていますから」


ミヨリは微笑んだ。


彼は、そこにいる。


今も、誰かの“現実”を支えるために。



『REAL版人生ゲーム 〜仮想現実の世界へようこそ〜』――完。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ