後編
◆
ある昼下がりのこと。
玄関のベルが鳴り、深く考えず出てみたところ、そこには信じられない人物が立っていた――そう、私の好きな人、ザーン。
「え……って、ええええ!?」
思わず叫んでしまう。
「久しぶり」
「どうして!?」
こうして直接会うのは何年ぶりだろうか。
お互い成長していろんなものが変わった。
でも、時が流れて姿が多少変わっていても、彼を彼だと判断することは容易くできた。
「実はこの前婚約破棄されたんだ」
「浮気したの?」
「いや違う。面白くない、と言われてしまって。それで今、独りなんだ」
「そう……」
こんなことがあるだろうか。
婚約破棄された瞬間、好きな人が目の前に現れて、しかも婚約破棄されたと言っているだなんて。
「リシリーも婚約破棄されたところだって聞いて」
「ええ、そうなの」
「それで……勇気を出して会いに来てみたんだ」
「そういうことだったのね」
昔の知り合いに婚約破棄されたと知られるのは若干恥ずかしい気もする。
でも構わない。
まったく気にしない。
私は悪いことなんてしていないのだから、堂々としていればいい。
「あの頃は好きなように生きられなかったけど今はもう違うから。会いたい人に会って、話したいことを話して、そうやって生きたいなって思ったんだ」
「そうなのね」
「だからリシリーに会いに来た。よかったらさ、ちょっとだけでも、また友人として関わってくれないかな」
え、ちょっと、それ、本気で言ってる~~~!!!?
嬉しさが顔面から溢れ出してしまいそう。
でも何とか堪えた。
良いことを言われたからといって分かりやすく満面の笑みになるのは少しばかり恥ずかしいから。
「嬉しい。私もまたいつかザーンに会えたらいいなって思っていたから。もちろん大歓迎よ、改めて友人になりましょう」
こうして私たちは再び友人になれたのだった。
◆
あれから二年半。
ほぼ同時期に婚約破棄され、それをきっかけに再び友人になった私リシリーと彼ザーンは、今日ついに夫婦となる。
はじめは友人として関わっていた。私は彼のことが好きだったけれど、彼は私をそういう目で見ていないと思っていたので、特別な関係にはなれないだろうと予想していたしそれでもいいと考えていた。
けれど、これまでの空白の期間について話し合ったり色々なところへ出掛けたりしているうちに、段々距離が縮まっていって。いつしか彼も私を大切に想うようになっていってくれたらしく、やがて想いを伝えられた。
そして、その果てで、共に生きる道を選ぶこととなった。
夢なんてみない。
期待はしない。
一緒にいられる今があるだけでいい。
ずっとそう思って歩んできたけれど……やはり、彼と結ばれることができるのなら、それが一番嬉しい結末だ。
そうそう、そういえば、だが。
私の元婚約者であるダットゥは、あの時言っていた好きな人と予定通り婚約まではすぐに進んだそうだが、その後女性に浮気されてしまったそうだ。で、婚約は破棄に。慰謝料は取れたらしいが、愛しい人に裏切られたことで心を病み、今日に至るまで酷い無気力状態となってしまっているそうである。担当の医師からは「恐らく治らないだろう」と言われてしまったとか。
一方、ザーンの元婚約者であるナナはというと、ザーンを切り捨てた後もっと良い相手を見つけようと積極的に相手を探す活動をするもなかなか良い人が見つからず、そのストレスからか親に当たり散らすようになり、やがて両親と喧嘩になって家を飛び出したそうだ。以降、彼女の行方を知る者はいないらしい。
なんにせよ……私がザーンと結ばれることができたのは、ダットゥとナナのおかげ。
彼らが勝手な選択をしてくれなかったら幸せな今はなかった。
二人には深く感謝している。
ありがとう、ダットゥとナナ。
好きな人と結ばれることができて……今、言葉にならないくらい、本当に幸せ!!
◆終わり◆




