紅葉の鈴と約束
数時間にわたる移動の後、バスの揺れはどこか催眠術のように感じられるようになっていた。
最初はあれほど騒いでいたクラスメイトたちも、今では窓にもたれたり、リュックを抱えたりしながら休んでいる。
イヤホンから漏れる音楽も、かすかに聞こえる程度だった。
バスの中は、すっかり落ち着いた雰囲気になっていた。
その時、不意に先生の声が車内放送から聞こえてきた。
—みなさん、聞いてください。
あと数分でサービスエリアに立ち寄ります。
その瞬間、あちこちから声が上がった。
—やっとだ!
—足を伸ばしたかったんだよね。
—何か食べ物を買いに行こう。
すると、結衣がすぐに顔を上げた。
—私はアイスを買いに行く!
—まだバスから降りてもいないだろ。
俺がそう言うと、結衣は真剣な顔で答えた。
—優先順位は大事なの。
近くの席から笑い声が聞こえてきた。
数分後、バスはゆっくりと速度を落とし、広いサービスエリアの前で停車した。
そこには小さな売店や自動販売機、カフェがあり、木々に囲まれたベンチも並んでいた。
先生たちが席から立ち上がる。
—よく聞いてください。
休憩時間は二十分です。
このエリアから離れないこと。
そして、指定された時間の五分前には必ずバスへ戻ってきてください。
いいですね?
—はーい!
生徒たちは次々とバスを降り始めた。
地面に足をつけると、俺は大きく腕を伸ばした。
—あぁ……
こっちの方がずっと楽だ。
—私も今、まったく同じことを考えてた。
真矢だった。
彼女もバスから降りたばかりで、髪を耳にかけながら微笑んでいた。
—少し歩く?
—もちろん。
俺たちは特に目的もなく、サービスエリアの中を歩き始めた。
空気は涼しく、優しい風が木の葉を揺らしている。
長時間座っていた後だったから、こうして歩くだけでも気持ちがよかった。
—見て。
真矢が小さな土産物店を指差した。
入口には、寺院を模したものや扇子、小さな鈴をかたどったキーホルダーが並んでいた。
—かわいい……
興味を引かれ、俺たちは店の中へ入った。
店内はそれほど広くなかったが、伝統的な小物がたくさん並んでいた。
棚を眺めていると、真矢が紫色の小さな布製のお守りを手に取った。
—これ、どういう意味か分かる?
俺は首を横に振った。
—タグによると、旅行中の幸運を運んでくれるお守りみたい。
俺はそのお守りをじっと見つめた。
—じゃあ、今日にぴったりだな。
真矢は微笑んだ。
—うん。
でも……
もう一番の幸運は手に入ってる気がする。
—え?
真矢はすぐに反応した。
—ち、違う!
つまり……
旅行が始まったばかりなのに、もうすごく楽しいってこと!
少し恥ずかしそうに笑う。
俺も思わず笑ってしまった。
—俺も同じだよ。
その後もしばらく、俺たちは土産物を眺めていた。
そして俺は、紅葉の葉の形をした小さな鈴を買った。
—紅葉が好きなの?
真矢が尋ねた。
—うん。
いつか秋の京都で、紅葉を見てみたいと思ってたんだ。
真矢は少しだけ考えるようにしてから言った。
—じゃあ……
いつか、また来なきゃね。
その言葉は、考えるより先に彼女の口からこぼれていた。
言った後で自分でも気づいたのか、真矢は少し目を見開いた。
—い、今のは……
もしまた、いつか一緒になることがあったらって意味で……
俺は思わず笑った。
—俺は行きたい。
真矢は少し照れたように微笑んだ。
—私も。
—見つけた!
結衣の声が、二人の時間を途切れさせた。
彼女は片手に大きなアイス、もう片方の手にはお菓子でいっぱいの袋を持って現れた。
—やっぱり二人一緒にいた!
—俺たちを探してたわけじゃないだろ?
俺が尋ねると、結衣は胸を張った。
—もちろん探してたよ。
まあ、その前に食べ物を買いに行ったけど。
そっちの方が、どう考えても信じられた。
結衣はしばらく俺たちを見つめた。
そして、いたずらっぽく笑う。
—安心して。
今日はあんまりからかわないから。
二人とも、あまりにも可愛すぎるし。
—結衣!
真矢の顔が再び赤くなった。
—はいはい。
大輝が恥ずかしさで倒れる前に退散しまーす。
結衣は手を振ると、笑いながら去っていった。
真矢は小さくため息をついた。
—本当に変わらないね……
—ああ。
でも……
あれでいいんだと思う。
真矢は笑いながらうなずいた。
それから数分後、先生の笛の音が響いた。
戻る時間らしい。
生徒たちは次々とバスへ戻っていった。
再び自分たちの席に座ると、運転手がバスを発進させた。
景色が再び窓の外を流れ始めた頃、先生がマイクを手に取った。
—このまま順調に進めば、もうすぐ京都に到着します。
みなさん、準備してください。
私たちの冒険は、いよいよ始まろうとしています。
その言葉を聞いた瞬間、バスの中に期待と興奮が広がった。
俺は真矢の方を見た。
彼女もまた、期待に満ちた笑顔で窓の外を眺めていた。
もう少しだ。
ずっと訪れてみたいと思っていた街が、すぐそこまで近づいている。
俺たちはようやく……
京都という街を、この目で見ることができるのだった。
第168話を読んでいただき、そして今回もお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
皆さんが読んでくださる一つ一つのエピソード、温かいメッセージ、そして応援の言葉は、私にとって本当に大きな意味を持っています。
それらが、この物語を書き続けていくための大きな励みになっています。
そして、京都への旅がいよいよ本格的に始まろうとしています。
ダイキ、マイヤ、そしてユイと共に、これからもたくさんの出来事や感情、そして新しい思い出が待っています。
**読んでくださり、そしてこれからもこの物語を応援してくださる皆さんに、心から感謝します!**




