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三、 言葉の簖(たぐ)り糸
紬は人工知能が弾き出す冷たい統計データに頼ることを拒んだ。彼女は義体の脚を動かし、かつて本物の秋刀魚を食べた記憶を持つ、わずかな旧人類の老人たちのもとへ自ら足を運んだ。彼らの語る、曖昧で、だからこそ温かい言葉の「ほつれ」を、一つひとつ丁寧に手繰り寄せるために。
「いいかい、ツムギちゃん。サンマってのはね、ただの脂の数値じゃないんだ。炭火で焼くとね、皮がジリジリと縮んで、独特の苦い匂いが立ち上るのさ。はらわたのあの強烈な苦味と、じゅわっと滲み出す焦げた脂の甘みが混ざり合って初めて、サンマになるんだよ」
老人たちの言葉の震え、視線の泳ぎ方。義体のセンサーは、彼らが過去を懐かしむときの、器具には映らない微細な熱量を捉えていた。文字だけの古い文献を貪り読み、老人たちの記憶の糸を紡ぎ合わせる。それは、紫外線や赤外線といった余計な情報が存在しない世界で、かつて人間たちが言葉と五感だけを頼りに味わっていた、奇跡の解像度だった。
紬は、見えないからこそ、客のオーダーの向こう側にある本当の味の輪郭を、自らの頭の中で静かに編み上げていった。




