不正疑惑と聖地巡礼
「とりあえず私についてきてください。事情は別室で聞きますので…」
数人がかりで両脇を抱えられ、私は引きずられるようにして教室を後にした。背中に突き刺さる他の生徒たちの視線が痛い。
連行された先は、重厚な石造りの特別指導室だった。
窓のない部屋で、先ほどの試験官が私の荷物を机に放り出す。
「さて。なぜこんな物を試験場に持ち込んだのですか?」
「ですから、それはただの……! 以前、聖地で大量に買ったとき、紛れ込んでいただけで……」
必死の弁明も、試験官の冷ややかな視線に遮られた。
「本当ですか?。戦士が魔法学校に入り込むこと自体が異例なのです。実力が伴わない焦りから、禁じられた手段に手を染めた。違いますか?」
(まずい。このままだと異例の事態で即刻追放もありうるか?)
崖っぷちの脳細胞が、過去の記憶を猛烈に検索し始める。戦場の泥にまみれた日々ではなく、祈りと共に歩いたあの巡礼の旅を。
「……っ、そうだ、これを見てください!」
私は震える手で、懐から一冊の帳面を突き出した。
「聖印帳……? 何の真似です」
「見てください、中を! 八十八箇所、すべての聖堂で聖印を結んでいます! 私はただの戦士じゃない、不浄を排し、祈りを捧げ、最後まで巡礼をやり遂げた者です! そんな私が、不正なんてするはずがない!」
一瞬、部屋の空気が凍りついた。
試験官の手が止まり、パラパラと聖印帳をめくる。その指が、あるページで目に見えて震え出した。
「……八十八、だと? 最後にこの『最果ての地』の印を刻んだのは、数百年前に聖女と呼ばれた御仁と大魔導や大賢者の数人のはず、それを、このような戦士が……?」
試験官の顔色が、疑念から驚愕、そして戦慄へと変わっていく。
結局、その日は「あまりに不可解な点が多すぎる」として、クラス分けは後日に持ち越されることになった。




