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巡礼者の終わり

本格的な授業は明日から。今日はオリエンテーションと、生活用品の買い出しだ。

案内役の魔法使い・スタッフが紡ぐ、淀みのない現地の言葉。それが耳に届くたび、私の胸は異常なほど高鳴った。昨夜、絶望的な孤独に押し潰されそうになっていた私にとって、その響きは震える心を繋ぎ止める「呪文」のようだった。

買い出しに訪れた「階層庭園都市アイヤーラ・テラス」は、息を呑むほどの石造建築だった。

巨大な円環の各層には、燐光を放つ魔導植物が溢れんばかりに咲き誇っている。中央広場からは、吟遊詩人が奏でるリュートの調べが風に乗って流れてきた。見上げれば、選ばれた貴族たちが「テラス」から、下層の喧騒を塵芥でも眺めるように優雅に見下ろしている。

フードコートで啜った一杯の麺。

立ち上る湯気とともに鼻腔を抜ける、慣れ親しんだ出汁の香り。一口含めば、スープの熱がこわばった身体の芯をゆっくりと解いていく。この世界の「質の高さ」に縋り付くように感動しながら、私は一時だけ、かつての自分を繋ぎ止めることができた。

だが、帰りの魔導馬車で、その安寧は無惨に引き剥がされる。

クリスタル・シグナルの停止。静止した車窓を、泥にまみれた小さな拳が叩いた。

コン、コン。

反射的に目を向けた先には、射抜くような眼差しでこちらを凝視する子供たちの姿があった。

差し出された、ひび割れた手のひら。

声はない。しかしそこには、肺に突き刺さるような苛烈な「要求」があった。

私は彼らから目を逸らした。

魔導冷却器が吐き出す乾いた冷気に包まれながら、日本人の「余裕」という薄っぺらな仮面を被って、ただ前方の一点を見つめ続けた。

かつての聖地巡礼では、歩いているだけで誰かが「聖刻の余恵」を差し出してくれた。祝福される側だった。

けれど、ここでは私が――搾取する側に立っている。

冷房の効きすぎた車内で、私は自分の傲慢さと、あまりにも高すぎる世界の壁に、込み上げる嘔吐感を必死で飲み下した。

――もう、帰りたい。


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