ダンジョンの異常
二十階層に足を踏み入れると、とてつもない魔力に覆われた。
神族の魔力と反発している。
少なくとも邪悪な魔力であることは確かなようだ。
「これは、悪魔の魔力よりも禍々しいな」
フィリアも驚いているようだ。
「確かに、悪魔の魔力の時よりも、僕の魔力と反発してる」
もしかしたら、各世界で起こる異常の原因に近づけるかもしれない。
その瞬間、僕の防衛本能が警告を鳴らした。
体がゾワッと震え、僕は動きを止めた。
「何かに見られてる」
「本当か?」
「精巧に隠しているけど、確かに何かを感じる」
「どうする」
「警戒されているのなら、早く行こう」
「何かが変わってしまう前に」
「分かった」
僕とフィリアは奥に向かって走り出した。
十九階層と繋がっているとは思えないほど、何もいなかった。
二十階層の中間地点辺りまで来た時、広く掘られた空間に着いた。
足音も響く寂しい空間の中央に、人のような影が見える。
僕が話す前にフィリアが落ち着いた、それでも響く声で言った。
「お前は誰だ」
ローブらしきものを来た人が、こちらを振り返ったが、言葉を発することはなかった。
顔は少年のように見える。
見た目だけで言えば、僕より十歳弱下と言ったところだろうか。
だが、それの放つオーラは数百年生きた悪魔のようだ。
「君、どうしてここにいるのかな」
「ここは中央区ダンジョンの二十階層だ」
「子供が来るような場所じゃないよ」
僕がそう言うと、その少年は顔をにやけさせて言った。
「ふふ、そんなの分かっているよ」
「僕の任務は、ここから先に誰も入れないように、ここを守ることなんだから」
「任務、君は誰かの下についているってこと?」
「あのお方は偉大なんだ」
「お前もあのお方のために働くといい」
「断ったら?」
「もちろん殺してあのお方の元へ持っていくさ」
「ヘルン、どうするんだ」
隣に居たフィリアが小声で聞いてきた。
「このダンジョンの最大の脅威は彼じゃない」
「ここで立ち止まる訳にはいかないよ」
「戦うということか?」
「うん、そうするしか無さそうだ」
小声で話していると、少年が大きな声で言った。
「何コソコソ話してるの」
「僕も入れてよ」
可愛らしい見た目だが、話し方や瞳孔の動きは狂気じみており、何かに洗脳されているようだった。
「仕方ない、フィリア、先制攻撃で潰そう」
「了解した」
意識共有、戦闘する時のためにみんなで練習しておいた。
互いの意識を共有して、次に何をするのか、何をするために動いているのかを瞬時に伝達できる。
僕とフィリアは合図をすることなく最高速度で少年の方へ飛んだ。
完全な同タイミング少年の目前へ着き、フィリアとアイシーが前にやった、デストロイ。
あの魔法の起源は死神の破壊魔法らしい。
デストロイという魔法が派生して、各属性にも作られたのだ。
フィリアのダークデストロイと僕のデストロイが一箇所に集中し、少年に当てた。
はずだった。
当たった気が全くしなかった。
恐らくフィリアもそうだろう。
すぐに僕らはその場から距離を取った。
空気が凍りつき、僕らは周りを見渡した。
どこにもいない、そう思った瞬間、僕の体がダンジョン内の壁に打ち付けられた。
フィリアはそれを見て何とか少年を認識したようだが、何回かの攻防を経て、すぐにその空間の端に飛ばされた。
壁にもたれ座り、ぐたりとしている。
僕たちですら一瞬認識できない程のスピードなのか、そもそもその空間に居たのか。
どちらにせよ、今のままでは不利すぎる。
少なくとも、あの少年の動きを認識できるようにしなければ。
「思ったより弱いなあ、僕と遊んでくれるのかと思ったのに」
デストロイは避けられたのか。
つまり、この少年にもあれほどの魔法なら効果を持つということだ。
僕は目に手を当て、最上級の補助魔法をかけた。
体ももう回復した。
立ち上がり、少年の方へゆく。
「何言ってるの、遊びはこれからだよ」
「お!お兄さん頑張るね!」
「じゃあ次は本気で行くよ」
「安心して、こっちもそのつもりだよ」
目に完全な補助魔法をかけたことで、少年の動きは何とか見ることが出来るようになった。
しかし、やはり早い。
追いつくだけで大変で、攻撃ができない。
その少年は、笑いながら逃げ続けた。
追いついて攻撃しようとすれば、またすぐに視界から消えてしまう。
一瞬だが、僕の魔力探知からも外れるのが厄介だ。
もしかすると、ほんの一瞬だけだけど、どこかへ転移してるんじゃ。
少年は確かに速いけれど、やっぱり認識出来ないのはおかしい。
転移だとしたら納得がいく。
それなら、対処法は一つ。
また少年の気配が消えた。
「バリア」
「デストロイ」
その瞬間僕は自分に防御魔法をかけ、空間全体に攻撃出来るようにデストロイを放った。
「あぁぁぁあ!」
背後から大きな叫び声が聞こえた。
デストロイは少年に命中したようだ。
少年は膝と手を地面につけ、何とか立ち上がろうとしていた。
デストロイを受けてもその程度の消耗なのかと驚きつつも、僕は隙を逃さず高火力魔法を次々と放った。
避ける体力のないまま攻撃を受け続け、その少年は地面に倒れた。
「ぼ、僕の戦法を見破るなんて...」
「確かに、瞬間の転移の技術は凄いと思う」
「だけれど、神王を、いや、自分と主人以外の存在をなめすぎた」
「君の敗因はそれだ」
「アスタ様...申し訳ありません...」
「君の主人の名前かい?」
「アスタ様は凄いんだ」
「この世界で一番優しくて、強くて、偉大なお方なんだ」
「こんな僕でも笑顔で迎えてくれた」
「僕は恩返ししなくちゃいけないのに」
「ごめんなさい...」
彼には僕の声は聞こえていないようだ。
仕方なく、パラライズをかけて収納魔法で保管した。
収納魔法の中では時間は進まない。
麻痺した状態で保管できる。
ダンジョンの隅に倒れたフィリアを見て、急いで走っていった。
魔力をしっかりと感じる、命に別状は無いようだ。
「よかった」
そうしてフィリアに回復魔法をかけていた時、突如としてこの異常の原因と見られる邪悪な魔力が激増し、体が一瞬よろめいた。
死神は魔力で生命を維持している部分がある。
魔力のゆらぎは非常に危険となるのだ。
一刻も早くフィリアを回復させようと魔力を強めた時、背後から女性と思われる厳かな空気を漂わせる声が聞こえた。
「ククリは、死んでしまったのか」
「ならば、そなたらも死ね」
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
ククリと呼ばれる少年を倒した直後に、より高位存在と思われる女性...フィリアもまだぐったりしたまま、一体どうなるのか。
次の話もお楽しみに!
次話4月30日に投稿します!
ご意見、ご感想、お待ちしております!




