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「そんな……」


「言っておくが、二人分の魂を勝手に王と王子の魂だと思ったのはヤツ自身だ。何一つ、契約に嘘などなかった。ク、ククッ…ハハ、ハハハハハッ!」


魔女は堪え切れないように笑いだした。


「何故、私にそのようなことを話すのですか…。私に、どうしろと…」


混乱の極みに達し、ローレンは思わず問いかけるように呟いた。その声に魔女は漸く笑いをおさめ、士長は今の状況には不似合いなほど凪いだ眼差しを向ける。


「この事を、どうするか。公にするのか、それともあなたの胸の内に仕舞うか。その判断はあなたの判断に任せますよ、アシュベル副団長。我らはエミリアをこの手に取り戻せたことで、もう満足なのです」


士長の声には本当に後悔は微塵も感じられなかった。その瞳はおそらく娘のことを思い、慈愛に満ちている。


「では、何故…?」


そんな士長の顔を見上げ、再びローレンが問いかけると、士長は魔女、団長、王子と皆で顔を見合わせ、頷いた。


「おそらく、告げたかったのでしょうね、真実を…。誰か一人でもいい、知っていてほしいと思ったのです。

エミリアのことを、そして我々が彼女を愛していたということを」


ついにローレンは耐えきれなくなり、部屋を飛び出した。そのまま何処に向かっているのかわからないまま走り続ける。

心臓が壊れそうなほど暴れている。

耳鳴りも酷い。

このまま、何もかも忘れてしまえれば―――――――――荒い呼吸の中でそう思った。


しかし、その願いが叶うことはない。


「う、うあああぁぁぁぁぁ―――ッ!!」


いつの間にか辿り着いた人気(ひとけ)のない林の中で、ローレンは狂ったように咆哮した。









* * * *








季節が一つ廻った。

王子は即位し王となり、騎士団長は転属を願い出て王都を離れ、魔術士長は力の衰えを理由に後任にその地位を譲り渡した。

城を去ることにした士長はその時、小さな片手に収まりそうな壺を大切そうに抱えていたそうだ。

そして魔女は、いつの間にか姿を消していた。



×××年、国に大きな危機が訪れる。

当時の第一王子が呪いに倒れた。後に「北の森の魔女」の手を借り王子へ呪いを行ったのは王と、王弟である公爵であると判明する。討たれた二人は大罪人の烙印を押され、しかし魔女はその姿を消してしまった。よって今なお彼女の目的はわかっていない。国民は魔女に恐怖した。

だから語り継ぐのだ。

“呪われたくないのなら北の森に近づいてはならない、決して魔女の名を呼んではいけない”

これは国を揺るがす出来事であった。


ローレン・アシュベル著 『黒と呼ばれたある魔女の話』より抜粋





拙い文章をここまでお読みくださり、

ありがとうございました。

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