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Ep6-42 お宝の行方

ボーナス・レイドの結果が発表された。達成感に沸くレムナンツ・ハンズのアジトでは、写楽倣介が完全に新たな仲間として溶け込んでいた――

「んで?結果はどうだったんすか?」

 レイド終了から数日後のレムナンツ・ハンズのアジトでケイタがカサギさんに食いついている。

「そうせっつくなって」

 カサギが運営の正式発表が掲載されたリンクをメイに投げた。

 すぐに部屋のスクリーンにリザルトが表示される。

「やったぜ、オレたちが四点で最多勝だ!」

 うしっ、と腰だめにガッツポーズを決めるケイタ。

「やったね~。最後の倣介のファインプレーのおかげだねぇ」

「だな。気絶したオッサンをノクターナルの代わりに運べって言われたときは、らしくねぇなって思ったが、あんときにアイツの懐を探ったってわけだ」

「でも本当にすごいのはケイタだよ。レイドが始まる前にたまたま露店で手に入れるなんて」

「わはは。オレ様は昔っから引きが強ええからな」

「運も実力の内っていう言葉があってよかったねぇ、ケイタ」

「おまえ、そればっかだな」

「えっ?そうかな」

「ケイタが前に聞いたのはドッペルゲンガーのトオノさんの台詞だよ。ほら、あのときはもう『夢幻演奏』が始まっていたからすり替わったあとさ」

「そうだっけ?でもさすがに鏡の中の人物だけあって、いうことは同じなんだな」

「その話、ちょっと怖いんだけど。本当に僕のドッペルゲンガーが現れたの?」

「ああ。おまえ、あの部屋でオレたちが大人組と駆け引きやってたの、記憶にないんだろ?」

「うん」

「オレと倣介はてっきりおまえが味方だと思って行動してたから完全に裏をかかれちまったんだ。な?」

「ええ、本当に。ちょっとした仕草も声のトーンも、全然本人と区別付きませんでいたよ。知識もそのまま持っていたみたいだし」

「ひえぇぇ。ドッペルゲンガーに出会ったら三日以内に死んじゃうんでしょ?」

「直接見てなければいいんじゃない?」

「僕があの場所で最後に見たのは鏡の中の自分の顔だったな。なんか違和感を感じたんだよね。自分の動作とワンテンポずれているように感じて……それで鏡を覗き込んで、自分の顔が近づいて……って、あのとき見てた鏡像はドッペルゲンガーだったってこと?それじゃ、僕はドッペルゲンガーを見てたってことに……」

「大丈夫だって。あれからもう三日経ったろう?いま無事なんだから平気だって。あれ、二日目だっけか?夜の零時回ったあとってどっちに数えるんだっけ?」

 もしかしたら今日がその日かもと青ざめるトオノの肩をメイが叩く。

「お金貸して。来週返すから」

「あははは、踏み倒す気満々だね」

「有効活用。仲間の死は無駄にしない」

「ちょっとぉぉぉ」

「そんなに心配ならお守りでも買う?昨日サイトで見つけたんだけど――


魂遁こんとん形代かたしろ

 忍びの一族に伝わるという護符の一種。

 肉体だけでなく魂に対する霊的攻撃からも身を守る強力な護符。魂魄こんぱくに致命傷を与える攻撃に対して身代わりとなってダメージを請け負う。だがその効果は一度きりで、身代わりとなった形代は砕け散る。


――えーと、一体五百万円だって。へー、安いね」

 写楽が画面をスクロールしながら解説する。

「確かに命には代えられないけどさぁ。そんなお金ないよー」

「びびんなって。英太から聞いたろ?おまえのドッペルゲンガーは軒端のやつが脳天にナイフぶっ刺して倒したって。なんか影みたいになって蒸発したらしいぞ」

 ケイタが座ったままで逆手に持ったナイフをズガッと何かに刺すような動作を真似る。

 ビクッと肩を震わせて頭のてっぺんを両手で押さえるトオノ。

「ドッペルゲンガーが死んだんだから呪いは無効じゃね?」

「それならいいんだけどさ……。でも、僕のドッペルゲンガーが死んだなら何らかの悪影響があるんじゃないかな。僕自身の影が薄くなるとか……」

「うーん、どうだろ?」

 ケイタが顎に手を当てながらトオノの周りをぐるぐる回って詳細に観察する。

「鏡に映らなくなっている可能性……」

 メイがいつも自分の使っている手鏡をトオノに向ける。

「やめろー。怖いこというなよぉ」

 トオノは手を突き出し鏡を覆い隠して顔を背ける。目はしっかりとつむったままだ。

「うーん、どこも変わってねぇぞ?影が薄いのは前からだし」

「どさくさに紛れてディスんなし!」

「あっ、てっぺんの髪の毛が薄くなってる……」

「がーん」

 トオノが絶望に固まる。

「って、それは前から。前から気にしてんだよぉぉぉ」

「わはははは」

 ドッペルゲンガーにビビり散らかすトオノをからかう遊びがしばらく流行った。


◇◆◇


「以上がレイドの記録になります」

「そうか。報告ご苦労」

 暗い室内でモニタの光に照らされた漣とユナの顔が浮かび上がる。いつものミーティングルームではなく特殊な機材が並んだ狭い部屋だ。

「白田記一の精密検査の結果はどうだ」

「内側前頭前野に不自然な情報の重複が見られます。大脳皮質には明らかに外部から挿入されたと見受けられる記憶が書き込まれていました」

「洗脳のようなものか」

「はい。ですが、技巧的なものではなく量子結晶技術による直接的な記憶領域の改竄と思われます。おそらく、レリックを用いたものではないかと」

「『主筆の手跡』か」

「はい」

 それは桔花が白田から与えられて持ち帰ったものだ。

「桔花への影響は精査できたか?」

「はい、こちらを」

 画面が切り替わり、大学ノートの切れはしの映像が映し出される。


 『片梨桔花は白田記一を信用している』


 切れはしにはそう書かれており、桔花の名前の部分と残りの記述とは明らかに筆跡が異なっている。

「白田の持ち物から発見されたものです。ここの折り目で後半の内容を隠し、本人に名前を書かせることでこの内容を桔花の記憶に書き込んだようです」

「……巧妙な手口だ。『主筆の手跡』は本来自己欺瞞のための道具に過ぎない。それをこのような使い方をするとは。考案者はレリックに関する造詣が相当深いな」

 憂い顔でうなずくユナ。

「幸い、桔花に影響を与えたのはこの一文だけです。入力情報が分かっているので記憶領域からレリックによって書き込まれた部分を分離し消去することは容易です」

「そうか。……軽微とはいえ記憶領域を操作することに関して桔花はセンシティブになっている。くれぐれも本人に知られないよう内密に進めるように」

「ええ、分かっています。『神格』の顕現に対する調整も必要ですし、その処置に紛れ込ませれば影響は最小限に抑えられるでしょう」

「『神格』の顕現か。そちらはどうだ」

 どちらかというとレリックによる記憶改竄よりもこちらの影響の方が深刻だ。

「短い間に二度の顕現が発生した事実は憂慮すべき状況というのが四家門の見解です」

「そうだな」

 このまま『神格』の顕現を繰り返すと桔花は戻れないところまで進んでしまう。それを防ぐのが俺に与えられた役割なのだが……。

「石守英太……か」

「はい、彼が桔花に接触してからの状況の変化は予測ラインを大幅に外れています」

 彼は従来の分析を無効にするほどのパラメータに育ってしまった。こうなるまでに排除すべきだったが、今となっては排除することの影響も計り知れない。

「ですが、顕現後の常態への復帰に関しては以前より良好な評価値が出ています」

 ぴくっと漣の眉が動く。

「前回と比較しても今回の平衡状態への回復時間は半減しています。これは良い傾向と見られます」

 漣はしばらく考え込んでから口を開いた。

「予断を避けよう。この件はもうしばらくデータを集める必要がある」

「わかりました」

 二人の間で細かい方針が話し合われ、ミーティングは解散となった。

「すまなかったな。予定より早い帰国になってしまって。君の米国での用事は済んだのか?」

「ええ、ご心配なく。それに今回のレイドがこれほどのものになることを予想できなかったのはわたくしの分析ミスですし」

「君だけの責任じゃない。俺も少し判断力が低下していたようだ」

「そちらこそ良かったのですか?治療にはもう少し時間がかかると聞いていましたが」

「少し無理することになったが、あとでリカバリ可能な範囲だ。ただ当面は慎重に行動することにしよう。石守君の育成を理由に活動内容のレベルを下げても桔花は文句を言うまい」

「わかりました。では、わたくしは手配を進めます」

「よろしく頼む」

 ユナが退室した後も、漣はモニターを見つめたまま深い思索の海に沈んでいた。


〔幻燈の迷宮編 Fin.〕

〜アーバン・レイダース Ep.7 月と銃声編〜 へ、つづく

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