Ep6-37 復活
霧の異界から戻った英太は桔花を取り戻すべく走り出す――
目を開くとそこは山下邸の書斎だった。
「体に戻ってる……」
手を握ったり開いたりして体の感触を慣らしていく。すぐに立ち上がれるようになって周囲を見回した。なかなかの惨状だった。自分を含め、七人が検視を待つ死体のように無造作に並べられている。まるで野戦病院の一角に用意された間に合わせの遺体安置場所のようだ。
一番端のトオノさんの胸に耳を当て、心音を確認する。無事だ。彼も『羊脂玉浄瓶』で魂を奪われたのだろうか?
「トオノさん、起きて」
「うーん……。おはよう、英太くん。ここんとこ徹夜続きだからもうちょっと寝かせてくんないかな……」
「寝ぼけてないで、起きてください」
強めに頬を叩いて目覚めさせる。
「トオノさんも手伝ってください。そっちの軒端さんは脳震盪だと思います。救急キットはありますか?」
「ああ、うん。持っているよ」
「他の人たちはロスト・アセットで魂を抜かれています。回復には手順が要りますので注意してください」
「ひえー、僕の知らない間に重大局面があったみたいだね」
「詳しいことはあとで。まずはケイタからいきます」
軒端さんはトオノさんが気付け薬を嗅がすとすぐに目覚め、トオノさんの手を振り切って自力で椅子に這い上がり、応急処置を行っている。
俺は少し空いたスペースにケイタを引きずって移動し、全身を包むように魔法陣をセットして結界を発動した。ベルトポーチに収納していたケイタの『羊脂玉浄瓶』を取り出し、
口をこじ開け中身を流し込む。喉を嚥下するような動作はないが、とろりとしたスライム状の液体は自分からするりと喉の奥に入り込むようにしてケイタの中に取り込まれる。すぐにパチリと目が開き、ガバッと身を起こす。
「くそっ、どいつだ?誰がやりやがった!」
寝起きなのに元気だな。そんな感想が出るくらいホッとした。どこも異常は無いようだ。
「見ての通り、全員やられたよ。真犯人は白田さんだった。ごめん、うちのミスだ」
「何がどうなってんだ?」
「悪い、報告している時間はない。片梨さんが連れ去られた」
「ンだと?」
「トオノさん、手順を教えるんで、他のみなさんをお願いします」
「あー、はいはい。任せて」
トオノさんに結界の術式のデータとそれぞれの瓶に誰の魂が入っているかを口頭で教える。
「ケイタ、運ぶの手伝って」
「じゃあ、すみません。俺、急ぐんで」
俺は白田さんが片梨さんを連れ去ったと思われるほうへと駆け出した。
「えーと、こっちが写楽君でこっちが季って人だっけ?あれ?合ってる?」
「さー?どれでもいいんじゃね?」
書斎から漏れる頼りなげな会話を無視して開けっ放しになっている二つ隣の部屋に入る。
その先の扉から妖しい気配が漏れ出していた。
ドタンバタンと争い合うような音。そして微かに木材が燃えるときの臭い。
「桔花!」
飛びついた扉のノブが焼けるように熱く、思わず手を離す。
次の瞬間、扉が内側から開き、悲鳴をあげながら男が転がり出てきた。
「ひっ、ひぃぃ。化け物ォォォ」
白田さんが絨毯の上を転がり、洋服に着いた火を消す。
「白田さん?いや、あんたは誰だ?」
「きさま、なぜ立っている?どうやって『羊脂玉浄瓶』から……いや、今は秘宝の回収が最優先だ。覚えておれっ!」
白田さんの姿をした男が俺を突き飛ばし、もつれるような足取りで階下に去っていく。
「桔花は?この中か?」
扉からちらりと見える部屋の中は天井まで紅蓮の炎に染まっている。
俺は術式を起動して空気の断熱層をまとうと、迷わず炎の舞う室内へと飛び込んだ。
炎に包まれた部屋に桔花がいる。英太は迷わず飛び込んだ――




