Ep6-8 美術館巡り(2)
三矩一号館美術館——
ここもまた、三矩財閥のコレクションを発展させた美術館である。西洋絵画の蒐集をメインにしているが、モダニズムの時代を映した衣装や文化的な品々の展覧会が行われることも多い――
三矩一号館美術館は明治後期に建てられ昭和の時代に老朽化で取り壊したものを二十一世紀に入ってから同じ設計図に従って復元したものだそうだ。だから古くて威厳のある佇まいと新品の清冽さが同居した美しさを感じさせる。中も漆喰の白が真新しくてまさにモダンという言葉がピッタリくる。ここは先ほどの美術館とは対照的に西洋絵画を中心に展示している。沿革を見ると二つとも同じ財閥のコレクションにその端を発していることが分かる。いや、どんだけすごいんだよ、三矩財閥。
「素敵ねぇ」
「ああ、芸術はよくわかんないけど、これはいいものだってことはわかるな」
カトウと藤代さんは純粋に絵画を楽しんでいるようだ。
ちょうどボストン美術館の印象派展をやっていてなかなか見ごたえがあった。
「ねえ、英太。全然それらしいものがないじゃない」
片梨さんに袖を引っ張られて耳打ちされる。
「ロスト・アセットは芸術品とは限らないし、そんなに人目に触れるところには置いてないと思うよ」
「えぇっ。じゃあ本番、どうすんのよ」
「その場で探すしかないんじゃないかな」
「競争なんだからそんな悠長にしてたら先に取られちゃうわよ」
「でもなぁ。ユナさんからもらったリストだけじゃヒントが足りなくてなぁ」
俺は携帯端末を取り出して事前に入手したロスト・アセットのリストをスクロールする。
一)悔鳴懐中時計
二)不可視哨
三)未済報告書
四)掉尾天目茶碗
五)主筆の手跡
六)よすがの名刺入れ
七)軍靴の片足
八)理髪師の小瓶
九)夢幻演奏
十)未明の鍵束
十一)評決の羅針盤
十二)羊脂玉浄瓶
十三)影蝕鏡
十四)幻燈少女
十五)金蛇の錠前
「四番と十二番はさっきの美術館にありそうなんだけどね」
有名そうな器の類というだけで、それ以上の根拠はない。つまり、当てずっぽうだ。
「美術品というよりも古道具っぽいのが多いわね。あと、ところどころ中二病が入っているし。幻燈少女って何よ?」
それは俺に言われても困る。
片梨さんと頭を寄せ合ってコソコソ話をしていると、カトウから割り込みが入った。
「あー、お二人さん、そろそろ先に進みません?」
ひと通り観て回ってミュージアムショップを適当に冷やかし、元の入り口に戻る。
「あ、ちょっとトイレ」
俺はみんなに待っててもらうように言って奥まったトイレに向かう。すると、トイレの先に別の小部屋に続く入り口が見えた。まだ何か展示スペースがあったようだ。
そこはこの建物の来歴や復元時の建築模型などを展示した歴史資料室だった。当時の衣装なども置かれているが、人気がないのか誰もいなかった。
「片足だけのブーツ……これは」
近づいてショーケースのガラスに額を押し付けるようにして見つめる。量子結晶と同じような気配を感じる。やはりこれは――。
「『軍靴の片足』じゃない?リストの七番目にあったやつ」
「ひゃい!」
「なによ、幽霊に会ったみたいな反応して。失礼なやつ」
いつの間にか後ろに来ていた片梨さんにいきなり声をかけられて変な声をあげてしまった。
「なかなか帰ってこないから探しに来たわよ」
「あ、ありがと」
「ふん。ミサキがそろそろお昼にしないかって」
「そうだな。だいぶ歩いたから少し休憩するか」
みんなと合流して先ほどのオフィスビルの地下街に戻る。美術館に併設したおしゃれなカフェもあったけれど、高校生に手が届く値段ではなかった。
「結局、オサレな街にくり出しても昼飯はラーメンになっちゃうんだよなー」
「黙れ。このあたりで手が出せるのはチェーン店のラーメン屋がせいぜいなんだよ」
「あら、あたしは好きよ。ここのラーメン」
片梨さんは夏場でも熱いのは平気らしい。遠慮なく豚骨ラーメンをすすっている。
「デートじゃないんだからオシャレ空間を期待するな」
「そうだよな、あっツ」
「どうした。ラーメンごときで火傷すんなよ」
「あはは、ちょっと汁が跳ねただけ。あはは」
なぜかカトウは足をさすっている。
食べ終わった俺は向かいのカトウに話しかけた。
「次は東京駅にあるステーションギャラリーに行くけどどうする?」
「あー、そうだなー。俺はいいかな。一応、どんな感じでフィールドワークやるか分かったし、あとはネットで情報集めてペペっとレポートでっち上げてみるよ」
「藤代さんは?」
「あたしはせっかく来たからもうちょっと銀座をぶらつこうかなー」
「ミサキ、一人で大丈夫?あたしもついて行こうか?」
おいおい、下見はいいのかい、桔花さん。まあ、片梨さんの分までしっかり俺が下見してくればいいだけだが。ん?なんで俺をチラチラ見るの?
「えー、大丈夫よ。小学生じゃないんだから。それよりそっちの課題、大変なんでしょう?手伝ってあげなよ」
藤代さんもなぜか俺をチラチラと見る。
「いや、探求学習のほうはデータだけ集めたらあとは適当にやるから問題ないよ」
「そぉ?じゃあ……」
少しテンションが下がった片梨さんが視線をそらした隙に、カトウから猛烈なNGアピールが届く。
「あー、でも別の視点があったほうが気づきが増えるかなー。片梨さん暇だったらつきあってくれるか?」
「しょうがないわね。宿題の完成度が低かったら手伝ったあたしが恥ずかしいし。わかったわ、いっしょに行ってあげる」
なんなんだ、この茶番は。
「そっかー、じゃあここで二対二に分かれるかー。英太、ありがとな。あとでレポート写させてくれ」
「やなこった。どさくさに紛れて宿題写そうとすんな。自力でやれ」
「くっそー、気付かれたか。まあいい、まだ二週間以上ある。それまでに英太のガードを緩めて……」
「その努力をする暇があったら自分でやれ」
〔つづく〕




