第4章:逃げられない者たちの道
硬い床で寝てた……っていうか、寝ようとしてただけ。結局、一晩中まともに目も閉じられなかった。色々あった上に、あの場所は寒くて臭いし。あたしは膝抱えて縮こまって、じっとその場を見つめてた。他の奴らが寝てる音、寒さで歯がガチガチ鳴る音まで聞こえてきて……
そしたら、納屋の錠前がガチャリと外れた。
金属が擦れる音が響く。恐怖の予感。
扉が開く。
あのクソエルフが、またそこに立っていた。相変わらず偉そうに、他のエルフたちに囲まれて——どうせ取り巻き連中だろう。そいつ、あたしを真っ直ぐ見て言った。
「よく眠れたかい?」
あたしは何も答えず、皮肉を無視して目を逸らした。そいつの存在がムカつくけど、生きてたいなら我慢するしかない。エルフはあたしにゆっくり近づいてきて、言った。
「ふむ、頑固なようだね……昨日のことは何も学んでいないようだ。君のような者には、ちょうどいい仕事がある」
まだ何も答えない。表情は平静を保とうとするけど……実際は、ビビってる。あのクソエルフ、絶対あたしに目をつけてる……
「旦那様がお与えくださる仕事なら、どんなことでもためらわずにいたします」
あたしはそう答えた。
エルフは薄ら笑いを浮かべた。気持ち悪いほど満足そうに、そして言った。
「それを聞けて嬉しいよ……だが、忘れないように言っておこう。お前はリサンディル・カルサスの所有物だ。つまり、私のものだ。分かったかい?」
「はい、旦那様」
あたしは唾と一緒に憎しみを飲み込んで、そう答えた。
そいつは他の人間たち全員を見渡して、言った。
「さあ、お前たち怠け者ども、起きろ!!! 今日からお前たちは仕事に割り当てられる。そして、長持ちしろよ……お前たちのような虫けらをこれ以上買う金はないからな。さあ、列を作れ。何をするか言ってやる!!!」
みんな、まるで調教されたみたいに従う。あの偉そうなクソ野郎の顔を殴りたくなったけど、あたしは歯を食いしばって列に並ぶしかなかった。あたしは最後から二番目。薫様がすぐ後ろにいた。
そいつは奴隷一人ひとりの役割を言い渡していく。ある者は厨房、ある者は農作業……何人かは生産ラインだって。何なのか知らないけど、ろくな仕事じゃなさそうだ。もしかしたら、厨房なら何とかなるかも。ここから逃げられるチャンスがあるかもしれないし……あたし、料理で爪を台無しにするなんて絶対嫌だったけど、ここじゃそんな贅沢言えないか……
あたしが近づくと、リサンディルは何か面白いことを思いついたみたいにニヤッと笑った。
「お前は……娯楽だ」
リサンディルは不気味な笑みを浮かべて言った。
「娯楽? それって何?」
あたしは少し怖くなって尋ねた。
後ろを見ると、薫様が純粋なパニックの表情でこっちを見ていた。
この瞬間、あたしは悟った。終わった……って。
「その『エンターテイメント』ってやつ、何なのかよくわかんないけど、アイツの目つき見ただけでヤバいってわかったよ。 昨日、なんで余計なこと口走っちまったんだろ、あたし……」
「で、そのジジイだが、お前を庇ったからな。お前のトレーナーにしてやる。許可する。人間の軍にいたことは知っている……さあ、ちょっと笑わせてくれ。今日からだ。お前ら二人、馬車に乗れ」
そうなると、あたしの手は縛られた。薫様の手も同じだ。縄が手首に食い込んで、ちょっと痛い。 同じ馬車に乗せられて、どこかへ向かって走り出す。
薫様を見ると、すっかり打ちのめされてた。足がガタガタ震えてるし、怖がってるのが丸わかり。
「そんなヤバいの?」 もう聞かなきゃよかったって、あたしは後悔しながら言った。
彼はあたしを睨む。あんたのせいだって顔してる。でも、すぐに深呼吸して、自分を落ち着かせようとしてた。
「ひどい……ワシらは今日、死ぬ」
あたし、凍りついた。全身、ピクリとも動かない。
今日、死ぬ……?
首にかけたネックレスをじっと見つめる。助けを求めるみたいに……でも、また薫様を見て、震えながら聞いた。
「あたし、知りたいんだけど……そのエンターテイメントって、何なの?」
「ローマって知ってるか? 剣闘士がアリーナで死ぬまで戦ってた場所だ」
「それと何の関係があるってのよ!?」 話の展開を信じたくなくて、あたしは叫んだ。
「お前が誰かと死ぬまで戦うんだ。そして、もしお前が負けたら、エルフどもがワシを殺す。奴らは誰が生き残るかに賭けてる……それがエンターテイメントだ。殺るか殺られるか。正直、ワシの命がお前みたいな甘ったれのガキに懸かってるなんて……もう死んだも同然だよ」
「あたし……あたしが誰かを殺さなきゃいけないの?」
声も出ないくらい、あたしはショックだった。誰かを殺すって? あたし、ハエ一匹叩いたこともないのに。体力なんて冗談みたいなもんだし。どうやって戦えっていうの?
「お前、まさか平和主義者か?」 薫様が言った。
「あたし、誰とも喧嘩したことないし……あたしみたいな可愛い子が喧嘩する必要なんてなかったはずじゃん。大抵、あたしのために誰かが喧嘩してくれてたし」
彼は心底呆れた顔であたしを見て、「もう終わりだ」と吐き捨てた。
「ちょっと、あんた、ご主人様が元軍人だって言ってたじゃん! 何かアドバイスとかないわけ?」
「剣闘士がいい奴で、せめてお前に安らかな死をくれるよう祈るんだな」
「あんた、全然人を励ますの得意じゃないじゃん」
「励まそうとしてるんじゃない。現実を言ってるだけだ」
やがて馬車が止まり、到着した。でっかい壁と巨大な門の前にいた。
まあ、ここで死ぬのかな……ありえないけど。




