第26章:そもそも戦いじゃなかった
魔王の拍手が場に響き渡る。あたしは魔王を睨みつけた。
「ほう、なかなかやるじゃないか。名前は、人間?」
拍手を続ける魔王に、
「紗綾香・水野。今度は忘れんなよ」
「私への憎悪が丸出しだな……お前らみたいな虫けらが魔法を使うなんて、そうそう見られるもんじゃない。人間に使う資格など、ありはしない」
「でも、あたしは使うけどね」
「長くは続かんさ。さあ、来い。先に攻撃させてやろう」
あたしは剣を抜き、全力で突っ込んだ。
ありったけの憎しみを込めて、奴の首めがけて斬りかかる。
だが、信じられないほどの冷静さで、奴は片手で剣を掴んだ。
「ひどい品質だな」
魔王は剣を品定めするように眺め、
「こんなガラクタで私に届くと思っているのか?」
引っ張るが、びくともしない。奴はまるで何でもないかのように握りしめていて……あたしは完全に腕力で負けていた。だから、柄から手を離した。
あたしが瞬きする間もなく、奴はあたしの腹に拳を叩き込んだ。 視界がぐにゃりと歪む。それでも……なんでこんなに速いんだ?! 息を切らしながら反撃の一撃を放とうとしたが、奴の姿はもうそこにはなかった。
背中に奴の蹴りが炸裂した。 また遠くまで吹っ飛ばされる。
「クソッ、クソッ、クソォッ!!!」
この速さ、ついていけねぇ……!
壁に激突してようやく止まった。 だが、すぐに立ち上がる。 反応する暇もなく、地面が揺れ始めた。
周囲から岩の壁がせり上がってくる。 気づけば、土の球体に閉じ込められていた。
こんなの、楽勝だ。 岩に拳を叩き込む。 が、壁に触れた瞬間、焼けるような熱さを感じて思わず手を引っ込めた。 火傷してる……。 汗がだらだら流れ出す。 壁が溶けてやがる。 このチビ王、あたしを蒸し焼きにする気かよ?!
即座に跳び上がり、球体の天井に拳を叩き込んだ。 溶けた岩の上を飛び越え、腕で顔を庇いながら炎を突っ切る。
着地した。
息が上がってた。 ろくに見る暇もなかった。足が地面に飲み込まれていく。抜け出そうとしても、無理だった。地面が固まっていく……
魔王がゆったりと歩いてくる。しゃがみ込む。あたしの目を見つめた。額をデコピンされて、その勢いで地面をバウンドしながら吹っ飛び、家の柱に激突。天井が落ちてきた……
辺りは真っ暗になった。意識を失った。
腕を引っ張られる感覚で目が覚めた。見ると、あたしを掴んでいたのは魔王だった。地面を引きずられ、ゴミのように投げ捨てられた。
マナの抵抗力があったから死ななかっただけだ。そうじゃなきゃ、とっくに棺桶行きだった……
くそっ。考えろ。チャンスさえあればいい。隙でも、なんでも。
「どうした? もう疲れたのか、人間?」 魔王が近づいてくる。
「あたしはまだウォーミングアップ中だっての、クソちび魔王!」 あたしはふらつきながら立ち上がった。
バカじゃないんだから。あいつはあたしより速いし、強い。いろんな魔法を使えるから、万能も万能。あたしたちの間には、埋められない差がある。チャンスを見つけるなんて、難しいに決まってる。
「認めざるを得ないな、お前、肝が据わってる……私を傷つけるまで諦めないのか?」魔王が吐き捨てる。
あたしは立ち上がり、拳を構えた。
魔王は地面に突き刺さったあたしの剣を蹴り飛ばし、両腕を広げる。
「もう攻撃はしない。取れ」淡々と。
ゆっくりと近づき、剣を拾い上げた。
「遠慮するな。殺せるものなら殺してみろ」魔王の声は冷え切っていた。
……は?
意味わかんねー。何、あたしに無理だって思ってんの?
ここまで来て、こいつの手でくたばるためじゃねーんだぞ。
全力で突っ込んだ。このクソ魔王、あたしを舐めたこと後悔させてやる。
真正面に立ったのに、微動だにしない。
なら、全力で斬る。
完璧な一撃。
絶対に生き残れるはずのない攻撃。
少なくとも、そう思ってた。刃を見るまでは。
血の一滴もついていない。
マジかよ?
確かに斬った。避けてもいない。
「なんだよ、それだけか」魔王が鼻で笑う。
あたしはさらに攻撃を叩き込んだ。何度も何度も、休みなく。
攻撃すればするほど、魔王の笑い声が大きくなる。
ありえねー……いや、ありえない。
普通ならもう死んでるだろ!
なんで死なねーんだよ!
「お前に私を殺せるわけがない」魔王の声が重くなった。
その一言で、あたしは固まった。そいつを見る。パニックで頭が真っ白だ。
何年経っても、何も変わってねーじゃんか……!
膝から崩れ落ちた。負けた。
魔王はあたしの頭に手を置き、
そしてゆっくりと仮面を外す。
現れたのは、髑髏だった。
「死神すら私を倒せなかったというのに、お前に何ができる?」魔王が嗤う。
そいつはあたしの頭を締め上げた。
逃げようとするが、ビクともしない。絶望しかない。
こいつ、不死身じゃん……クソが!




