表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/140

ソアラの社交界

 



 ソアラはあの事件があってから、直ぐに王太子宮の客間に入内した。


 王太子宮の改装が既に終わっていた事もあって。


 それに伴い、ソアラ専属の侍女達も急遽用意された。

 サブリナ、マチルダ、ドロシーがそのままソアラの専属侍女に決まったのだ。



 ソアラが帰宅した事で3人はエリザベスの侍女に戻っていたが、すっかりソアラ沼にハマッてしまっていて、ソアラを恋しく思っていて。

 

 ドロシーに至っては、王子の乳母になりたいと言う野望があるからなのだが。



 何よりもソアラの侍女は楽なのである。

 ある程度の事は自分でするし、就寝時間が早いのが特に魅力的で。

 ドロシーの侍女仲間達は、自分も志願しようかと考えていると言う。



 結婚式まで数ヶ月。

 ソアラの新しい生活が始まっていた。




 ***




 この日はルシオの23歳の誕生日だった。


 彼が国王になれば、やがては彼の誕生日が国民から盛大に祝われる事になるのだが。


 この日は1日中、謁見の間で貴族達からお祝いの言葉を述べられ、夜にはルシオの親しい友人達を招いてパーティーを開く予定となっている。



 パーティーはルシオの親しい者達を呼んでのパーティーだ。

 そこに今回初めてソアラが参加する。

 今まではアメリアとリリアベルがいたパーティーに。

 勿論、彼女達はもういない。



 ソアラは緊張していた。

 同じ年頃の男女が集まるパーティー。

 言わばルシオの御代を支える者達の集まりだ。


 両陛下に会う時よりもドキドキとして。

 昨年の四家の公爵家達が会したクリスマスパーティーよりも緊張している。



 ルシオは気の置けない奴らばかりだから気楽にして良いと言うが。


 今までは、ここにアメリアやリリアベルがいた特別な高位貴族達の集りに、社交界に出た事の無いソアラが緊張しない訳が無い。



 ソアラの部屋に迎えに来たルシオは、何時ものようにソアラと手を繋いだ。


「 大丈夫だよ。年寄り達はいないんだから 」

 何時もは温かなソアラの指先が冷たくなっていて、ルシオはソアラの指先にチュッとキスをした。



「 皆、君と話したがっているんだよ 」

「 ……… 」

 地味な私と話しても、きっと楽しくないと思うわ!

 楽しいのは華やかなルーナ。

 彼女は何時も皆の中心にいたんだから。



 ソアラは離宮での夜の晩餐会での事を思い出していた。


 ルーナを中心に皆がポンポンと会話をしていた。

 まるで台本があるかのように。


 あんな会話なんて私には無理だわ。



 ソアラがウジウジしている間に2人は会場に到着した。

 ドアマンが扉を開けると、宮廷楽士達がハッピーバースデーの音楽が奏でられた。


 ソアラはルシオの手を離して壁際にそっと移動をした。


 何時も何処にいても主役は王太子ルシオだが、今宵は更に主役なのだから。


 出来れば……

 このまま壁の花でいたいと思うソアラだった。



 ルシオが会場の真ん中に連れて行かれると直ぐに、蝋燭が23本立った大きなケーキが運ばれて来た。


 そして部屋の灯りが消された。


 蝋燭の灯りだけになると、ルシオの黄金の髪がキラキラと輝き、その美しい横顔がより際立って美しく見えた。


 見慣れていても……

 やはりルシオはとびきり美しい王子様だ。

 ソアラはドキドキとしながら、嬉しそうに笑うルシオを見ていた。



「 殿下!!お誕生日おめでとうございます 」

 ルシオが23本の蝋燭を吹き消すと、拍手と共に皆がルシオに向かって次々にお祝いの言葉を口にする。


 そして、誕生日プレゼントが渡されて、それをルシオが1つ1つ開けて行く。

 贈り主と何やら楽しげに話をして。



 勿論、女性達もいる。

 皆が頬を染めながらカーテシーをして、ルシオにプレゼントの箱を渡していて。

「お誕生日おめでとうございます。有り難う」と言葉を交わしながら。



 『 私 』と書いたカードをルシオが読み上げたから、会場はドッと笑いに包まれた。


「 お前は……()()()()()()()を…… 」

「 だってぇ~アタシは~どうしても殿下のお嫁さんになりたいんだも~ん 」

 皆がギャハギャハと笑う、カードの贈り主は多分騎士。


 デカイ体躯でナヨナヨとするから、尚更皆の笑いを誘っている。



 ソアラはこの騎士に見覚えがあった。

 ルシオが生徒会の会長をしている時のメンバーだ。

 行事担当で、何時もマイクを握って司会をしていた。



 ルシオが生徒会会長で副会長はアメリア。

 書記はカールで……


 副会長だけがここにいなかった。


 毎年毎年ずっとこのメンバーで、ルシオ様のお誕生日をお祝いして来たのに。

 ここに私がいる事を受け入れられない人達ばかりよね。


 ソアラは胸がチクリと痛んだ。




 ***




「 羨ましいよ 」

 皆からのプレゼントを貰うルシオを、壁際で見ているソアラの側に来たのはシリウスだった。


「 やはり殿下がいる学年は纏まっていて、学年の皆が仲が良いね 」

「 シリウス様の時はどうでしたか? 」

「 うーん。仲は悪くは無かったが、纏まりは無かったかな 」


 公爵令息のシリウスは最高位の貴族令息だ。

 皆がひれ伏す程の。


 それでも王族と貴族とでは雲泥の差がある。

 誰もが敬う王族は国民にとっては特別な存在と言う事だ。



「 私のプレゼントもこれだったんだが……先を越されたな 」

 シリウスはカードを封筒から出した。

 そこには『 私 』と書かれていて。


「 えっ!? 」

「 誤解しないでくれよ! 私は同性愛者じゃ無いからね 」

 ちょっと引いた顔をしたソアラに、シリウスは慌てて強く否定をした。


 両掌を胸の前でヒラヒラさせて。



「 私のルシオ様を取らないで!なんて言わないでくれよ 」

「 誤解をしてしまってスミマセン…… 」

 顔を見合わすと2人は吹き出してしまった。


 とんでもない勘違いをしていたもんだと笑って。



 そこに男性がやって来た。

 この男は外務部にいるレイモンド・ジェネス侯爵令息だ。


「 シリウスはフローレン嬢をご存知なのか? 」

 公爵令息のシリウスを、呼び捨てするのは余程親しい友達なんだろうとソアラは思った。


「 ああ、鉱山の採掘事業でね 」

「 成る程。フローレン嬢は私の事はご存知ですよね? 」

「 はい。外務部のジェネス様ですよね 」

「 君の仕事ぶりは有名だったよ 」

 ジェネスはソアラの顔を見ながらニコッと笑った。



 笑うと細い目が無くなる人懐っこい顔で、ジェネスはソアラが外務部にやって来た時の事の話をし始めた。


 外務部が提出した請求書とレシートの金額が違っていたと、経理部からソアラとルーナがやって来た事があった。


 皆はルーナの周りに集まる中、ソアラは淡々と請求書の間違いを書き直して貰って、ルーナが男性職員達と話し終わるのを静かに待っていたと言う。


 何分も。

 ただ黙って。



「 あの時、私は思ったんだ。君は仕事の出来る人だとね 」

 ジェネスはそう言ってソアラにウィンクをした。


「 ……あ……有り難うございます 」

 ソアラは胸が熱くなった。


 私を見ていてくれた人がいた。


 ソアラ自身は、その時の事は記憶には無い。

 ルーナと他部署を訪ねると、毎回同じような事になっていたのだから。



「 僕の婚約者にウィンクをするなど許せないな 」

 いつの間にかソアラの横に立っていたルシオが、ソアラの肩に手を回した。


「 私はフローレン嬢を誉めていただけですよ 」

 ジェネスは慌てて首を横に振った。



「 殿下…… 」

 ソアラがルシオを仰ぎ見ると、ルシオは嬉しそうな顔をしていた。


「 な? ちゃんと君を見ていてくれていた人もいるんだよ 」

「 ……はい 」

「 えっ? 何の話ですか? 」

「 何でも無いよ 」

 ルシオとソアラが嬉しそうに見つめ合う横で、不思議そうな顔をするジェネスに、シリウスはそう言って彼の肩をポンと叩いた。



 あの時……

 シリウスもソアラの、フレディ(ディラン)への涙の訴えを聞いていた。


 ソアラが何に傷付き、どれだけ辛い思いをしていたのかも知っている。


 だから……

 自分を見ていてくれたと言う、ただそれだけの事で喜ぶソアラに胸が熱くなるのだった。



 シリウスは初めてソアラと出会った頃の事を思い出していた。


 挨拶として手の甲にキスをすると、真っ赤になってオロオロしていた事に驚いた。

 王太子殿下の婚約者だと言うのに、その所為はあまりにも頼りなげで。


 納税の時はてきぱきと仕事をこなし、王室御用達店で見掛けた時は、店主相手に堂々と啖呵を切って値切っている所だった。


 シリウスはそのギャップに限りなく惹かれたのだ。



 どんどんと……

 殿下の横に並ぶ事に相応しい令嬢になっている。


 シリウスは……

 もうすっかり当たり前になったルシオとソアラの並ぶ姿を、眩しそうに見つめるのだった。




 ***




 それからルシオは、ソアラを紹介をしながら皆で雑談をした。

 ここにいるのは王宮に勤務する者を始め、学者達や医師もいた。


 学者達はソアラの弟のイアンの事も知っていた。

 イアンは将来期待の研究者だとか。

 ソアラは彼が一体何の研究をしているのかは知らないのだが。



 そんな人達の話は面白くて。

 ソアラはルシオの横で楽し気に聞いていた。

 たまにルシオから話をふられたりして。


「 流石ですね。噂以上の才女だ 」

 皆はソアラの博識に脱帽した。


 6つの言語を話せるだけでなく、本を読む事が趣味なソアラは色んな事を知っていて。


 そして……

 落ち着いた声で話すソアラに皆は好感を持った。


 王宮勤めの者達は、経理部にソアラがいる事を知らない者が多くいた。



 彼らは、才女だと謳われるソアラを品定めしに来たのだ。

 自分達が仕えるに相応しい者かどうかを。


 何故なら……

 今までのドルーア王国では、王太子妃になりやがては王妃となる者は、自分達よりも身分の高い公爵令嬢だったからで。


 伯爵令嬢のソアラは、自分達よりも身分の低い令嬢なのだから。



「 殿下ぁ~ 」

 ルシオとソアラの側に令嬢達がやって来た。


「 フローレン様をわたくし達にもおかし下さいませ 」

 ルシオの横にいるソアラをチラリと見た女性の後ろには、扇子を広げている女性達もいて。


 ルシオとソアラを取り囲んでいた、男性達が彼女達のパワーに押されて後退りしたから、ルシオとソアラの前に令嬢達が並んだ。


 その中にはソアラの同学年の令嬢達もいて。



 来た。

 ここからが本番だ。


「 頑張っておいで 」

 ルシオがソアラに小さな声で囁やくと、ソアラはコクンと頷いた。



 いくらルシオでも入れない女の世界。

 ソアラは王太子妃となりやがては王妃になる存在。

 彼女達の上に立つ、ドルーア王国のファーストレディにならなければならないのだ。



「 僕の大切な婚約者(ひと)だからね。お手柔らかに頼むよ 」

 ルシオがソアラの両の肩に手をやり、彼女達に目を眇めた。


「 まあ! 殿下ったら! わたくし達が取って食うとでも? 」

「 嫌ですわ。わたくし達はそんな悪い女ではありませんことよ 」

 もう、ギャアギャアと。

 流石のルシオもこのパワーにタジタジで。



 特に同級生の2人は、ルシオに対してもかなり砕けている。


 女性達はソアラの腕に手を回して、テーブル席に向かって歩き出した。



「 大丈夫ですかね? 」

「 女の世界は怖いですからね 」

「 …… 」

 ルシオとカールとシリウスの3人は、心配そうに女性達に()()されて行くソアラの後ろ姿を目で追っていた。


 旅立つ雛を見守る親鳥のように。




 ***




 女性達6人との自己紹介が終わった。

 この6人はルシオの友人と言うよりも、アメリアの友人が2人に、リリアベルの友人が4人だった。


 アメリアの友人は本当はもっと沢山いたが、今は出産で下がっている。

 ここにいる2人は既に子供を産んでいて、その子供は乳母に預けての参加だ。


 彼女達の夫は先程ソアラと話していた男達の中にいる。



「 素敵ですわ。そのドレス 」

「 ソアラ様は趣味が宜しいわね 」

 社交界の女性達の挨拶は、先ずはドレスや身に着けている宝石の話題だ。


 もしもソアラのドレスがルシオからの贈り物ならば、悪くは言えない。

 王妃エリザベスの見立てたドレスなら尚更に。



 広げた扇子で口元を隠しながら、ソアラに何かを言おうとしているのがよく分かる。


 何かイチャモンをつけたいのだとソアラは思った。


 王太子の婚約者だと言っても、今はソアラはただの伯爵令嬢。

 その身分は、侯爵夫人や侯爵令嬢である彼女達が遥かに上なのである。



 周りの女性に目配せをした女性が口火を切った。


「 ソアラ様は王室御用達店で値切ったのは本当かしら? 」

「 えっ !?………はい……お恥ずかしい事ですが…… 」

 ああ……

 令嬢らしくないと馬鹿にされる。


 ソアラは、膝の上にある手を握り締め下唇を噛んだ。



「 お陰で助かりましたわ 」

「 ……… えっ? 」

 思わぬ言葉にソアラは俯いていた顔を上げた。


「 あのぼったくり店には困っていましたのよ 」

「 あれからキチンとお値段を示して頂けるようになりましたのよ 」

「 やっぱり嫁ぎ先に気を使いますものね 」

 皆は少し恥ずかしそうに扇子で顔を隠した。


 お金の事を言うのは貴族の恥だと言われているので。



 ソアラのあの値切り騒動があってからは、王室御用達を始め、色んな店が商品の値段を書くようになっていた。


 大貴族の家では外商が殆どなのだが、貴族は値段を気にしてはいけないと言う見栄があった事から、商人達のやりたい放題だった。



 しかし……

 王太子の婚約者が値段を気にしたと言う事で、店側から提示するようになっていた。


 王太子の婚約者と言うソアラの影響は大きかった。



 ソアラの影響は他にもあった。


 今までは、女性達は常にアメリア派とリリアベル派に別れていて、こんな風に一緒に話をする事も無かったのだ。



 社交界の女性達は、末端まで二分されていた。


 今まで社交界に顔を出していなかった()()なソアラは、彼女達が崇めやすい存在だった。


 親世代のエリザベスとアメリアの母親の派閥は今でもあって。

 政治をする上で弊害となる事も多々あると言う。



 しかし……

 ルシオの御代は違う。


 永く続いた公爵家の確執を飛び越え、ソアラを頂点とした女性達の、新しい社交界が始まろうとしていた。














後、数話の予定でしたが……

書きたい事があり過ぎて、ちょっと話数が増えております(^o^;)

エンディングまで頑張ります。


誤字脱字報告も有り難うございます。


読んで頂き有り難うございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] このまま出産育児までみていたい いろいろな人たちとの過去も伏線も回収されてて嬉しいです
[一言] 話数が増えるのはむしろご褒美です・・・! (ほくそ笑んでおります)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ