第17話 【雪と妖精と猫の関係性】 その19
気絶から目を覚まし逃げて行くリス達、ネレの腕の中で小さく震えている白い獣、その横にきれいに並ぶリスの死骸――――。
気が付けば辺りに折れた細かい枝が沢山落ち、ネレもリトラスも細かい擦り傷だらけになり、服に少量の血も付着していた。
ぺちん
ぺちん
ぺちん
目の前の高貴な顔をした銀髪の少年は、眉一つ動かさず、機械的に確実に気絶したリスの首をきれいにへし折っていた。
「っもぉ・・・いいです! ボクが運べませんから」
リスは10匹ほど食材になる前提で命を刈り取られていた。
周囲で気絶していたリス達は、意識を取り戻した途端、命の危機を感じて散らばり始めている。
「それは・・・どうする?」
リトラスはネレに抱きかかえられている白い獣を指差して首を傾げた。
「え? こ・・・これは、食べちゃいけないやつだと思いますけど?」
ネレの膝の上で白い獣は高速で、東北土産の赤べこのように首を上下に動かしていた。
「そう・・・か・・・確かに食用には見えないな? しかし、これは何の種類の動物だ?」
「リスっぽいからリスの亜種ですかね」
「じゃあ食べられるんじゃないか?」
白い獣は左右に首を振った。
「・・・・食べられない・・・と、本人が言っているようです」
再び白い獣は上下に首を振った。
「こいつは私達の言葉が・・・・・・あ、そうか、きみが妖精だから」
「違います」
「ほら、妖精は森の動物たちと心を通わすと言うじゃないか?」
「存じません」
「妖精?」と言う問いに、淡々とネレが否定し続ける間も、白い獣はネレに身体を大人しく預けていた。
もしもこの城内に居るただの子供であるならば、礼儀を知らずに騒ぎ出すか、見るからに貴族である自分に媚び諂うか、どちらかであると彼は予想していた。
しかし、目の前にいる子供は静かにリトラスの言葉に答えるだけだった。
それはリトラスが9歳の誕生日を迎えたばかりの頃、城で行われた大きなお茶会の日の出来事だった。
母に連れて来られた迷路のような見事な庭園で、「他の貴族の子達と仲良くなってらっしゃい」と、背中を押されたが、リトラスは年の近い相手とは全く会話をしたことがなく、どうしてよいか判らずにポツンと一人になってしまった。
不意に、草むらの影に見え隠れした小さな白兎を見つけた。
茶色い種類は見た事があるが、真っ白なものは絵本ぐらいでしか見たことがなかった。
ふわふわの真っ白な毛に、真っ赤な瞳がとても印象的で、ついつい追いかけてしまい・・・いつの間にか追いかけていた白兎が二羽になり、三羽になり、同じ場所に向かっていた。
とても不思議な気分で、まるで兎と自分が同じ場所に向かっているような一体感があった。
白兎達は一人の子供に群がっていた。
どこをどう見ても・・・兎達に乗っかられて苦しげだったので、慌てて顔に乗っかっている一羽を引き剥がした。
その姿を見て、更に驚いた。
あまりにも幼い・・・ようやくヨタヨタと歩き始めた妹のイリスと同じぐらいの幼子の姿があった。
きらきらと角度で変わる琥珀と翡翠の瞳と、葡萄酒の髪色を持った子供。
叔父のケイルに聞いたことがある“宝石と酒の色”を持った妖精の物語が頭に浮かんだ。
まあ、それは妖精の強力な魅了の魔法で人間が堕落していく教訓の物語だったのだが・・・。
その子供があまりにもはっきりと大人びた言葉を使うので、狐につままれた感じがしたが、叔父のケイルに「採取の森の妖精かもしれない」と言われ、何故か妙に納得してしまった。
そして、その日を境にリトラスは妖精を捜すことに夢中になっていた。
リトラスの母親は第三夫人だった。
いわゆる妾という扱いだったが、正妻が亡くなった事と、若く美しく、魔力の高い男子を産んだことで一足飛びに正妻の座に納まった。
第二夫人との確執と、腹違いの兄弟と年が離れていた事も加わり、リトラスは幼い頃から周囲に壁を作っていた。
“妖精”についての文献や不思議な現象に興味を抱くようになり、魔法についても理解を深めていた。
幼くして多彩な知識を得た彼は、周囲の大人の言葉に傷つくことが少なくなった。
つまり、趣味から得た知識によって心のバランスを護る事に密かに成功していた。
「・・・・・・・・私はいると信じている」
「ボクもいると思いますよ? なんでもドワーフ族は妖精族の血族って言いますからね」
「妖精の血族・・・でも、私が言っているのはああいうのではなく・・・」
「え? どういうのですか?」
突然、何の脈絡もなく脳裏に閃いた事を彼は素直に口にした。
「あ! そうだ! 背中!」
「え?」
ネレの頬にリトラスの薄い肩が触れた瞬間、するりと大人びた少年の指が服の中に忍び込んだ。
「妖精なら羽が――――」
金属音のように甲高く、怪鳥のような叫び声の方向に騎士であるケイルと、兵士のジャンは突風のように駆け出した。
採取の森の木々の上空に飛び出した物体が、人のようであると気が付き向かっていたジャンとケイルの耳にその悲鳴は聞こえた。
声の発信源に辿り着いた二人が次に耳にしたのは、ネレがリトラスの頬っぺたにピシャリと一発食らわしたひ弱な音だった。
二人の身体に挟まれていた白い獣は、ネレの悲鳴に驚き既に姿を消していた。
ジャンの姿が視界に入ると、ネレは弾かれたようにリトラスから身を離し、走り寄って足にしがみ付いた。
「ジャンさん、助けてぇっ!」
その様子を呆然と眺めていたケイルは、数秒後に再起動しトラスの方向に振り返った。
「リトラス! 何をしている!?」
「・・・・・えっと、つい・・・確認を・・・」
「何の確認だ!」
「その子の背中に妖精の羽が生えているかどうか?」
「な・な・な・・・なんだと!!??」
ジャンはネレに視線を合わせるようにしゃがんだ。
「ネレ! 大丈夫? 何されたの?」
「魔法で上空に吹っ飛ばされて、服の中に手を突っ込まれた・・・」
「おいっ! ちょっと待て、噓をつくな、リトラスがそんな乱暴な事をする訳がないだろうが! なあ、リトラス!?」
「・・・・・えっと、嘘ではないです。急に魔力が膨らんでしまって・・・殺しかけました・・・ね」
「はあああああっ!?」
ケイルは当惑と驚きの悲鳴を交えた声を出した。
ジャンはネレの身体にそっと触れながら外傷を確認し始めた。
「いや、あの、とりあえずは・・・怪我をしないように助けてくれたみたいなので・・・」
「そ・・・そうだろう! 魔法による事故は魔力量の多い貴族にはよくある事だ・・・うん! ただの事故だ! それに、服の中に手を入れたのは怪我がないか心配して確かめただけなんだろう?」
「え・・・いや、羽を・・・」
ケイルは全力の口パクで「は・な・し・を・あ・わ・せ・ろ!」と動かし、鋭い視線を送った。
「お言葉ですがケイル様・・・リトラス様にどのようなご教育を!?」
ぐらぐらと湧いてくる怒りを抑えながら、ジャンは射殺さんばかりにケイルを睨みつけた。
「な・・・ジャン・・・べ、別に私は・・・」
「叔父上が教えてくれたではありませんかこの森には“妖精”が居ると」
「えっ!? いや、リトラス・・・それは子供の頃の話で・・・さすがにその子は違うだろう?」
「妖精は人間に混じって生活している者も居ると聞いています!」
「あのな・・・お前が憧れている精霊や妖精なんてものは、我々と違う次元に住んでいるんだ。私達が存在するこの現世・・・地上界と呼ばれる世界で現実の肉体を持つことは、召喚術でも行使しない限りほぼ不可能だ」
――――地上界? 召喚術? まさか、あの白いヤツ・・・
意外に詳しそうなケイルの説明に、ネレは興味を惹かれ、聞き耳を立てた。
「ですが・・・召喚術を行使するには・・・」
「そもそも、羽を確認する為にこの子の肌に直接触れたと言うのは本当か?」
「はい・・・妖精は性別がないモノだし、いいかな? と?」
『――――は?』
まったく悪びれた様子のないリトラスに対して、ケイルとジャンは目が点になっていた。
ネレ自身は性別よりも種族自体を誤解されていたので、安堵と腹立たしさでとても複雑な心境だった。
「確かに妖精は性別が無いとは言われているが・・・いや、そういう事ではなく」
「え? まさか女の子? だったら柔肌に触れてしまった場合は、紳士として責任を!」
「・・・・・・安心しろ! この子は間違いなく人間の男の子だあぁあぁあっっっ!!」
ケイルの大きな声に、ジャンとネレはビクリと身体を震わせた。
――――え? 待って? なんでそうなるの!?
ジャンはネレの様子を確認しつつも、リトラスを力尽くで引きずって行くケイルに説明を求める視線を向けたが、彼は異様に鋭い眼光で“黙れ”と言わんばかりに二人を睨みつけた。
つまり、それなりの事情があるのでこの場は忖度しろと・・・いう事だ。
ジャンは驚きつつも、静かに頷いて見せた。
こんばんは、もりしたです。生きてます! 遅くてすんません。
決算業務2件掛け持ち、固定業務を二倍にされて、親戚が死んだだけです!
とうとう買っちゃった~~~(*'▽')【ゲーミングチェアー】ゲームやらんけど!
在宅勤務者用の性能の良い家具が増えたので、悪い事ばかりじゃないですね・・・。
うん、助けて、仕事量が増えてマジでデュアルディスプレイが必要になって来たワ。
今度の6月にまた試験期間入ります。
「店長大丈夫よね? できるわよね?」
の、次に。
「2店舗掛け持ち大丈夫よね? できるわよね? え? 残業? 何とか調整して?」
何ともなんね~ワ( ^ω^)・・・




