第17話 【雪と妖精と猫の関係性】 その7
木剣同士がぶつかる音に、リトラスの乱れた呼吸が重なった。
「はっ、はっ、はっ、はっ・・・・」
先ほどから叔父のケイルの部下に木剣で攻められてばかりで、一歩も前へと攻撃を仕掛けられていなかった。
若手の騎士達が、剣技のサボりがてら数人が見物をしている。
リトラスがやっとのこと一手を入れるが、踏み込みが甘いせいか直ぐにはじかれてしまった。
「文官の方がいいんじゃないか?」
「ああ、城内の就職は大抵・・・家柄と見た目で選ばれるからな」
茶化すように小声で話しながら、見た目の美しい少年が顔を歪めるのを楽し気に眺めている。
一部の騎士達は、名誉騎士の甥っ子が特別視されていると噂をしていた。
自由に城内の西と東を行き来している気ままな子供だとリトラスを軽視している。
誘拐事件の調査の詳細は守秘義務があり、誰が何時どうしたなどの内容は伏せられていた。
リトラスと手合わせをしている騎士のガレオの表情には余裕がなかった。
「おいおい、どうしたんだよ? 早く終わらせてやれよ!」
同僚の冷やかしも、ほとんど耳に入ってこなかった程に、ガレオは剣技に集中していた。
繰り返し、打っても打ってもリトラスは力任せだが攻撃を跳ね返していた。
剣技を指導していたはずの彼の呼吸も乱れ始めていた。
「リ・・・リトラス様、剣技の基礎はどなたに習いました?」
好奇心で、剣を振るいながらも質問する。
「おじに・・・いや、ケイル様に」
「これは・・・ケイル様の太刀筋ではありません!」
彼は渾身の力で木剣を振り下ろした。
その気迫に、リトラスは木剣を素早く手放し、一歩下がった。
持ち主を失った木剣だけが、地面に叩きつけられた。
「ま、参りました・・・」
俯きがちに右手を押さえたリトラスが言った。
一歩下がったリトラスの足元の土の凹みを見て、ガレオは思わず舌打ちをした。
気が付けば地面には自分の足の乱れだけがそこら中に跡を残し、リトラスの踏みしめた足跡は数歩・・・くっきりと体重の踏ん張りが残されているだけだった。
舞うような靴跡を示していた目の前の細い少年に、ぞくりとした寒気さえ感じた。
「もう一度だ! 構えてっ!」
お互いに、サッと試合開始の距離を取った。
見物していた若手騎士達は、「ええっ~!?」と声を上げ、見学時間が延長される事に不満を抱いた。
「・・・・・・っはい、ガレオくん! そこまでぇっ~!」
力任せの重い両手が、ガレオの両肩を沈めた。
「なっ! ビーヴ、おまえっ!?」
「ああん? おまえが呼んだんじゃねーかよ・・・剣技の指導員が足りないからって!」
「そ・・・そうだが、いきなりこんな」
「なっさけねーなぁ、あっさり後ろを取られるほど夢中になっちゃう相手だった?」
ビーヴがガレオの両肩をひと揉みした後、剣技の相手を確認した。
「お・・・」と、思わず声を漏らした。
ポカンとしているリトラスと視線が合った。
「リトラス様、そろそろお戻りになりませんと・・・」
ガレオが気を遣うように、リトラスに促した。
「・・・ガレオ殿、私に敬称はいらない・・・リトラスと、呼んで下さい」
「リトラス! 白月亭の裏メニュー、今度試して見ろよ? 焼きうどんが旨いんだぞ!」
「ばっ・・・馬鹿! おまえに敬称は要らないなど言ってないだろう! 失礼だぞ・・・この方はっ・・・って? なんで名前を知ってるんだよ!?」
「あ~・・・はいはい・・・慣れ慣れしくってごめんなさいね?」
「白月亭か・・・ああ、そこで会ったのだな・・・?」
「なんかあんたの太刀筋ってさあ~・・・」
「ビーヴっっっ! 失礼だぞ! この方は本物の貴族なんだぞ?」
ビーヴはガレオに後頭部を強打され、更に首に腕をかけられながら、その場を強制退場させられるように引きずられて行った。
状況が飲み込めないまま、リトラスはハッとし研修の集合場所へと駆け足で戻って行った。
「何を考えてるんだビーヴ! 彼は貴族だぞ?」
「うん、知ってる」
「知っててあの態度か!?」
「スマン、礼儀を欠いた」
あっさりと素直に謝罪をしたビーヴに、ガレオは拍子抜けをした。
「・・・・・・で? リトラス様の太刀筋・・・どう思った?」
「昔の俺にそっくり」
「そ、そうか・・・」
「・・・・・・守りは完璧、だけど体重と筋力が足りない・・・って感じ?」
「ん・・・踏み込みが甘くてふらついている・・・けれど、俺からの攻撃は全身で受け止めてしまっている」
ガレオはリトラスの踏みしめた土の凹みを思い出す。
「そりゃ息も上がるわな・・・まだ、いなしたり、受け流しができないだけで、吹っ切れたら化けるんじゃねーの?」
「吹っ切れるとは?」
「傷つくのも傷つけるのも覚悟して踏み込めるようになれば、きっと強くなるだろうな」
「そうか・・・・・・」
「リトラス様は無意識に魔力を押さえて戦ってたんだろ? 俺だって今は魔力を全身に纏って戦えるけど、昔はそうじゃなかった。下手をしたら相手を殺しかねないからな」
「・・・・・なるほど、そういう相手は初めてだ」
「偉そうに・・・俺に剣技で勝ってから言えよな」
「おまえこそ、筆記試験で半分以上点数を取ってから言え!」
「うっせぇ! 戦場で筆記試験の点数は関係ねえっ!!」
「やるか!」
「おうよ!!」
指導係が二人して練習試合を始めた為に、若手の騎士達は更に暇を持て余した。
こんばんはもりしたです! ご意見が多かった「ネレは女子力ゼロではないと思う」についての答えなのですが、ネタバレも含みますので・・・説明を含むお話はかなり先になります。
すみませ~ん! 調子づいて、タイトルの説明に行きつくまで二話の娘の台詞から本筋の切れ端に行きつくまで長くなってしまいました(笑)
皆さまいつもお付き合いありがとうございます。
それでは、(つ∀-)おやすみなさい。




